【視点】
「植民地オキナワ」を抱える「頽廃化ニッポン」
――最近の新聞を読んで
羽原 清雅
このようなタイトルは好まないのだが、しかしながらまっとうな気分では書けない。
怒りか、嘆きか、とにかくこれでいいのか、と思わざるを得ない。
この1カ月ほどの動きを見て、感じたことを残しておきたい。
自民党とカネの問題はこの半年の国会で、これといった反省もなく、後味悪く再発必至の状態で幕を閉じた。不評の岸田首相、それに右往左往するばかりの党幹部級は言を左右にして逃げ惑った。改革は止まった。今後また、ダーティな部分が表面化するだろう。
そんななかで、「正義」を誇るはずの検察庁がとんでもないいかがわしさを発揮した。自衛隊創設70年を迎えた防衛省は金銭面、素行面などで大きなボロをさらした。
さらに、内閣・外務・防衛の各機関は、日本という独立国としての誇りを捨て、外国軍兵士の犯罪などに毅然と立ち向かわず、米国におもねり続けている。日米地位協定という不平等関係を長年放置して、国民無視の醜状を見せた。「日米同盟」という関係は、従属ということなのか。言うべきことを言い、日本国民の立場を守ることが政府の責任ではないのか。「核の傘」の庇護を受けるためなら、すべてを捧げるというのか。
このような政治、行政が大手を振って闊歩する社会をおかしく思う。
国民世論は、長年の「慣れ」で、この異常な状態を黙認するまでに堕ちたというのか。
本筋の沖縄問題に触れる前に、まずは行政の現実に触れておきたい。
<行政のつまずき>
更迭人事から昇格へ 6月26日付の報道である。性的少数者らに対して「隣に住んでいるのも嫌だ」と差別発言をし、岸田首相秘書官を更迭された荒井勝喜が7月1日付で、経済産業省大臣官房審議官から通商政策局長に昇格した。政府内の幹部としては、人間性が問われるところだが、そこは黙認のよう。
官僚の世界では、これは通常の人事処理の手口である。典型的な前例は、森友学園問題の財務省理財局長の佐川宣寿で、国会答弁でも最後まで財務と学園の土地払い下げをめぐる疑惑について知らぬ存ぜぬを通し続け、関係者が自殺を選ぶまでになりながら、安倍首相夫妻の関わりを隠し通した結果、国税庁長官に昇任している。国家公務員として、国民の側になく、権力に尽くした報酬を受けている。おかしな話である。
検事長人事認めず 6月27日、大阪地裁の判決が出された。東京高検検事長黒川弘務は定年1ヵ月前に、国家公務員法の法解釈を変え、前例のない定年延長を受けることで検事総長になるチャンスに恵まれかかった。安倍政権は検事総長の定年延長を、必要な法改正を経ずに、閣議決定で処理しようとしたのだ。
じつは安倍政権は、共謀罪実現や森友学園問題での佐川宣寿不起訴などに動いたとされる黒川を起用することで、検察の動きをコントロールし、政権側のスキャンダル処理などを有利にしたい思惑があったといわれた。もし、これが決まれば、独立性、中立性の求められる検察に揺らぎが生じかねないところだった。
だが、この判決を簡単にいえば、定年延長の人事についての法務省の協議内容などの文書を開示することを認める趣旨だった。つまり、判決はこの法解釈の変更は、黒川のための定年延長であるとしたのだった。
政権としてはきわめて安直な対応で、このような政府の姿勢は、いわば権力の乱用でもあり、政府権力が「国会の数に頼めば、何でもできる」ご都合主義だった。
大阪地裁の判断が、権力のやりたい放題を食い止めたのだった。
検事正が性的暴行で逮捕 これも6月26日付の新聞報道だった。こともあろうに、大阪地検トップの検事正(現弁護士)が在職中に、官舎で酒に酔い部下の女性に対して性交を強要し、逮捕されたというのだ。この破廉恥な人物は北川健太郎という。最高検の刑事部長まで務めた人物である。7月17日、古巣の後輩らによる大阪地検が準強制性交罪で起訴した。
