【フランス便り】(43)

貧富格差の拡大と超富裕税(ザクマン税)の提言

鈴木 宏昌

 21世紀になり、多くの先進国で、富裕層と貧困層の格差が拡大している。この格差の拡大は、1980年代に始まり、1990年代から2000年代に加速した。その背景には、レーガンやサッチャ―の掲げた新自由主義の浸透と金融市場の勃興、そして市場のグローバル化がある。同時に、デジタル化が進み、マイクロソフトやグーグルといった企業が世界のスタンダードを定め、独占的な地位を占めることにより、その創業者・株主は巨万の富を得ることになった。ITなどの新産業では、市場競争の勝者がすべての市場を独占し、そのレントとして、富が、その独占から生まれる莫大な利益が、創業者に集中する。その昔、市場の秩序に反するとして禁止されていた独占禁止法は過去の遺物になってしまった。
 有名なフォーブス社の世界の長者番付を見ると、超富豪はアメリカや中国に多いが、経済規模の小さなフランスでも、ルイ・ヴィトンのベルナール・アルノのような世界のトップ10に顔を出す人もいる。日本でもユニクロの柳井氏やソフトバンクの孫氏などは世界の長者番付に載っている。

 ところで、フランス人は一般的に「平等」と「公平」に敏感な国民である。フランス革命時の「法の前にはみな平等」という人間宣言がいまだに法の根源として生きていて、現憲法まで引き継がれている。そのためか、多くのフランス人やマスコミは格差とか差別に非常に敏感で、大金持ちには警戒心あるいは反感を持っている。この点、アメリカでは億万長者は成功者として尊敬されるのとは対照的である。

 アカデミックな世界でも、フランスの経済学者は格差問題に熱心である。「21世紀の資本」の著者ピケティを中心としたグループは世界やEUの貧富の格差に関するデータ・バンクを作り、とくに超富裕層の動向を追い、毎年レポートを出している。このグループの一人、若手経済学者ズュクマン教授(Zucmanはフランス語の発音ではズュクマンだが、アメリカなどではザックマンとして知られていると思うので、これ以降ザクマンを使う)は、最近「超富裕層」に対し、最低2%の資産税を課することを提案した。折しも、少数政権のルコルニュ内閣は、2026年の予算編成に苦労していて、何とか新しい財源を探している時だったこともあり、中道の一部、社会党やエコロジスト、極左がザクマン税の提案に飛びついた。これに対し、中道の多数、保守、経営者団体などは猛反対を行った。このザクマン税の提案は、一度は国民議会の討議にまで行ったが、その後、ルコルニュ内閣が反対の立場をとったこともあり、立ち消えとなった。ただし、このザクマン税の提案は、貧富の格差縮小を政治綱領の中心としている左翼政党にとっては、天から降ってきた提案なので、今後もこの議論は続くものと思われる。

 本稿では、この興味深いザクマン税の提案を取り上げ、その様々な側面を考えてみたい。日本では、貧富の格差問題や超富裕層の存在は余り大きな問題となっていないようだが、一握りの超富豪が株や金融資産の運用などで急成長するという図式は日本でも起こっているのではなかろうか?

 1節では、フランスにおける貧富の格差の動向を政府統計でみる。それによると、所得再分配前には、もっとも貧しい3割の世帯の所得は、ここ30年間で、相対的に低下した。そのため、貧富の格差はかなり広がった。しかし、社会保障や税による所得再分配後の可処分所得をみると、低所得者層への様々な社会政策などのお蔭で、格差の広がりは確認されない。国際的には、フランスの格差はEU平均より低く、ドイツやイタリアとともに格差の低い国となっている。
 ところが、豊かな1%の層を追うと答えは異なる。ここ30年間、99%の世帯の可処分所得がわずかな上昇あるいは停滞する中、1%の富裕層は株や配当、それに金融資産の運用で近年も高い成長を持続している。このように、一部の超富裕層(企業のオーナーおよび株主、ファンドの運用者、弁護士や医師などの自由業、スポーツ選手)に着目すると、格差の拡大は間違いなく起こっている。

