■【書評・感想・想い出】

『回想のライブラリー』 祥月に、七十年をともに辿る

加藤 真希子

 『回想のライブラリー』の連載は当サイトの前身であるメールマガジン「オルタ」のサイトで2005年7月に始まった。その年の春に著者の初岡昌一郎氏が父・加藤宣幸(故人)を当時の勤務地、姫路へ花見に誘ったことがきっかけだ。この年の春のことはよく記憶している。父と私の人生が少し近づいた頃だった。

 加藤宣幸がメールマガジン「オルタ」を始めたのがその前年2004年3月。古い友人の久保田忠夫氏(故人)の遺志を次ぐ形で富田昌宏氏(故人)と創刊した。印刷物はお金がかかるからと、そのころ流行りだしたメールマガジンをと勧めたのは私だった。ブッシュJr.が大量破壊兵器保有を口実に始めたイラク侵攻(2003年3月20日)を忘れまい、と3月20日を創刊日に、毎月20日を発信日に決めた。慣れないパソコンに終始向きあい、編集の助言を工藤邦彦氏(故人)にもらいながら、20日の発行を守って一年たったころだった。

 連載の始まりは、姫路の大学の初岡氏の机の上にあった「『韓国と日本国』(朝日新聞社、2004年)」だったという(P29)。この「書評」を父に依頼されたがそのままに放置したために、「苦し紛れに」「非書評的形式によるこのコーナーを思いついた」という。この偶然から、読んだ書物を手がかりに時代と場所を自在に回想するというユニークな『回想のライブラリー』が誕生した。
 2007年6月号まで20回連載していただいた。終了の理由は、「過去が現在に接近するにつれて、書き方がぎこちなくなり、筆が自由に進まなくなった」ためとメールマガジン「オルタ」のサイトの最終回に記載があった。https://www.alter-magazine.jp/index.php?go=pXmdbk

 今回、『回想のライブラリー』をあらためて読み返した。初岡氏と加藤宣幸の、約70年前の出会い、まだ国際基督教大学の学生だった初岡さんの「遠慮のない行動派」ぶり、で、父を「案内し」て、佐藤昇氏、松下圭一氏と会いに行ったときのことなどが語られていた。加藤のメールマガジン「オルタ」編集後記集Ⅰを読み返すと、初岡氏のことを「『畏友』というより『ヨーロッパ社会主義運動理論の先達』である」(編集後記1.P71‗2007年6月20日)と書いてある。出会った当初、社会党という政党の運動の方向性を模索する時代に、行動派の初岡氏が、理論を広げ深めると同時に、人を結び、運動の土壌を耕した方であることを、深く理解するにいたった。

 初岡氏が、1960年代半ば以降、労働運動等やPTTI(国際郵便電信電話労連)に従事した後、姫路で教鞭を執られていた。その頃、父は、小さな出版社で経営に四苦八苦していた。この数十年、二人の「日常的な接触は希薄」だったと、回想されている(メールマガジン「オルタ広場」加藤宣幸追悼 2018.04.20号)。 

 2006年に初岡氏が姫路から横浜へもどられてから、再び交流が活発になった。『回想のライブラリー』がメールマガジン「オルタ」の連載の基軸となると同時に、氏の紹介で、彼の多くの友人・知人たちが、「オルタ」に寄稿してくださることになり、充実したメルマガになっていった。今も毎月『宗教・民族から見た同時代世界』をご寄稿いただいている荒木重雄氏もその一人だ。そしてその輪は広がっている。初岡さんには、連載終了後も、『海外論潮短評(または海外論調)』を10年以上ご寄稿いただいた。メルマガでの交流にとどまらず、研究会や「安東自由大学」をはじめとした国内外への旅、など、いつも、「はっちゃん」(父は初岡氏のことを親しみをこめてそう呼んでいた)と一緒で、知的な刺激をうけ、時に美味しいものに舌鼓を打ちながら、晩年も充実した日々を過ごさせていただいた。

 今回、『回想のライブラリー』の感想を書くようと依頼されたことをきっかけに、2024年に亡くなられた初岡氏の「盟友」仲井富さんの『仲井 富 遺稿・回想 未知との出会い 住民運動のネットワークをゆく』、加藤宣幸の『メールマガジン「オルタ」編集後記集1,2』のページもめくりなおしてみた。70年前のそれぞれの青春時代からの話も多層的につながった。30代の父の姿とその時代を垣間見たと同時に、晩年の約10余年を振り返ることにもなった。これらすべてを、「オルタ出版室」で書籍化できたことがとてもうれしい。2月は、15日が仲井富氏の、17日は加藤宣幸の祥月命日で、3冊の書籍を行ききしながら、私も長い旅路を楽しませていただいた。出会いをつなぎ、長い間、父の人生を豊かにしてくださって心より感謝しています。ありがとうございます。

 岡山の山間の村に生まれ、「お祖父さんの家の二階の書庫と書斎」から始まった、知的な冒険心に満ちた少年の旅は、同時代の方々に支えられながら、さらに多くの方に、知的な刺激を与え、人の輪を広げてきた。それはさらに、世代を広げてつながっている。今回、書籍の制作に携わった的井圭さんは、仲井富さんの娘であり、西風勲さんの娘さん等、次の世代へつながる場も準備していただいた。

 もっと早くから、初岡さんが実践されてきたように「常に人間関係を大事」にしてくれば、と悔やむことばかりだ。ただ。同時に、このメールマガジン「オルタ広場」という形で、今も様々な縁をつないでいただいていることに、改めて心より感謝を申し上げたい。

2月17日。加藤宣幸の祥月命日にて  加藤真希子

(2026.02.20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