【北から南から】中国・深セン便り

中国最新ペテン手法情報 2014

佐藤 美和子

 私の友人に、いつも新しいお役立ち情報や、庶民にも関係ありそうな法改正情報、時には時事ネタを絡めたチャイニーズジョークなどを教えてくれる人がいます。ニヤリと笑えるジョーク集などは単に面白いだけでなく、それによって最近の社会情勢や流行語を知ることもあります。

 それらの中で、私が最もありがたいと思うのは、新種の詐欺など犯罪手口に関する情報です。万が一トラブルに巻き込まれたら、私たち中国在住外国人は、場合によっては中国人が被害に遭うよりも、もっと厄介なことになる恐れがあります。しかしそういった詐欺の手口は、予め知識さえあれば、トラブルの回避だってたやすいというもの。長年中国に住んでいますが、私がほとんど危険らしい危険に遭わずに済んでいるのは、友人に恵まれているからだなぁとつくづく思います。

 その友人から、また新規ペテン手法情報を入手しました。これがですね、よくまぁそんなことを考えつくものだと感心するほど手が込んでいたり、人の心理を上手く突いたアイデア(?)だったりがスゴイので、いくつかご紹介しようと思います。

●手口(その一) 宅配便編

 ある宅配便業者から、電話がかかってきました。曰く、このところの悪天候や高湿度のせいで、送り状に書かれた住所氏名が滲んで読めず、かろうじて電話番号だけが判読できた、とのこと。問われるままに住所を教え、その後その宅配便屋が来たので受領サインをして荷物を受け取りました。

 ところがこの荷物、あけてビックリ中身は違法な偽タバコや偽造酒だったのです。そして再び電話がかかってきて、私の書いた受領サインをネタに、口止め料を振り込めと脅されました。

→ 中国でも、ネットショッピングを楽しむ人が増えています。淘宝網(タオバオワン)というオンラインショッピングサイトでは、取り扱いのないものはないのではと思うくらいすごいですし、日本のグルーポンのような、団購という割引クーポン共同購入システムも人気です。安く買い物ができる。店に出掛ける手間が省ける。または自宅や勤務先に送ってくれて便利なので、多くの人が利用しています。つまり、みんなが日常的に宅配便の届く生活をしているため、荷物が届けば反射的にぱぱっとサインして、よく確認もせずに受け取っちゃうんですよね〜。

 ちなみに、もし口止め料の支払いを拒否すれば、取立て屋だとかマフィアといった怖ーい人がドス持参で訪問してくるそうで、実際この手口で被害にあった人は少なくないとのことです。

●手口(その二) キーホルダープレゼント編

 ガソリンスタンド(もしくは駐車場)で声をかけてきたセールスマンが、車の鍵用のキーホルダーをくれました。結局何も買わされなかったし、綺麗なキーホルダーがただで貰えてラッキーと喜んでいたら、実はこれ、私の所在地を追跡できる、GPSが仕込まれたものだったのです。

→ 具体的な被害内容は分かりませんが、GPSを使ってパソコンなどで追跡されたら、その人の生活範囲や日常の行動が全部知られてしまいます。住んでいる所や勤務先といった個人情報だって簡単に割り出されてしまいますし、ひと気のない所にいるときを狙って襲われるとか、何かやましい行動をネタに強請られたり、ありそうな被害は色々考えられますよね。なかには追跡情報を配偶者に売られたら困る!なんて人とか、居そうだなぁ……。

●手口(その三) 電話詐欺

 中国移動通信(チャイナモバイル)や中国聯通(チャイナユニコム)、中国電信(チャイナテレコム)といった通信キャリアから、あなたのご利用の回線を検査するという名目で電話を受けた場合、相手が♯キー等どんなキーをプッシュしてくださいと要求してきても、絶対に従わず、速やかにその電話を切りましょう。なぜならその電話は、通信キャリアを騙った詐欺企業からのものだからです。もし言われたとおりに何かキーをプッシュしてしまったら、相手はあなたの携帯電話に入っているSIMカード(携帯やスマートフォンに入っている、通話やデータ通信をするためのICカードのこと)とリンクが出来るので、あなたの通話料を使って通話し放題になってしまいます。しかも相手はあなたの通話を盗聴したり、送受信メッセージを読むことだって可能、つまりあなたのSIMカードの複製を作られてしまうということなのです。