驚くことに当初、検察は犯行の日時などの詳細は公表しなかった。逮捕した大阪高検の説明は「被害者のプライバシー保護のため差し控える」として、公表しなかった。一般人のケースとはかなり違い、身内びいきの措置である。重要な公職であり、具体的な犯行内容などを明らかにすることが、検察という職務の信頼をつなぎとめる道だっただろう。
ちなみに、この元検事正は、前項の森友学園への国有地売却に関わる公文書改ざん問題で佐川宣寿理財局長を不起訴にした人物である。このような犯行に及ぶ人物による不起訴決定では、信用性さえ疑われよう。
前代未聞の腐敗、醜聞 そして、7月17日。防衛省は大量の事務次官、統合幕僚長、陸海空各幕僚長をはじめ背広組、制服組218人を懲戒、訓戒処分した。かつてない事態だ。
防衛省はじめ政府・自民党が11年前に強行成立させた特定秘密保護法にも拘らず、この法律による「特定秘密」の扱いを無資格者にゆだね漏洩などをしたとされる115人、潜水手当をごまかし不正に受給した74人(総額4300万円)、代金を払わず不正飲食した22人(160万円分)、幹部官僚のパワハラの3人など。おぞましい限りだ。免職11、降任2,停職83、減給14、戒告7、という。
この処分以外でも、女性自衛官に対する性暴行の5人が懲戒免職、2022年度のハラスメントの懲戒処分177人の事例があった。
だが、肝心の木原稔防衛相は大臣としての給与1ヵ月分自主返納するだけ。ルールとはいえ、ごく軽い責任の問われようだ。防衛業務は機密も多く、日常的に国民に知らされることは少ない。秘密の温床でもあり、そこに「適当」「隠蔽」「逃げ切り」などが生まれる。
そのようなケースの不行跡については、本人、監督者の責任は通常よりも重くあるべきだろう。閣僚などの幹部らは形式責任にとどめず、職をも賭すべきで、自主返納などで済ませていいものか。
安全保障上の「特定秘密」を資格のない隊員に扱わせていた、という問題を詳しく見てみよう。有資格とは、犯罪歴、精神疾患、経済状況などに問題がないことだという。特定秘密は、特定秘密保護法で指定された約750件のうち防衛省が約430件を抱え、扱いは適正評価をパスした約13万5000人のうち防衛省関係は約12万人だという。各紙によると、この違法状態は常態化していた。たとえば、護衛艦「いなづま」の戦闘指揮所では、特定秘密にあたる船舶の航跡情報を扱う任務に無資格隊員が就いていた、という。
2023年度の自衛官採用数は、計画の50.8%で過去最低。むべなるかな!
川崎重工と慣れ合った海自 7月5日付の朝日新聞がまず報じた。趣旨は以下のような疑惑だった。川崎重工は20年ほど前から、海上自衛隊の潜水艦関係の幹部、隊員に対して、飲食接待、家電・ゲーム機・釣り用具などの物品、商品券などを贈ったとして、6年間だけでも10数億円、年間2億円もの裏金を使っていた、というのだ。そのカネは、下請けの6企業に架空取引によって裏金を作らせていたという。潜水艦の職務はとくに秘密度が高い。それで長期間秘密が守られていたか、あるいは黙認により継続していたものか、いずれにせよ防衛費からくすねたものであり、また歴代の海自の面々は承知の上で悪銭を受けていたことになる。企業も企業だが、海自も海自で、悪の道を容認していたことになる。
海自の潜水艦は川崎重工が12隻、三菱重工13隻を2社で建造したようだが、では三菱重工は何も問題はなかったのか、疑問は消えない。
戦前の軍隊を率いた幹部らは、財閥からカネを引き出し、また財閥はなにかと軍に接近し、兵器、軍需物資などの発注の便宜を受けていた。その構図が再現しつつある、ということか。自衛隊70年の「成果」なのか。
使い切れない?防衛費 2023年度の防衛費は6兆8219億円。このうち1300億円の予算を使い残した、と7月10日に林芳正官房長官が発表した。近年では、2011年度の東日本大震災時に次いで2番目の巨額だという。27年度までの5年間に総額43兆円の防衛費増を目指す政府だが、その初年度から「不用額」が出たことになる。理由は、契約額が予定を下回り、また予算想定の人員数が満たされなかったことなどによるのだという。
