~脱原発と電力自由化~スローガン政治から現実化へ進もう~

■農業は死の床か再生のときか               濱田 幸生

脱原発と電力自由化~スローガン政治から現実化へ進もう~

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■脱原発には電力自由化と発想電分離が必須
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 あまり知られていないことですが、戦前まで日本の電力市場は自由市場でした。
昭和初期には実に800社超の電気事業者が全国にあったほどです。
 ところがこれが戦時体制への突入と共に昭和17年(1942年)に政府の指
導で統一されて2ツになります。つまり
 ・発電・送電・・・日本発送電(日発)
 ・配電   ・・・9ツのブロックごとの配電会社の地域独占

 戦後にGHQはこれを解体せずに、そのままの形で温存しました。これが今の
9電力体制です。(※沖縄を入れれば10)  この時、GHQが財閥解体でした
ような自由競争を取り入れていたら、その後
の日本のエネルギー事情は大分ちがったものになっていたでしょう。

 さて福島事故以来、いくつもの原子力に替わる新たな電源が語られつつも常に
ぶつかるのがこの9電力体制、別名「電力幕藩体制」(飯田哲也氏命名)という
地域独占制度でした。
 原子力に替わる新たな電源を取り入れようにも、現実には9電力会社の地域独
占のために電力会社が認める電源以外には発電しても、事実上送電できませんで
した。

 それが1996年1月の改正電気事業法で、さまざまな方法で「卸供給電気事
業者」(※新規の電力供給者のこと)が発電した電力を入札により「一般電気事
業者」(※9電力会社のこと)に販売できるようになりました。
 そして、他地域の電力会社にも託送料を払えば配電網を借りて送電できるよう
になりました。これで非常に限定的ですが、9電力会社の地域独占がわずかに崩
れて、新しい電源が登場する機会ができたと言えます。

 しかし、現実には配電網を握る電力会社の託送料が不当に高い上に、大口需要
者にしか使えないなどといった弊害も指摘されています。
 福島事故以後、原子力に替わる新たな電源を日本社会が取り入れるためには、
電気事業法の抜本改正による発電と送電の完全分離が求められる時代になってい
ます。

 ところで再生可能エネルギーは、そのお天気任せの気ままな性格が禍してか、
9電力会社が仕切る系統送電網には嫌われっぱなしでした。これはあながち電力
会社のエゴというだけではなく発電量の大きなブレがあったからです。
   九州電力長島風力発電所の1日の発電量推移を例にとれば、1日でも細かな出
力の上下動を繰り返し、風速が落ちるとてきめんに出力が落ちています。
 いいときは昼前後の時間帯で4万キロワットと定格出力の80%程度を発電し
ていますが朝夕はがた落ちです。まさに風任せ。ベタ凪の1日、プロペラはピク
リともしなかったとみえて発電ゼロです。
   これでわかることは、風力発電は定格出力の0%から80%まで変化してその
つど電圧と周波数の変動がある間欠性電源だということです。このような電源を
系統電源に組み込むためには手段は3つしかありません。

 1番目は、風力発電に蓄電器を取り付けて一定の余剰電力が生まれたら蓄えて
おくことです。余剰電力を貯めて、発電が少ない時に送電し平準化して送電でき
るようにします。
 この蓄電方式は実際に試されましたが、現在の技術ではバッテリーにコストが
かかりすぎてペイしません。そのうち安価で優秀なバッテリーが出来るようにな
るまで実用化にはなりそうもないのが現状です。

 2番目は、バックアップの発電所がいつも待機していることです。風車が止ま
ったら代わりにその分を肩代わりして発電し、風車がブンブン回り始めたら止め
るという具合です。  これに対応できるのは、出力の上げ下げが自在にできる
火力発電所しかありま
せん。

 ですから、ドイツでは再生可能エネルギーが伸びれば伸びるほど火力発電がバ
ックアップで伸びて、今や約半分の電源は化石燃料、特に石炭火力が占めること
になって大気汚染すら心配されるようなってしまいました。

