~被災地瓦礫の拒否運動は「脱原発運動」に分断を持ち込む~

■ 農業は死の床か再生のときか               濱田 幸生
   放射能の雲の下に生きる

~被災地瓦礫の拒否運動は、「脱原発運動」に分断を持ち込む~

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  ■被災地瓦礫搬入反対運動の矛盾
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 被災地から神奈川県への瓦礫搬入について黒岩知事が住民に理解を求めたとこ
ろ、怒号を浴びて説明会すら満足に開く事ができませんでした。
  テレビ映像を見ると、何人かの反対派市民が聞く耳をもたぬとばかりに一方的
に行政をつるし上げている様が見られました。

 正直に言って、あのような人たちが「脱原発」を唱えているのだとしたら、私
は一緒になにかをすることはできないですね。
  私には、これは科学性を欠いた「脱原発運動」に名を借りた地域エゴにである
と思います。一体なにに怯えているのでしょうか。

 宮古市の瓦礫が放射能を拡散させるというのはナンセンスな言いがかりです。
彼らの反対運動の主張は、「放射能を全国に拡散させるな」というものです。
  http://akitacity.web.fc2.com/link.html

 被災地で今もっとも深刻なことは、瓦礫処分がいっかな進まないことだという
ことを百も承知でこんな「反対運動」をやっているのでしょうか。
  瓦礫が津波で壊滅した町を新たに復興する上で最大の障害になっており、1年
たった今なお未だ着工すらできていない地域が多いことの原因だと知ってやって
いるのでしょうか。この人たちは被災地の復興を、真正面から妨害しているのです。

 同じ時期に国は、双葉町に恒久的な放射能中間処理施設を作ることを発表しま
した。双葉町町長は、「これが法の下の平等か」と嘆きました。被災地の瓦礫はいっ
さい搬出させない、しかし、放射能汚染された廃棄物はどんどん搬入する施設を作
る・・・。 人間を馬鹿にしてはいませんか。被災地を踏みにじるのはいいかげん
にしなさい。
   さて、宮古市は神奈川の茅ヶ崎市とほぼ同等の距離にあります。
●福島第1原発からの距離比較
宮古市  ・・・260km
横浜市  ・・・253km
川崎市  ・・・242km
相模原市 ・・・254km
横須賀市 ・・・267km
被曝線量は、外部被曝、つまり環境放射線量と、内部被曝が積算されたものです。
  この人たちは、自分の住む町の外部被曝線量を見たことがあるのでしょうか。

●2012年1月28日の空間放射線量率の最大値
宮古市  ・・・ 0.052マイクロシーベルト/時
茅ヶ崎市 ・・・ 0.047マイクロシーベルト/時
   ほぼ一緒じゃないですか。宮古市が特に危険でもなんでもありません。

 次に内部被曝を恐れて神奈川に搬入させないと叫んでいるわけですが、かくい
う神奈川は生ゴミの処理を他県に移動しようとしています。 やがては、今満タ
ンになりつつある下水道の汚泥も自分の県の処理施設で処理しきれずに、他県に
搬出しようとしています。

 下水道汚泥は都市部の放射性物質の最終蓄積場所です。東京や神奈川の処理施
設で高い線量が検出されたことはご承知のとおりです。
  http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1105310059/

 もしここで反対派の人たちがいかなる線量であろうとも搬入を許さないと主張
するのならば、とうぜんのこととして神奈川の下水道汚泥の搬出も他県によって
阻止されることでしょう。

 因果は巡る水車です。宮古の瓦礫をその放射線量もろくに計測しないうちから、
まず拒否しようとする。 その理由に、「いかに低線量であろうとも危険だ」とい
うゼロリスクの論理を持ってくれば、やがては自分に跳ね返って、自分の県の下
水処理施設が稼働できなくなります。

 ここに、相模川流域下水道右岸処理場の汚泥の焼却灰の放射線量のデータがあ
ります。宮古市瓦礫とは比較にならない高線量です。

●神奈川下水道汚泥放射線量(相模川流域右岸処理場・2012年1月16日)
   ・・・・・1024bq/kg
   1000ベクレル超の下水道汚泥をやがて県外に搬出せねばならない地域の住
民が、その10分の1以下の瓦礫の搬入を断固阻止するという笑えない構図です。
   問題は「いかなる低線量でも反対」と立ててしまう非現実性にあります。この
ような硬直したオール・オア・ナッシング論を言い出すから、議論が膠着してし
まうのです。
  今回、神奈川県が受け入れを表明したのは100ベクレル以下の、分類上は通
常ゴミです。100ベクレルというのは、瓦礫を食べる人はいないでしょうが、
食品の規制値(4月発効)でもあります。食品規制値以下なのに搬入拒否するな
らば、一切の食品は他県から持ち込めないことになります。この人たちは、神奈
川県を自給自足にして、瓦礫はおろか食料も持ち込ませないという運動でもする
つもりなのでしょうか(半分冗談です)。

 ところで、既に東京都は被災地からの瓦礫の搬入を始めており、現実に被災地
瓦礫の放射線量のデータも出始めています。

●東京都の被災地瓦礫の放射線量測定値
①都内のゴミと完全に分別された状態で、確実に被災地瓦礫だけの状態で処理さ
れた廃棄物の放射線量 ・・・・検出限界以下(40bq以下)
②1つの処理ラインで、時間帯を分けて都内のゴミと被災地瓦礫を流した場合
(少量の都内のゴミが混ざった可能性がある) ・・・60bq~90bq/㎏
③都内のゴミと被災地瓦礫を同時に処理した場合 ・・・・111bq

