【視点】
「高市独走政治」が本格化へ
—国民2分の政策は許されるか
羽原 清雅
高市早苗首相の政治手法が見え始めた。1月の突然の衆院解散。意外ともいえる自民党の圧勝。審議時間、審議を端折っての急ピッチの当初予算案審議。だが、結局は短期の暫定予算が必要に。「数の力」があちこちに見え始めている。
そして、4月8日から国会後半の重要法案の審議に入った。会期は7月17日まで。3分の2以上の勢力を握った衆院に対して、過半数割れの与党の参院が存在感を増して、重要な役割を担うことになる。参院に残留する立憲と公明の力量が問われる。
衆院で大きく後退した野党勢力は、保守化した自民、維新の大勢力に対して、どれだけのチェック機能が発揮できるか。もともと立憲、国民などの野党の底の浅い審議、追及能力が気になるところだが、衆院選で少数化し、経験豊富な議員を失って、数に頼る高市政権の強引な国会運営にどこまで耐えられるか、国民サイドの不安は大きい。とくに、高市政治は「国論2分の政策」遂行を狙い、相次いで右傾政策を推し進めようとしている。国民を2分する政治でいいのか。政治は本来、極力国民の納得のいく方向に進められるべきで、わかりやすく、納得のいく説明こそまず第一に果たすべきだろう。
一部の国民の納得で強行すれば、いつか国内は荒れて、政治自体の信頼を失うことになる。
日本の今後の進路を右に舵を切る不安は大きい。
国会は国権の最高機関であり、民主主義の砦でなければならない。日本という国の運営は、多数決とはいえ、改憲が実現しない限り、現行の日本国憲法を守り、これに基づく政治でなければならない。憲法の解釈を容易に変えることは許されない。だが現実には、憲法の理念が軽視される面も少なくない。
憲法制定から日ならずして、朝鮮戦争を迎えた米国の事情で占領政策が転換され、戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認の基本が徐々に崩れていく。改憲の空気が高まらないため、いい加減な「解釈改憲」がまかり通り、憲法軽視の政治が続いている。
もうひとつは、民主主義の土台である選挙制度の問題がある。現行の小選挙区比例代表並立制は11回の選挙を経験するが、制度自体に問題が多い。一点のみ上げると、現在の衆院の構成は、政権を握る自民党は小選挙区(定数289)で議席占有率は86%(249議席)を獲得するが、有権者の意思を示す得票率は49%に過ぎない。過去11回の衆院選を通じて、自民党支持の「民意」は一度も得票の過半数に達していないにも拘らず、うち8回で政権を握ってきた。
野党に投じた半数ほどの票は死に票になるなど、こうした「民意」の姿を自覚しつつ、自民党主力の政権は「国論二分の政策」を強行せず、寛容な政治に取り組まなければならない。
<内政>
*当初予算を振り返る 高市首相の「責任ある積極財政」という過去最大の一般会計122兆3092億円の予算は、国会審議の時間は大きく減らされながらも成立した。首相出席の集中審議の時間は計9時間42分だけ、石破首相の2025年は約39時間、岸田首相の24年は約29時間に比べて、極度に短い。審議が長ければ、それだけ有権者にこの1年の財政、つまり国民生活への影響などを知らせることになるが、「数の力」で押し切る政権の前には、少数野党には手も足も出せない。
高市圧勝政権下では、少数野党の質問が冴えないうえ、一方通行的に押し切られ、有権者に問題点も伝えきれない。要は、国民置き去りのような予算審議になったのだ。
しかも、旧立憲と旧公明の中道改革連合は、にわか作りの新党のうえ、態勢も整わず、党人事もやっとの出来合いで、審議の準備も十分とはいかなかった。
*後半国会の課題 右傾の高市政権下では、軍事増強の政策が多く取り上げられる。国論2分の政策も多く、その影響は日本の将来に大きく関わってこよう。そうした関係の法案を軸に触れておこう。