 2節はザクマン税の内容を紹介する。もともとのザクマン税の提案は、2023年にブラジルで開かれたG20のために、彼を中心としてまとめられた2023年のレポートに遡る。その骨子は、世界中の超富裕層(10億ドル以上の資産を有する人達)は、会社税の低い国に本社を置いたり、タックス・ヘイブンの国に資産を移したりし、出身国で相応の税を払っていない。そこで、各国が協力し、10億ドル以上の資産を有する超富裕者に対し、資産の最低2%の税を課する国際協定を結ぶべきとする提言をまとめた。最近フランスに戻ったザクマン教授は、その先進国への提案を焼き戻し、フランスだけでも超富豪に対する最低資産税2%を導入し、国の新たな財源とすべきと提言した。それが丁度議会で2026年の予算編成と重なったので、ザクマン教授は一挙に時の人として、政治家やマスコミの注目を集めた。

 3節は、このザクマン税の提案に対する賛否両論の議論を眺める。政治家のレベルでは、左翼勢力と中道や保守と明白に賛否が分かれるが、経済学者の中でも、経済成長を重視する立場と社会正義を擁護する立場に分かれている。トランプの登場で、国際的な課税はしばらくあり得ないが、同時にITあるいはAI産業などで、一部の人のみが富を集積する動きは今後強まると思われるので、超富裕層への課税はどこの国でも議論されるべき問題だろう。

 1 フランスの貧富の格差拡大の現状 

 フランスの統計局は、1996年以降、毎年、国内に住む人の生活水準と所得と資産の動向を調査している。生活水準は世帯(独身者も一世帯)の可処分所得で測定し、持ち家のある家庭の場合は、家賃を払ったものとして推計している。その結果を所得格差の指標である「ジニ係数」、「分位間格差(もっとも貧しい『第1分位』ともっとも裕福な『第9分位』のフロアの格差)、「下位10%と上位10%の境界線にいる人の所得の差」あるいは、「もっとも貧しい20%と最上位の20%の所得の総和と資産の総和の格差」の3つの指標で計算している。これを直近の2024年のレポートでみてみる(INSEE, Revenus et patrimoine des ménages, Insee Références, 2024)。

