【コラム】

有閑随感録(76)

「私立大学定員割れ減少」
矢口 英佑

 日本私立学校振興・共済事業団の調査で、2025年度の全国の私立大の53.2%の316校が入学定員数より少ない「定員割れ」だったことが公表された。過去最悪だった2024年度の59.2%より38校少なく、5年ぶりに改善したという。またそれぞれの大学が定めている定員に対する入学者の割合を示す「入学定員充足率」が私立大学全体で101.61%となり、3年ぶりに100%を超えたとしていた。
 その理由として18歳人口の一時的な増加が要因と共済事業団は見ているようで、それはまちがっていないだろう。確かに2025年度は2024年度より2万7111人増えて109万562人だった。18歳人口が増えれば、理屈としては大学への希望者も増えるにちがいないからである。しかしこの18歳人口増について、各都道府県別に見るとなぜこんなにも定員割れ大学が減少したのか、単に18歳人口増だけがその要因なのかと不思議に思えてくる。
 
 都道府県別18歳人口予測推移(文部科学省2023「学校基本調査」)を見ると、2021年を入学定員数100%としてみた場合、2024年に100%を超えていたのは東京都、福岡、沖縄の3県でしかない。一方、2024年から18歳人口が増加したのは宮城(東北)、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川(関東)、石川、静岡、愛知(中部)、大阪、兵庫、和歌山(近畿)、岡山、広島、山口(中国)、香川、愛媛(四国)、福岡、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄(九州・沖縄)23都府県と全体の半数に満たない。しかも1%以上増加したのは東京、福岡、熊本、宮崎のみで、そのうえブロック別で見ると増加しているのは関東98.4%→99.0%、中国97.0%→97.4%、九州・沖縄99.3%→101.0%で1%以上の増加は九州・沖縄地域でしかない。他のブロックでは減少しているのである。
 もっとも見方を変えると、定員割れ大学が昨年に比べて38校しか減少していないのは18歳人口が約2万7千人しか増えていないのだから当然で、にもかかわらず全国平均で入学定員充足率が100%を超えたということはどういうことなのかとも思ってしまう。
 
 18歳人口増以外に定員割れ大学が減少したのには、それぞれの大学の特色を生かした各大学の入学者増への努力があるのだろう。
 私立大学にとって文科省から私学事業団を通じて配分される私学助成金は経営上、極めて重要な資金である。しかし、文科省は学部単位で収容定員に対する充足率が5割を切ると助成金は原則不交付としている。また、同一地域に同一分野の学部がないなどを除いて、3年連続で充足率が8割を下回ると、学生の授業料などを一部支援する制度の対象から外すことにしている。
 現在、文科省は充足率が5割以下の学部が一つでもある大学には学部の新設を認めず、2029年度以降はこの基準を7割以下に引き上げることになっている。
 このような文科省の方針は大学側の定員減や新しい学部増設といった自助努力を、特に小規模大学や地方大学には推奨していないこと示している。大学が定員を減らせば充足率は上がるかもしれないが、大学経営の大部分を占める授業料収入は減ってしまうからである。また学部増設は総定員数を同じか減らさないと新たな経営危機をまねくことになる可能性が高くなる。
 したがって各大学の努力はたとえば女子大学が男女共学大学への転換を図ったり、小規模大学では、日常的にきめ細やかな学生との接触や個別対応の教育などを長所としたり、地域との結びつきを強めて、その地域のまちづくりの重要な担い手を育成する、たとえば看護士や保育士を送り出すなどの努力が重ねられてきていると思われる。
 また経済的に大学への進学をあきらめていた若者たちへ各大学それぞれ授業料減免制度を充実させ、多様な奨学金制度の拡充、さらには国の修学支援制度などによって、大学進学者が増えた可能性がある。
 さらに少数だろうが短期大学から4年制大学への方向変更者もいると思われる。
 
 しかし、全国平均で入学定員充足率が100%を超えたということは全国の半数以上の地域で18歳人口が減少し、ブロック別では関東、中国、九州・沖縄の3ブロックしか増えていないことをみれば、結局、大都市圏にある大規模大学や地方でも中規模以上の大学に入学者が増え、平均数字を押し上げた結果と言えるのだろう。
 2027年以降、18歳人口は減り続けていき、2035年には100万人を切る。現在、出生数が2024年には68万人台となってしまっている日本の大学は結局、厳しい言い方になるが淘汰されていくしかない。
 その意味では入学定員割れ大学減少はほんのいっときの慰めで、これからはますます生き残りをかけた厳しい大学経営が待っているのである。
 
 元大学教員

(2025.8.20)
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