【視点】

参院選余談 2題

—「石破おろし」難航か
―「参政党」定着度は?
羽原 清雅

 7月20日の参院選は、行き詰まった日本政治の姿をはっきり見せたものの、思わしい反省や進展は見えてこない。凋落を続けても国民からの遊離に気づかない自民党、装いを新たに台頭しながらも行く末が懸念される新右翼・参政党——この2点に絞って見ていきたい。
  
<三角大福中時代の混迷に学べるか>

 「三角大福」4代の政権時代に、たまたま自民党を担当して見続けた元記者として、今度の参院選の結果は「三木(武夫)おろし」の一幕を思い出す。細部を忘れつつあるので、まず少し詳しく当時の経緯に触れておきたい(読み流してください)。

 *長期政権の佐藤から波乱の田中へ 佐藤栄作首相が7年の長期政権を終えたのは1972(昭和47)年7月。50余年も前のこと。佐藤に推され本命視された福田赳夫(清話会・福田派-のち安倍晋太郎―三塚博―森喜朗―町村信孝―細田博之―安倍晋三)が、佐藤派から独立した田中角栄(木曜クラブ・田中派―のち創政会・竹下登—小渕恵三―橋本龍太郎―津島雄二―額賀福志郎―竹下亘―茂木敏充)に敗れる。田中は日本列島改造論を打ち出し、日中復交に道を開くが、金権政治批判などで退陣(74年12月)。

*田中の意外な失脚  田中の後継者として、三木、福田、大平の3人が名乗りを上げたが話し合いがつかず、その対決による混迷を恐れた副総裁椎名悦三郎は「椎名裁定」を下すことになった。裁定は、予想外にも小派閥を率いる三木武夫(番町政策研究所・松村謙三・三木武夫―三木―河本敏夫―大島理森―山東昭子)にくだった(同年12月)。

*三木政権下のロッキード事件、そして「三木おろし」  その三木政権成立の1年余に表面化したのが、ロッキード事件(76年2月)で、田中が逮捕される(同年7月)。党内は、事件解明を重視する三木と、それに反発して三木退陣を求める挙党体制確立協議会(挙党協)とが党内を2分して激突。三木は衆院解散をもくろむが果たせず、任期満了の選挙で敗退する。このような政争が1年近くに及び、「三木おろし」と呼ばれた。
 任期満了の衆院選後に、三木に代わって福田赳夫首相となる(同年12月)。

*福田首相の思わぬ退陣 だが、党内の混迷はなおも続く。福田政権以後の混乱に触れておこう。福田政権の2年間を見ると、所得減税と国債依存率上昇、成田空港開港、日中平和友好条約調印など、波乱含みで持続する。だが、福田の狙った在任中の衆院解散を大平・田中両派連合で阻止される中で、自民党総裁選挙(78年11月)を迎える。大平支持の田中派で自民党の全国組織委員長の竹下登が、門外不出とされる党員党友名簿を使い、全国の党員党友の戸別訪問、電話戦術などのローラー作戦で大平支持に動いた。
 この結果は、こうした田中支援を得た大平正芳がトップ、現職の福田が意外にも2位に落ち、総理総裁の座を失う。
 福田派の不満は高まるばかり。敗退の福田のもらした「天の声も変な声も、たまにはあると思う。まあ、敗軍の将、兵を語らずだ」が印象的だった。
 当時、よく噂として流れたのが、「福田は一期務め、大平に譲る」との密約説。真偽のほどはわからないが、ありそうなことではあった。

*大平首相に角栄の影 そして大平は、ほぼ1年後の79(昭和54)年10月7日に衆院選を迎える。財政再建・一般消費税導入を掲げる大平自民党は過半数割れの敗北(定数511中248議席)に終わるが、続投を表明。大平の責任を問うて勢いづく福田派をはじめ反主流の中曽根派、三木派、中川(一郎)グループなどは辞任を要求、大平、田中両派に他党との連立の声が上がれば、反主流派には自民離党、新党結成の画策が出るなど、自民党自体の危機が・・・。ここに、第2次大平内閣発足する11月20日までの「40日抗争」が始まった。