 一方電力会社としては、自宅の屋根発電程度ならなんとか紛れ込ませられます
が、ある程度の量の予測発電量が期待されている場合、常に変動に備えてバック
アップ発電所をスタンバイさせねばなりませんでした。  また風力発電所の場
合、オフショア(洋上)発電所が有力ですが、水中送電ケ
ーブルの敷設から始まって、いったん故障でもすれば船で修理にいかねばならず、
台風の通り道の日本では管理コストがかさむことがわかってきました。

 3番目は、ある地域の天候がダメなら、別の地域で補完できるような素早い電
力融通ができるスマートグリッドです。
 ドイツなどはこの再生可能エネルギーの送電網に26兆円が新たに必要だと言
われています。スマートグリッドや超伝導送電線などの新技術を投入すればいっ
そうかさみます。

 去年、ドイツにある4ツの地域高圧送電網の1ツを管理しているテネット社の
フォルカー・ヴァインライヒ氏はこう語っています。(英フィナンシャルタイズ
2012年3月27日)

 「冬は何とか乗り切った。だが我々は幸運だったし、次第にできることの限界
に近づいている。
 ハノーバー郊外にある何の変哲もない低層ビルに拠点を構えるヴァインライヒ
氏と同僚たちは、北海とアルプス山脈を結ぶテネットのケーブルの電圧を維持し
障害を回避するために、2011年に合計1024回も出動しなければならなか
った。前年実績の4倍近くの回数だ。」

 このようなドイツの窮状を見ると私は、風力発電は電力会社管理の系統送電網
の中に入れて運用することは悪平等ではないかと思うようになってきています。
 現状では発送電が分離していないために、泣いても笑っても電力会社の送電網
を使うしかないわけです。
 結果、電力会社はコストをかけて風力発電のバックアップをせねばなりません。
そのコストもまた電気料金に上乗せされて消費者がかぶることになります。

 私はこのような外部に負担をかけてしまうエネルギー源は、自立のための方途
を考えるべきだと思っています。このままでは出来たら出来たきり、出来なけれ
ばごめんなさいも言わないというだだっ児的電源から抜け出せません。

 電力会社に依存しておきながら、発電基地までの送電網は作ってもらい、価格
的にはFIT(固定額全量買い取り制)で過剰に守られ、出来ただけの優先送電
権まで持ってしまう甘ったれた仕組みは、かえって再生可能エネルギーの自立を
阻害します。

 自立の方法としてはこのようなものはいかがでしょうか。
①あらかじめ発電コストにその分を組み込んで蓄電池を高かろうと取り付けるこ
 とを義務化する。
②あらかじめペアとなる自社所有の小規模火力発電所を近隣に作っておく。
③送電網と配電網まで含めて自社私有として「再生エネルギー産直」をする。

 おそらくはどの案もかなりのコストかかるでしょうし、それで尻込みする事業
家も多いはずです。しかしそれが再生可能エネルギーの真のコストなのですから
しかたがないではありませんか。
 そして、再生可能エネルギーは高いのは百も承知だが脱原発のために買うとい
う消費者は、その専門配電会社から購入すればいいのです。

 ドイツのように、仮に高い電源であっても、脱原発由来の電源であるかどうか
の選択権を消費者に持たせることで納得していく仕組みが必要です。高いから買
いたくない消費者は買わねばいい、ただそれだけです。
 経済外的支援を減らしていき、経済原理の中に再生可能エネルギーを置かねば
なりません。  このままでは、税金で膨れ上がった肥満児のようなものに再生
可能エネルギー
は成り下がり、国民から疎まれるのは必至です。そのためにも電力自由化と発送
電分離は必要です。
 
