【コラム】八十路の影法師
夏過ぎて
今年も秋はなかなかやってこない。
東京では、立秋(8月7日)以来、暑さが峠を越すという「処暑」の前日までの16日間のうち、日中の最高気温が30℃を超える真夏日が13日間もあり、残りの3日間もみな夏日(最高気温が25℃超)という酷い残暑が続く。そんな関東だが6月から8月の気温は、九州北部や中国地方、北海道などに比べると、平年との差は小さかったのだという。いやはや、列島は蒸し釜か。
気温もさることながら、特に強い印象が残るのは8月の雨の降り方だ。降雨の被害を振り返ってみると、8月8日には長野県安曇野市の県道の橋が、夜間の雨による土石流によって流されてしまい、登山客などが山小屋に孤立するという事態になった。幸いにも翌日には仮設の橋がかけられ、徒歩で渡って下山できるようになったという。
それから一週間も経たぬ13日夕方、千葉県内で豪雨が発生した。気象庁は5月に運用を開始したばかりの防災気象情報「レベル5 大雨特別警報」を、全国で初めて千葉市のほか県内21市町村を対象にして発した。翌日以降のテレビに映し出される被害状況は驚くものだった。千葉市では、川の氾濫だけでなく、道路やアンダーパス(立体交差などで道路や鉄道の下をくぐるために、周囲よりも低くなっている道路)などで大雨による内水氾濫が多数起きている。道路に置き放しにされた車両も多く見られた。豪雨禍による被害状況(8月末日時点)は、死者13人、行方不明者1人、建物全壊4棟などだという。
レベル5大雨特別警報の発出はさらに続いた。2週間後に石川・富山両県内の市町村が、その1週間後には福井県内の3市がそれぞれ対象となって発せられている。8月末のテレビ報道などは豪雨の話題で持ちきりという印象であった。
石川県・富山県の水害では、前夜来の大雨で河川氾濫や土砂崩れが各地で発生し、住宅への浸水、集落の孤立や水田の冠水が相次いだようだ。驚いたことに、両県にまたがる合わせて19河川がいちどきに氾濫している(石川県10河川、富山県9河川)。
被害の全容はまだ確定していないようだが、住宅被害をみると、石川県で床上・床下浸水が444棟(9月2日現在)、富山県では623棟(9月1日現在)でそのほとんどが氷見市に集中しているという。もちろん、農地、道路などの被害も今後明らかになるだろう。
福井県も広い範囲で被害が発生しているようだが、9月3日午後1時時点の県の発表では住宅の床上・床下の浸水被害は合計で299棟とされている。
専門的な分析などはできないが、今夏の水害に見る雨の降り方は、かつてとは様変わりの感だ。いちどきに降る雨量が桁違いに多くなっているように思える。これが怖い。おおざっぱに言えば、短時間に、限られた地域に、とてつもなく大量の雨が集中して降ったという印象が強い。
もう一つ気にかかるのは、千葉市の被害にみる内水氾濫の影響、とりわけアンダーパスの危うさ。千葉県の死者13人のうち4人は、道路冠水で乗用車内に閉じ込められるなどした結果とみられるそうだ。
道路冠水の程度(水深)は走っている自動車の運転席からではわからない。毎日のように走っている道路でも冠水の程度を一瞬にして判断するのは難しかろう。さらに、自動車は熟知した道路だけを走るわけではない。旅行や仕事などで初めての道路も走るだろう。
道路の冠水に伴う自動車の水没、運転者・搭乗者の死亡事故を防止する策は大きな課題と感じた。
ところで8月末までに発表された「レベル5大雨特別警報」の対象となった自治体は以下であった。
千葉県が、千葉市、市川市、船橋市、松戸市、佐倉市、習志野市、柏市、市原市、八千代市、我孫子市、鎌ケ谷市、四街道市、印西市、白井市。
石川県が羽咋市、志賀町、宝達志水町、中能登町。そして富山県が氷見市。
これらの中には、読みに自信をもてない名前がいくつかあり、特に羽咋市などはお手上げ。人名もそうだが、地名の読みはまことに難物であります。
千葉県の場合は住まっている東京都の隣接県であり、交通機関も直通するものが多い。そのため何となく覚えたものもあって、大体は読める。しかし、離れた地域の人にとって「習志野」、「安孫子」などは難読ではないでしょうか。石川県では羽咋市はおいても、志賀町は「しが」と読みそうです。小生の場合、勤め先の会社が原子力発電所の建設用資材も扱っていたため、県内唯一の原子力発電所がある地ということで、この町名は「しかまち」と読むと承知していました。
富山県は氷見市の一市のみだが、ここは「氷見の寒ブリ」で有名であり、その地名を酒場に足を踏み入れていたおかげで覚えておりました。それでも「氷」を「ひ」と読むことに引っかかりました。ほかに氷雨、氷室などが思い浮かぶものの、この「ひ」という読みがどこからくるのか気になったのです。これは古語辞典を開いてたちまち氷解。「ひ」は≪古くは固まりの氷にいうことが多い。コホリ・ツララは平安時代には水面などに張った氷にいう≫とあります(三省堂・『古語辞典』)。
『枕草子』には新しい金物の椀に入れたかき氷(?)が「あてなるもの」(美しいもの)とされています(四十二段)。現代表記では「削り氷(ひ)にあまづら入れて、あたらしき金鋺に入れたる」ですが、この「削り氷」(けずりひ)、もとは「けつりひ」なのでしょう。
羽咋市は画面で仮名を振ってくれるテレビ局もあって「はくい」と知りました。「羽」は、特に漢字一文字の場合は「はね」と読むものの、「は」と読む言葉も多い。「白羽の矢」、「羽子板」、「羽衣」、「羽交い絞め」などです。
「咋」はなじみが無く、「ひへん(日)」の「昨」と間違えそうな漢字。漢和辞書によると、音は「サク」、意味は大声、さわぐ、くう(くらう)、かむなどの意をもつ字と初めて知りました。
大昔に「はくい」と呼んでいた地域に漢字が伝来した後で当て字として選んだものでしょうが、ずいぶんと変わった字を持ち出したものです。
自分が読めなかった腹いせでいうわけではありませんが、難読地名は考慮の余地がありませんかね。
まずは、仮名表記に変更することが考えられます。県内にはすでに「かほく市」があります。21世紀のしょっぱなに県庁所在地としては初めてひらがな表記とした「さいたま市」が誕生していますが、現在では全国で30以上の市が採用しているそうです。歴史や住民の心情などもあって難しいということも考えられますので、正式名は漢字表記、通称としてひらがな表記を公けに認めるような制度ができないものでしょうかね。
(2026.9.20)
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