*主流派、反主流派の激突 10月30日の特別国会は、異例にも首班指名選挙が流れて散会する。そこで、大平、福田、三木、中曽根の実力者の会談も話がつかず、西村英一副総裁の仲介も不調、「党機関への一任」としてもその機関が主流派多数の両院議員総会か、反主流派多数の代議士会かで紛糾。また党本部ホールで両院議員総会を開こうとすれば、反主流派は机、椅子などでバリケードを築く。大平寄りの浜田幸一がバリケードを投げ飛ばす始末。「大平首相・福田総裁」との総理総裁分離案は実らず、大平が一度辞任する方向についても「大平が次期総裁選挙に不出馬でなければ」と強硬派が反対・・・。
 そして、11月6日の首班指名では、与野党ともに過半数をとった候補者はなし。ついで、上位2人の決選投票に。結局、衆院は大平138票、福田121票、参院は大平78票、飛鳥田(一雄・野党)51票、福田38票で、決選投票は大平97票、飛鳥田52票で、やっと大平が指名された。第2次大平内閣の大荒れの出発である。

*組閣の紛糾  自民党の混乱はなお続いた。組閣である。ここでも一悶着。大平派の鈴木善幸幹事長説阻止、「角影」への反発などで本会議も開けず、先行すべき党人事を後回しにした異例の組閣は、やっと11月9日になって行われた。
 やや私的な話になって恐縮だが、ぜひひとこと。筆者(羽原)はこの時、国会の記者室で情報のまとめ役をしていたが、朝刊早版の締め切りになっても、福田派などボイコット戦術などの反発が続き、組閣が進むか、後日に回して中断するかの行方が全く読めず、原稿のトーンも見出しも見当がつかず、本社デスクの再三の要求にも返事ができない始末。明朝、読みを誤まった紙面が読者に配られたら、と頭に浮かぶ・・・。
 この時の苦境は記者生活でも忘れられない事態だった。それでも結局、午後8時半ころになって首相官邸の呼び出しが始まり、なんとか息をつくことができた。

*大平政権下の「ハプニング解散」と「首相急逝」  大平政権の不幸は続く。かつてないほどの自民党政府の混迷から半年後の1980(昭和55)年5月、大平内閣不信任案が可決され(16日)、衆院は解散(19日)となる。予算案可決をめぐり与野党紛糾の中、浜田幸一についてロッキード事件関連でラスベガス・カジノ問題が浮上、自民党離党、衆院議員辞職となる。この事態に加えて、大平政権の物価高騰などの経済政策の失敗などを理由に、社公民3党は内閣不信任案提出で足並みをそろえる。さらに自民党反主流派の福田、三木、中川3派など69議員も同調、いわゆる「ハプニング解散」の衆院選に持ち込まれた。折からの参院選と同時の衆参選挙となった。
 さらに意外な事態になる。大平首相が選挙中に心筋梗塞で倒れ急逝した(6月12日)。分裂気味の自民党はこの事態に結束、有権者の同情票もあって、自民党は地滑り的な大勝利となる。この結果で、6年間続いた衆参両院の与野党伯仲状態は解消した。大平首相の死が混迷を救った形になり、あとを継いだ鈴木善幸首相が状況を一変させることになる。