法人税、所得税アップなどの防衛増税を打ち出して、つかみ金で43兆円投入を決め、水増し請求した挙句、使いきれなかったのだ、との批判もある。
防衛費増額のうたい文句だけが先行して、細部までの検討が行き届いていなかったのだ。防衛、軍事費の扱いには、このようないい加減さが付きまとい、結果的に無駄遣いなどのケースが出てきそうだ。岸田政権は、対米配慮から10年間に及ぶ軍事拡張を図る安保3文書を打ち出したが、じつはこのような杜撰さをはらんでいるのだ。
女性隊員へのセクハラ、パワハラ問題 北海道、東北、浜松などで女性隊員へのセクハラ行為などが続く。男性の多い階級社会ではありがちなこと、では済まされない。最近、勇気ある女性隊員によって、その実態が告発され、戒めにつながるか、とも思わせる事例があった。ごく最近、隊を去った被害女性と、加害側の男性隊員の間で和解したというが、声の上がらないケースがなお続くようだ。
こうした事態を招きやすい閉鎖型社会は、戦前の軍隊を思わせる。本多勝一の「天皇の軍隊」、野間宏の「真空地帯」などの戦時中の軍隊内部の醜態の戦後版、女性版を思わせるもので、やはり自衛隊も軍隊なのだ、と思わざるを得ない。
旧軍意識の復活か 各地で靖国など神社参拝 2024年1月、陸上自衛隊の幕僚副長ら2,30人の幹部らが靖国神社を集団参拝した。私服、時間休を取っての個人参拝だというが、一部は公用車を使い、事前に行政文書として計画を作っていた。宗教上の礼拝所への部隊台参拝を禁じた次官通達に違反した、として3人が訓戒処分を受けた。
23年5月には、海上自衛隊の幹部候補生学校の卒業生が長期の遠洋練習航海に出発するにあたり、司令官のもと靖国神社に制服姿で集団参拝した。165人のうちの大半が参加した。毎年の恒例行事だといい、個人の私的な自由参拝、だというが、玉串料はまとめて納めている。
それ以前でも、北海道護国神社(旭川)に同地の駐屯地の幹部ら約60人が制服姿で集団参拝している。宮古駐屯地でも昨年、警備隊長らが参拝している。
いずれも次官通達違反である。
ことは、そう簡単ではない。靖国神社は、明治以来の戦争で命を失った軍人たちを英霊として祀った因縁の神社である。戦後も、祖国を守って命を落とした軍神たちの聖域として大切にされた。だが一方で、自衛隊発足以来、政府はじめ自衛隊も戦前の軍隊とは同列の組織ではないとして、同一視されない配慮をしてきた。
時代を経るに伴い、自衛隊内では同業の「先輩」と思うのだろうか、親近感が強まり、次第に参拝の事実を隠さない風潮が出てきた。
しかし、戦前の軍隊に類似化、あるいは同一視されることは、国際的にも避けなければならない。戦争を仕掛けた反省、仕掛けられた怨念は今も続く。そうしたジレンマがある。「戦争」という現実から遠い世代が増えるに従い、自衛隊内にも靖国に親近感が生まれ、忌まわしい歴史を不問に付したり、旧悪を忘れかけたりしているのだろうか。
<本題の沖縄問題>
ここまで、政府省庁の罪過に触れ、自衛隊の欠陥を長々と指摘してきた。そのうえに立って、本題として取り上げたいのは沖縄と米兵のおぞましい関わり、さらには日本政府の無力というか、対米属国化を受け入れるかの姿である。
正常な感覚として、沖縄をめぐる両国政府の姿勢はこのままでいいのか、と思う。多くの日本人は、基地集中の沖縄の立場をおかしく感じつつも、どう触れていいものか、判断がつかず、ただ流れに乗っているのではないか。自民党の長期政権が許容してきた沖縄の不平等の実態に手の出しようがないのではないか。日米関係のひずみが生んだ沖縄の現実である。
最近の米兵の犯罪の周辺を見て、怒りをてこに動くか、無言のままに引きずられて行くか。もういちど、歴代政権の社会正義を踏まえない姿勢、日本官僚の王道を貫かない退廃、その責任を問うていきたい。基本は、日米地位協定にある。日本政府はこの不平等な関係について、改定を申し入れず、米側もこれに依存し続ける。そこに、正当な裁判も行われず、植民地扱いの沖縄がある。すでにこの状態が1960年の調印以来60年を超える。
