アフリカ大湖地域の雑草たち(63)

ケニアのデータセンター信頼の蓄積

大賀 敏子

デジタル・ゴールド・ラッシュ

 1886年、南アフリカのヨハネスブルグ近郊で豊富な金鉱脈が発見され、ゴールド・ラッシュが始まった。これと同じように、いまアフリカ大陸はデジタル・ゴールド・ラッシュにある*1。DX(デジタル・トランスフォーメーション)関連分野の新施策、大型プロジェクト、外国企業進出の話題に事欠かない。
 そんな中、日本の大和ハウスグループ・株式会社フジタが、ケニアでデータセンターを建設・運営しようとしている。先般、フィージビリティ・スタディ(経済産業省令和6年度補正「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」採択事業)を終えたところだ。
 データセンターは、海底ケーブル、光ファイバー網、携帯電話網、衛星通信等とともに、デジタル経済を支える基盤だ。現在、推定で、アフリカ38ヵ国に計220~230のデータセンターがあるが、南ア、ナイジェリア、エジプト、そしてケニアに偏在している*2。

国境を越えて
 The Kenya National Digital Master Plan 2022-2032は現行の政策指針だ。ケニヤッタ大統領(2022年当時)は、この計画の冒頭で、それ以前の施策を振り返って、全国でネットワーク展開が進み、とりわけエルドレット―ナダパル間730㎞の光ファイバー敷設が大きな成果だったと強調した*3。
 エルドレットは主要都市だが、さて、ナダパルはどこだったか、地図を調べてしまった―隣国南スーダンとの国境地点だ。このエリアの国境線には、両国間で解釈の違いがある。それでも、首都ジュバへとつながる越境回廊が設けられた。デジタルで人々をつなぐことは、国際協力の可能性を大きく広げる。

地域の平和と安定
 東アフリカ共同体でも、多くの加盟国がデジタル施策に傾注しデータセンター建設に取り組んでいる。国ごとのデータセンター数*4を見ると、ケニア19を筆頭に、タンザニア11、コンゴ民主共和国4、ウガンダ4、ルワンダ3、ソマリア1、ブルンジ0、南スーダン0である。
 どこのデータセンターを使うか、つまり、自国に置くのか、域内隣国か、それともヨーロッパや北米の施設に頼るのかは、国のデジタル主権、安全保障、国際競争力に直結する課題だ。ソマリアには1とあるが、場所はソマリランド内ベルベラ港―国連をはじめ一般にソマリア連邦共和国の一部とされているが、独立主張がある―で、モガディシュを首都とする連邦共和国のニーズを満たしているかどうかは疑わしい。コンゴ(民)の4つのデータセンターはいずれも首都キンシャサにあり、東部地域―紛争、感染症流行など、国際的連携がより緊急なエリア―のためには、東アフリカからのリンクも便利だ。
 こうしてケニアのデジタル・インフラは、地域の平和と安定にもつながっていく。画像の説明
グローバルネット430号(2026年9月号)より

データを預ける信頼
 2019年策定の「ケニアICTポリシー」は、「常時オンかつ高速の無線インターネットを国全体で利用できるように」することを主要な目標に掲げた。「常時オン」は当たり前のことのように思われるかもしれないが、実際はなかなか難しい。当時も、そして実は今も、たまに。
 ケニアはDXにまい進している。病院、学校、租税、不動産登記、車両登録・運転免許、出入国管理など、公共サービスのほぼすべてに及ぶ。銀行・決済、商取引、物流、医療、教育など、民間の経済活動も急速にデジタル化している。こうして国の社会経済と国民生活を支えるのだから、ぜったいにダウンしないシステム、より正確には、何かの障害が起きたとしても、サービスは止まらない仕組みを確保するのは死活問題だ。
 確かにデータは身近に、自国の信頼できる施設に置いておきたい。しかし、安心と信頼が確保されなければ、やはり海外の大手クラウド事業者に預けた方が無難ではないか、となってしまう。かくてデータセンターは、単にサーバーを置く施設ではない。利用者に「ここなら大事なデータを安心して預けられる」という信頼を与えることができて初めて真価が発揮される。
 電力と冷却水の確保、海底ケーブル・光ファイバーとの接続、災害リスク管理、機器の安定稼働の確認、人材確保、テロ・治安対策、さらに複数の通信事業者とのニュートラルな接続……どれ一つ欠けても、国際規格を満たし、かつ、利用者から信頼されるデータセンターにはならない。