①国家情報関係 まずは、「国家情報会議」創設法案で、外務、防衛、警察などの政府機関が情報を持ち寄り、 一体的に情報収集・分析(いわゆるインテリジェンス機能)を強化するとの狙いがある。その関連で、「国家情報局」、「対外情報庁」、防諜機能の強化策などの新設、さらには「スパイ防止法」といった関連法案も出てくるようだ。こうした広範な措置は国民生活を拘束し、各種の自由を狭める可能性はないか、といった懸念も出ている。高市首相の言う「国論2分の政策」のひとつであり、具体的でかつ十分な審議が求められる。
②核持ち込みなど安保3文書改定 岸田政権時の2022年末に安全保障関連3文書が示され、その内容は公表されたものの、国会での論議も不十分なまま、その具体的・軍事的な対応策が急ピッチで進められている。これをさらに強化改定して、防衛という名の軍事体制強化が進められようとしている。4月下旬には、外交、安全保障などの専門家による「安保有識者会議」が設置される。
トランプ米大統領は各国に軍事(防衛)費の大幅増額を求めており、それに応える対応でもある。この改定で、国内総生産(GDP)比2%超に向けた増額が予定され、この財源も論議の軸になる。来年度予算案に計上するため、8月末までに結論を得る。
また、経済安保、サイバー、宇宙分野などの専門家らを人選中で、4月下旬には「安保有識者会議」が設置される。自民党の安全保障調査会はすでに動き、4月には提言をまとめる。
自民党、維新の会、参政党など国会内では、現在国是になっている非核3原則(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)をめぐって、核持ち込みを許容する「核共有」論が高まっており、この見直しも課題になることもありそうだ。
この文書策定時の22年には、審議のありようが十分に公開されず、そのありようが問題視されたが、今回は慎重論が多少とも論議されるか、注視される。
多数を占める自民党などに対して、非核3原則を守るべきだとの野党がどのような言動をとるか、「国論2分の政策」として高市政権がどのように取り組むか、大きな論点になろう。将来に禍根を残す大きな問題である。
相手国の敵基地攻撃能力(反撃能力)という戦乱の引き金にもなる軍事強化の問題も、大前提として進められているが、こうした将来に波乱を広げる対応の可否も熟議が必要だ。
③武器輸出問題 政府による武器輸出の解禁の方針が進められ、この国会で従来の「禁輸」方針(1976年三木政権)、「日本の安全保障に資する5類型<救難・輸送・警戒・監視・掃海>のみ承認」(2014年安倍政権)、そして今度は戦闘目的の武器輸出までも拡大されようとする。しかも、武器輸出によって防衛産業ばかりでなく、日本の経済全体を強化するのだという。
宮澤喜一外相は武器輸出をめぐって「兵器の輸出をして金を稼ぐほど落ちぶれてはいない。もう少し高い理想を持った国として今後も続けていくべきだ」(1976年)と述べてきた。だが、高市首相は「今は、日本を取り巻く情勢が非常に厳しい。我が国一国だけではなく、同志国を増やして一緒に地域の安定を実現しなければいけない時代になっている。もう時代が変わったと感じる」と述べた。あるべき理想を軽く捨てる時代か。戦争放棄の憲法下で外交よりも兵器を、というのか。防衛産業など軍事化に傾く政権である。同志国の一方で、対立する国を刺激し、緊張を高める現実を見ようとしない。50年を経て、自民党もすっかり変わった。
日本の殺傷兵器が他国の兵士、国民の命を奪う。戦争放棄、平和を求めた憲法の原点を放棄していいのか。
日本の軍事化の進行は近年著しく、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると、日本の兵器輸入量は2016-20年と21-25年を比較すると、76%増加し、世界11位から6位にまで上がっている。今後は日本から兵器輸出の上昇が注目されることになりそうだ。
