【「労働映画」のリアル】
労働映画のスターたち(82)
多部未華子 と 桜井ユキ
清水 浩之
《火曜夜10時、並走する“迷子のおとなたち”》
火曜夜10時は、NHKとTBSが同じ時間帯にドラマで勝負する激戦区。NHK「ドラマ10」は2010年に、TBS「火曜ドラマ」は2014年にスタート。どちらも女性視聴者をメインターゲットに、恋愛や仕事をテーマにした意欲作を送り出してきた。NHKは『セカンドバージン』(2010)、『紙の月』(2014)、『透明なゆりかご』(2018)、『正直不動産』(2022)、『大奥』(2023)など。TBSは『重版出来!』、『逃げるは恥だが役に立つ』(2016)、『カルテット』(2017)、『義母と娘のブルース』(2018)、『わたし、定時で帰ります。』(2019)など。特に、働き方や生き方をあらためて考えさせる作品が注目を集め、専業主婦の労働の対価を問題提起した「逃げ恥」のように、社会現象となることも少なくない。
今年の4月からは、TBSで『対岸の家事~これが、私の生きる道!』が、NHKでは『しあわせは食べて寝て待て』がスタートし、どちらにチャンネルを合わせるべきかで、視聴者を大いに悩ませている。それぞれ「対岸の火事」「果報は寝て待て」という諺をヒントに、日々の仕事と暮らしに一喜一憂する“迷子のおとなたち”に寄り添うストーリーで、一度見始めると次のエピソードが待ち遠しくなる。
TBSの『対岸の家事』は、『わたし、定時で帰ります。』で知られる朱野帰子の小説が原作。今や“絶滅危惧種”とすら言われる専業主婦になった主人公が、近所の子育て世代と出会い、ワンオペ育児のワーママ、育休中のエリート官僚、さらには職場や家庭で共に生きる人々など、それぞれの事情を見つめていく。平日昼間に“大人と会話できない”主婦の孤独さと、育児休業の“肩代わり”を担う同僚の複雑な心境、“おとなの事情”を察してグッと我慢する子どもの表情を対等に提示するのが良い。
主演の多部未華子さんは、NHKで『これは経費で落ちません!』(2019)、TBSで『私の家政夫ナギサさん』(2020)を連続ヒットさせた「火曜夜10時のエース」。1989年=平成元年生まれ。高校時代に出演した『山田太郎ものがたり』(2007・TBS)での元気なお嬢さん役を振り出しに、NHK朝ドラ『つばさ』(2009)、刑事コメディ『デカワンコ』(2011・日テレ)などを経て、頭脳明晰だが恋には奥手の経理部員(『経費』)、専業主婦の母の「私のようにならないで」という期待に応えてきたキャリアウーマン(『ナギサさん』)、そして今回の子育て生活と、歴代の出演作を辿れば、同世代の生き方・働き方のリアルが見えてくる。まさに平成生まれのアイコン的な存在だ。
NHKの『しあわせは食べて寝て待て』は、漫画家・水凪トリが自らの体験を基に描いた作品が原作。会社員として懸命に働き、マンション購入を目指していた女性が、「一生付き合う病気」=膠原病になって人生設計が一変。週4日のパート勤務がやっと…という新生活に途方に暮れる(心配する母の電話口から「おばあちゃーん」と姪の声が聞こえてくる場面の、ひとり置き去りにされたような表情が切ない)。だが、家賃5万円で転居を決めた団地の隣人(加賀まりこ・宮沢氷魚)から、旬の食材を取り入れた食事で体調を整える「薬膳」を教わり、毎日一歩ずつ、暮らしと人生を立て直していく。誰もが人生で味わう挫折の時期、そこからの再起の機会を「食べて寝て待つ」主人公を、観ている私たちも応援したくなる。
主演の桜井ユキさんは1987年生まれで、ドラマの主人公と同じ38歳。大きな瞳のクールビューティ的な役柄が多かったが、2019年のNHKよるドラ『だから私は推しました』で、女性アイドルの熱狂的な「ヲタク」となるOLを演じて一躍注目される。その後も、広告会社の営業部員がホストクラブを経営する『ホスト相続しちゃいました』(2023・関テレ)、司法試験に挑む華族令嬢役で国民的な知名度を獲得したNHK朝ドラ『虎に翼』(2024)と、特に30代以降の出演作には、現代女性の働き方・生き方が色濃く反映された役が続いている。今後の活躍がますます楽しみです。
(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信
◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
働く文化ネットでは、毎月「労働映画鑑賞会」を開催しています。お気軽にご参加ください(参加費無料・事前申込不要)。働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/
6月の労働映画鑑賞会 第106回「葉っぱビジネスでSDGs」
開催日:2025年6月12日(木)18時 (17時45分開場)
上映作品:『人生、いろどり』
2012年/112分 監督:御法川修 製作・脚本:西口典子
出演:吉行和子 富司純子 中尾ミエ 平岡祐太 藤竜也
内容:葉っぱを売って2億円……四国で一番人口の少ない町で起こった<奇跡>の実話。高齢化と過疎化が進む徳島県上勝町で、70~80代の女性が中心となって、町内で採集した葉っぱや道端の草を料理の「つまもの」として販売し、売上高2億6000万円をあげるビジネスを成立させた実話を映画化。
