【コラム】槿と桜(144)
韓国のネット通販事情
日本のある調査会社の2026年4月時点での報告によれば、直近3カ月でネット通販を利用した日本人は63.4%で、男女差はほとんどなかったということです。単純化して言えば、日本人の約6割程度(約7200万人程度)が3カ月で1回はネット通販で買い物をしていたことになります。
このネット通販で最も重視するのは価格で、あらゆる物品(食品、飲料、日用品、衣料品、化粧品、健康食品、家電、装身具等々)が値上がりしている最近の日本の物価事情も大きく関係して、節約志向が強まっていることを示しているようです。
日本人がこのネット通販で利用するのは「Amazon」、「楽天市場」、「Yahoo!ショッピング」のいずれかであることが多く、日本での3大ネット通販と言えそうです。
このネット通販以外にもテレビ通販や地域特産の通販、古書の通販サイト等々もあり、日本では多くの人びとにとって日常生活に欠かせない物品購入システムになっています。
こうしたネット通販システムが日本での生活に浸透してきているのは、家にいながらにしてネット上で購入希望物品を比較して、好みや品質、求める価格等を決められることがその理由としてあり、注文してから比較的早く家に届けられるからでしょう(最近は当日配送や翌日配送もするようになってきています)。さらに料金支払いが各種電子決済は無論のこと、コンビニ払いもでき、顧客の様々な要望に対応できるようになっています。したがって地方で暮らす人びとにも都市圏と同様の買い方が可能となっている利便性が大きいと思います。
では韓国でのネット通販状況はどうなのでしょう。
韓国のネット通販状況は生活との密着度が日本以上と言っていいでしょう。そして、日本ではAmazonの利用者が相当数に上りますが、韓国ではこのAmazonが浸透していません。そのため日本ではちょっと考えられませんが、Amazonはほとんどの韓国人からは縁遠い存在になっていて、韓国にはAmazonはないと思っている人もいるほどです。
韓国のAmazonは日本のように独立した韓国向け本体サイトがないため存在感が薄く、韓国のネット通販企業「11st」と連携して、ここを通してAmazon商品を買う仕組みになっています。
言い方を換えますと、Amazonが韓国へ進出ができないほど韓国独自のネット通販システムが充実していて、入り込むスキがないということになります。
日本の3大ネット通販は「Amazon」、「楽天市場」、「Yahoo!ショッピング」と上述しましたが、韓国での3大ネット通販と言えば、「クーパン(쿠팡、Coupang)」、「Gマーケット(지마켓、Gmarket Korea)」、「11番街(シビルボンガ)(11번가 、11th Street Korea)」でしょう。
そこで、まずこの3通販について、以下に簡単に紹介します。
クーパン(쿠팡、Coupang)
2010年に創業され、歴史は浅いのですが、韓国人には最も馴染みがあり、日本のAmazonと同じく日用品全般、書籍、食品、衣料、健康食品、電子機器等々、およそ生活に必要な物品はほとんど購入できます。食品では完成品ではなく、食材も多く扱っていて、忙しい共働きの若い夫婦や独身者の自炊派の人びとにはその利便性から非常に人気があります。それらの食材は価格が手頃で種類も豊富です。しかも注文から届くまでの時間が早く、クーパンの〝売り〟とも言えるのでしょうが、ほとんどの商品が翌日届きます。なかでも「로켓배송(ロケッペソン ロケット配送)と指定すれば、午前中に注文すれば夕方に、夜12時以前であれば翌朝、玄関前に置かれている(受け取り方の設定によりますが)といった配送の速度です。
クーパンの最大の売りは「ロケット配送」と言えます。翌日配送や当日配送、早朝配送が可能となっています。早く必要な商品を手にしたい時は大いに便利です。
クーパンプレミアム会員の特典もいくつかあります。
Gマーケット(지마켓、Gmarket Korea)
クーパンと並んで韓国人に馴染まれています。2000年に設立されていますからクーパンより10年ほど早い創業です。取り扱っている物品はクーパンとほとんど同じですが、韓国人向けだけでなく国外の顧客にも商品を届けるシステムが構築されています。
多くの個人や企業が出店しているためバラエティに富んだ商品揃えとなっています。そのため、期待していなかった商品までも揃えられている場合が多いと言えます。
またしばしば値引きセールやクーポン配布なども行っていて、顧客には魅力になっています。