米国の横暴と日本政府の弱腰 ➀ 2023年12月24日、16歳未満の日本人少女が沖縄本島中部で誘拐され、容疑者の米兵宅に連れて行かれ、嘉手納基地所属の米空軍兵長ブレノン・ワシントン(25)が24年3月11日付で、わいせつ目的誘拐、不同意性交罪で那覇地検に書類送検、同月27日付で起訴された。
2人に面識はなかった。事件当日、少女の母親が110番した。起訴当日、被告の身柄は日本側に引き渡された。刑事裁判権は日本側にある。7月12日の那覇地裁初公判で「私は無罪、誘拐も性的暴行もしていない」と全面否認している。
メディアが知ったのは6月25日昼ころ。事件から半年、起訴からでも3ヵ月が過ぎていた。県側には起訴後の報道で表面化する3ヵ月後まで、日本政府、検察、県警から伝えられていなかった。
② 2024年1月、30歳代の米海兵隊員を不同意性交罪容疑で緊急逮捕。事件は発表されず、沖縄県側にも連絡せず。のち不起訴処分になる。
③ 2024年5月26日午前、米海兵隊上等兵ジャメル・クレイトン(21)が、沖縄本島中部の屋内で性的暴行目的で面識のない日本人の成人女性の首を絞め、2週間のけがをさせた。女性が逃げて110番通報、県警が同夜、基地外で緊急逮捕し、身柄を拘束。
6月17日那覇地検は不同意性交致傷罪で起訴。沖縄県警の発表は事件1ヵ月余あとの6月28日。報道後、沖縄防衛局が県庁に報告、海兵隊からの報告はなかった。情報を得た外務省も県庁側に伝えていなかった。
④ ①の事件が表面化する前日の6月24日、米海兵隊キャンプ・ハンセン所属のアンドリュー・トーレス上等兵(20)の那覇地裁初公判があった。4月の深夜、宜野湾市のコンビニに侵入、店員にナイフを突き付け現金13万円を奪い、強盗、建造物侵入などに問われた。被告は起訴内容を認め、検察側は懲役5年を求刑し結審した。被告はマッチングアプリで知った女性に性的サービスを受けようと25万円分の電子マネーを送金、だまされたと知り、電子マネーを買ったそのコンビニに押し入った(沖縄タイムス紙)。
⑤ 県警によると、24年1-5月の米軍関係者による殺人、強盗、不同意性交などの凶悪犯の認知件数は5件。前年同時期は2件だった(同紙)。
事件は県議選に影響必至か 沖縄県議選は6月7日告示、同16日投票だった。つまり、①②③の事件は選挙以前に起き、①と③の報道はいずれも選挙のあと、③の起訴はまさに投票日の翌日で、早めに公表されていれば、投票結果に影響していたに違いない。選挙結果への影響を警戒して発表を遅らせていたに違いない。
県政の与党(共産、社大、社民、無所属系)は24→20、同野党(自民、無所属系)18→24に増減した。仮にこの3つの事件が隠されずに公表されていたら、有権者の意思は微妙に変わっていたのではないか。事件公表直後から各地で抗議集会が起き、市町村議会、各地域や女性などの各種団体が行動して、米軍、政府関係への抗議や集会などが盛り上がってきたことからも推察できよう。
玉城県知事と対立しがちの政府などが、選挙への影響を警戒したのではないか。与野党逆転の予想もあるなかで、とりわけ選挙を意識する政府、与党(国政)、沖縄担当部局には野党(国政)に支持が増える可能性のある事態を前に「まずい」「知らせまい」との意識が働いたのではないか。そう思われてもやむを得ない「恒例」だったのだ。
とすれば、これほど沖縄県民の思いを無視し、逆らおうとする権力者側の陰謀はない。
米軍の犯罪を隠ぺいする日本政府側の態度は、米権力におもね、迎合する「植民地」に見えてくる。米兵らの犯行への怒りを黙殺し、事実を隠ぺいするかの態度であり、県民感情を逆なでする仕打ちだろう。