 まず、税や社会保障などの所得再分配以前の実質平均所得(賃金、年金、配当、金融資産からの利益)は、1996年から2023年にかけて24%ほど上昇した。この間には、2008ー2009年の金融危機、2020—21年の新型コロナという危機を経験したので、その影響が生活水準の成長率に響いている。1996年から2008年までは、年率で1.4%を成長率だったが、金融危機とその後2015年まで全く停滞した後、2016年からは0.9%の成長率で推移している。
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 次に、貧富の格差をみると、全体的な指標であるジニ係数は1996年の0.347から2021年の0.373とかなり拡大している、また、上位20%と下位20%の所得層の総和という格差も1996年の0.30から2021年の0.40へとこれも大きく上昇している。ところが、第1十分位と第9十分位の指標は前の2つの指標とかなり異なり、1996年から2010年まで、むしろ格差が縮小した後、格差が多少拡大し、結局1996年の格差と同じレベルになっている。この3つの格差の指標の差は、十分位格差は、各分位のフロアの数字を使うので、少なくとも第9分位のフロアの世帯の所得は貧しい層と同じように上昇あるいは停滞したと解釈することができる。 
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 そして、名目の所得格差が拡大した要因を、他の所得階層がここ30年間ほとんど同じような名目所得の改善をみる中、最下層の20%の世帯のみが相対的に貧しくなったため、全体的な所得格差が拡大したことを指摘している。また、貧困層の相対的な所得の低下は、この層が持ち家を所有していなかったため、2000年前後から加速した不動産の高騰の恩恵を受けられなかったためとしている。実際、7割以上の世帯が自分の家(アパートやマンションを含む)を持っていたのに対し、最下層の人は持ち家を持たず、低所得用の社会住宅や借り家に住んでいる。なお、フランスの不動産の価格(フランス全体の1平米の価格)はここ30年で3倍に昇り、とくに2000年から2007年にかけて大都市を中心として、不動産価格は2倍になった。
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 ところが、最上位1%の世帯はこれとは異なる動きを示している。2004年から2021年にかけて最上位1%の所得の合計は、全体の6.3%から7.7%と大きな伸びを示した。この最上位層の急成長の要因は、この層が企業の大部分を所有し、金融資産も豊富に持っているので、そのため、賃金と年金に頼る99%の世帯の動きとは異なり、高い成長率を維持した結果であると指摘した。
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 次に、税制度や社会保障、福祉政策などによる所得の再分配後の可処分所得をみると、上記の指標は格差の拡大を示していない。例えば、分位間の格差(D9/D1)は1996年に3.51であったものが2021年には3.41となっている。ジニ係数は、1996年の0.274から2021年には0.290と拡大しているものの、もう一つの指標である貧しい20%の所得合計は1996年の全体の9.0%から2021年の8.6%とあまり変わりなく、最上層の20%の可処分所得も36.7%(1996年)から38.3%(2021年)と微増にとどまっている。つまり、フランスが誇る社会モデルのお蔭で、豊かな層から貧しい世帯への所得の再分配が行われ、世帯間の可処分所得の格差は大きく縮小する。その端的な例として、この調査では、豊かな層(中位数の1.8倍以上)は、所得の再分配前には貧しい層の18倍の所得があったものが、再分配後はわずかに3倍の格差に縮小したとしている(2019年、p. 13)。なお、EU諸国との比較では、フランスの貧富の格差は、所得再分配後は、EUの平均を少し下回り、ドイツやイタリアと同等である。
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 所得再分配のメカニズムとしては、税(所得税、固定資産税、会社税)と社会保障(疾病、老齢年金、家族政策、失業保険)、社会・福祉政策(例えば、RSAと呼ばれる最低保障給付)、住宅補助金など数多い。中でも、社会保障と累進的な税制度が豊かな層から貧しい層への所得再分配に大きく貢献している。その象徴的な数字は、最下層10%の世帯では所得の約5割が社会保障や社会的ミニマムによる手当や給付からなるという。もっとも、これらの手当・給付は、そのすぐ上の層(D2)から急速に減少し、労働所得が増えてくる。
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 次にフロ―の所得ではなくストックの概念である資産格差をみてみよう。資産は長年の富の集積であるため、所得に比べるとどこの国でも格差は広がる。フランスのもっとも裕福な10%の世帯は国の総資産の47%を所有する(2021年)。そのうち、裕福なトップの1%は実に全資産の15%を持っている。
 この統計の始まる1998年から2021年にかけて、7割の世帯の資産が上昇する中、3割の世帯はまったく資産が増えていない、その大きな理由は、家を所有している7割の世帯がこの30年間に資産が伸びたのに比し、持ち家がなかった3割の世帯は、相対的に貧しくなった。また、裕福な層は、金融資産もかなり持っている。企業などの職業的な資産になると集中傾向はさらに顕著で、ほとんどこの資産は5%の所有者に集中する。
 これに対し、貧しい30%の人の資産はわずかな預金と自動車などで、負債も多く抱えている。フランスの有名な社会的モデルも資産格差に関しては無力であることは明らかである。だからこそ、次に検討するザクマン税の提言が大きな議論を巻き起こしたといえる。
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 2 ザクマン税の提言と巻き起こした議論 

 経済学者ザクマン教授はタックス・ヘイブンの問題や超富裕層への課税を研究し、その若さ(現在39歳)にもかかわらず現在世界的に注目されている俊才である。ピケティの下で研究をはじめ、その後、イギリスのLSEを経て、カリフォルニアのバークレ―校で教授、そして最近ENS-Paris-Saclay の教授として迎えられている。格差問題の研究で有名なピケティのグループに属し、富裕層に対する課税問題を研究するとともに、積極的に社会的な発言をしている。すでに、2023年には、ブラジルのルラ大統領の諮問で、G20に向けて、世界の超富裕層への課税問題の報告書をまとめている。
 その後、フランスに戻ったザクマン氏は同じ論理で、フランスの超富裕層に対する特別課税を提唱した。フランスの超富裕層(資産総額1000億ユーロ以上)は1800人ほど存在するが、その多くは節税対策を行い、相応の税負担をしていないことを指摘する。

