【視点】

「ふるさと納税」の苛立ち

「官製通販」「合法的脱税」と呼ばれる理由
山口 道宏

 損失1兆円超!! 東京都から税金が消えている
 
 さきの都議選でも、参院戦でも、東京選挙区というのに、どの立候補者もこの問題に触れなかった。「ふるさと納税」制度だ。
 物価高、社会保障、防災などは国政レベルの課題だが、東京選出区となれば東京都民1400万人が抱える東京の経済問題を公約に掲げるは当然。しかし選挙中、この話題を耳にすることはなかった。
 東京では年々、税金が流失している。「オレオレ詐欺」や「なりすまし○○」ではない。
 国が仕掛けた税制度の変容に、東京都並びに23区など80を超える団体(自治体)が哭いているのだ。
 「ふるさと納税」(2009年度から・菅義偉総務相)による地方税の流失だ。なかでも流失額の大きい東京都は1899億円(2024年度)で、都民税分759億円、区市町村民税分1141億円、制度開始からの流失累計は9452億円と膨らんだ。東京から消えた税金はいよいよ1兆円越えという驚愕な数字になっている。
 
 2015年の「ワンストップ特例」(国)で、同制度は大きく軌道修正をしていた。
 手続きの簡便化、という名目で寄付により控除される税金を所得税からではなく、住民税から差し引くというもの。つまりは確定申告不要(寄付先5団体以内)で、所得税(国税)から控除されるはずの金額が住民税(地方税)から控除されるのだから、当該自治体の減収額は増加した。さらに地方税の所得割の比率が1割から2割に変更され、結果的に地方税の控除額が拡大していた。「ワンストップ特例」に依り、ますます地方税が流失という事態に陥った。不合理な制度設計は、国が地方に一方的に押し付けた格好といっていい。

 そもそも本来は国がすべきところを自治体へ、は明らかな税の付け替えだ。東京都知事、特別区長会は連名で国に対して抗議の声をあげ、毎年「要望書」を提出している。
 また同制度は2019年度になると自治体の登録は申請形式になった。東京都はこの時点で離脱していた(ただし23区ほか都内市町村は届け出をするも、いまも抜本的な見直しを要望している)。
 
 ポイント付与と地方交付税
 
 「ふるさと納税」は地方税を奪い合っている。
 流失額の内訳はこうだ。5割が経費で、3割は品物分(返礼品)で、2割はポータブルサイトやクレジットカード手数料。よって「返礼品」を提供する限られた地場の産業とサイトの仲介業者が潤っているだけ。寄付を受けた地方も、返礼品代、仲介業者への手数料、送料など負担をするから公共サービスへの還元など端から期待薄だ。

 楽天が「ふるさと納税」で国を相手に提訴(2025.7)という。総務省が昨年6月に告示を改正。仲介サイトがポイント付与を競う形で寄付者を囲いこみ「本来の趣旨」を離れ競争が過熱していると問題視。自治体が仲介サイトに払う手数料の一部がポイントの原資になっていると指摘したことへの抗議のようだ。
 どうやら無理に無理を重ねる同制度が内紛を引き起こしている。総務省のいう「本来の趣旨」に立ち返れば「ふるさと納税」の廃止こそが近道ではないのか。 
 
 一方で「地方交付税」がある。
 「地方交付税」とは自治体の収入と支出のバランスが悪いところへ補填の意味から国が地方に付与するもの(令和6年度17.5兆円)だが、東京都も、23区市町村も不交付団体だ。  
 世田谷区では「ふるさと納税」での流出額は123億円(2025.7)、地方交付税で75%が戻る計算が不交付団体ゆえに90億円の戻入が、ゼロ。横浜市はどうか。300億円流出が75%補填されるが、お隣の川崎市は不交付団体だ。横浜市は前年まで不交付団体だった。
 交付、不交付の決定は国の審査のもと毎年変化をし令和6年度の不交付団体は東京都など83団体になっている。「ふるさと納税」で多額の寄付を集めたことを理由に特別交付税の減額に対し取り消しを国に求めるという訴訟は最高裁にまでいった(大阪府泉佐野市)。 
 どうにも「ふるさと納税」同様に「交付税」の性格と配布対象がすっきりしない。
 