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■英国にみる電力自由化
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 原発をゼロにすることだけなら、そんなに難しいことではありません。現に今、
動いているのは大飯原発3、4号機のみです。
 これでなんとか夏を乗り切ったのですからこのままなんとか、と思わないわけ
ではありませんが、ドイツの先行事例を知るにつけ、もっと長い眼で考えなけれ
ばならないと思うようになりました。

 特に長期にわたって、原子力なき後の化石燃料に過度に頼らないエネルギー態
勢を作り出すのは簡単なことではありません。
 というのは、ただ供給源としての代替エネルギーだけあってもだめで、それを
どのように供給していくのかという「制度」が不可欠だからです。

 そこで3.11以降、東電処分問題と絡めて電力自由化が叫ばれ始めました。
しかし議論が進んでいるとは到底言えない状況です。
 しかし、それは東電処分と一緒にするからかえって解りにくくなるのです。巨
額の負債や、原子炉の扱い、国からの支援で成り立っている原賠法、除染問題ま
で絡んでまるでもつれた糸球のようです。

 ですからいったんは東電処分問題と電力自由化問題を切り離して考えないと、
本筋の電力改革が見えなくなります。電力改革の大筋は思いのほかシンプルです。
 第1に、地域独占型の9電力会社体制を解体して、市場メカニズムを導入する
ことです。そのために発電会社と送電会社、そして配電会社までに3分割します。
 第2に、地域ごとにもっと市場メカニズムが働くように47都道府県単位にま
で細分化します。

 この2つが誰しもが納得する電力自由化の共通原則ではないでしょうか。それ
を考えるためにヨーロッパの英国とドイツの事例を見てみたいと思います。この
両国は対照的な電力自由化の道を辿りました。
 ドイツ、英国の発電-配電網の歴史は日本とかなり異なっています。それは各
国それぞれの歴史の中で発電-送電をしてきたために一概に「電力の自由化」と
言ってもお家の事情はそうとうに違います。

 簡単に電力自由化以前の送電網のタイプを整理するとこんなかんじです。
 ・英国 ・・・第2次大戦後一貫して国営管理
 ・ドイツ ・・・市町村電力会社(シュタットヴェルケ)+電力会社
 ・日本 ・・・戦後から9電力会社の地域独占

 まず英国ですが、英国はサッチャー改革で肥大化した国営企業を解体する一環
として発送電を民営化することを考えました。
 発電所は国営だったものを、7割をナショナル・パワー社に、3割をパワージ
ェン社に民営移管しましたが、お気の毒なことに原発だけは引き取り手がいませ
んでした(苦笑)。
 産業界は原発のようなものを丸投げされてはたまったものではない、原発は国
策ではないと算盤に合わないと判断したのです。当然ですな。

 苦肉の策で国が100%出資で前2社以外に原発専用のブリティシュ・エナジ
ー社を作ってそこが原発を所有し、逐次民営化をしようと思っていたのですが、
奮闘努力のかいもなく見事失敗。
 1995年2月に新規原発建設を断念し、現在稼働中の2基も停止する予定と
なっています。かくて英国の原発は事実上の終焉を迎えたわけです。

 これを見ると洋の東西を問わず、いかに原子力というシロモノが国策なくして
は出来ないものかとしみじみ思います。はっきり言って、米英仏露中の原発は原
爆作りの副産物のようなものでしたからね。

 日本の場合、これを国策民営といういかにも日本的な方法で解決しました。官
僚が民間会社に地域独占の御朱印状を与える代わりに、因果を含ませて原発を作
らせたのです。
 福島事故後は、英国流の原子力を他の電源から切り離して一元的に国営化して
ゼロ化していくというのは現実的な方法で、日本でも使えると思います。

 さて英国の送電網もナショナル・グリッド社に民営化された上で、地域別に1
2のブロックに分割して地域独占を与える代わりに供給義務を負う方式にしまし
た。
 そして興味深いのは「電力プール制」を作ったことです。これは卸売り電力市
場のことです。これは一見日本の1996年1月の改正電気事業法の卸供給事業
者(PPS)も認めるのと似ているように見えます。

