【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(84)

日本ネパール首相同日辞職

坪野 和子

1.日本の首相の名前を知っていますか
 日本とネパールの首相辞任の共通点は、政治体制が変わっても庶民の生活は大きく変わらないことだ。
 9月10日。日本語オンライン授業。偶然にもあまりにタイムリーな日本語教科書のトピックを2クラス指導した。
 #みん日 「みんなの日本語初級Ⅱ」49課 練習B 6-6)日本の首相の名前を知っていますか。
 日本もネパールも昨日辞職したばかり。
 「いいえ、まだわかりません」「いいえ、昨日までなら石破です」「いいえ、これからです」「いま、いません」「ネパールもいません。ネパールはどうなるかわかりません」
 ネパール人とネパール系アメリカ人のクラスのそれぞれでおなじことを言った。

 日本とネパール、両国で首相が空席になったという偶然に、教科書の設問が急に現実味を帯びたのだがシリアスではない。日本にいるからだろう。両クラスとも軽く「はは」と笑った。なんとなく両国のそれぞれに裏でなにかあると感じていて、不安は感じていないようだ。日本に住んでいるからといっても家族・親戚また友人が住んでいるのだから他人事ではないはずだ。どちらのクラスも「また?と思った」そうだ。日本の場合、誰が首相になっても大きく変わることはない。すぐ変わるから安倍から後、誰だかはっきり覚えていない。ネパール人たちは石破氏が辞める理由が理解できなかった。汚職も聞かないし、権力乱用もないのになぜ?「裏で辞めてほしいと考える人か人たちに従ったんです」と答えた。国内圧力か外国圧力か、それはわからない。だって国民になんの説明もなく辞任したから。こういう説明責任、求められる以前に辞職。選挙で負けた責任ならもっと早く辞めていればそれだけでも説明になっていたかもしれない。
 ネパール系アメリカ人は2大政党で大統領が変わると180度政策が変わるのを体感している。さらに香港在住経験があるので総統は中国の言う事を聞く人が選出されるものなのだと思っていた。だから日本もネパールも(今の香港も)政治のトップが変わっても誰であっても「良くなる」理由はなにもないと。
 ではネパールはというと…。
 「今まで王政から共産主義国家、民主主義と3回違う政治体制になった。でも、全部、同じ。どんな政治体制でも政党でもちっとも変わっていない。貧富の差、役人の搾取、政治家の国費私的流用、失業・無職、首相が誰かは意味がない」
 ああ、なるほど!どちらの国も首相が誰かというのは意味を持たない。だから「はは」と笑ったのかあ。

2.Z世代だけでない国民の不満 “corruption”と縁故主義
 別の授業で漢字の答え合わせをしていた。
 「不満」:例文「政府に不満を持った若者がストライキを起こした」
 「たった2日で変わっちゃった。えーとcorruption…腐敗」ああ!そうか!腐敗、汚職、贈収賄、その他、“corruption”一つで全部表せるのか。いきなり日本語の語彙がいっぱい増えた。もっとも試験には出てこないが。「ストライク」ではなく「ストライキ」とカタカナも増えた。あと”GEN-Z”Z世代とこれまた試験には出ないであろう語彙も。なお、私のネパール語の語彙も増えた。デモとストライキは合わせた抗議活動はバンダと言っていた時代があるそうだ。今回、最初、日本のメディアは「Z世代がSNS禁止に抗議したデモ」と報道した。在留ネパール人の若い人が日本語で「これは汚職や就職の不平等をSNSで発信する人たちが多く、それを止められました。お金持ちはどんどんお金持ちになり、貧乏な人たちはどんどん貧乏になる」顔出し動画を流していた。ショート動画は不便だ。ぼんやりしているとわからなくなる。この動画を引用できなかった。
 元々王政時代から中間カーストの役人による搾取や収賄が横行していた。外国からの支援を懐に、庶民からの賄賂は袖の下に、腹巻きする習慣はないが、ズボンにもなにか入れていただろう、靴の中もチョッキのポケットにも。王政時代、お店も各家庭も国王と王妃の額縁写真が飾られていた。ラサのネパール商店でもだ。今となれば中国領で毛沢東肖像画が飾られていたのと同じことだ。当時、見知らぬおじさんが私に言った。「姐さん、タイに行ったことがあるかい?」「ある」「タイは豊かだって」「今、発展している(英語でしか言えなかったので通じたかわからない)」「タイの王様は賢いだろ。おらの国の王様は馬鹿だからみんな貧しい」え!!私のネパール語、カタコトだから間違えた?いや、ヒンディ語と同じだし…。そしてその当時の王様は暗殺され、もっと賢くない国王が後継し、亡命した。共産主義の政党がしばらく連立政権を握っていた。中国人が町中に増え、韓国人と称する北朝鮮の商売人も大きいビルを首都カトマンズにどんどん建てた。庶民生活は観光資源だが、どんどん景観が悪くなってきてダメージを与えた。また中国あるあるで自然天然資源はどんどん持っていき、農薬も普及させて文革の負をネパールで展開した。
 その後、民主派のネパール会議派が政権を獲得するも変わらない、いやそれどころか役人や経済界では王政時代よりも縁故主義、家族主義、血縁関係が消えるどころか、より危険になってきている。ネパール会議派党首シェール・バハドゥル・デウバ。彼の妻は外務大臣、義母はかつての駐日大使である。彼は今回の抗議活動で妻とともに火傷を含む大怪我をした。他にも政治家のトップが妻、愛人、義理の息子、弟を大臣や裁判の要所につけたり、銀行の頭取に任命したりしたのだ。庶民の若者は国内では職を得られず、出たい訳ではないのが本音だが、海外へ職を求めて借金をして出稼ぎや定住仕送りという選択肢ばかりになっている。搾取と縁故主義の露骨な蔓延を訴えたいZ世代がそれを止められたことによって怒りが爆発し、放火まで至ったのだ。そしてオリ首相が逃亡した。あれ?このストーリー?というか、この流れは?