 以上が8年の長きにわたる異例の政界騒動だった。

<容易ではない?石破おろし>

*旧路線と決別できない石破首相 石破首相には、もともと不幸な政権となりかねない運命にあった。ひとつは、全体的に自民党が退潮期にあったこと。
安倍晋三政権の国政選挙6連戦で、党内全体が奢りに走り、しかも集団的自衛権の行使などで安倍的右派的の方向に固めて、多様な国民政党のイメージを薄めたこと。
 奢りの具体例としていかがわしい統一教会との癒着、森友学園の公文書偽造や虚偽答弁など、加計学園との不可解な関わり、桜を見る会などの手前勝手などの道義、倫理性の乏しさ。
 官僚機構を改編して権力を集中し、ご都合主義人事、忖度政治を可能にしたこと、などなど。しかも、継承した菅政権、岸田政権は反省や改善策を講ぜず、安倍路線の忠実な継承者になってきたこともある。
 石破には、こうした安倍時代に高められた風潮を再検討する空気を生み出し、新たな別の視点を引き出すような努力が見えなかった。むしろ、安倍時代類似のタイプのイメージをつくり始めていたのではないか。
 次に本来なら、政治環境を改革すべきはずが、派閥など少数勢力のためもあって、安倍政治離脱を期待されながらも、初心を後退させてしまった。総裁選までの主張を相次いで触れなくなったことにも示されている。
 つまり、総裁選出馬前に述べていた日米地位協定の改善、靖国神社への政治家の参拝やA級戦犯分祀、選択的夫婦別姓制の導入、派閥政治の脱却、政治改革の必要など、新鮮味ある課題に具体的に触れなくなったのだ。党内基盤の弱さに発言を躊躇したのだろうが、これが有権者の期待に応ぜず、大胆に政治の流れをつくり出すという期待を無視する形にもなった。
 石破自身が政治の師匠だとする田中角栄流にはいかないまでも、大きな構えを見せ、世論の論議を高める進路を選んでいたなら、別の関心や期待を高めていただろう。世情は、安倍・菅・岸田と12年余も続く長い右傾路線とは異なる新鮮さを求めていたからだ。石破自身が、その道を閉ざしてしまっていた。
 
*石破は粘れるか、自民党体質とそのルール 衆院選、参院選、その間にあった東京都議選で自民党はいずれも敗退、政権維持に必要な過半数割れになっており、通常なら引責辞任すべきところだろう。だが、有権者の多くは安倍・菅・岸田政治の姿勢や方向性に反対とまではいかないとしても、賛同はせず、これでいいのか、といった疑問が芽生え、自民・公明連立政治に疑問を持ち始めている。選挙の結果に示された通り、飽きてしまっている。
 しかも、国政の過半数割れの原因は、自民党の政治家自身が生み出したものなのだ。安倍時代のさまざまな阿漕な手口、安倍政治に追随した菅時代の学術会議問題などのおかしさ、岸田時代の安保軍事体制強化を具体化した姿勢、さらには安倍時代からの統一教会対応の中途半端な逃げ、国民の税金を使う政治資金を受けながら裏ガネ的な企業・団体献金の扱いとその隠蔽ぶり、あるいはリクルート事件以来30年を超す懸案に取り組まず、またしても政治資金規正への不真面目な対応ぶり。
 自民党政治は腐敗と無反省、さらに有権者の黙殺など、これらは自民党の政治家自身の責任ではないか。形はまず、総理総裁がとるべきだが、その実際は政治家自身の日常の無反省が蓄積された結果ではないか。自民党の、長期にわたって体質化した異常性こそが問題だろう。
 世論調査でも、「石破辞任」と「石破残留」を求める見方は、各紙を見ても半々に近いか、残留説の方が多くなっている。政治家は世論大勢の見方を侮るべきではない。

 しかも、「石破おろし」に動く幹部らは、旧安倍派に属したウラ金の当事者たち、あるいは日頃非常識な発言で話題になった政治家たち、またそうした安倍的な右傾派の面々が、総理総裁の座を狙っている。しかも、党自体の体質改革に向かうことを思う政治家はあまり表面には出ていない。石破が辞めない意欲も妙であるにしても、「腹に一物」グループよりはましだといえそうだ。石破が退陣しないことの一理はここにある。
 とはいえ、いまの自民党には目先の事態と石破の責任ばかりが頭にあって、党の現状や党全体の負うべき責任、先行きの日本政治のありようなどは二の次である。「正論」の出る余地もない実態である。