 ところがよく見るとかなり違います。英国版「電力プール制」は、先ほど述べ
た全国の送電網の卸元のナショナル・グリッド社が勧進元になって開く卸電力市
場なのです。
 ここに一定の基準を満たす発電会社がすべて参加して、入札により電力価格を
決定します。

 大は国営発電業を引き継いだナショナル・パワー社から、小は再生可能エネル
ギーのミニ発電会社まで同じ入札に参加せねばなりません。
 この「電力プール制」は、その日の午前10時までに翌日正午までの希望売電
価格を入れておきます。

 これは1日を48の時間帯に分けられていて、発電会社は30分ごとに自分の
発電能力と発電所を入札提示していくわけです。一方、買い手の配電会社もまっ
たく同様に午前10時から翌日の正午までの希望落札価格を提示します。
 再生可能エネルギーだとこのあたりがかなり大変で、明日の天気予報とにらめ
っこしながらの入札額提示となるのでよくハズすそうです。

 胴元の「電気プール」は、それぞれ0分間のタイムゾーンでもっとも安いもの
から落札していき、必要量に達すれば入札終了となります。逆に買い入れ価格は、
落札された発電所の提示額でもっとも高い価格に統一されます。
 折り合えばハンマープライスというわけですが、いかにもサザビーズなどのよ
うな入札が大好きなイギリス人らしい制度ではあります。

 ここで気をつけて頂きたいのは、あくまでも売り買いの単位は「発電所単位」
なのことです。決して「発電会社単位」ではありません。ですから、落札される
のはもっとも安い売電をした発電所であり、もっとも高く買う配電会社だという
ことです。

 これは発電-送電-買電の3つがそれぞれに独立していなければ成り立たない
ことですが、非常に合理的なシステムです。電力自由化の極北と言ってもいいん
じゃないでしょうか。

 現在この英国型「電気プール制」は試行錯誤の過程にあるようで、いくつか不
備も見つかっているようです。なんといっても国営を引き継いだナショナル・パ
ワー社のような巨大会社と、再生可能エネルギー中心のミニ会社がコスト面で競
争するのは難しいことが分かりました。

 それなら、再生可能エネルギーなど止めりゃいいんじゃないか、というと次世
代の新エネルギーは現在の段階では量産が効かないので絶対的に不利です。これ
ではイノベーションが進まずに未来の芽が摘まれてしまうことになります。

 このようにヨーロッパには、一方でドイツ型FIT(固定全量買い取り制度)
のように再生可能エネルギーを甘やかして世間の荒波に当てなかった結果、税金
と高い電気料金のぬるま湯から出られなくなったような国がある一方、逆に英国
のように「皆んな平場で競争だぁ、負けたら潰れろぉ」というスパルタ型の国も
あるということです。
 
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■ドイツ電力自由化の道のり
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 わが国が脱原発を考える上でもっとも参考になるのはドイツであることは異論
がないと思います。
 まず、歴史が似ています。ドイツでは戦前の地域ごとに別れて多数あった電力
会社が、ナチス政権による1939年の「エネルギー経済法」によって地域独占
に統合されました。

 そしてこれはどこの国も似たようなものですが、第2次大戦前夜に総力戦に備
えていっそう電力会社の独占が保護されました。軍需工場をフル生産させるため
には、電力の安定供給が必須だからです。  戦争中はいたしかたがないとし
て、問題は平和になった戦後も自由体制に戻ら
ずにそのまま電力の戦時独占体制が続いてしまったことです。