④国旗損壊罪 刑法92条に「外国国章損壊等の罪」はあるが、日章旗についての規定はない。自民党はかねて刑法に損壊、除去、汚染などの罰則規定を盛り込むよう主張、ただ小渕首相が立法化の必要を認めない発言をしたり、公明党、自民党の一部が「過度の規制を招く」と慎重論を主張するなど対立もあった。だが、高市首相が維新の会との連立に当たって立法化で一致。また参政党が法改正案を参院に提出するなど急浮上している。「数の力」で保守系の支持で具体化しそうだ。
⑤憲法改定 自民党としては衆院議席の3分の2を抑え、この機に念願の憲法の改定に持ち込みたいところだ。衆院では、今国会初の憲法審査会が開かれ、自民党は改憲の条文案を作る条文起草委員会の設置を打ち出した。改定する条項も固まらないうちに、気ばかり急くのか。「数」に頼んで、強行して改憲を、という姿勢で、国民の納得は得られるのか。
9条改正を軸に論議が高まりそうだが、国会が独走する前に、国民的な論議が高まることが重要だ。まずは、突発事態など選挙執行が不能の場合、議員任期を延長する案件など緊急事態の対応が問題になるようだが、このような部分をいじる前に、現行憲法がどのように日本社会に生かされているかという高所の論議が必要だろう。
旧立憲はベテラン議員の落選が相次ぎ、人材払底のなかでどこまで対応できるか。落選組の護憲メンバーのサポートがどこまで稼働するか。審査会長の古屋圭司、筆頭幹事の新藤義孝は高市首相の保守派側近でもあり、立憲・公明の改憲慎重派の動向が注目される。もっとも、参院は野党がかろうじて過半数を握っており、改憲自体の目標達成はなお遠いようだ。
*国会審議に注目されるその他の重要法案や課題
・消費税ゼロ化問題 社会保障国民会議で審議中の食料品の消費税を一定期間徴収しないための中間報告による法案が6月に提出される見通し。
・日本成長戦略の具体化 全閣僚による日本成長戦略本部が、高市首相の掲げた「責任ある積極財政」「危機管理投資」 の具体化を目指す。17の成長分野(AI・半導体、造船、バイオテクノロジー、航空宇宙、マテリアルなど)と8つの分野横断課題(新技術立国、競争力強化、人材育成、労働市場改革、サイバーセキュリテイなど)に取り組む。もっともらしい課題ながら、どこまで具体策が打てるか。岸田、石破政権なども美辞麗句の構想を示したが、実績は見えていない。勢い込む高市構想は果たしてどうなるか。過去の経験からは期待は難しい。
・副首都構想 国の機能の東京一極集中の現状に対して、災害やテロなどの事態に対処できるよう、大阪が副首都の機能をバックアップしよう、という構想。大阪は2回の住民投票で否決されたことで、東京都の23区制を必須とせず、省庁や関係機関などの首都機能の分散を狙う。高市首相と維新の会が連立に踏み切ったことで、この構想の実現を目指す。福岡市、北九州両市も参入を期待する。
・衆院議員定数削減 これも自民・維新の連立の条件として、維新が強く要望。ただ自民党内には反発も強い。すでに両党は、総定数465のうち小選挙区で25、比例制で20の定数削減の案を国会に提出、しかも1年以内に結論を出し、結論が出なければ自動的に1割の定数を削減する。だが、民主主義の原点である議員定数を2党の方針で削減できるかとの問題がある。
さらに、定数は他国に比べても多くはなく、削減の妥当な理由が説明しきれず、党利党略による強硬策が取れるか、との問題がある。削減となれば選挙区の区割りの変更が生じ、1票の格差是正問題もあり、さらに11回行われた小選挙区比例代表並立制選挙自体にひずみが生じており、ほかにも種々の批判もあり、この定数削減の実行は容易ではない。
・その他の課題 皇位継承問題や女性皇族の身分問題などの皇室関係、夫婦別姓をめぐる問題、米国・イラン抗争によるガソリン補助金の扱い、野党提出の企業・団体献金規制問題など、重要な問題が山積している。
<外交>
*翻弄されるトランプ支配 関税問題で世界を揺るがせたトランプ米大統領は、ウクライナ・ロシア戦争の仲裁に乗り出したものの休戦すら実らないまま。ベネズエラを攻略し大統領を拉致までする。イスラエルとともにイランへ突然の爆撃を開始、ハメネイ師らイラン首脳部の約40人を殺戮排除の成果を誇った。こうした波及は全世界の経済活動に影響し、またその戦乱で市民たちに多くの犠牲者を出す。
