【「労働映画」のリアル】
労働映画のスターたち(84)
《トレンディドラマから30年……帰ってきた「アラ還女子」の働き方》
5月に「今年の春ドラマは火曜夜10時がアツい!」(TBS『対岸の家事』、NHK『しあわせは食べて寝て待て』)と書いたが、実は火曜夜9時のドラマも毎週楽しみにしていた。フジテレビのオリジナル企画、『人事の人見』だ。
舞台は文房具メーカーの人事部。ワンマン社長(小野武彦)が牛耳る旧態依然とした企業体質が、中途採用の青年・人見(松田丈二)の意外な発想と規格外の行動によって徐々に変わっていく、という物語。職場の同僚たちの協力を得て、数々の難題を解決していく展開は、かつてフジテレビが得意とした“チームワーク・ドラマ”、『王様のレストラン』(1995)や『ショムニ』(1998)を連想させる。
一方で、第1回の「退職代行」を皮切りに、「隠れ残業」「副業」「多様性の尊重」「就活と転職」「パワハラ」「マミートラック」「早期退職」など、放送翌日の職場で話題になりそうなトピックをとり上げ続け、さらには番組開始後35分あたりで「今週のあらすじ」を挟むフォーマットを導入。ひとりひとりの悩みに寄り添おうとする主人公・人見くんと、彼に振り回される人々のコメディを通して、「今、ここにある」働き方や生き方をあらためて考えるヒントを提示する。おとな向けの教育番組という狙いも感じた。
陽気で天然な主人公をフォローする人事部所属の7人。特に、20代から50代の女性たちの、世代ごとの描き分けが鮮やかだった。人見くんの教育係となる労務担当・30代(前田敦子)は、社風を変えようと闘志満々。研修担当・40代(松本まりか)は、独自の人脈を操る根回しの達人。採用担当・20代(桜井日奈子)は、最初から出世に興味がない「さとり」世代。そして、「社内初の女性管理職」として期待されてきた50代(鈴木保奈美)は、かつての「モーレツ社員」の記憶と、現代の「働き方改革」の板挟みとなり、優柔不断な上司に甘んじている。
おしゃれな服を着こなし、明るい笑顔と快活な声で職場を和ませるのは得意だが、人事部に持ち込まれるシリアスな悩み、「生き方」を問う問題は苦手……。部下から見るといささか頼りない部長を、他ならぬ鈴木保奈美さんが演じたことで、トレンディドラマのヒロインが「その後」の30年をどう生きてきたか、今も昔も男性中心のサラリーマン社会をどう「サヴァイヴ」してきたか、想像したくなる奥行きが生まれたと思う。
1966年生まれ。成城大学文芸学部在学中に女優デビュー。1991年、『東京ラブストーリー』(フジ)での自由奔放な帰国子女・赤名リカ役で、「月曜の夜は街からOLが消える」と呼ばれた社会現象を巻き起こす。結婚・出産・子育てを経験し、40代半ばで復帰してからは、明治期の婦人解放運動家・福田英子に扮した『足尾から来た女』(2014・NHK)や、『ノンママ白書』(2016・東海)、『主婦カツ!』(2018・NHK)、『35歳の少女』(2020・日テレ)など、作品ごとにガラリと変わる役どころが面白い。平成・令和を生きる「アラ還女子」の行方を占う存在として、これからも注目したい。
「面白くてためになる」お仕事ドラマのニュータイプとなった『人事の人見』。人事部員たちの頼もしい活躍の一方で、「この会社に、あの存在があったら……」という気もした。推定組織率「16.1%」(令和6年・厚生労働省)といわれる労働組合だ。
今年3月から「スシロー」各店舗で起きた、「回転寿司ユニオン」による賃上げストライキ(6月に60円/時を獲得)。6月には大阪・関西万博に日本政府が出展している「日本館」で、労働環境の改善を求めるスタッフが労働組合を結成。当のフジテレビでも、今年に入ってから労働組合員数が6倍に増えたという(去年までは……)。現代の職場の様々な問題に、労組のはたらきも大いに期待されている。遠からぬ将来、社員ひとりひとりの問題に寄り添うドラマ、『労組の○○さん』が登場する日を待ちます。
(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信
◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
働く文化ネットでは、毎月「労働映画鑑賞会」を開催しています。お気軽にご参加ください(参加費無料・事前申込不要)。
8月の労働映画鑑賞会はお休みです。次回は9月11日(木)18時からの予定です。
働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/
◎【上映情報】労働映画列島!7月~8月
※《労働映画列島》で検索! https://shimizu4310.hateblo.jp/
◇新作ロードショー
盲山 《7月18日(金)から 東京 シネマート新宿ほかで公開》 仕事を探していた大学生が、人身売買業者にだまされて山間の村へ。奴隷のような扱いを受けた彼女は逃走を試みる。カンヌ国際映画祭に選出されながら、中国では国内の上映を禁じられた。(2007年 中国 監督/リー・ヤン)
