【コラム】
中国単信(78)

乳と茶とモンゴルの奶茶文化③ モンゴル族の「鍋茶」文化

趙 慶春ウリジバヤル常宏

 前回、添加する乳製品の種類が多く、しかも何回も添加するモンゴル族の「早茶」を紹介した。「早茶」はお茶と食品の融合により誕生した喫茶法で、モンゴル族「奶茶」文化の代表格だと言える。しかし、この「早茶」はモンゴル茶の最上級品ではない。モンゴル茶の王者とも言える「鍋茶」が存在するからである。
 「鍋茶」の名前は茶を作る時の道具である「鍋」に由来するが、その「鍋」は日本の土鍋に似ていたり、金属製のしゃぶしゃぶ用火鍋にそっくりだったりする。

 まず「鍋茶」の作り方を見てみよう。

(1)「奶茶」を作っておく。
 前々回、紹介した「奶茶」の作り方でまず「奶茶」を作っておく。

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(2)「鍋茶」専用の「鍋」に「干し牛肉、鮮奶豆腐、乾し奶豆腐、蒸し粟、奶皮子」などの食材を入れておく。とくに自然乾燥した「干し牛肉」は生の牛肉の6倍以上の価格で、モンゴル人にとって高級食材である。

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(3)(1)で準備した「奶茶」を多彩な食材が入った鍋に入れる。

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(4)「鍋茶」を卓上コンロなどにかけたままテーブルに出す。

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  (“鍋茶”は常に食卓の最中心に置かれる)

 「鍋茶」を食べる時、まず底の浅いお玉杓子を使って、多彩な食材が入っている茶の湯を各自の茶碗に入れる。そして、飲む時、さらに自分の好みでテーブルに用意されたほかの食品、たとえば牛肉、羊肉、乾奶豆腐、鮮奶豆腐、奶嚼克、炸果子などを選んで茶の湯に入れて飲む(食べる)。
 「鍋茶」には多彩な食材が入っていて、日本の鍋料理にも似ているが、直火で加熱しているので、しゃぶしゃぶの火鍋にそっくりである。でも「鍋茶」の特徴と言えば、やはりその「添加物」にある。

<その一>
 新鮮なミルクのほかチーズやバターなど乳加工製品も数種類ある。また、干し肉だけでなく、煮込んだ肉もある。一つの原材料にもかかわらず、異なる様態で供される飲食物はほかの料理ではあまり見ないだろう。

<その二>
 「鍋茶」のダシは「奶茶」である。ただ、喫茶文化の立場から見れば、この「奶茶」を作る時、お茶(厳密に言えば、お茶の浸出液)にミルクなどを入れる。これは一回目の「添加」である。次に鍋の中に「乾し牛肉、鮮奶豆腐、乾し奶豆腐、蒸し粟、奶皮子」などの具材を入れる。これが二回目の「添加」である。
 中国の火鍋は最初に液体のダシだけではなく、ダシ類調味料とともに海鮮類の具材なども鍋に入れるのが一般的である。「ダシ」を煮込むのである。
 最初に入れるこれらの具材を「鍋底」と呼ぶが、「鍋茶」での二回目の「添加」は中華火鍋の「鍋底」に相当する。そして、「鍋茶」を飲む時、自分の好みに合わせてさらに「牛肉や羊肉、乾奶豆腐、鮮奶豆腐、奶嚼克、炸果子」などを入れる。これが三回目の「添加」である。つまり、「鍋茶」は三重添加茶である。「添加」はモンゴル茶の一番の特徴であり、その代表格はまさに「鍋茶」である。

 筆者たちはモンゴル国に足を伸ばしてウランバートル市での初歩的な調査をおこなったが、モンゴル国の人びとは「奶茶」など添加茶を飲む習慣があるものの、建国後、西洋文化の影響を強く受け、コーヒー文化やワイン文化が流行っていて、喫茶文化は全体的に中国の内蒙古自治区のモンゴル人に及ばないことがわかった。それでもウランバートル市のレストランで中華料理の代表格のギョーザと「鍋茶」の融合体――「鍋茶餃子」に出遭った。「白湯スープ餃子」に似ているが、ミルクと餃子のコラボで餃子の常識を覆すものであったが、意外に美味だった。

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  (モンゴル国ウランバートル市のレストランでの茶料理「鍋茶餃子」)

 (趙慶春:大学教員/ウリジバヤル:大学教員/常宏:大学非常勤講師)

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