■【視点】
日本人は政治意識が低いのか
直近の日本の国政選挙である2026年の衆議院議員選挙の投票率は56・26パーセントであり、約4割の有権者が棄権している。投票率の低さをもって、日本人は政治意識が低い・民度が低いなどと言われるが、果たしてそうだろうか。
民度の研究をおこなった政治学者の善教将大氏(関西学院大学教授)は、日本の選挙における有権者のコストに着目する。たとえば、投票所の問題である。高齢者の中には、投票所が遠すぎて、選挙に行けないという方がいる。2021年の総選挙と2022年の参議院議員選挙における意識調査によれば、棄権した70歳以上の有権者の3割以上が「体調がすぐれなかった」を挙げている(善教将大『民度』中公新書、2025年、108~109頁)。
特に人口の少ない地方の場合、投票所が自宅から遠い地域に設置され、投票に行くのも一苦労という人も多いだろう。現に、私も地方の国立大学の大学院に通っていたときに、投票日が朝からアルバイトのため、投票に行けなくなった時があった。そこで不在者投票が出来るところを探したら、自宅付近から1日にバスが1、2本しか通らないへんぴな場所が不在者投票所に指定されていて、乗用車を持たなかった私は1日がかりでやっとの思いで不在者投票したことがある。
また、善教氏は自分が住んでいる自治体、あるいは選挙区で投票するには、その地に住民票を移してから3ヶ月以上を経過する必要があるという3ヶ月ルールを問題にしている。これでは4月に実施される統一地方選挙で自分が住んでいる自治体の選挙に参加出来ない人が数多く出現してしまう(年度末に移動する人が多いため)。
他に、善教氏は投票率低下の原因として、中選挙区制から小選挙区比例代表並立制への変更を挙げている。中選挙区制の下では一票の格差是正が不徹底であり、非都市部の定数が過分に配分されていた。しかし、選挙制度の変更によって一票の格差の是正は徹底されるようになり、格差是正は非都市部の定数を削減することによって成し遂げられた。これによって、都市部より投票率が高かった非都市部での政党や政治家の動員力が弱まり、投票率が低下したという。投票率を上げるために非都市部に過分に定数を配分しろとは言えないので、この問題については本稿では論評しないでおく。
◆ 日本の公職選挙法は、規制が厳しい「べからず法」
フランス出身の政治学者、グットマン・ティエリー氏(三重大学教授)はフランスと比較して、日本の選挙制度には他の民主主義諸国と比較して特異な制度が多すぎ、それが有権者の政治的関心を奪っているという。確かに、日本の公職選挙法は規制が厳しく、別名「べからず法」と言われており、さらに時代遅れの規定も多い。
昔、ある候補者の選挙活動をボランティアとして手伝ったときに、「ボランティアにふるまうのがお茶とせんべいならば合法だが、コーヒーとケーキを出すと買収となる」と聞かされて驚いたことがある。今から10年以上前の話なので、今は変わっているかもしれないが、ずいぶんと時代遅れの規定だと思ったことがある。
◆ 民主主義国家ではあまり見られない制度が日本にある
グットマン・ティエリー氏が問題にするのは、まず選挙期間である。日本では国政選挙でさえ2週間程度しか選挙活動が出来ない。そのため、無名の新人候補が自分の名前を有権者に浸透させるのは困難であり、どうしても世襲候補や知名度が高いタレント候補が有利になる。
日本でも選挙期間前に「政治活動」としてなら活動をおこなうことが出来る。たとえば、大物政治家と二人で写った二連ポスターを貼ったり、演説会の案内という建前でポスターを貼ったりすることが出来るが、短期間のうちに色々なポスターを貼り替えるのはかえって余分な金と労力が必要になってしまう。ならば、他の欧米民主主義国家のように、誰でも思い立ったときに選挙活動を始められるようにしたほうが、よほど金がかからない選挙になるのではないかという。
また、高すぎる供託金も問題である。供託金制度は売名を目的とする候補者が濫立するのを防止するために設けられている。私は敗戦直後の新聞を読んだときに、自分の名前を売り込んだり、店の商品を宣伝したりするために立候補した人物がいたという記事を読んだことがある。宣伝方法が限られた時代、選挙に立候補するというのは手っ取り早く自分の名前を売り込む方法だったのかもしれない。
しかし、今や供託金制度が売名を目的とする候補者の濫立を防止するという目的を果たしているとはいえない。2024年の東京都知事選挙では某政治団体が大量の候補者を擁立し、さらに「掲示板をジャックする」といって、寄付金を払った人に某政治団体の候補者のポスターを貼る掲示板の権利を譲渡して問題になった。
逆に供託金が高すぎるゆえにお金のない小政党や候補者が立候補をあきらめ、有権者の選択肢を奪っているのである。供託金制度は欧米民主主義国家では見られない制度であり、イギリスでは同様の制度があるものの、その金額は10万円程度と低額という。せめて供託金をイギリス並みに引き下げて、誰でも選挙に出ることが可能にすることが必要ではないだろうか。
日本の小選挙区制で採用されている1回投票制も問題である。下院議員選挙で小選挙区制を採用しているフランスでは2回投票制が実施されている。これは、1回目の投票の1位と2位(結果によっては3位まで)が決選投票に進み、議席を争う制度である。1回投票制の場合、各党は選挙区調整で膨大なエネルギーを必要とするし、小選挙区で当選する見込みの少ない政党を支持する候補者は自分の票が死票になるのを怖れて渋々、大政党のよりましな候補者に投票するようになる。しかし、2回投票制にすれば1回目の投票では各党は選挙区調整を考えることなく候補者をたてられるし、有権者も自分の好きな候補者に投票出来るというわけである。
グットマン・ティエリー氏は「供託金制度や選挙期間といった民主主義国家ではあまり見られない制度を廃止し、決戦投票制を導入するだけで、日本の政治は劇的に面白くなるはずだ。裏を返せば、これらの改革なしには、日本の政治が劇的かつ根本的に変わることはなく、有権者の政治参加意欲が高まることもないだろう」と述べている(グットマン・ティエリー&グットマン佳子「投票率の低さは『国民性』のせいではない」『VOICE』2025年11月号、105頁)。
(政治学者)
※この記事は許諾を得て季刊『社会運動』(2026年4月発行)から転載したものです。文責は『オルタ広場』編集事務局にあります。
季刊『社会運動』2026年4月発行【462号】特集:水 グローバルな汚染とローカルな抵抗 https://cpri.jp/8722/
(2026.4.20)
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