西半球の支配者たらんとし、メキシコ、キューバへの攻撃をほのめかし、グリーンランド獲得を図るなど、国際的秩序を破壊する言動を重ねる。国連の機能を面罵し、WHO(世界保健機関)から脱退、さらに国連人口機関、国連大学、国連気候変動枠組み条約など66の国際機関からの脱退を言い、NATO (北大西洋条約機構)をけなし脱退に言及する。また、ロシア船籍の石油タンカーを拿捕する。
こうした言動が大手を振って許容されるのは、ただ「大国」というだけのことで、各国とも眉をひそめ、尊敬の念はない。「民主主義体制下のヒトラー」の振る舞いとでもいうしかない。自ら「ノーベル平和賞受賞」を名乗り出る狂気に驚く。
*高市首相は褒めた 高市首相は就任早々、各国首脳に次々と会えるという幸運に恵まれた。3月19日、訪米の高市首相はこのような行状のトランプに会うや否や、ハグを交わした。肩に手を回し、目を閉じて全身を投げ出す姿態は、まさに恋人にでも抱きつく様相。米国優位の日米同盟を象徴するかの、目を覆いたくなる光景だった。
彼女一流のオベッカなのか、トランプへの挨拶は「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」というもの。外交辞令とはいえ、イラン攻撃下での会談で「平和と繁栄」を讃えていいものか。
出発前、トランプの期待に応える手土産に、イランのホルムズ海峡に日本船(自衛艦)を繰り出す発言まで用意しかかったものの、官邸内部でブレーキをかけられたことで、「せめてものサービス」とでも思って過度のハグに至ったものか。毎日新聞のコラムは、ふたりは「大衆人気、ハッタリ屋、自分勝手、議会嫌い、経済最優先、軍事力信奉。気が合うわけだ。」と書いた。
首脳会談の結果は、重荷を負わされることなく、スルー出来たよう。産油国イランとの関係を壊さずに済んだことで、その後ペゼシュキアン大統領との電話会談(4月8日)が実現した。
*響く中国関係 高市首相就任後に、対中国政策の「台湾有事」について「(中国が台湾を支配下に置く目的で台湾に対して戦艦による武力攻撃を行った場合)明らかに日本の存立危機事態になりうる」と答弁(衆院予算委・2025年11月7日)。
この答弁に中国側は硬化し、以来日中関係は広範囲に悪化、打開の糸口はつかめていない。外交関係をはじめ、物流や交易などの経済交流、民間人の往来、芸能など文化交流などまでブレーキがかかったまま。以来、中国側の厳しい姿勢は続く。
中央情報局(CIA)、連邦捜査局(FBI)などを束ねる米国国家情報長官室公表の報告書では、「重みがある」「現職首相の発言として重大な転換を示すもの」とした。報告書によると、中国は台湾戦略について、必要なら武力統一すると「脅している」が、「可能なら武力を使わずに統一を実現したいと望んでいる」と分析している(朝日新聞・2026年3月20日)。
外務省は26年度「外交青書」の中国に関する表現を、前年の「もっとも重要な二国間関係の一つ」との表現を「重要な隣国」と後退させた。高市発言は、用意された国会答弁の内容を、彼女が勝手に自己流に変えて発言したとわかりながら、外務省は本筋の方を後退させた。中国が日本にとって最重要だという現実を、あえて後退させる。このような小細工で中国と交流ができるわけがない。茂木外相もおかしいが、外務官僚の姿勢も愚かしい。隣国との情けない外交姿勢である。これでまた、日中関係は進展しなくなるだろう。
この打開は難しく、こうした愚かとも言うべき日中関係が長く続くことはイラン、北朝鮮などの関係とも絡み、影響は大きい。輸出入への影響も大きく、国民生活などにもじわっと影響している。もともと緊張があり、隣国として交流は重要で、この不用意な発言の波紋は大きく、打開策の責任は首相自身にある。
(4月12日時点。元朝日新聞政治部長)
(2026.4.20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ/掲載号トップ/直前のページへ戻る/ページのトップ/バックナンバー/ 執筆者一覧