 143億円流失の世田谷区は「ふるさと納税寄付額の上限設定」を検討か
 
 「ふるさと納税」の被害者自治体のひとつ、94万人人口(2025.4)の世田谷区に聞いた。
 区の広報紙は「世田谷区にも、ふるさと納税」というが「にも」とはなにか。苦々しい思いが伝わるキャッチコピーだが、受益と負担の原則という税本来の性格と、税金を預かる自治体責任からは、苦肉の「戦い」か。
 返礼品なしの「ふるさと納税」は街づくりを意識していた。見学ツアーや体験型のほかに、以下のメニューだ(基金名等・令和6年)。
 子ども基金、児童養護施設退所者等奨学・自立支援基金、地域保健福祉等推進基金、医療的ケア児の笑顔を支える基金、スポーツ推進基金、みどりのトラスト基金、文化振興基金、災害対策基金、気候危機対策基金、義務教育施設整備基金、世田谷遊びと学びの教育基金、国際平和交流基金、下北沢駅前広場プロジェクト、せたがや動物とともにいきるまちプロジェクト、本庁舎等整備プロジェクト、新型コロナウイルスをともに乗りこえる寄附金ほか。
 
 もともと東京都、23区ほか都内市町村は、当初から一貫して「ふるさと納税」には反対の姿勢を崩していない。
 国税も地方税も私たち自身の収める税金が原資だ。いまや定着したかのような同制度だが、地方税は地域に還元すべきという原則であれば、専門家でなくてもNO!!と評される国策だ。

 悪法も法なり、という法諺がある。
 「ふるさと」の郷愁を利用した税金の操作で、それにより国が得をするという構図だ。しかし肝心の故郷はどうか。地方の多くは、空き家や空き地が増え、地域は疲弊していないか。寄付行為に依る「ふるさと納税」より、国家レベルで確かな「地域再生」への指針の提示こそ急がれる。
 
 さて、世田谷区というと富裕層が多いイメージだが「ふるさと納税」は御多分に漏れず高所得者による寄付が大きく、それは流失額に反映している。
 保坂展人世田谷区区長は次の数字を挙げた(2025.7.1区長記者会見)。
 令和7年度 流失額123億3355万円(速報値)。
 昨年度、111億円。
 区への寄付実績は10億3938万円、遺贈が6割。
 うち区独自の「ふるさと納税」額は3億3700万円。 
 令和元年度(2019年度)以降の流失累積額は、600億円超の見込みに。 
 
 都内23区中、一番に流失額の多いのが世田谷区だ。
 気になる区民サービスへの影響はどうか。
 担当に依れば「年間124億円にも及ぶ同区の流出額は125億円の同区のゴミ清掃1年分に匹敵する」という。
 同区では同納税制度の検証に着手していた。
 流失への重大な懸念に「同制度に依る寄付額の上限を設けることを考えている」と保坂区長は語っている(前出・記者会見)。
 住民でなくても、1年間ごみの回収車がこなかったらと思うとゾっとするが、区立小中学校の給食費無償化3年分に相当するとも。そうでなくても、自治体は災害、社会保障、インフラ整備、介護施設建設、小中学校建て替えなど課題は目白押しだけに、波紋は大きい。即ち、区民サービス低下の不安はぬぐえない。
 
 誰にとって適切な税制度か?? いつまでも問われる「ふるさと納税」の本質
 
 文春砲は早くから「交付金」に切り込んでいた。
 「減反交付金」に着目すると「130 億円超の“減反交付金”は「不適切」と会計検査院が指摘、専門家は「ずさんな運用を続けてきた」と報じた(2025.3.17)。
 「需要に応じた供給」「減反政策は終了」は建前か、農家への通達文書から判明した農水省の嘘。現物入手、農家に届いた農水省の矛盾を示す「通達文書」の存在と続く。
 会計検査院と言えば税金が適切に使用されているかをチェックする機関だ。そこが 2023 年に、JA(農業協同組合)関連の「転作(減反)交付金」を「不適切」と指摘していた。「週刊文春」はこれまで JA 関連団体から自⺠党の農林族に約 1.4 億円が流れていることや、 農水官僚28人が JA 関連団体に“天下り”してきたことなどを報じている。会計検査院によって「不適切」と指摘された交付金額は約134億円に上っている、という。
 
 能登地震では数十憶円の寄付があったという。むろん返礼品なしだ。
 寄付とは損得なしの地域支援であるべきだけに「ふるさと納税」というキックバック形式は根本からの見直しが急務か。とうとう「ふるさと納税」で美容整形という返礼品まで出現している。
 いつまでこの制度を続けるのか!? 先頃、2024年度の「ふるさと納税」による寄付総額は過去最高の1兆2728億円、利用者は1080万人と発表があった。
 税制の専門家の間では「官製通販」「合法的脱税」と手厳しい「ふるさと納税」への評価だ。
 「交付金」の行方と併せて、「ふるさと納税」とは税制度の「本来の趣旨」からみて適正な運用なのか、ここでも会計検査院の出番が待たれる。
 了(2025.7.30)

(2025.8.20)
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