【北から南から】中国・吉林便り(4)

短い春の吉林です

今村 隆一


 今年の吉林、3月初旬は例年より暖かく春が早く来た感じがしたのですが、その後は、雪は降らなかったものの暖かくならず、4月になっても肌寒く、地域暖房となっている暖気供給は昨年10月23日から開始し、100日後の今年4月10日で終わりました。暖気供給は、1シーズンに住宅1㎡当たり27.5元を熱力費として払わなければ暖水が供給されません。去年10月に2,250.6元(40,510円)払って、暖かい生活が保証されたのです。私の家の室温は大体25度(団地の各部屋では温度の微調整ができない)ありましたので、窓を開けて室温を調整していました。だから暖気供給が終わる(市が供給期を決める)と部屋の気温が下がります。今年は気温が10度以下の時間帯の長い日が続いて例年にない寒い春を過ごしました。

 大学では先生や留学生の風邪引きが4月は多く、5月になっても鼻をグズグズさせている人が多くいました。とはいえ、桜の開花便りが日本から届き、それを追うように、桜の花に見間違える花が咲いているのを吉林大街(吉林市の真ん中を南北に通っている大通り)で4月22日確認しました。こちらでは杏樹(あんず)が私の住む近所まで約1.5キロに渡って大通りの街路樹となっていて、1年の内で約1週間咲き誇り、花の一番美しい季節となります。初めて見たときは桜と勘違いしたほど似ているのです。しかし、華やかさと艶やかさは花の色と落花時の様態に差があり、桜には及ばないと思いますが、杏子の花も十分眼を楽しませてくれます。

 桜の開花に続いた日本のニュース、地震については驚愕の至りです。私は小学生から高校生時代の大半を九州福岡県で過ごしたことから、地震の体験は関東と比べ少なく、有っても微震でしたので、4月14日と16日、その後の余震による熊本地震には、被災者の方々がとても気の毒になり、ネットニュースで4月末までに千回を超える余震と被害の拡大を知り、一刻も早く救援と復興が真に被災者に寄り添って実施されるよう祈る気持ちが続いています。日本語の授業中、中国人学生に熊本地震発生について聞いたところ、皆知っていました。しかし同時期に発生した南米エクアドルの大地震については知りませんでした。

 4月から日本に留学した中国人学生からは中国の友人向けに熊本地震被害についてしきりにネット発信されていて、それを私も見ています。起きている時間の大半、スマホとにらめっこ(これを中国では“低頭族”と呼ぶそうです)している彼らにとって日本のことは関心が強いのです。中国でも大地震の災害は多く、1976年の唐山(河北省)地震、2008年の四川地震は記録的大被害でした。資料からも明らかなように、中国大陸にも活断層が、北京を取り囲む河北省から南に特に四川省雲南省貴州省など華南地方に多く走っています。一方、東北三省(黒竜江・吉林・遼寧)での地震は少なく、吉林省には長白山(朝鮮語では白頭山)という有名な休火山があり、吉林市周辺にも温泉はあるのですが、地震はほとんどありません。戸外活動で山を歩いていて、吉林一帯は地質の形成が古い時期からされてきたことが、岩石が土中にしっかり埋まっていることから分かります。また地元の人誰もが、吉林一帯は岩盤が厚く安定している、といいます。これは科学的根拠にもなっています。吉林では時々工場や工事現場から大きな音が聞こえることがありますが、4年程前小さい音で縦揺れは感じなくてドカンという音を耳にしたことがありました。その時は吉林市の北東180キロの松原市で震度2級の地震があったのですが、それ以降感じたことはありません。

 さて今年4月で私の吉林生活は9年目に入りました。私の生活は一途に、平日は吉林市北華大学で漢語と日本語の授業に、週末は戸外活動に参加しているのですが、改めて吉林の街がこの8年間でどう変化しただろうかと考えてみますと、都市開発と都市環境につきます。高層ビルの建設が市中心部から郊外に広がって建設ラッシュは止まることを知りません。また、高速鉄道が東に向かって吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉市と図們市まで延び、15年12月に操業が開始されました。すでに高速道路も開通していますが、吉林市から東250キロの都市までが、普通列車でそれまで約9時間だったのが2時間半で結ばれました。吉林から80キロの長春まで高速鉄道で40分で到着するのですから、時間短縮は目覚ましいものです。

 吉林市には地下鉄はありませんが公共のバス路線が網の目のように張られていますし、夜中や早朝はタクシーが走っていますので市内移動は何時でも出来、とても交通便利な街です。市中心部には北から龍潭区、昌邑区、営船区、豊満区と4区あり、私が住んでいる地区は南の豊満区で、通称「江南(ジャンナン)」と呼ばれています。中国で江南というと揚子江の南に位置する広い地域を指しますが、吉林での江南は豊満区をさします。4区には約200万人が住んでいて、他に吉林市が管轄する5つの市は北の舒蘭(シュウラン)市、東の蛟河(ジャオハ)市、南の樺甸(ファディエン)市と盤石(パンシー)市、南に隣接する一つの永吉(イョンジィ)県を含めると、総人口は2015年末で426.24万人と発表されています。