*石破の残留の論理 「辞めない」という石破の理由は、第一に対トランプ交渉中の関税問題、ほかにコメ問題の農業政策、念願の防災対策などだが、交渉さなかの関税問題を除けば、石破でなくてもいい。
 もうひとつは、自民党内の手続きの問題である。8月末までは、参院選の総括待ちの時間がある。両院議員総会の退陣要求の論議だけなら、突っぱねることはできよう。衆参議員、47都道府県連の過半数を超える確認ができれば、臨時の総裁選ができるが、この確認の前例がなく、確認の規定も十分ではない。総裁選挙管理委員会の11人の委員のうち6人が欠員なので、この選出にも時間はかかる。
また、参院選の総括が出れば、9月には新たな閣僚、幹事長ら党役員の選出が大きな問題になる。これは、反対勢力の多い退陣要求派には有利な材料になり、石破側は閣僚、党役員の受け手探しに相当苦労しそうだ。
 野党はどうか。この点も、石破側には厳しい。連立に応じる可能性のある野党はほとんど見当たらない。ただ、野党にどこまでの追及力があるのか。また、野党間の連携協力が可能かどうか。野党の力量、勉強ぶり、大きなスケールの決断などの面を見る限り、あまり期待はできない。
 いずれにせよ、国民有権者にとってのプラス面は少なく、相次ぐ物価高騰をはじめ生活問題への影響が続きそうだ。

<参政党は生き延びるか>

 今度の参院選の特徴は、既成政党の議席の後退と、小型新党の台頭があげられよう。

既成党  自民-13、公明―6、共産―4、立憲、社民各-1<維新+1>
小型新党 参政+13、保守+2、れいわ、みらい各+1<NHK―1>
 国民民主はプラス13だが、最近の党の動向として新たな動きも多く別格とする。

 党勢を見ておこう。今回の比例区選挙の各党得票率と前回2022年の比例区の得票率(カッコ内)を比較してみると――
既成党 自民 24、47%(27、66%)、公明 8、80%(12、51%)、国民 12、88%(4、10%)、共産 4、84%(6、33%)、立憲 15、42%(9、44%)、社民 2、60%(1、75%)、維新 7、39%(27、70%)=国民激増、立憲、社民増加、維新激減、自民、公明、共産減少
小型新党 参政12、55%(3、63%)、保守 5、04%(―)、れいわ 6、56%(3、24%)、みらい 2、56%(―)、NHK党 2、53%(1、20%)=参政激増、れいわ、NHK党減少

 このあとは、参政党に絞って見ていきたい。

*参政党の特性・作法あれこれ まずは参政党の、既成政党やほかの小型新党とは異なる“新しさ”を見ておこう。
1)既成の政治勢力に対して、具体的な批判・攻撃を抑え気味である。
2)一見、総合的な主張を展開し、従来の通説、解釈、理解とは別の、新たな説明をし、新鮮味を示して、関心を高めようとする。だが、右寄りの党の指針や政策などに多くの矛盾や不合理を抱えている。
3)その際、複雑な故事来歴、過去の歴史などを省略し、ごく単純化して関心を引こうとして、とくに未知の多い若い世代に飲み込みやすくアピールし、批判、反発を持たれないようなトーンが多い。
4)社会の低成長期の不遇下にあった4,50歳代に向けては、政治、経済、社会の権力構造に目を向かせることで、既成の順調に伸びた既成勢力への批判、反発、離反を誘う傾向を見せる。
5)地方議会や国会に送る候補者は、党の主張に概して忠実な層から選び、職業的なキャリアを持ち、概して弁舌に優れ、外見よく、にこやかな人物をピックアップする。
6)150人ともいわれる地方議員を選挙の足場として国会進出を図り、他党よりも地方議員の増殖に力を注ぐ。
7)党財政はSNSや切り抜き動画など映像化による収入、賛同支持者らの寄付、それに国会議員増に伴う政党交付金などにより、比較的裕福である。
8)問題発言、失言、言い過ぎなどの失態にはソフトランディングを図り、訂正、修正、謝罪など平然と短期打開をはかり、悪印象を回避する。
 