 ドイツの場合、戦後の西ドイツにも受け継がれて、片や東ドイツは共産体制で
すから自由化など話の外です。ちなみに現首相のメルケルさんは旧東ドイツの出
身です。
 西ドイツは1957年に電力会社の地域独占とカルテルを守るために「競争制
限禁止法」という法律を作って、以後39年間も護持し続けてきました。  こ
のあたりまでは日本の戦前自由市場-戦時電力会社統合-戦後9電力会社支
配という流れとそっくりです。
 特に戦時中にそれまでの自由な電力市場が解体されて、地域独占ができたまま
戦後になだれ込み現在に至る、という歴史はまるでわが国の歴史をみるようです。
 このドイツの地域独占が壊れたのが1996年12月の「ブリュセル官僚から
の命令」といわれるEU指令96/92号「電力単一市場に関する共通規則」で
した。  このEU指令でドイツはそれまでの巨大電力会社10社による地域独
占体制を
廃止せざるをえなくなりました。

 これは価格カルテルや地域棲み分けをなくすだけではなく、「よそ者」に自分
の会社の送電網を使わせねばならないという電力会社からすれば「屈辱的」な内
容を含んでいました。

 そして2年後の1998年に早くもライプチヒで電力自由市場が生まれていま
す。これにより電力取引は自由化されるはずですが、そうは問屋が卸しませんで
した。
 というのは、大手電力会社9社は、それまでの地域独占を取り消されたことを
逆手に取って買収と合併に走ったからです。理由のひとつは国際競争力をつける
ということです。

 ここで決定的にわが国と異なる条件がひとつ出てきました。ヨーロッパは電力
網が国境を超えて統合されているのです。  これはわが国が友好的とは言い難
い近隣諸国に包囲されているために、燐国と
の電力統合をすることが出来ず、国内だけの電力網だということと対象的です。
 まぁ、もしわが国が中国や韓国あるいはロシアと送電網を共有していたら、竹
島や尖閣、はたまた北方領土問題が熱くなるたびに送電網を遮断されてしまいま
すが。

 それはともかくドイツは電力市場解禁をしたとたん、外国の電気会社との競争
にさらされることになりました。
 バッテンフォール・ヨーロッパのように北欧の電力大国スウェーデンの電力会
社に買収される会社まで現われたりとすったもんだの挙げ句、10電力会社体制
が4社体制に整理統合されてしまいました。

 結局、2011年段階で国内発電量の83%がこの4社の寡占というていたら
くで、これでは電力自由化だか電力の独占強化だか分からないということになっ
てしまいました。

 このドイツのように電力自由化がかえって電力会社の危機感を募らせて買収・
統合に走らせ、かえって独占か強化されてしまう逆走事例もあることを私たちは
頭に置いておいたほうがいいと思います。
 というのは、わが国では大いにこのケースは想定できるからです。現在わが国
の9電力会社は、半分国営化されたも同然の東電を別格にしてどこも原発の維持
費がのしかかって青息吐息です。

 この経営状況の中で安易に電力市場の開放をすると、今まで禁じられてきたブ
ロック管区を乗り越えて送電することが可能になります。
 経営体力がある電力会社はこの際とばかりに、弱小電力会社のシェアを奪いに
かかります。これは現実に1996年以後のドイツで頻繁に起きたことです。

 電力自由化に伴って、とうぜん雨後の竹の子のように再生可能エネルギーを中
心としたエコ発電会社や、企業の剰余電力の売電も盛んに行われるようになるで
しょうが、それは総発電量の一部でしかありません。
 おそらくはドイツのように2割を超えるのは難しいはずです。すると結局は、
ドイツと同じように電力の自由化が9社体制から4、5社体制に独占強化されて
お終いとなってしまうかもしれません。

 なぜ、そうなるのでしょうか。それは送電網を握ってさえいれば、そこに自由
にかけられる託送料で有象無象のミニ発電会社の首根っこを押えられるからです。
 ドイツはまさにこの託送料を使って、4社に独占強化した巨大電力会社が国を
巻き込んで最後の抵抗を試みます。
 
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■独占電力会社が
  エコ・エネルギーを参入させない裏技・「託送料」
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 ドイツは1998年に電力自由化のEUから「命令」されてイヤイヤ電力自由
化をしました。 しかし、それはあくまでも上っ面だけのものでしかありません
でした。