3.ネパールのZ世代 自分たちで幸せを獲得しようとしている
 世界でZ世代がミレニアル世代の人口を上まわったの2020年前後である。国内人口分布構成ネパールと日本あまりに違う。人口ピラミッドを比較すればあきらかである。そして女性1人あたりの出産1950年代6人平均からこの世代以降は2−3人である。ごく普通の世界の流れである。少子化と昔と変わらず平均寿命は低い。つまりネパール人のほとんどがZ世代であるといっていい。
 私の実感ではこの世代の女性の教育機会は意外と平等に近い。しかし現地での家事負担は日本以上に重く、女子の習い事より母親・祖母の家事手伝いに回される。在留のネパール人は娘になにか習わせたい人が多い。だがそれは彼女たちの負担になっているのだが結構頑張っている。在留のネパール人女性はインド人主婦よりもパートに出るとか就職したいと考えている。そういう女性たちは結婚前も知的な仕事に就いていた。Z世代は恋愛結婚が多い。教育が低い親たちをねじ伏せて結婚している。自分たちで幸せを獲得しようとしている。私の知る男性たちは留学生で入った場合、日本の大学に入って(入り直して)就職している。現地でも良い仕事が得られそうな高度人材も少なくない。料理人が多いイメージが強いが、多岐にわたり仕事している。彼ら彼女らは世界中に出稼ぎや定住している同胞がいるので非公式個人的な情報も得ている。ミレニアル世代と比べて行動範囲も広い。
 日本国内のネパール人を見れば、今回の抗議活動は感覚的に理解できる。より自由で平等を求めているのだ。が、誰が主導したのか、なぜ都市部の放火なのか?

 ネパールの人口ピラミッド
https://population-pyramid.net/ja/pp/%E3%83%8D%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%AB
 
 日本の人口ピラミッド
https://population-pyramid.net/ja/pp/%E6%97%A5%E6%9C%AC

4.あれ?このストーリー?若者の抗議→首相追い出し
 スリランカ、同じことがあった。バングラデシュ、同じことがあった。今度はネパール。 “corruption”で若者が怒り、抗議活動、そしてトップが逃亡。南アジアの体質?と簡単に言えない。色々な国で…。でも…スリランカ、 “corruption”していたことを利用していた国があるのでは?インドが?ん?隣の島国?ん?紅茶とココナッツの皮の輸出、宝石?首相追い出したけど、スリランカそんなに状況変わらない。
 バングラデシュ、ユヌス氏が暫定首相になったけど進展遅い。国内調整もあるが最近外国の支援を暴露しているようだ。

 中国人友人がネパールに関して「これって中国が裏で操っているよ。ネットの使い方も中国人知っているからね。おはかしい(だ)よ」ああ!まだ独立国家に見せかけた自治区を狙っているのか?中国人友人、ネパールに対して、ほぼほぼ知識がない。だが彼は香港・台湾よりもネパールのほうが御しやすいのではと考えているようだ。

 政権交代には黒幕・黒子が存在するということが少しわかってきた。

外務省海外安全ホームページ
ネパールにおける抗議活動に関する注意喚起
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcspotinfo_2025C041.html

画像の説明
1.スリランカ風刺画  “corruption”

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2.インド新聞サイト「次はパキスタンだ!」

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3. スリランカ風刺画「Z世代の雪崩」

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4.インド風刺画「オリ元首相、ラジャパクサとハシナに逃亡場所を訊く」

(2025.9.20)
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