【「労働映画」のリアル】
労働映画のスターたち(87)杉本 哲太
《祝・還暦!元ツッパリ少年の「仕事と人生」40年史》
1965年生まれの皆さんが還暦を迎えた今年。あちらこちらで赤いちゃんちゃんこを「着せられた」男女にお目にかかりますが、自分が子どもの頃に抱いていた「還暦」のイメージとは違って、どなたもハッキリと「お若い」ので戸惑ってしまいます。
俳優でいえば、この連載で紹介した小林聡美さん(第6回)、仲村トオルさん(第35回)、尾美としのりさん(第71回)、そして1966年早生まれの小泉今日子さん(第28回)の4人が同学年。独特の個性で知られるこの顔ぶれが、中学・高校時代のクラスメートだったら、と想像すると親近感も湧きますが、どなたか忘れていませんか…?
…そう、教室の最後列の席でいつもダルそうにしている、ペチャンコの鞄とサンダル状態の上履きが目印のツッパリ少年。というわけで(?)今回は、もうひとりの「還暦」世代として杉本哲太さん(1965年7月生まれ)に注目してみます。1980年代、どこのクラスにも必ずいた彼らが、大人になってどんな職業を選び、どんな人生を送ってきたか……哲太さんが40年にわたり演じてきた役柄を辿ると、見えてくるような気がするからです。
関東では「ツッパリ」、関西では「ヤンキー」。リーゼントヘアに変形学生服(ドカン、ボンタン)のヤンチャな少年たちは、秀才、オタク、道化者(=お笑い志望)とともにクラスの男子の主要勢力。音楽界のキャロル(矢沢永吉ほか)やダウン・タウン・ブギウギ・バンド(宇崎竜童ほか)、「暴走族」出身として芸能界に登場した岩城滉一や舘ひろしの時代を経て、1980年にロックバンド「横浜銀蠅」がデビュー。翌81年、『ツッパリHigh School Rock‘n Roll (登校編)』が大ヒットして、「ツッパリ」スタイルは全国の青少年の憧れの一つとなりました。
哲太さんは地元・神奈川県で時代の最先端を行くツッパリ少年として活動。横浜駅西口・ダイヤモンド地下街で喧嘩をしていた時、たまたま通りかかって仲裁してくれた横浜銀蠅のリーダー・嵐ヨシユキさん(1955~2022)に「仲間に入れて下さい」と直訴。1981年、ロックバンド「紅麗威甦(グリース)」を結成して芸能界デビュー。この年の秋、TBSで放送された『茜さんのお弁当』でドラマ初出演を果たします。当時16歳。
八千草薫さん扮する仕出し弁当店主が人手不足に悩み、見ず知らずの「ツッパリ」少年たちを雇ったことから、様々なトラブルや世代間対立を巻き起こしていく物語。八千草さんと言えば「昭和のお母さん」。哲太さんたち非行少年との衝突は、当時の日本ではどこでも見られた光景でした。やがて、「共に働く仲間」として信頼し合っていく展開が、幅広い世代からの共感を呼びます。再放送や配信をお願いしたい傑作です。
このドラマをきっかけに、「一見コワモテだが、中身は素朴で純情」というキャラクターが注目され、その後はツッパリ以外の役柄でも起用されるようになります。20代は吉田喜重、今村昌平、山田洋次、熊井啓ら巨匠の作品で精悍な若者役を演じ、30代からは刑事や消防士など「堅い」職業の父親役が多くなります。北野武監督の『アウトレイジ』(2010)ではやくざ組織の「中間管理職」、『エイジハラスメント』(2015・テレ朝)では忍耐一筋のサラリーマンと、かつてのツッパリ少年たちがそれぞれの「就職先」でどんな仕事人生を送っているかを垣間見るようです。
こうした仕事歴がうまく活かされたのが、2013年のNHK朝ドラ『あまちゃん』(2013)。地元の駅で働き続けてきた男が、東京から帰郷した片想いの相手(小泉今日子)に、30年前と同じ「不器用な恋心」を抱く姿が、多くの視聴者に愛されました。昨年放送された『団地のふたり』(2024・NHK)では、50代になってから実家の団地に戻って来た主人公(小泉今日子)の兄。生まれ育った街に住み続け、妻の実家の塗装店を継いで生きる姿に絶妙なリアリティがありました。これからも同世代の「いま」を体現する俳優として、益々のご活躍を期待しています。
(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信
◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
働く文化ネットでは、毎月「労働映画鑑賞会」を開催しています。お気軽にご参加ください(参加費無料・事前申込不要)。次回は2026年2月12日(木)18時からの予定です。
会場:連合会館 2階 203会議室(地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 B3出口)
働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/
◎【上映情報】労働映画列島!12月~1月
※《労働映画列島》で検索! https://shimizu4310.hateblo.jp/
◇新作ロードショー
プラハの春 不屈のラジオ報道 《12月12日(金)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》 1968年にチェコスロバキアで起こった民主化運動「プラハの春」。市民に真実を伝え続けたラジオ局員たちの実話。(2024年 チェコ=スロバキア 監督/イジー・マードル)
世界一不運なお針子の人生最悪な1日 《12月19日(金)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》 スイスの田舎町を舞台にしたサスペンス。犯罪に巻き込まれた裁縫店主が、針と糸の力で運命を切りひらく。(2024年 アメリカ=スイス 監督/フレディ・マクドナルド)
医の倫理と戦争 《1月2日(金)から 東京 ポレポレ東中野ほかで公開》 80年前、中国・満洲での人体実験に関わった医師たちの責任を巡り、「医の倫理」と向き合う現代の医療関係者たちが、歴史の闇を掘り進めていく。(2025年 日本 監督/山本草介
ワーキングマン 《1月2日(金)から 東京 新宿バルト9ほかで公開》 ジェイソン・ステイサム主演のアクション映画。建設会社の現場監督として働く男が、上司の危機を見かねて、元特殊部隊員としてのスキルを再び解き放つ。(2025年 アメリカ 監督/デヴィッド・エアー)
◎日本の労働映画百選
働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。
『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view
(2025.12.20)
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