庶民の気持ち
 利用者からすれば、データ使用料やデバイスが高価では、インターネットは高嶺の花だ。ケニア人口のおよそ3分の1が、ネットワーク圏内に住んでいるにもかかわらず、モバイル・インターネットを利用していないという調査結果もある。理由は、価格が高すぎる、使い方がわからない、自分には関係ない、などだ*5。
 政府も、安価なインターネットと手頃な価格の国産デバイスの普及を目指し*6、スマホの国内組み立てを応援している。データセンター整備も、より多くの人々がインターネットを身近に感じて活用することを後押しし、長期的にはデータ利用環境の改善に資することが期待される。

安心できる施設を
 今回のフジタの動きは先立つ何年もの準備に続くものだ。「ケニア共和国における環境配慮型セキュアなデータセンター事業案件」は、第8回アフリカ開発会議(2022年、チュニス)の成果資料にも明示されている*7。さらに、経済産業省通商戦略2026では、ケニアの有望分野に「デジタル・サイバーセキュリティ、AI・半導体」があり、これにも合致している*8。
 先般、ケニアを訪れた同社チームは、現地の諸条件―電力、インフラ、気候など―でのエコフレンドリーな設備の在り方を検討し、「安心できるデータセンターをつくる」と意気込みを見せた。

そこにあることを忘れられる
 「信頼とセキュリティ」はケニア2025年DPI (Digital Public Infrastructure) Roadmapで掲げる5本柱の一つでもある*9。データセンターは、人々が安心してデータを任せ、社会を動かしていくための「信頼」を蓄積する場所だ。
 これまでもケニアには多くの日本人がやって来て仕事をしてきた。政府主導の経済協力、市民レベルのネットワーク、大小さまざまな投資など、いろいろな貢献をしてきた。ただし、いつもいつも「日本のおかげだ」と感謝され続けてきた、というわけではないだろう。むしろ、そこにあることを誰も意識しなくなってしまい、それでも、経済が回り人々の生活は続いていく、そんな当たり前を一つ一つ届けてきた。そんな積み重ねの結果が「信頼」だ。
 ケニアのデジタル・インフラは、やがてカンパラ、ドドマ、キガリ、ブジュンブラ、ジュバ、ゴマ、ブカブ、モガディシュへとつながっていく。病院が患者を助け、学校で子どもたちが学び、送金がきちんと届き、ビジネスが続いていく―そこにあることを誰も思い出さないほど、当たり前に。それが実現して初めて、データセンターは本当に「安心できるインフラ」になったといえるのではないだろうか。

ナイロビ在住

脚注
*1 Africa Data Centres Association; The Economic Report 2026
*2 ADCA、2026年2月。商業コロケーション施設のほか企業内施設や政府専用施設もあるので、総数把握は難しい。
*3  世銀East Africa Regional Transport, Trade and Development Facilitation Project (EARTTDFP)
*4 DataCenterMap(主に商業コロケーション施設を掲載、https://www.datacentermap.com/)による(執筆時)。
*5 GSMA、2023年
*6 2019年ICTポリシー
*7 JETRO、2022年8月27日、TICAD8 MOU記念式典参加企業・団体及びMOU一覧
*8 経済産業省、2026年6月30日、通商戦略2026―アフリカ地域戦略の方向性
*9 Ministry of Information and Communications, and Digital Economy, September 2025

(2026.9.20)
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