 長年やってきたシステムというのはなかなか使い勝手がいいもので、競争がな
かろうと、市場メカニズムがなかろうと、のほほんと電力会社がその上にあぐら
をかいていようと、毎日キチンと安定した電気は来たわけです。
 それがEU指令で消し飛んでしまってドイツの電力会社は一時パニくりました。
しかしドイツの電力会社はしぶとく合併して、かえって独占強化という焼け太り
になりました。

 これを苦々しく見ていたのが「ブリュセルの官僚」です。フリュッセルにはE
Uの本部があり、そこには鬼より怖いと評判のEUの中央政府にあたる欧州委員
会がありました。
 欧州委員会は、時には各国政府を超越するほど権限が強く、EUに加盟してい
る以上泣いても笑ってもその「指令」には従うしかないのです。

 欧州委員会は、通貨を手始めに既に保険業、銀行業などの分野で自由化を押し
進めてきました。残るはガス、電気などのエネルギー部門です。
 欧州委員会には各部門に「欧州委員」がいて、それは中央政府の閣僚の役割を
しています。いや、各国政府の閣僚なんぞより権限は強いでしょう。

 というのは、「欧州委員」は絶えずヨーロッパの市場に眼を光らせて、カルテ
ルがないか、談合がないかを監視しており、必要ならば企業に立ち入り、帳簿を
押収し、関係者を取り調べできるという国税のマルサのような警察権すら有して
いるのです。

 このマルサもびっくりの「欧州委員」は、ドイツの電力自由化に疑問を持ちま
した。「なぜドイツは電力自由化で独占が強化されたのだ」、当然そこに欧州委
員は疑問を持ちました。
 そしてドイツはナチス時代からの電力会社の地域独占を温存する何か裏技を使
っているに違いないと目星をつけて調査を開始しました。

 あったのです。その裏技とは、独占電力会社の自社所有(あるいはその子会社
所有)の送電網を新たなライバルとなった参入電力会社に使わせないことです。
 今になるとかえって驚くのですが、この時点ではドイツは発電と送電の分離を
していなかったのです。

 ドイツ政府は個人消費者に発電会社の選択の自由を保証する代わりに、電力会
社の送電網の独占を許すという妥協をしてしまいました。
 これによって発電会社は新しい発電会社の市場参入を認めた代わりに、送電網
を握りしめたままでよくなったのです。この構図は今の日本の改正電気事業法の
「電力自由化」とまったく同じです。

 もちろん電力会社とて、新規参入会社に面と向かって「あんたら新参者には使
わせないよ」などと言ったらたちまちブリュセル官僚にお縄になってしまいます
から、ある手を使いました。それが「託送料」です。

 新規参入者は発電出来ても、自分の発電所から家庭までの送電網を持っていま
せん。そんなものを作っていたら建設地の買収だけで膨大な金がかかって起業で
きません。
 ですから、大手電気会社に「送電網を貸して下さい」とお願いするしかないわ
けです。 この送電線借用料を「託送料」と言います。ここが新規参入のネック
となっていたのです。

 もちろん他のEU各国も「託送料」制度をもっています。しかし、ドイツを除
く国々は、EUが推奨する政府が託送料を規制する監督官庁を持っていました。
 それに対してドイツは、この監督官庁を設置せずにズルズルと7年間も無規制
のままに、大手電力会社と新規参入者との間の相対取引を認めていたのです。

 新規参入発電会社にとってそれは「審判のいないサッカーのようなものだ」と
言われていたそうです。いかに大手電力会社の無理無体があったのか想像がつき
ます。
 このために、1998年の電力自由化以降約100社の新規参入電力会社が誕
生し、7年後の2005年にはわずか6社しか残っていなかったそうです。