 フランスの独立系研究機関IPP の2016年の研究によると、フランスの実質税率は99.9%の世帯までは累進的で、0.1%のレベルでは46%までに上る。しかしその後は累進性が低下し、もっとも豊かな0.0002%になると26%まで落ちてしまう。
 その理由は、これらの一握りの超富裕層は資産の大半が金融資産(株や債券)と会社の所有なので、金融資産を会社税の低い国やタックスへブンの国に移すことが可能である。また、会社所有者の場合はholding 会社を利用し、国内の子会社の利益を低くしたり、内部留保を増やし、課税される利潤や所得を低く抑えている。さらに、不動産の場合には、外国、例えば、スイスやアラブ首長国連邦のアブダビといった資産に対する税がないかあるいは低い国で不動産に投資することが可能である。
 したがって、フロ―の概念である所得や利潤を対象とする現在の税体系(所得税、固定資産税、会社税など)で超富豪層に課税するのでは不十分で、総資産に対する課税が求められる。そして、ザクマン教授は、総資産1000億ユーロ以上の超富裕層に対し、2%の税の支払いを義務化することを提唱した。すなわち、もうすでに、様々な税で2%以上の税金を支払っている場合は、この資産税の対象にならないが、それ以外の人は2%に達するまでの差額を特別資産税の形で支払うとする。ザクマン氏の推計では800人程度がこの特別資産税の対象となると見積もっている。そして、もしこの特別資産税が法律化されれば、約150億ユーロ程度の税収増が見込まれるとした。

 このザクマン氏の提案は、政治的混乱が続き、予算はなかなかまとまらないフランスで大きな注目を集めた。とくに日頃富裕層を敵視していることもあり、左翼の政治家(社会党、エコロジスト、共産党、極左)は、この魔法のようなザクマン税に飛びつき、少数政権のルコルニュ首相に強い圧力をかけた。2025年の暮れには、左翼連合提出の法案は否決されたが、その火種は残っている、多分、来年行われる大統領選挙では一つの大きな争点になることが予想される。
 しかし、ザクマン氏の提言はフランスというよりも世界レベルでの富の偏在と税の在り方という各国に共通の問題に関する提言である。とくに、IT 企業のトップであるイーロン・マスク氏やメタ・グループのザッカーバーグ氏、あるいはアマゾンのベゾス氏などはグローバルなレベルで活動し、巨大な富を獲得しているが、その活動を展開している国には相応の税金を納めていない。
 例えば、EUの中では、これらの企業は会社税のもっとも低いアイルランドに欧州本社を置き、節税を図っている。フランスを含め、多くのEU 諸国のこのような多国籍企業に対する不満は強く、課税の可能性を探っているので、今後ザクマン税の問題は国際レベルでも再燃されることが予想される。
 ただし、超富豪への課税問題は、税制度、経済成長、社会的正義など広い分野に影響を持つ複雑な提言である。フランスでは、多くの経済学者が賛否両論に分かれて議論しているので、その現状を簡単に見てみたい。