米側、政府などの反応 岸田首相は昨年末の①の事件が3月27日付で起訴されたことを知っていた。しかし、4月に国賓待遇として訪米時にバイデン大統領と会談したが、抗議、再発防止を要請したかどうかの記録はない。また、③の事件についても、首相は6月17日の起訴以前に情報を官邸と共有していた。首相はその後、沖縄の追悼式に参列したが、二つの事件ともに言及することはなかった(沖縄タイムス紙)。
米国の反応はどうか。米国務省は「非常に深刻。米軍、米国内でも許されず、全米兵は最高水準の行動規範が期待される」との形式論を言う。
嘉手納基地第18航空団司令官と駐沖総領事は③の事件を受けて27日、県庁に副知事を訪れたが、抗議を聞く一方、「空軍兵士の容疑の説明に来た」「日本の捜査、裁判に全面協力する」というものの、事件の具体的な説明はなく、約15分の面会で謝罪の言葉は出なかった(各紙)。
嘉手納基地の第18航空団は28日、軍人の深夜外出や飲酒を規制する「リバティー制度」の見直しについて聞いた沖縄紙に対し、「制度の見直しについて判断するのは時期尚早」とした。結論が出ていないか、着手していないようだ。
また3月の起訴時点で、岡野正敬外務事務次官による綱紀粛正と再発防止徹底の申し入れに対して、エマニュエル駐日米大使は「このような事案の発生は極めて遺憾」と述べるにとどめた。
では、日本側はどうか(28日の各記者会見)。上川陽子外相は政府の公表や沖縄県への通知を控えたことについて「政府の対応が不信感を招いていることについて重く受け止めている」。23日の沖縄全戦没者追悼式に参列した思いに「既に事案を承知しており、心が痛む思いだった」とした。③の事件について「政府としては県に伝えていない」ことを認めた。
木原稔防衛相は、米軍に求めている「再発防止策」について「米軍の対応を待つ」として、まだ具体的な対応のないことを示した。事件把握の時期、経緯など明らかにせず、政府としての公表、県への伝達を控えたことには「捜査当局の判断を前提として対応」と述べた。
沖縄共産党県議団が27日、「不公表、県知事への非通知の件はないか」と外務省沖縄事務所に問い合わせると「ない」との返事。だが、県警発表は翌28日で、すでに外務省サイドは承知していたはず。県民にとって犯罪の報道は重要だ。
玉城デニー知事は28日、「非人道的で卑劣な犯罪が再び発覚した。断じて許せるものではなく、強い憤りを禁じ得ない」と述べ、上京して政府などに直接要請する必要を認めた。
沖縄県議会は7月10日、「満身の怒りを込めて」全会一致で抗議の決議をした。実効性ある再発防止策、米軍に迅速な事件の通報を求める決議内容。
海外報道はどうか。米CNNは米兵の性犯罪の歴史、沖縄の反発をよそに日米の軍事強化の現状を詳報した。仏AFP は玉城知事の「女性の尊厳を踏みにじるもの」との強い憤りを報道。また沖縄で長年の公害、騒音、ヘリ墜落など基地被害を指摘した。英BBC 放送は「日本は米国外で最大の米軍を受け入れている」とし、米兵約5万4000人、うち約3万が沖縄に駐留、地元は基地撤去などを望むが、困難視する専門家もいると報道した。
事件事故の通報関係 1995年9月、沖縄の米兵3人が小学生少女に暴行した事件を機に、日米は在日米軍の「事件事故発生時における通報手続き」で合意、「日本人やその財産に実質的な損害を与える可能性のある事件、事故」などの対象事例が示される。
この通報基準によると、こうした事件事故の場合、米側は外務省と沖縄防衛局に通報する。外務省はさらに防衛省を通じて防衛局に情報を伝える。ふたつの通報を受ける防衛局は県や市町村に伝える仕組みとなっている。
今度の①の場合、外務省は「報道前に外務省から防衛省に何か伝えたとは承知していない」。防衛局ももうひとつの米側からのルートからの通報の有無を「詳細を控える」、別の防衛省関係者は「何も知らされていない」とはっきりとはさせていない(沖縄タイムス紙を補強)。
沖縄防衛局が知ることがなければ、賠償・補償の手続きは始まらず、情報が共有されないと被害者の救済が遅れたりしかねない。