 このドイツは私たちにとっていい反面教師になります。つまり、発電と送電を
完全に分離しないと、既存の電力会社はみずからの送電網から新規参入企業を拒
絶できるということがひとつ。  つまり、今の日本の電力システムのままで
は、絶対にダメだということです。
電力会社は新規参入発電会社に不当に高い託送料をかけて独占を維持しようとす
るからです。

 そしてふたつめに、託送料を既存電力会社と相対取引で決める方式では圧倒的
に送電業者が有利になるために、それを公正なものかどうかを監督する官庁が必
要だということです。 日本でもこの監督官庁が機能していません。

 このふたつの条件が揃って初めて電力市場が開放されたと言えるのであり、消
費者は電気の購入先を自由に選択できることができるのです。  まことにドイ
ツは「いい手本」になります。絶対にドイツのようないいかげん
な「電力自由化」をしてはいけません。
 このような中途半端な「電気自由化」をすれば、新たに誕生した新規発電事業
者はドイツのようにことごとく潰れてしまうことでしょう。
 
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■EUはドイツを「電力自由化後進国」と名指しした
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 ドイツは2002年に第1次脱原発政策を開始します。去年のメルケル首相の
第2次脱原発政策に遡ること10年前です。
 にもかかわらず、第1次脱原発政策の評価は高いとは言えませんでした。それ
は「稼働30年間」とした原発規制が実は抜け穴だらけだったということもあり
ますが、もうひとつ大きな失敗の原因があります。

 それが「電力自由化」の失敗です。電力会社の地域独占は、この中途半端な
「改革」によりかえって強化されてしまいました。
 新規参入した発電会社が1998年の「改革」開始から7年間で100社から
わずか6社にまで減ってしまったことがそれを裏付けています。託送料のつり上
げのために新エネルギーの会社はたった6%しか生き残らなかったのです!
 シュレイダー政権は2000年に再生可能エネルギーの優先権を与えるFIT
(固定全量買い上げ制)や、電気料金にエコ電源に対して12.7%もの助成金
を与えるなどのテコ入れを始めていますが、新規参入電力会社が枕を並べて討ち
死にしては仕方がありません。

 競争メカニズムが健全に働いているかどうかのもうひとつの目安に、大口需要
者(企業向け)の電気購入の切り換えがありますが、英国、ノルウエイなどの諸
国の平均は50%以上なのに対して、ドイツはわずか6%にすぎません。
 またもうひとつの競争指標である電力料金は、大口需要者料金が2004年調
べでEU平均がメガワット当たり58ユーロなのに対して、ドイツは69ユーロ
(6900円)で、ヨーロッパ一高い料金です。

 ドイツの電力の戦時独占体制はいささかも揺らいでおらず、再生可能エネルギ
ーは拡大せず、大手電力会社はあいも変わらずコスト安のために既存電力源に依
存し続けたことが分かります。
 これでは緑の党までが加わった政府がいかに口酸っぱく脱原発を叫んでもかん
じんの電力会社が馬耳東風では、原発からの脱却など進むはずがありません。

 脱原発ウンヌンというより、電力事業という経済の根幹の独占状態を少しも改
善しようとしないドイツに対して、「ブリュセル官僚」こと欧州委員会が本気で
怒り出しました。  欧州委員会はドイツに対して、「自由化後進国」という恥
ずかしいレッテルま
で貼り、EUの要のドイツがそのていたらくでは示しがつかないだろうと攻撃し
たのです。

 欧州委員会は全ヨーロッパの統合送電網を目指しており、そのためには発電と
送電を分離させねば、ヨーロッパのエネルギー市場の活性化はありえない」(バ
ローゾ欧州委員)と考えていました。
 そして発電会社に完全に送電網の所有権を切り離すように要請してきました。
これは持ち株子会社への所有移転も許さないという徹底した内容でした。

 欧州委員会は電力会社の裏技であった託送料つり上げをできなくするためにド
イツに対して規制官庁を作ることを命じました。これを受けて出来たのが連邦ネ
ットワーク庁(BNA)です。  次いで、とうとう2004年にはドイツが発
送電分離をこれ以上遅れさせるな
らば 欧州委員会は命令してでも実行させるという強い申し入れをしました。

