【ドクター・いろひらのコラム】

変貌していくプロフェッション意識?

色平 哲郎

 2024年をふり返ると、自分が勤める佐久総合病院が創立80年を迎えたことが、やはり感慨深い。
 医学者で千葉大教授の近藤克則先生からは、次のような携帯メールの「80周年メッセージ」をいただいた。
 
 〈80年間、最先端を走り続けた佐久病院ですね。
 家族が病院に泊まり込んで身の回りの世話をしていた時代に、家族の負担を減らす病院給食や後の基準看護を導入し、ネットがない時代に娯楽を通じて、必要な健康情報を提供する演劇に取り組んだ。
 これからは予防の時代だと実施した、八千穂村での全村の健診は、後に国の健診事業のモデルとなった。
 超高齢社会が近づくと、保健・医療・介護を一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築に取り組み、今では当たり前となっている医師のローテート研修でもモデルを作ってきた。
 人口減少が加速し、地域医療の前に地域の存続が危惧される地域が日本中に広がり始めた今、これまでそうだったように、その時代、その時代の課題に正面から取り組み、モデルを作り続けてきた佐久病院の一層の奮闘を期待しています〉
 
 身の引き締まる言葉をいただいた。
 
 もっとも、佐久病院で働いていると、特別なことは何もしていないような気もする。
 毎日、患者さんに正対し、国民皆保険制度に根ざした医療をコツコツ継続してきただけだ。
 
 と、佐久病院を自己分析していたら、まじめさが稀少になりかねない、驚くべき事実をNHKの報道番組で知った。
 24年5月29日に放送されたクローズアップ現代の「追跡”自由診療の闇” 相次ぐ美容・健康トラブルの深層」が、それだ。
 
 医師資格のない代表者が設立した一般社団法人が、美容クリニックを開業したのはいいが、処置がずさんな「自由診療」で、患者が救急搬送されるようなトラブルが続出しているという。
 近年、2年の臨床研修を終えただけで専門研修を受けずに美容外科に進む「直美(ちょくび)」の医師が急増しているのは知っていたが、一般社団クリニックに管理医師として「名義貸し」をしている医師も多いのだそうだ。
 管理医師の男性(大学病院非常勤医・大学院在籍)は、「大学病院からの収入は月10万円くらい。
 学費もかかるので収支がマイナス。
 生活が厳しくなり、美容クリニックで働くことを選択しました」とインタビューに答えている。
 
 確かに「働き方改革」の影響で他院でのアルバイトはしにくくなった。
 が、しかし、、、医師の名義貸しが横行しているのは信じ難い。
 保険診療は、国民皆保険制度の根幹であり、自由診療に若い医師が流れていけば、この先、日本の医療はどうなるのだろう。
 
 医師になりたてのころは苦しくとも、まじめにやってさえいれば、食いっぱぐれることはなさそうだ、、、
 
 そんな職業意識は、美容クリニックが参入してきそうもない、地方の農山村に暮らしているから通用するのだろうか。
 
 変な時代になったものだ。

色平 哲郎(いろひら てつろう)
JA長野厚生連・佐久総合病院地域医療部地域ケア科医長

コラム ドクターいろひらの保険医雑誌特集・B面

※この記事は著者の許諾を得て『大阪保険医雑誌』2025年1月号から転載したものです。文責は『オルタ広場』編集事務局にあります。

(2025.4.20)
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