→ 中国の携帯番号はその番号から、利用通信キャリアおよびキャリアと契約したエリアが市レベルまで判別できる仕組みになっています。ですので、詐欺電話をかけてくる相手は、その番号の持ち主が契約している通信キャリアを騙ることは簡単です。
 しかも、第94号(2011.10.20) 中国携帯詐欺事件でご紹介したように、該当通信キャリアのカスタマーサービスセンターの電話番号を相手の携帯ディスプレイに表示させることだって可能なのですよ。電話番号の複製技術を使うことによって、例えば通話相手の携帯ディスプレイに“110”番と表示させ、警察からかかってきた電話だと相手に思わせることができるというわけですね。第94号でご紹介したときは、SIMの複製方法までは分からなかったのですが、なるほど、こういう仕組みだったのか……。

 私の携帯にも、利用しているチャイナユニコムから、新規サービスのご案内やセールス、アンケートの電話がよくかかってきます。面倒くさいので、私は「ワタシ、チュゴクゴ、ワッカリマセーン!」と中国語で言って、切っちゃってます。日本でだったら、天ぷら揚げてる最中だから〜!と言って切ればいいですが、中国では何を揚げてると言えばいいのか分かりませんので(笑)。もし本物のセールスの人だったら申し訳ないですが、なにかと物騒なご時勢ですし、これからもその方針を貫かせていただこうと思います。

●手口(その四) 児童誘拐事件

 これは、上海で実際に起こった児童誘拐未遂事件の概容です。
 とある夫婦が子供を連れて、植物園に行きました。夫が一人でトイレに行った隙に、シャッターを押してほしいと奥さんに声をかけてきた人がいました。しかし渡されたカメラ、なぜか上手く写真が撮れないのです。何度か試しているうちに、意識が朦朧としてきたのに気づいた奥さん、すぐさま我が子をがっちり抱きかかえ、夫の携帯にコールしました。このケースでは、奥さんの冷静さと機転のお陰で最悪の結果は免れたのですが、彼女はその後20分間も意識を失ったままだったとか。

 一人で子供を連れている保護者を選んではシャッターを頼み、カメラに仕込んでいるであろう何らかの薬物によって保護者の意識を失わせ、その隙に子供を拉致するというこの事件、中国東北部の瀋陽では既に2件も発生しています。長年一人っ子政策をとってきた中国ですから、大事な大事な一人っ子を失うことがあれば、その家庭や一族が崩壊してしまいます。単独で子連れ外出するときは、他人には構わず、我が子を守ることだけに専念しましょう、とのことです。

 別件ですが、実は以前から、こんな話を何度か耳にしています。なんでも、日本人の母親は、子供にはジャンクフードや添加物入りの食品を食べさせず、自分たち親はともかく子供の食事だけでも無農薬で安全な食材を使うことを心がける人が多い。生まれたときから栄養バランスのとれた質の高い食事を与えられ、中国にやって来る前までは日本の汚染されていない環境の中で育ち、勉強しかさせない中国の学校教育とは違って適度に運動もしている日本人の子供はとても健康的で、つまり日本人の子供の内臓は状態がとても良い。病児への臓器移植を望む親には中国人の子供の内臓よりも高く売れるから、拉致するなら日本人という、恐ろしいものです。この話、単なる都市伝説だったらいいのですが……とにかくどこの国の人であっても、ここでは一瞬たりとも子供から目を離してはならないと思っていたほうが、良さそうです。

●手口(その五) 乗用車略奪編

 車で出かけたとき、出先では駐車場に車を停めますよね。用を済ませて車に戻り、さぁ帰ろう!というとき、あなたはバックミラー越しに、リアウィンドに何か紙切れがへばりついていることに気付きます。当然、あなたは車を降りて、紙切れを取り除きに行きますよね。
 しかしあなたが車の後部へ回った途端、物陰に潜んでいた輩が運転席に一瞬で乗り込み、あなたの目の前で愛車を奪い去ってしまうのです。もし犯人が極悪人であれば、わざわざバックしてあなたを轢いてから逃げるかも知れません。

 そしてあなたは、きっと財布や携帯が入ったかばんも座席に置きっぱなしだったことでしょう。ということは、犯人は、あなたの車、あなたの住所、あなたの現金、あなたのクレジットカードにキャッシュカード、そしてあなたの自宅や勤務先の鍵などを一気に手に入れることになるのです。