 しかし、ドイツが本気で発電と送電分離を開始したのは2011年のメルケル
政権による第2次脱原発政策まで待たねばなりませんでした。いかに業界の抵抗
が強かったかお分かりになるだろうと思います。

 電力業界は、ドイツ最大手の電力会社であるE・ON社長ベルノタート氏が言
うように、「送電網は株主の所有物送電部門の切り離しは、所有権の剥奪に等し
い。EUの介入は電気料金の引き下げにつながらず、電力の不安定化を招く」と
反論しました。

 冗談じゃねぇ、ゼッタイに送電網を売るもんか、というわけです。この強硬な
電力業界の反対にメルケル政権もたじろいだのですが、なんとさっきまで息巻い
ていたE・ON社は2008年2月にあっさりと送電網をオランダの送電会社に
売り飛ばしてしまいます。

 これには裏話がありました。実は「ブリュセル官僚」は、ドイツ連邦カルテル
防止庁と共同でE・ON社が他の大手電力会社とカルテル行為をしていると見て
捜査を行っていたのです。
 カルテル行為だと認定されれば(たぶんそうだったのでしょうが)電力会社は
売り上げの10%もの罰金を課せられます。E・ON社だけで数億ユーロの罰金
を支払うはめになったでしょう。

 それがわかった瞬間E・ON社は豹変して、捜査の打ち切りを条件に送電網を
売却します。もちろんそんな裏取引があったことなど双方は認めませんが、ドイ
ツ人は皆そう信じているようです。
 そしてこの後に福島事故が起きて、それが決定打となります。ドイツで最も長
い送電線を誇っていた業界2位のRWE社は銀行と保険会社の共同出資体に13
億ユーロ(1300億円)で売却するなど発送電分離が急激に進みました。

 このようなドイツの例をみると、いったん強固な電力会社の地域独占を認めて
しまうと簡単にそれは修正が効かないと分かります。
 またドイツの電力会社だけが悪者のようにみえますが、必ずしもそうではあり
ません。

 実際にその後ドイツ電力会社が予言した電力の不安定は起き続けましたし、外
国に送電網を握られるのはエネルギーの安全保障上気持ちがいいものではありま
せん。送電網のメンテナンス面も不安です。
 第一、送電網を大枚の金を出して作った所有者は発電会社なのですから、その
所有権を時の政権が売れと命令するのは自由主義経済の建前の上からは筋違いで
あることも事実です。

 ドイツの場合、なんと言っても国家主権を超越するEUが存在していましたか
らなんとかなったわけですが、それが期待できないわが国では相当な難航が予想
されます。
 東電のような巨額の借金で首が回らなくなっている所ならなんとかなるかもし
れませんが、他の電力会社が簡単に同意するとは思えません。

 脱原発政策を進めるためには、原発の国有化とワンセットで送電網買い上げを
することになると思われますが、ドイツ以上の困難が待ち受けていると覚悟した
ほうがいいでしょう。

 拙速に成立したわが国の再生可能エネルギー法は、このような脱原発への道標
である電力自由化、発送電分離、原子力の国営化などの電力改革のごく一部にす
ぎないFIT(再生可能エネルギー固定是両買い取り制度)という「部品」にす
ぎません。
 しかもそれを実行したドイツにおいてはその失敗を政府当局が認めています。
なぜそこに固執するのかわたしには理解できません。

 わが国も遠からず電力の自由化の道を歩むことになります。いかなる形であれ、
それは不可避です。その場合ドイツ型を取るか、イギリス型を取るか、はたまた
日本独自の型にしていくのかが問われています。
 いずれにせよ、脱原発をスローガンとして叫ぶ時期は終わりました。今は広い
知見を蓄積すること、そしてその現実化のために議論する時期です。

 (筆者は茨城県・行方市在住・農業者)

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