【コラム】神社の源流を訪ねて(84)

伽耶85 亀旨峰(くしふるだけ)

栗原 猛

◆6個の石卵

 釜山に泊まって翌朝早く今度は伽耶六国で一番大きく、列島と何かと関係の深かった金官伽耶国の首都だった金海を目指した。めざすは記紀神話にも似ているといわれる亀旨峰である。峰と言っても高さは30㍍だ。金海金氏は韓国で一番大きな氏族で、首露王が始祖になっている。釜山から金海に向かう金海軽電鉄は町の中を走るので、山手線に乗っている感じがする。首露王は金のたまごから生まれたという神話から、金とつけられた。                     
 遺跡を見る前に予備知識を補給しようと、金官伽耶国しゃれた茶の店に入った。魅力的な湯飲みが沢山並んでいる。観光客と思ったのかすぐお茶をどうぞと出してくれた。鉄瓶から直接、急須に濯がないで、まず熱い湯を湯のみに入れて一呼吸してから、お茶の入っている急須に濯ぎ、それから湯飲みに注いだ。「熱いお湯を少し冷ますとお茶のうまみが出るのですよ」といった。               
 お茶はてっきり日本の伝統文化だと思っていた。湯のみで知られる井戸、ととやなどの焼き物は、中国や朝鮮半島で作られたとされるから、焼き物と切っても切れない関係にあるお茶は、先進国である中国、朝鮮半島を経て日本に伝えられた。ただ日本入ってから日本風に洗練されたのだろう。       
 首露王は158年間、国を治めたといわれる。妃は阿踰陀(あゆだ)国の王女の許黄玉。阿踰陀国についてはインド、タイ、中国、日本などの見方があるが、インドのアヨーディア―が有力らしい。         
 「三国遺事」収められている「加羅国記」は、始祖王の誕生をこう記している。人々が亀旨峰(くしふるだけ)の頂上で自分たちを治めてくれる人が欲しいと、天に向かって拝んだ。すると、ある時、天から亀旨峰の山頂に6個の金の卵が降臨し、そのうち一個から首露王が生まれた。西暦42年3月3日のこととされる。このことから韓国では、この年代に、首露王を中心に国家連合(6つの加耶国)が成立したと見ている。            
 首露王は金の卵から生まれた伝説があるので金姓を名のった。朝鮮の始祖もしくは神話上の王とされている人物は、高句麗の東明王、新羅の赫居世、脱解など、卵から生まれた卵生説話を持っている。卵は神聖であるという北方騎馬民族の伝説を受けているとされる。日本でも卵を神聖視して食べないという風習がある地域をいくつか訪ねて紹介したが、鶏肉や卵は食べなくてもアヒルの卵は食べるというところが山陰方面にあった。                    
 目指す亀旨峰は、金海市の国立金海歴史博物館の敷地の裏山という位置になる。なだらかな登りで入り口の近くに亀旨峰と彫った石碑がたつ。頂上まで緩いのぼり坂だが、頂上にはすぐに着く。やや広めの平らな広場で、一部高台になっていてそこに、簡単な囲いがあり、平たい岩の中央部に白い石で作られた籠に6個の石の卵が入っている。実は2年後に訪れた時は、籠の卵は別の場所にされたとかで、大きな台石だけが残されていた。どこに移されたのか散歩している人に聞いてみたが、分からないとのことだった。         
 韓国では先祖の遺跡を引き継いで管理しているケースがあり、時々こうした見物者不在のケースがあるようだ。                             
 亀旨峰の表示がある。天空から天孫が天下ってくる聖なる峰で、亀山は王都だった。山を亀の甲羅に見立てると亀山の部分は首のように見えることからこう呼ばれる。注意してみると、亀の頭と甲羅の関係に見える。           
 戦前日本政府は、ここに国道を通すために本体と首に当たる亀山を切り離した。戦後になって韓国政府が風水を占ったところ、地勢が衰退していると出たという。そこで政府は亀山と亀旨峰を原型に戻し、道路は地下を通すことにした。頑固一徹に伝統を重んじるところは愉快だ。

 以上

(2025.11.20)
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