【ドクター・いろひらのコラム】(14)

日本の薬事行政の内幕

色平 哲郎

 「薬不足」が、まだ続いている。現在でもジェネリックの約6割が供給不安定だという。ことの発端は薬品メーカーの「不正」だった。
 
 2015年5月、化学及血清療法研究所(化血研、現在のKMバイオロジクス)で、ワクチンや血液製剤をつくる際、「製造販売承認申請書(認められたら承認書)」に記載されていない成分を追加したり、過剰な加熱処理を行ったりしていたことが、内部告発によって厚生労働省に知らされた。ここから不正が発覚した。
 
 厚労省は、調査し、最終的に110日間の「業務停止」命令を化血研に下す。化血研という組織はなくなり、事業は熊本県などが出資したKMバイオロジクスに継承された。
 
 20年12月、小林化工(現・サワイグループホールディングス)の薬害が表面化した。同社の抗真菌薬に睡眠導入剤の成分が混入されたため、服用した患者が交通事故を起こす。亡くなった人もいた。
 厚労省は116日間の業務停止を命じ、小林化工は製造設備や人材のすべてをサワイグループホールディングスに譲渡したが、薬不足が医療界を覆った。
 
 さらに21年3月、日医工が、品質試験で「不適合」の製品を、承認申請書と異なる方法で処理して「適合品」として出荷したことにより、32日間の業務停止命令を受ける。
 
 ここから薬不足に拍車がかかった。しかし、これほど長引くのは厚労省がメーカーに課した「承認申請書」が製薬の現実とズレているからだという意見がある。
 
 元厚労省薬系技官で、元医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団専務理事の津田重城氏は、内科医で衆議院議員の梅村聡氏との対談で、次のように語っている。
 
 「(承認申請書に)効果効能とか用法用量とか成分分量とか日々コロコロ変わらないものを書くのはいいのですけれども、製造方法は日々圧力がちょっと変わるとか流量がちょっと変わるとか、原料を含め結構変動があるんですね。
 非常にパートも多いですし、それを承認書のような格の高い行政文書に書かせたのは、今思うとかなり無理がありました」(『ロハス・メディカル』2025年春号)。
 
 https://lohasmedical.jp/e-backnumber/172/#p=17
 
 その結果、承認書と製造方法のギャップが埋まらず、薬不足が解消されないのだという。
 
 津田氏は、「まず規制を欧米のように常識的な範囲に留めるということ。
 欧米にない承認書の記載方法については、まず誰もが一致する重要工程だけに」(同前)すればいいと指摘。そのうえで、身分の安定した都道府県の職員を、PMDA(医薬品医療機器総合機構)に転籍させ、査察の能力を高めて、不正を現場で見つける体制に変えよ、と説く。
 
 「それだけで、税金を使ったり診療報酬の手当てをしたりしなくても、かなり薬不足は緩和されると思います」と津田氏は語っている。
 
 傾聴に値する意見だろう。厚労省の「角を矯めて牛を殺す」ような規制を問題視した意見に初めて出会った。
  
 色平 哲郎(いろひら てつろう)
 JA長野厚生連・佐久総合病院地域医療部地域ケア科医長
 
 大阪保険医雑誌2025年5月号掲載
 
 コラム ドクターいろひらの保険医雑誌特集・B面
※この記事は著者の許諾を得て『大阪保険医雑誌』2025年5月号から転載したものです。文責は『オルタ広場』編集事務局にあります。
https://osaka-hk.org/posts/category/magazine

(2025.7.20)
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