 中国で人口500万人以上の都市を大都市、1千万人以上は超大都市というそうで、超大都市は重慶、上海、北京、成都、天津の5都市がそこに当たり、吉林は他市と比べて決して大きいとはいえない、地方都市なのです。といっても主要道路の交差点は立体化が進み、郊外に向けて経済開発区と住宅のビル建設も進み、バスも新しくなり路線も延長されています。吉林市の特徴は松花江(ソンホワジャン:満州語でスンガリ)という大きな川が市の中心にS字状に流れていて両岸に沿って住宅と道路があります。松花江は源流として、南に長白山系から豊富な水が松花湖(ソンホワフ)に集まっています。松花湖として堰き止めているのが満洲国時代に建設された当時アジア最大の「豊満ダム」と「水力発電所」が象徴的建造物で、改修整備を経て、現在も豊富な水と電力を市外や省都長春に送っています。また吉林市内の北部(江北:ジァンベイといいます)には化学工業を中心にコンビナートとなっています。この一帯の空気は汚れがひどく、同じ吉林市にもこんなに空気汚染されている所があるのか、と思わせるところです。北京をはじめ「PM2.5」による中国の大気汚染は日本にも伝わっていますが、吉林市では2012年の12月に濃い霧霾(ウ-マイ:PM2.5)が発生しています。この大気の状況については昨年から吉林市気象局では天気予報で6段階(優・良・軽度汚染・中度汚染・重度汚染・厳重汚染)で表示発表していて、毎日確認できます。

 大気汚染は3年前の初年度の印象が強かったせいか、昨年から今年にかけては比較的軽く済んでいる印象ですが、自動車の増加は確実に進み、団地内の駐車場整備が後手になり、団地内の通路と道路の歩道や車道にも停車されています。駐停車禁止の標識もなく、朝夕の通学通勤時間帯は、交通事故と合わせ渋滞も頻発しています。大気汚染については誰もが第一に工場の廃棄ガス、第二に車の排気ガス、第三に農家によるトウモロコシの枯れた穂などの大量焼却が原因だといいます。都市生活の近代化が進む一方、環境悪化も進んでいるといえます。喫煙者も男女はおろか、禁止されているのですが中高校生も喫煙するのをよく眼にします。たばこの害はテレビでもPRしていたのですが、残念ながら効果が上がっているようには思えませんし、吸い殻のポイ捨ても止みません。

 この4月末から、私の家ではテレビ(以下TV)が見れるようになりました。一般にはTV局(公営)と契約し受信器をもらい受信料金を払って見るのですが、我が家では、TVチューナーを使いインターネット(公営通信局)受信して見ていたのですが、昨年10月からチューナーに問題があり受信できなくなりました。昨年は「抗日戦争勝利70周年」記念行事が盛んにTVでも上映されて、9月3日は「抗日戦争勝利70周年」行事が北京で行われました。その5ケ月前から軍事パレードの予行練習、抗日戦争ドラマ、老兵や家族のインタビュー、日清戦争から始まった日本の中国大陸侵略と中国人民の抵抗などTVを見る限り、国挙げての大宣伝でしたし、その後も坑日ドラマは頻繁でした。

 インターネットが発達した現在、日本の情報もすぐに知ることができ、兵器や軍人に辟易していたこともあり、TV無しの生活も良いかなと、この半年放置していたのですが、チューナーを取り換え、TVを見始めました。すると偶然か、市民生活に関連して日本の葬送、都市住民の看取りと送葬、病院の霊安室について紹介していました。また日本の外務大臣の訪中模様を、内容は大して代り映えしないように見えましたが、何度も繰り返し放送していました。外務大臣に当たる中国の外交部長は王毅氏で、もう10年位前になりますが以前駐日本大使をされていて、何度が小さな講演会で彼が流暢な日本語を使っていたのを知っています。あの方がTV画面に映るのを見て、日中政府関係が円滑に行かないのがもどかしく感じています。ともあれ、嫌中を煽り、ヘイトスピーチまがいの蔑視が透けて見える安倍内閣を抱えていて円滑に行くはずはない、仮に慰安婦問題のように表面上解決を装っても、解決にはならない。

 日本の市民が誘導され、無理解な対中国(対韓国も対北朝鮮も)認識がある限り、真の友好は成り立たないと最近強く感じています。しかし悲観することはない。ではどうすれば良いか? 先ず相手をよく知ること、だと。そのためには実際の交流で、違いを知り、違いを認めつつ交流を続けることしかない。違いを認めるのが「難しく思う」と難しいが、それは意外と簡単なことであります。中国理解の簡単な方程式を、本オルタマガジン125号(2014.5.20)で李妍焱(り・えんえん) 駒澤大学教授が提示しておられます。それは「日本の状況をすべて×10倍にして想像してみる」と良いと。私の吉林生活では今でも驚いたり呆れたりすることはあるのですが、この方程式で物事を見直すと、私のなかでは多くが解決します。解決しない場合はどうするか? 解決できるまで違いを違いとして認めていれば済む、と思っています。もちろん粘り強く解決の途を捜して行くことは重要でそれは双方の共通課題だと思うようにしています。

 (筆者は中国吉林市在住・大学日本語教師)


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