【マスコミ批判】

8.25NHK包囲行動/スピーチ

永田 浩三


 永田浩三と言います。NHKのプロデューサー、ディレクターでした。衛星ハイビジョンの編集長もやっていました。そんな人間が、この場に立って、NHKに向かって叫ばなければならない。不幸で、恥ずかしいことです。

 少し、昔の話をします。1977年、私がNHKに入社した時は、受信料不払いの嵐が吹き荒れていました。世間の目は冷たくて、NHKは今にもつぶれてしまうのではないか、そんな怖さを感じました。居酒屋でNHKの職員だとわかると、罵倒され、議論をふっかけられ、冷笑され、泣きました。悪酔いを繰り返しました。今の職員も、そんな情けなく悲しい経験をいっぱいしていると想像します。
 なぜ、そのころ不払いが燃え盛ったのか。私が入社する前年、1976年、ロッキード事件の刑事被告人だった田中角栄元総理の家を、NHK会長が公用車でご機嫌伺いに行き、それが世間の知るところになりました。その時、NHKの組合は視聴者とともに闘い、会長を辞任させ、初めてのNHK生え抜き会長を誕生させました。全国で始まった署名はわずか3日で136万人にのぼりました。

 あれから38年が経ちました。その時に比べてNHKは良くなったのか?
 そんなことはありません。
 視聴者に向かって仕事をする、当たり前のことです。権力の監視としてのニュース、公共放送の一番大事な使命です。しかし、この当たり前のことが今のNHK、特にNHKの政治ニュースでは全くなされていないのです。

 安倍さんがそんなに恐いんでしょうか?
 ひれ伏さなければならないんでしょうか?

 今から14年前、NHKで番組改変事件が起きました。日本軍の元慰安婦の被害女性の問題を取り上げた「ETV2001」が、放送直前に劇的に変わってしまいました。NHKの幹部が、当時、官房副長官だった安倍晋三さんたちに会い、そのあと番組がすっかり変わりました。その時、NHKの幹部から指示を受けたのが、プロデューサーだった私です。NHKが安倍さんの言うことを聞いて、番組をねじ曲げたことは、断じて間違いです。あってはならないことでした。私が一生背負っていかなければならない、痛恨の出来事です。

 3年前、安倍さんは、NHKの最高意思決定機関である経営委員会に、安倍さんのお友達の百田尚樹・長谷川三千子といった人を送り込みました。先日、百田氏は「沖縄のふたつの新聞はつぶさなければいけない」と暴言を吐きました。
 百田氏は経営委員を一期で退きましたが、そうしたとんでもない経営委員に選ばれたのが、籾井勝人氏です。

 この夏は戦後70年、NHKの特集番組はとても健闘しています。いい番組がいっぱい出ています。それに比べて、ニュースは異常です。悲惨です。

 戦後70年、安倍談話が出された夜のことを思い出して下さい。
 8月14日、まず、夕方6時に安倍総理の記者会見が延々と流されました。
 そして7時のニュース。ここで、安倍総理のおぼえがめでたい、政治部・岩田明子記者が、これ以上ないぐらいのヨイショ解説をしました。
 そして「ニュースウォッチ9」は、なんとスタジオに安倍総理を呼び、42分間、厳しい質問もないわけではありませんでしたが、安倍総理の言いたい放題でした。
 あの人が、スタジオでコミュニケーションがとれないなんていうのは、誰でも知っていることです。それでもやらせたんです。安倍さんに、ただただ奉仕する、それが今のNHKニュースです。

 NHKニュースを見ても、戦争法案の問題点がわからない。
 NHKニュースを見ても、国会の中でいかに政府がいい加減かが分からない。
 NHKニュースを見ても、日本の様々な場所で反対の声が上がっていることが分からない。
 NHKニュースがたまにキチンと取り上げると、それが大きなニュースになる。

 おかしいじゃありませんか。いいわけはありません。

 10年後、安倍さんが総理の座にあるとは、絶対思えません。来年夏までという話もあります。
 しかしNHKは、10年先も必ずあります。NHKは、視聴者の受信料で育てた大事な宝物です。安倍さんの私有物では、断じてないのです。安倍さんに義理立てしたり、恐がる必要などないのです。

 王様は裸です。若者たちは、すでにそれに気づいています。王様は裸だと。
 NHKは、安倍さんと一緒に心中などしてほしくありません。安倍さんと一緒に心中などしてほしくないのです。NHKはみんなのもの、みんなの宝です。このまま朽ち果てるのは、あまりにもったいない。
 NHKを、市民の手に取り戻す。安倍さんの言うとおりの「とりもろす」ではありません。取り戻すのです、市民の手に。みんなのものに、NHKを取り戻していきましょう。
 ありがとうございました。

 (元NHKプロデューサー・デイレクター)


最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