会場:連合会館2階 203会議室(地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 B3出口)
◎【上映情報】労働映画列島!5月~6月
※《労働映画列島》で検索! https://shimizu4310.hateblo.jp/
◇新作ロードショー
犬の裁判 《5月30日(金)から 東京 シネスイッチ銀座ほかで公開》 連戦連敗中の弁護士が、人間を噛んだ罪で被告となった犬の裁判を引き受ける。実話に基づいた法廷コメディ。(2024年 スイス=フランス 監督/レティシア・ドッシュ)
デリカド 《5月31日(土)から 東京 渋谷 シアター・イメージフォーラムほかで公開》 フィリピン最後の秘境・パラワン島。雄大な生態系を盗伐や密漁から守るため、命がけで闘ってきた環境警備隊員の記録。(2022年 アメリカほか 監督/カール・マルクーナス)
フロントライン 《6月13日(金)から 東京 TOHOシネマズ日本橋ほかで公開》 新型コロナウイルス対策に取り組んだ災害派遣医療チーム「DMAT」を、事実に基づき映画化。2020年2月、集団感染が発生した豪華客船の入港から、乗客全員の下船完了まで。(2025年 日本 監督/関根光才)
ラ・コシーナ/厨房 《6月13日(金)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》 ニューヨークの大型レストランで働く移民たち。売上金の盗難事件が発生し、キッチンは大混乱に陥る。(2024年 アメリカ=メキシコ 監督/アロンソ・ルイスパラシオス)
◇名画座・特集上映
▼全国
【東京 角川シネマ有楽町/他】 6/6から 「若尾文子映画祭」…青空娘/浮草/からっ風野郎/日本橋/閉店時間/赤線地帯/越前竹人形/しとやかな獣/清作の妻/妻は告白する/不信のとき/他
▼北海道・東北
【札幌 シアターキノ】 「KINOフライデー・シネマ」…5/23 風に立つ愛子さん 6/6 2040 地球再生のビジョン 6/13 磯部真也作品集 美しき時代錯誤
【山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー】 6/20 「金曜上映会 追憶」…三人の女たち(ドイツ)/記憶と夢(オーストラリア)
▼関東・甲信越
【高崎電気館】 6/14~29 「市川雷蔵映画祭 刹那の煌めき」…新源氏物語/炎上/陸軍中野学校/忍びの者/若親分/眠狂四郎 炎情剣/破戒/朱雀門/他
【東京 神保町シアター】 5/31~6/27 「うたと映画―忘れられない映画の中の「うた」たち」…君も出世ができる/私をスキーに連れてって/赤い鳥逃げた?/東京上空いらっしゃいませ/他
【東京 早稲田松竹】 5/31~6/6 「早稲田松竹クラシックスvol.236 文楽・人形浄瑠璃から生まれた映画」…心中天網島/曽根崎心中(1978)/近松物語/恋や恋なすな恋/浪花の恋の物語
【東京 専修大学神田キャンパス/渋谷 ユーロスペース】 6/7~13 「山形ドキュメンタリー道場 in 東京 2025初夏篇」…プリズン・サークル/風たちの学校/どうすればよかったか?/骨を掘る男/他
【新潟 シネ・ウインド】 5/24~30 「安部公房生誕100周年祭 in 新潟」…箱男/砂の女
▼東海・北陸
【福井 メトロ劇場】 5/24~6/6 「戸田博監督 追悼上映」…黄金の大地/京都、夏/桜島早春/GROSS フランスから来た男/夏の叫び/十二月の空/春雪/むじな峠/WEST PLANET/他
【岐阜 ロイヤル劇場】 6/14~27 「愛の讃歌 越路吹雪特集」…吹けよ春風/男嫌い(週替り上映)
▼関西
【京都 出町座】 5/23~6/19 「『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』関連上映」…ドラゴン×マッハ!/柔道龍虎房/省港旗兵 クーロンズ・ソルジャー/省港旗兵2 バイオレンス・ポリス
【神戸 パルシネマしんこうえん】 6/1~10 愛を耕すひと/レ・ミゼラブル(2本立上映)
【洲本オリオン】 6/13~7/3 片思い世界 6/20~7/3 赤毛のアン~グリーンゲーブルズへの道
▼中国・四国
【広島 八丁座】 5/30~6/5 「35mmフィルム上映」…吉原炎上(1987年 監督/五社英雄)
【山口情報芸術センター】 5/22~6/1 「ハシヲワタス さようなら旧市庁舎プロジェクト 関連上映」…甦生の大山口(1929年)
【高知県立美術館】 5/24・25 「ジャン=ピエール・メルヴィル監督特集」…サムライ/賭博師ボブ/海の沈黙/恐るべき子供たち
▼九州・沖縄
【福岡市総合図書館 映像ホール シネラ】 6/5~28 「ジョージア映画祭」…母と娘-完全な夜はない/ピロスマニ/青い山-本当らしくない本当の話/ケトとコテ/インタビュアー/他
【本渡第一映劇】 5/24~6/4 「天草名画座番外地2025 VOL.3 松竹編」…故郷/天城越え
◎日本の労働映画百選
働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。
『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view
(2025.5.20)
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