 3 ザクマン税をめぐる議論 

 ザクマン氏の提案は税の平等という社会正義を前面に出して超富豪に相応の税負担を求めている。0.0002%の超富豪は、そのほとんどが所有企業を通じて所得を獲得しているので、所得税よりはるかに低い税率の会社税が課せられる。この特権的な構造を変革するためには、現行のフロ―の所得に対する課税は不十分であり、ストックの概念である資産税の適用により、税の前での平等を求めるべきとしたザクマン氏の論理は実に明快であり、説得的である。
 この立場を支持したのは、単に左翼の政治家のみではなく、O. ブランシャール(元IMFのチーフ・エコノミスト)、E.ピザニ・フェリ(パリ政治学院教授、2017年にはマクロン氏の主な経済政策立案者)などの著名な経済学者がLe Monde紙で賛同の意見を述べている。ザクマン税に賛成する人は、i)近年、一部の超富裕層に富が集中し、他の階層からかけ離れた存在となっている。ii)この極度の経済格差の拡大はもはや経済構造をいびつ化させ、成長の阻害要因となっている。iii)フランスの苦しい財政事情の中、超富豪層に一定の貢献を求めるのは当然である。しかも、ザクマンの提案は総資産の2%という低い課税率でしかない。iv)均衡のとれた経済成長を実現するためにも、また、税の平等という観点からも、ザクマン税は適用すべき、とする。
 その一方、経済成長を重視する経済学者や経営者からは多くの反論が出されている。その反論は多岐にわたるが、その代表的な意見は、i)ザクマン氏は経済成長の原動力としての企業の投資の重要性への理解が乏しい。ii)実際の投資を担っているのは、企業とその所有者である企業家や大株主である。iii)現在、経済成長をけん引しているIT企業は、次代のAI開発などに膨大な投資を必要としている。もしこれらの企業のオーナーである超富豪に資産税をかければ、それだけ将来への投資が減る。iv)国際的に競争の激しいこの分野で、フランスだけが資産税を導入すれば、フランスのIT 産業、そしてフランス経済は世界に取り残されると考える。
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 次に、資産評価という技術的に難しい問題がある。不動産の場合、土地や家屋の相場を使い固定資産税を割り出すことは可能だが、外国に所有する不動産は、誰がどう実際に評価するのか、また、上場していないグループ企業の場合、所有者の資産をどう評価するかという難しい問題がある。大企業の場合、家族で株などを所有しているケースが多いので、それぞれへの資産の帰属も実際には難しい。それ以上に、IT企業などの場合、株の上下で所有者の資産評価は大きく変わる。とくに、スタートアップ企業の場合、株の上昇により見かけの資産は巨大かもしれないが、実際の所得は低く、最低2%の税率でも、株を売らなければ、課税額が払えないことも予想される。この分野は世界的に競争が激しいので、投資の遅れは致命的になる可能性が大きい。
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 3番目の問題は、超富豪の国外脱出の程度である。超富豪が所有している企業はそのほとんどが多国籍的に活動を展開している。分野にもよるが、かなりの企業では、本社を他国に移すことは可能である。フランス最大の富豪で、ルイ・ヴィトンの株主兼経営者であるベルナール・アルノ氏は、社会党のオランド大統領の頃、富裕税の導入し反対し、企業の本社をベルギーに移すと発言し、物議をかもしたことがあった。
 2024年にルイ・ヴィトン・グループは国に50億ユーロの税金を納めたので、その本社がベルギーに移れば、フランスは大きな税収入の減額を覚悟しなければならないだろう。これまでの例から、富裕税の導入で、外国に逃避する富豪は少ないとされているが、今回のザクマン税のように少数の人を対象とした場合、アルノ氏のような人が10人程度外国に脱出すると、フランスの税収入は将来にわたり大きく減る可能性がある。さらに、何人かの経済学者は、資産税が導入されても、超富裕層は様々な節税対策を行うので、ザクマン税の導入はせいぜい50億ユーロ位の税収にしかならないとしている。
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 終りに 

 先進国では、一般の賃金が停滞したり、わずかに上昇する中、一握りの技術・経済競争の勝者が市場を独占し、高い成長率と巨大な富を集めている現状を苦々しく感じている人は多いと思う。中には、このような富の偏在は、民主主義を危なくすると警鐘を鳴らす人もいる。しかし、これまでは、どのようにして、これらの超富豪に国民のため、国のために相応の貢献を求めたらよいかという具体的な処方箋に欠けていた。そこに、気鋭の経済学者ザクマン氏から一定の超富豪に最低2%の資産税を課すべきという具体的な提案があり、昨年末にはフランスで大きな政治問題となった。
 国際的には、OECDを舞台にして、多国籍企業に対しての最低15%の会社税を課するという国際協定が2021年に採択された。しかし残念ながら具体的な適用の前に、2度目のトランプ政権の成立でその適用は難しくなった。トランプ大統領は、国際協調とか国際法による秩序にまったく興味を示さず、アメリカの利益を優先させている。このような国際関係の大きな変化の中、フランスのみがザクマン税を採用するのは客観的に難しいように思われる。ただ、より長い目で見れば、いつか振り子は逆転する可能性はある。18世紀の末、特権階級の横暴に反発し、フランス革命が起こったように、富の独占に反撥する勢力がいつか実権を握る日が来るかもしれない。その時には、ザクマン税の提言は一つの具体案として、今後も議論されるに違いない。

2026年2月15日、パリ郊外にて、鈴木宏昌(早稲田大学名誉教授)

(2026.3.20)
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