【書評】回想のライブラリーを読んで
『回想のライブラリー』読後の感想―好奇心をそそられる刺激
何といっても本書の特徴の一つは、著者が出会った人と、読んだ書物、そして内外でのロケーション、さらに時々のエピソードが加わって織り成すドラマチックなエッセーにある。まるで映画や演劇でも観ているのかと思させられてしまう。そして好奇心をそそられ刺激される。
本書はおよそ20年前に、当『オルタ広場』の前身『オルタ』に連載されたものを18のエッセーに再構成したものである。著者は本書を「自分史」とも語っているとおり、時代も戦争時代の幼児期から学生時代を、そして国内、国際にわたる労働組合運動を経て大学教授を定年退職するおよそ90年の人生の中をピックアップして書き綴ったものである。
取りあげたテーマも範囲も、学生・青年時代の平和活動、仕事としての労働運動・ILO活動、大学教授として教育研究活動、ボランティア活動としてのソーシャル・アジア・フォーラムや「安東自由大学」のリーダーとして実に多様である。しかもいずれの活動・運動とも多彩な人脈とのコラボレーションにあるところが大きな特色となっている。その活動はいつも二足、三足の草鞋を履いてのことである。
特徴の二つは、本書のバックボーンには①平和・非暴力、②民主主義・思想的政治的多元性、③人権・自由・平等・公正・倫理、④歴史に学ぶ、⑤キリスト教――が貫かれているところにある。著者は、内村鑑三やE・H・カーら偉大な先人から「人類普遍の思想」を学び、思考を重ねながら自らの思想として語っているのである。
そんな奥行きが深くて広い本書の感想を紹介するのは私の能力を超えることになる。そこでここからは私の関心事の一つでもある「社会党の路線論争」にふれた部分の感想について述べてみたい。
著書には社会党について直接ふれた箇所は極少ない。しかしよく読むと社会党史を検証していく上で、いくつもの重要な指摘の記述があることに気づかせてくれる。
1950年代の学生時代にすでに社会党員となっていた著者からは、社会党が目指すべき社会像が「社会主義」ではなく、「社会民主主義」であると確信していたことがわかる。以後90年代まで続くことになる社会党改革路線論争の核心が常にそこにあったことをみれば、著者の卓越した先見性に私は深い敬意と共感を覚える。それだけに60年代初頭に江田三郎書記長によって提起された構造改革路線論争が社会党改革のチャンスを逃すことになったことは返す返すも残念だった。
著者は社会党の青年活動組織である社青同結成に自らも参画し、構造改革路線を具体化する一つとして社青同の「大衆化路線」への転換を提起奮闘するが受け入れられず、結局その組織活動を去る時の心境を語っている。
(その2年後の65年、私事になるが私は「江田ビジョン」に共感して社会党機関紙局『社会新報』に採用された一人である。間もなく佐々木派・社会主義協会派によって『社会新報』がきびしく批判されるところとなった。70年代初頭には編集体制は大きく変わり、やがて私は配置転換を希望した。)
同著に戻る。自ら構革派として活動してきた著者は「この集会以後、江田派の会合に二度と出ることはなかった」と回想する。その集会とは67年の夏、熱海で開催された江田派の全国集会である。同年元旦に毎日新聞は、江田派文書が「宝樹文彦論文による労働戦線統一論を『右翼的』と批判」と報じた。著者はこの集会で「誰に頼まれたわけでもなかった」が、「江田派は宝樹批判を撤回すべきだ」と再三発言して迫った。しかし会場からの反応もなく、撤回もされなかった、と書きとどめている。
著者と私は5歳の年齢差はあるが、同時代を同じ社会党に関わるという体験をしているだけに、当時の社会党における雰囲気や問題なり、課題を行間の中に読み解けるという面もあって、私にとって本書は手放せない一冊となっている。
私も遅れること60年代末の頃から江田派と距離をとるようになって、72年頃には党内若手の議員と親しくなって江田派と離れ、「新しい流れの会」で活動するようになっている。当時の党内は何事につけても「左派」に位置することが絶対視されて、「右派」を嫌う空気が充満する状況にあった。江田派内にもまたそういう雰囲気があった。
すでに約束の字数を大幅に超えてしまった。社会党内のことを感想にしたので、本書への興味を削ぐことになったのではと心配している。そうだとすればその責任はすべて「感想」を書いた浜谷にあるのであって、本書や著者にその責任は全くないことを付記しておきたい。
本書は冒頭でもふれたとおり、気軽に、楽しく読める「エッセー集」である。とりわけ内外で今日大きな問題・課題となっている「平和や人権」、「労働者の基本的権利」など、戦後民主主義の下で奮闘した著者の躍動する姿がわかりやすく語られている。読めばエネルギーをたくさんもらえる本である。
(2026.02.20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ/掲載号トップ/直前のページへ戻る/ページのトップ/バックナンバー/ 執筆者一覧