【コラム】
有閑随感録(88)
また中部電力?!
矢口 英佑
中部電力が浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)3、4号機の再稼働審査を取り下げた。地震動データの不正を繰り返してきただけに(本欄で何回か取り上げた)、審査の継続を断念するのは自業自得とはいえ、当然だろう。
このような時にまた?と思うと同時に、さもありなんと思わずにいられなかったのが、この中部電力とグループ会社(中部電力ミライズ)が2026年9月10日に、つまり地震動審査取り下げを決めた1日前に、次のようなことを公表していたことだ。「2024年4月以降からの電気料金、合計12億円程度を過大請求していた」と。
報道によれば、2026年8月時点で対象となる契約数は愛知、静岡、三重、岐阜、長野の5県で約500万件、家庭向けのほか街路灯などを取り扱う自治体も含まれているという。
事の起こりは「託送供給等約款の変更」、つまり2024年4月1日から各家庭での電気使用料金の見直し(値上げとは言わない)をしたことからだった。今の世の中、何でもかんでも値上がりする状況で値下がりなどということはほぼ起こり得ない。そんなわけで、一般家庭向けの低圧電気料金を値上げし、標準的な契約では「7291円から7329円」の38円の値上げになると公告され、実際、公告通りに値上がりしていた。
ところが、原価の算定に割引が適用されていなかったために請求金額が高めになっていたというのである。それにも拘らず、2年以上利用者からそのままの金額を納めさせていたのである。極めて重大な企業倫理が問われるのは言うまでもない。だが、さらに呆れるのは、2024年2月に経済産業省に電気料金の値上げを申請する前の1月に原価算定が上記の理由から間違っていることに気づいていたというのである。つまり誤りに気づかずに誤った電力料金を利用者に請求し続けていたわけではなかったのである。
2年以上にわたって〝知らぬ顔の半兵衛〟を決め込んでいたことになる。こんなことが罷り通る企業組織があるのが信じられないのだが、原発地震動データ改竄を何度も繰り返してきた中部電力であれば、むしろここでの企業体倫理観では、何ら不都合はなかったのかもしれない、と変に納得してしまいそうになる。
こんな企業体だからだろう、ミスに気づきながら経営戦略本部の複数の役職者が重大な事案との認識を持たず、即座に対応しないどころか、そのまま放置してきたというのである。「経営戦略本部」がどのような役割を果たしているのか詳細はわからないが、経営の戦略を考える中心母体といった意味から名付けられているようであり、会長や社長に極めて近い組織であろうことは容易に推測がつく。事は電力料金値上げ案件であり、この組織トップ2人にこの誤りについての報告がなかったとは思えない。
今回、太田経営戦略本部部長は9月10日の会見で、「誤りに気づいていたが、修正しなければならないという重大性の認識を持たなかった。即座に修正すべきだった」「非常に大きな反省事項」と謝罪していたが、「反省」などという言葉で済まされる事案だろうか。これは企業ぐるみの犯罪であり(過払金を返還すれば済むという問題ではない)、戦略本部部長の謝罪会見で事を終わらせようとしている中部電力の姿勢からは「犯罪」の認識どころか、「反省」すら、その場しのぎの言葉のように響く。
〝盗人猛々しい〟という言葉がしきりに頭をよぎる
この企業体が社会の常識、はたまた良識から外れた組織であるらしいことは9月14日に浜岡原子力発電所の3・4号機について、原子力規制委員会に提出していた再稼働申請を取り下げの発表時にも垣間見える。
この会見では地震動データを不正に操作していたことの経営責任をとって勝野哲会長と林欣吾社長、水野明久相談役の辞任も発表された。
これまで繰り返しデータ不正を行い、発覚するたびに〝深く陳謝〟しながら、この3人が職位から降りようとしなかっただけに、今頃になってようやく辞任とは遅すぎはしないかと思ってしまう。
社外弁護士による調査委員会の報告書によると、「虚偽説明」「隠蔽」などの不適切行為が繰り返され、さらに不適切行為を容認するこの企業の「独自の正当化理論」があったとしていた。しかもほかの不祥事でも「同じような考え方が根底にあるように見受けられる」と指摘していたが、2026年8月には浜岡原発の廃炉費用を巡る不正手続き、今回取り上げたが電力料金算定ミスの2年以上の放置なども「独自の正当化理論」が働いていたにちがいない。
こうした社内環境の中で辞任する林社長は、浜岡原発の再稼働の再申請は諦めておらず、「企業体質を見直し、生まれ変わることで再申請を目指す」としていた。ところが、この人物は不正が発覚するたびに「謝罪」の言葉がこれまでも繰り返されてきているのだが、そのたびに内実が伴っていないと感じていた。
今回も林氏の社長辞任の後、安井稔専務が10月1日付で社長に就任するという。ところが、勝野哲会長、林欣吾社長、水野明久相談役が新たに特別嘱託に就任するというのだ。
「虚偽説明」「隠蔽」などの不適切行為を繰り返し、その不適切行為を容認してきて、この企業の「独自の正当化理論」を作り上げてきたトップ3人は隠然として居座り続けるのである。
これで林社長が言う「企業体質を見直し、生まれ変わる」と考えているのであれば、中部電力とその関連企業の将来が明るく輝くとは到底思えない。
元大学教員
(2026.9.20)
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