*参政党伸長の背景  新党としては、結党から日の浅い参政党がなぜ伸びたのだろうか。
1)自民、公明の与党票ばかりでなく、維新の票を大きく吸収した。この3党は、自民は「カネ」、公明は「創価学会の高齢化と新味不足」、維新も「党内の人事などの不穏、アピールのもろさ」といった不評の問題を抱え、簒奪されやすかった。
2)既成党は憲法、軍事防衛、皇室などの政治課題の論議が少なく、参政党はそこを狙うように、他党に比べて若い世代には大雑把にせよ新味のあるメッセージを送ろうとした。
3)新聞、テレビなどの既成メディアに接しなくなっている若い世代に、これらメディアへの批判を強めて浸透、SNSなどの新兵器の活用が強かった。ただ、政策論議などの可否ではなく、イメージや風潮、野次っ気などに乗っていた。
4)従来の政治の支え手であった収入、学歴、就労環境などに比較的恵まれた「中間層」の崩壊傾向に便乗した感がある。上層部分は資産を増やすなど富裕化して中間層を離脱、また下層部分は長期的な物価高騰、高齢層の離職に伴う収入減、非正規就労などで中間層から脱落、そうした中間層崩壊気味のところに参政党への関心を集まった。
 ——大雑把にはそんなイメージがわく。

*一過性凋落の可能性 参政党の危うさについては次の項で例証したいが、2,3回の選挙では生き残れても、既成政党的に持続するかは極めて疑わしい。
小型新党はすでに、立花孝志のNHK党の不可解な“政治行動”が顰蹙を買い、都知事選では名を挙げた石丸伸二は都議選で42人、参院選の「再生の道」で10人を擁立、だがいずれも当選ゼロ。また石丸の安芸高田市長時代の言動を知れば兵庫県知事の人物像と同様に、やや非常識のイメージがあった。両党に百田尚樹の日本保守党を加えて、いずれも極右型。ほかにも、自称の政党が雨後のタケノコ気味に跋扈したが、社会的な空気にはマッチしていない。
 参政党の場合、将来的に、仮に自民党分裂があるとすれば、かつての安倍派などに多い保守派、右傾一派などと結びつく可能性もあり得よう。既成党が党内の刷新、改革に向かわない場合には合流も考えられるだろう。ただ、日本会議は神社本庁、新興の生長の家などの宗教団体があり、その宗教性、歴史的背景、支持者の年齢層や富裕度、知名性などで肌合いが合うかどうか。日本会議にとっては、参政党の若い行動力は大きな魅力に違いない。