 これをみればわかるように、被災地瓦礫単独での処理の放射線量は、都内のゴ
ミ処理単独の放射線量の2分の1以下です。被災地瓦礫に反対する人たちは頭を
冷やしたほうがいい。どうせ反対するのならば、自分の地域の下水処理場の汚泥
の放射線量を計ってからにしていただきたい。
 
そして遠からず満杯になる自分の処理場汚泥が、宮古の震災瓦礫の比ではない
1000bq超という危険水域の放射線量であることを自覚したほうがいい。
  その時、自分たちの高濃度放射性物質汚泥が他県から確実に搬出拒否される事
態になる未来に対して思いをめぐらせたほうがいい。被災地復興に手を取り合っ
て進もうという1年前の誓いをもう忘れましたか。自分たちの身に降りかからな
ければ、この人たちは目が覚めないのでしょうか。 哀しいことです。

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  ■被災地瓦礫」の拒否運動は、
   「脱原発運動」に分断を持ち込みます
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 私が危惧するのは、この瓦礫搬入反対運動をされている方たちが、「放射能を
全国に拡げるな」という言い方で「脱原発運動」に大きな亀裂を持ち込んでいる
ことです。分断といってもいいでしょう。

 私は茨城の「被曝地」の農業者です。しかも日中は土に触れています。私の衣
類は土埃を吸収しているでしょう。私の手にも指にも付いています。 さて、こ
んな「汚染された土壌」の上で暮らし、生産する私を反対運動をしている人たち
はどう対応しますか? 家に入れてくれますか。握手していただけますか? 
それとも白眼視しますか?

 私たちはこの3.11以降1年間、毎日家族を守り、地域を守るために心を砕
いてきました。 そのために3月の段階で測定器を購入し、計測してきました。
震災の傷跡も生々しい自分の畑や住宅、地域などをです。子供たちの通学路も測り
ました。

 この恐怖はお分かりですか。たぶんお分かりだと思います。今、あなた方が
「被災地瓦礫」に怯えている心と根っこは一緒ですから。政府の意図的な情報隠
蔽により苦しんだのは、都市住民だけではありません。むしろ、野外活動を中心
とせざるをえない私たち農業者だったのです。情報の開示を求めたのも、私たち
農業者が最初でした。東電抗議デモも私たちの仲間の農家が初めて行いました。

 いうまでもなく、私は「脱原発」の立場です。それは農業者こそが最大の原発
事故の被害者であるからです。いや、もっと厳密にいえば、私たち以上に避難地
域の生活と生産の根こそぎを奪われた人たちこそが最大の被害者だからです。

 この最大の被害者たちを無視した「脱原発運動」とはなんなのでしょうか?
  被曝したというだけで苦しみ「差別」されている地域が視野に入らない「脱原
発運動」とはなんなのでしょうか?

 陸前高田市は大文字焼きの薪の参加を拒否され、一関の野菜を食べたら死ぬと
言われ、「毒を撒くテロリスト」とまで罵られ、疎開した学校で「放射能が移る」
と言われていじめられ、 婚約者から「奇形児が生まれる」と一方的に破談にさ
れ、避難した土地には職がなく、福島県だけで数万人がいなくなる

 ・・・こんな人たちと一緒に闘わない「脱原発運動」とは一体なんでのです。
  もっとも苦しむ人たちと共に歩まない「脱原発」とはなんなのですか!
もし、被災地瓦礫搬入に危惧をもつなら、行政に対して、地元ゴミと搬入ゴミを
分けて処理し、相互に測定結果を常時モニタリングするなどの方法も提案できた
はずです。処分地におっしゃるような破断層があるのなら、別の場所を探せばいい。

 対案なく、頭から「被災地瓦礫搬入阻止」を叫べば、あなた方の声はこだまし
て、私たち「被曝地」の人間の心にひとつの声としてこう伝わるでしょう。
  「お前らなど来るな。お前らは怖い。お前らの住む地方は放射能汚染されてい
るからだ」。あなた方はそう言っているに等しいのです。

 これは単なる無視ではなく拒否です。百歩譲って、無視されるのはいたしかた
がないとしても、能動的に拒否されるとなると、それは「脱原発運動」が何者で
あるのかの根幹に関わることです。

 私は放射能に怯えることはまったくあたりまえだと思います。しかし、ならば
もっと脅威の中で生きてきた人々に対して想像力を持ってもいいのではないでし
ょうか。涙をしてもいいのではないでしょうか。手を差し伸べてもいいのではな
いでしょうか。
 
そして単なる反対運動ではなく、もっとよりよい解決を探してもいいのではな
かったのでしょうか。残念ながら、私には説明会で叫ぶ人たちからはその姿勢を
まったく感じなかったのです。

 最後に、早川由紀夫氏の作成した放射性物質飛散マップをご覧ください。
   http://gunma.zamurai.jp/pub/2012/0305Gmap.jpg
  宮古市はほぼ放射性物質飛散の影響下にありません。宮古市には放射能雲は通
過していないのです。

 だから福島第1原発との距離を神奈川と比較してみました。放射能雲の影響下
にない以上、神奈川と宮古市とは距離による差があるのみです。それもほぼ等距
離距離でした。現在の環境放射線量もほぼ一緒です。反対運動をされている方々
は、東北=放射能汚染地帯という先入観にとらわれて見ているのです。
   これでもなお、宮古市の瓦礫は危険であり、清浄な神奈川には持ち込ませない、
とおっしゃるのでしょうか。

    (茨城県・行方市在住・農業者)

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