 そういう目に遭いたくなければ、もしリアウィンドに紙切れがくっついているのを見つけた場合、それが視界に大きく影響するほどでなければ、ほうっておきましょう。サイドミラーやバックミラーを駆使して、とりあえず出発するのです。少し移動したのち、改めて車を降りて、その憎たらしい紙くずを引っぺがせばいいのです。

→ 車関係では、私の知人が過去にこんな被害に遭っています。人出の多い休日に車を走らせていた彼、普段から車のドアをロックする習慣がありませんでした。渋滞にはまって動けなくなったとき、キョロキョロしながら車間を縫って歩いている人がおもむろに彼の助手席側のドアを開け、助手席にポンと置いていた彼のかばんを一瞬で掻っ攫っていったのです。渋滞中とはいえ、いつ車列が動き出すか分からない状態では車を乗り捨てて犯人を追いかけることもできず、一人だったので連れに運転を変わって貰うこともできず、ただ呆然とするしかなかったそうです。

 車に乗るとき、かばんは無造作に助手席に置いちゃう人がほとんどだと思います。日本では、事故の際にドアロックがかかっていたら救助が遅れるかも知れないという理由で、わざとロックしない人もいます。しかし海外では、やはりロックすることをオススメします。私はタクシーでも、ある程度の距離を乗るときは自分でロックするようにしています。

●手口(その六) 迷魂薬

 道端で、福建省産の鉄観音茶や干し大蒜といった食品を買わないか?と近づいてくる人がいます。その人は、品質を確かめるためにちょっとニオイを嗅いでみろと、茶葉や大蒜の入った容器を差し出してくるかも知れません。
 けれど、決して差し出されたもののニオイを嗅ごうとしてはいけません。それはまっとうな茶葉や食品などではなく、『迷魂薬』、つまり意識を失わせる吸気麻酔のような薬物を潜ませたシロモノなのです。あなたがニオイを嗅いで意識を失って倒れてしまったら、あとは身ぐるみはがす。強姦する。殺して奪った臓器を高く売りさばく……煮るも焼くも相手の意のままになってしまいますよ!

→ 昔の推理小説や漫画などに、クロロホルムを染み込ませたハンカチで相手の口を塞ぎ……なんてシーンがありました。しかし現実には、ありえない事なんだそうですね。

 ところが中国では、手口(その四)にもあるように、この手の事件がけっこうあるようなのですよ。昔の勤め先でも、給料日に故郷へ送金しようと出かけた従業員が、銀行ATMそばで自白薬なる『迷魂薬』を嗅がされ、意識が朦朧とする中で要求されるままに大人しくキャッシュカードや通帳を差し出し、しかもご丁寧に暗証番号まで教えてしまい、気付くと預貯金の全てを失っていたという事件がありました。そんな都合の良い薬物の存在にも驚きですが、日本では聞いたことがなく、しかし中国ではよく耳にするというのもまた不思議です。本当に自白薬なんてものがあるなら、(倫理的な問題はともかく)警察で犯罪者への尋問に使う国がありそうなものですが、そういう事例は聞いたことがありません。いったい、どんな成分の薬物なんでしょうね?

●手口(その七) もうひとつの乗用車略奪編

 夜間に一人で車を運転することのある女性は、特に要注意です。運転中、もし誰かがフロントガラスめがけて生卵を投げつけてきたとしても、絶対にウォッシャー液を出してワイパーで拭き取ろうなどとしてはいけません。なぜなら、生卵に水が混ざると途端に白濁化してしまい、逆に視界が最高92.5%も奪われることになるからです。そうして一旦停車せざるを得なくなったあなたは、乗用車強盗の餌食に……。

 もし生卵を投げつけられたら、そのまま車を明るくて人がいるところまで移動しましょう。安全なところに来てから、車を降りて卵を拭き取ればいいのです。

→ 私はこの手口は初めて耳にしたのですが、調べてみたら、パキスタンやアフリカなどでも使われている犯罪手口のようですね。フロントガラスを汚されたら、普通、反射的にワイパーを動かしてしまいますよねぇ。それに卵と水を混ぜたら白濁するなんてのも、知りませんでした。まったく、どこのどんな人がこんな手口を編み出したのやら……。

 (筆者は中国・深セン在住・日本語教師)


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