NHKなどによると、10年ほど前からこうした情報の共有が県と県警間で徐々になくなりつつあるという。SNSの普及によって、被害者のプライバシー保護のために情報の提供が慎重になってきた、という。
それに、県と県警の関係、県と政府の関係に、基地問題の対応の違いがミゾを作っている、とも言う。
沖縄選出の赤嶺政賢衆院議員(共産)は、防衛省担当者からの聞き取りで「過去にも関係自治体に情報提供をしていない事案はあった」と聞いたという(琉球新報紙)。
こうした情報の通報機能が衰退、遅延すれば、事件自体が隠蔽されかねず、また被害者が放置されることにもなる。新たな日米間や日本側での打開の道が求められよう。
プライバシー保護が言い訳に使われている。外務省から沖縄県への連絡の遅れについて、林芳正官房長官は「公になることで、被害者の名誉、プライバシーに甚大な影響を与えることがありうることなどを考慮し、公表するかどうか否かを判断した」と述べた。
米軍関係者の性犯罪録 沖縄県警によると、1972‐2023年の51年間の、米軍人、軍属、その家族による刑法犯の摘発は6235件で、6124人。うち殺人、強盗、不同意性交などの凶悪犯は586件、759人。2024年1月‐5月末の米軍関係の刑法犯の摘発は28件、33人で、そのうち凶悪犯は5件4人。
1995年から2024年までの29年間の県内の米兵による性的暴行事件で、逮捕・送検の30件のうち半数の15件は公表していない、という。
県警によると2023年以降に公表した件数はゼロ。基地内での海兵隊員の女性暴行では被害者が事件化を望まず、地検が裁判権を放棄(2000年)、海兵隊員に暴行された女性は米海軍捜査局に訴えたが、基地司令官が起訴を拒否(2017年)、ホテルで女性に暴行した軍属で退役軍人を逮捕したが、不起訴に(23年)、路上で女性に暴行した海兵隊員を逮捕したが不起訴(24年)など(以上沖縄タイムス紙)。
沖縄県内の米軍関係者による犯罪一覧 (一部)
怒れ オキナワ!! 日本政府内の数々の腐敗や退廃ぶりを実例に見た。自民党派閥のカネの問題ばかりではない、いい加減な公的な要人たち、これでも追随していくのか。
そうした政権・政府のもとで、沖縄はいま苦しむ。中国と台湾の緊張下にある沖縄は、見通しのつかない新たな米軍基地建設を背負い、いくつもの島までが軍事体制強化の波に巻き込まれている。台湾有事を待つよりも、先ずは中国との外交関係を強化し、民間交流を盛んにして相互理解を深めてはどうか。中国も大人げないが、日本も米国の尻馬に乗ったり、日比、日豪などの対中包囲網に熱中したり、下手な軍刀を振りまわすこともあるまい。中国との地政学的関係を見直し、独立国日本らしい個性を政治、外交に生かしてはどうか。自国の個性を見失っている。
日本は今、ドル安の煽りもあり低賃金層が苦しむ。多少のばら銭をまいても根本は治らない。軍事費増強よりは未来への先行投資。将来の発展のために学術研究費の削減はやめ、大学の助成金を締めて学生、研究者たちの研究を阻害するような目先ばかりに走らないことだ。
沖縄県民を軍事体制に巻き込む前に、政府は少なくとも自国の自治体とよく話し合い、礼を尽くすべきだろう。岸田政権の命運が取り沙汰されるなかではあるが、米国に行き要人と会う以上、沖縄の米国軍人らの犯罪の抑制を求め、沖縄に行くなら知事に犯罪撲滅の努力をねぎらってはどうか。
沖縄の人々は本気で怒れ!! 戦前の苦労と犠牲、それに戦後の差別的扱いを若者たちももっと知って、言うべきことは大声で言おう。目先にかまけたり、一時の権力に迎合、追随したりするまい。かつて米国軍人が幼い女子たちを襲ったとき、大半の県民が怒りの集会に集まり、かつてコザの一揆に立ち上がったような、あのエネルギーを取り戻そう。そして、しっかりと落ち着いて未来を作り直すのだ!!
(元朝日新聞政治部長)
(2024.7.20)
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