*参政党の怪訝な憲法観、政策方針など  国会の当選者増で政治資金を多く手にしたが、その憲法観、政策の危うさ、個々の議員の「核兵器保持」発言などに見える低い政治レベルの言動など、厳しい風が待ち受けている。
参政党代表の神谷宗幣をはじめ同党の国会議員らの言動、あるいは党の文書などには問題含み、事実関係の間違いや矛盾、誤報といった事例が多い。一応例示しておこう。
 ・憲法観  参政党は「新日本憲法(構想案)」を持ち、「創憲」をうたう。現行憲法ではその機軸のひとつに「法の下の平等」が重視されるが、この党の案には「思想、良心の自由」「信教の自由」「表現の自由」「居住、移転、職業の選択、国籍離脱の自由」がない。「人権の尊重」もない。
さらに、裁判を受ける権利、拷問の禁止、黙秘権、弁護人依頼の権利なども示していない。これが施行されたら、世の中は非常に住みにくくなり、「個人」が損なわれてしまう。
 ・「天皇主権」  同党の案では、「国は、主権を有し」とあり、「天皇は元首として国を代表」するという。つまり、現在の主権在民を否定する。国民ひとりひとりの主権は認めず、戦前の天皇が主権を握ることに逆戻りする。民主主義の否定でもある。そして、教育勅語など歴代の詔勅を教育によって尊重する、という。また「神社国有化」をうたい、いわば「戦前回帰」である。
 ・「核武装は安上がり」  参院選初当選の塩入清香(「さや」)の発言である。「核武装がもっとも安上がりであり、もっとも安全を強化する策のひとつ」とネットで発言。ヒロシ  マ、ナガサキの多くの死者と長い闘病者は「安上がり」なのか。こうした非常識発言が少なくない。だが、毎日新聞のアンケートに同党の衆参18議員中10人以上が核保有を主張しているという。危ない発想、というよりも、国民の犠牲を容認する発言でもある。
 ・「中国侵略はウソ」  神谷代表の那覇市での街頭演説。「日本軍が中国大陸に侵略していったのはウソだ。中国側がテロ工作をしてくるから、自衛戦争としてどんどんどんどん行った」。では、張作霖爆殺をはじめ、それ以降の旧満州などの攻勢はなにか。731部隊の犠牲者や細菌戦などの現実もウソか。史実を認めず、ウソ扱いでは外交はありえない。
 ・生命よりもカネ?  これも神谷代表の弁。「高齢者をむりにチューブでつなぎ生かす必要があるのか。そんなにわが国にカネが余っているのか」「発達障害などは存在しない。大半は子どもの個性だ」人間の尊厳、当人や親たちの苦しみを、その程度に受け止める感性で、政治に臨もうというのか。
 ・「LGBTなんかいらない」  これも神谷発言。さらに続けて「性は男と女しかない」「ジェンダーフリーなどいらない」「LGBT理解増進法廃止論です」とも。性的少数者を切り捨てる発言であり、このような現実に苦しむ人々の存在に無配慮、無神経な発言を繰り返す政治家が許容されるだろうか。 
 ・「日本人ファースト」  政治家はみな、自国の国民を第一に考えることは当然だろう。だが、そのニュアンスに差別・侮蔑・排除があれば別だ。また、外国人を多数受け入れて、あまりの多さに制限を強めた欧米諸国のようならまだしも、日本はまだそこまでには至っていない。むしろ人口減少、労働力補填のために、外国人受け入れ歓迎の状態にある。移民、難民、それに観光などのオーバーツーリズムなどの問題をからめ、マイナス面を強調しているようにも見える。欧米の植民地時代からの関わりによるアフリカなどからの外国人の流入とはまったく事情は違い、どこか外国人をあえて問題視させようとしているのではないか。
 参政党などの外国人問題追及の波が高まると見た不人気の石破政権は、参院選挙中の7月に、泥縄的に「外国人との秩序ある共生社会推進室」を発足させた。結果的に、参政党が問題提起をし、政府を動かしたかのように見え、得点を稼いだ。
 ・党首討論会の仲間入り  同じようなことがあった。つまり、各選挙で一定の議員を擁する政党代表を招く日本記者クラブ恒例の党首討論会に、参政党は維新の会から見放された参院議員の梅村みずほを急きょ入党させて同クラブの参加基準にぎりぎり間に合い、テレビ放映に顔を出すことができて、票稼ぎには大いに役立った。
 ・「反コロナワクチン」  話題は古くなったが、参政党はこのワクチン注射に反対し、ごく一部ながら、ワクチンによる不安をまいたり、後遺症に耐えた人などを煽ったりすることで一定の人気を集めた。公的に認知された科学的論拠はないままにムードに乗った、苦しむ人たちをダシに使った、などの風評が流れていた。参政党の「うまさ」だったか。
 ・「ディープステート(影の政府)」  政財界の特権階層、メディア、医療界、農業界、霞が関など各分野には、秘密裏に陰謀論をたくらみ、その社会を動かす秘密の組織がある、という。国際的な話として仕組まれ、実態がつかめないのが特徴でもある。
 参政党の一例をあげれば、世界を牛耳る「あの勢力」の陰謀説が流されると、「国際金融資本」とか「ユダヤ資本」とかのいかにも実在の組織が存在するかの話を流す、という。それなりによくある話だが、公党となった以上、そうしたいかがわしさはなくしたほうがいい。もっとも、その方が参政党らしい存在として認知されるのかもしれない。
 ・早い逃げ足  参政党幹部らのテレビや演説などでの失言、間違いなどのかわし方、逃げ方を見ておこう。まず、その言い訳の際の姿勢はソフトで、にこやか。ほどほど、適当にかわし、深入りは避ける。また、「まだ党内で検討中」「党員の意見を聞いており、まだ確定ではない」などとかわす。激論を交わすようなことはせず、概して低姿勢である。
 日本保守党の百田尚樹、NHK党の立花孝志のような強気の一方的主張や、上から押し付けるかのトーンは今のところ少ない。神谷も街頭などでは興奮も見せるが、前者とはちょっと違うよう。矛盾、ちぐはぐ、不統一などの未熟ぶりを承知し、痛い指摘があれば、いったん躱して再検討するためだろうか。

                  (8月15日現在・元朝日新聞政治部長)

(2025.8.20)
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