私たちが光と想うすべて 《7月25日(金)から 東京 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかで公開》 ムンバイで看護師として働き、アパートに同居する2人の女性。思い通りにならない人生に戸惑いながら、大都会の片隅で暮らす日々を描く。カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。(2024年 フランスほか 監督/パヤル・カパーリヤー)
KNEECAP/ニーキャップ 《8月1日(金)から 東京 新宿シネマカリテほかで公開》 政治的なメッセージを込めた歌詞で知られるヒップホップ・トリオ、KNEECAPの半自伝。2019年、公用語として認められていなかったアイルランド語の権利を取り戻そうと、ヒップホップを始める若者たち。(2024年 イギリス=アイルランド 監督/リッチ・ペピアット)
よみがえる声 《8月2日(土)から 東京 ポレポレ東中野ほかで公開》 今年90歳となるドキュメンタリスト・朴壽南(パク・スナム)。小松川事件の被告との往復書簡をはじめ、一貫して民族差別問題に取り組んだ半世紀の取材活動を、娘と共に振り返る。(2025年 日本 監督/朴壽南、朴麻衣)
◇名画座・特集上映
▼全国
【松本CINEMAセレクト/ほか全国9会場】 7/18から 「夏休みの映画館2025」…ロイドの要心無用/風が吹くとき/パンダコパンダ/東京物語/ニッツ・アイランド/他
▼北海道・東北
【砂川市地域交流センター ゆう】 7/23・24 「ゆうシアター 日本の巨匠 黒澤明作品集」…隠し砦の三悪人/天国と地獄/用心棒/生きる
【盛岡 岩手県立美術館】 「アート・シネマ上映会」…7/20 島の色 静かな声 8/17 セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター 9/21 夜のとばりの物語 醒めない夢
▼関東・甲信越
【日立 シネマサンライズ】 「お昼の昭和名作劇場」…7/18~24 新幹線大爆破 8/8~21 砂の器
【東京 神保町シアター】 7/19~8/15 「終戦80年 映画で振り返る―「戦後」を生きるということ」…風の中の牝鶏/喜劇 あゝ軍歌/煙突の見える場所/やっさもっさ/浮雲/蜂の巣の子供たち/他
【東京 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下】 7/25から 「サタジット・レイ レトロスペクティブ2025」…音楽サロン/ビッグ・シティ/チャルラータ/臆病者/聖者/主人公/エレファント・ゴッド
【伊那 かんてんぱぱ 西ホール】 7/25~27 「第7回 伊那VALLEY映画祭」…蒼い記憶 満蒙開拓と少年たち/韓国巨文島47年目のにっぽん村 知られざる漁民移住史/石川文洋を旅する/私は貝になりたい/他
▼東海・北陸
【福井 メトロ劇場】 8/9~22 「平和と環境 For Peace 2025 -終戦80年-」…野火(1959)/ジョニーは戦場へ行った/コルチャック先生/アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓
【岐阜 ロイヤル劇場】 7/26~8/15 「戦後80年 終戦記念日特集」…戦争と人間 第一部 運命の序曲/第二部 愛と悲しみの山河/第三部 完結編
▼関西
【京都文化博物館】 7/18~9/3 「妖/あやかし映画百鬼夜行」…渋川伴五郎/有馬猫/雨月物語/新諸国物語 笛吹童子 三部作/他
【大阪 九条 シネ・ヌーヴォ】 7/26~9/12 「決定版!日本の戦争映画史」…五人の斥候兵/ハワイ・マレー沖海戦/陸軍/ひろしま/黒い雨/戦争と平和/東京裁判/春婦伝/Yokosuka1953/他
▼中国・四国
【山口情報芸術センター】 8/6~24 「山本薩夫監督特集」…白い巨塔/戦争と平和/華麗なる一族/あゝ野麦峠/証人の椅子/戦争と人間 三部作/不毛地帯/荷車の歌
【高松 ホール・ソレイユ】 8/1~28 「戦後80周年特集5作品!」…ジョニーは戦場へ行った/野火(1959)/満天の星/ハルビン/長崎 閃光の影で
▼九州・沖縄
【福岡市総合図書館映像ホール シネラ】 8/1~17 「戦後80年 アジアと日本と戦争 第2期:終戦・戦後」…北京/生きていてよかった/東京五人男/真空地帯/ビルマの竪琴(1956)/秋刀魚の味/海と毒薬/他
【別府ブルーバード劇場】 8/21・22 「俳優 若葉竜也特集」…市子/AWAKE/ペナルティループ/嗤う蟲/街の上で
◎日本の労働映画百選
働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。
『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view
(2025.7.20)
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