11番街(シビルボンガ) (11번가 、11th Street Korea)
2008年に設立されていますからクーパンより2年早い創業となります。必要と考えられる商品はやはり揃えられていて、しかも商品に偏りがなくバランスが良いと言えます。
大きな特色は商品を探す場と売る場の両方を提供するサービスをしていることです。
ポイント制度を採用していて、顧客が商品を購入するたびにポイントが貯まり、次回の購入に利用できることが魅力となっています。
配送速度はGマーケットと同じく標準的です。
ついでに紹介しますと、韓国には書籍専用のサイト「アラディン」(알라딘)があります。
本に特化していますから、上述しました3大ネット通販でも書籍は手に入りますが、当然、「アラディン」の方が本の品揃えが豊富で、しかも安く購入できます。また、古書も取り扱っていることも他の通販にはない大きな特色です。
もう一つ紹介しますと、「タングンマーケット」(당근마켓 人参マーケット)があります。
これはネット上で誰でもが自分の不用品を売りに出したり、中古品を購入したりできる日本のメルカリと似たシステムです。日本でもそうですが、商品を出品して売りたい人とそれを買いたい人が交渉する必要があります。
再度、3大ネット通販に話を戻しますと、日本と同様に韓国でもそれぞれのネット通販の特色と、自分のショッピングスタイルやその時々の商品を求める都合に合わせて、上手に使い分けている人が多いと言えます。それだけにネット通販側でも顧客の要求により一層、応えようとしています。その結果、企業間の競争も激しく、顧客離れを起こさない企業努力も想像以上になっています。
したがって顧客側ではなく労働側から見た場合、顧客にとってありがたい「当日配送」や「翌朝配送」も、それを行う働く側からすれば、大きな労働負担がかかることは想像できると思います。たとえ標準的な配送時間と言っても、それはあくまでもこの業界での標準的な配送時間で、郵便物の配送時間を思い浮かべればその早さが理解できると思います。そのような業務(事務的連絡から始まって配送品の仕分け、積み込み、配達)が毎日、繰り返されるわけで現場での負荷が小さいはずがありません。
ですから韓国には「クーパン問題」という言葉があります。これは「クーパン」一社だけではなく、ネット通販業界全体を指しています。
働く側は配送件数が多ければ食事や休憩の時間が十分に取れず、即日配送では時間指定など時間制約が厳しく、精神的圧迫感が強まります。しかも勤務時間終了時が一定していないため、どうしても労働時間が長くなります。過重労働解消要求が働く側の声として常に上がっているのはそのためです。
配送時間短縮での競争を有利にするために大型の物流センターや配送網での充実は進められてきましたが、現場管理などでは、直接雇用だけでなく委託や外注も多く、同じ業務内容でも賃金、手当、保険、身分保証などで労働条件格差や雇用の不安定化が生まれています。もっとも、この労働条件格差や雇用の不安定化はネット通販業界の問題と言うよりも韓国が抱える重大な経済、労働問題と言えるのですが。
また配送時間短縮では配送中の安全面に問題が生じています。とにかく(「빨리 빨리 パルリパルリ」〝早く、早く〟)が生活にしみこんでいる韓国人が多いだけに、急いで届けることでの交通事故は少なくなく、荷物の仕分けや積み込み中の作業事故の危険性も避けられません。夜間の稼働や早朝配送なども働く人びとの身体的負担が大きくなっています。
もう一点、これは働く人びとの問題ではないのですが、大手ネット通販の価格競争が激しく、商品を出品する販売業者が値切られて利益が少ない状況に追い込まれています。消費者には安く、手軽に入手できるネット通販ですが、その裏では販売業者にしわ寄せが及んでいるのです。
このように韓国のネット通販は消費者にとっては非常に利便性が高く、歓迎されているのですが、上述したような働く側の問題が山積みとなっていて、そのどれもが改善されるには時間が必要のようです。
日本で生活していてもあまりネット通販を利用しない(理由は簡単で個人情報が漏れる危険性が避けられないからです)私からしますと、韓国でのネット通販利用者が非常に多く、生活の一部にさえなっていることに今回一時帰国して改めて驚かされました。
そして密かに思いました。「せめて1カ月間、ネット通販を忘れて、求める商品を扱うお店へご自分の足を運んでみてください」と。
* 「クーパン」が、顧客3370万人分の個人情報が流出したことを2025年11月29日になって伝えていました。流出はそれ以前だったようです。国内の成人4人のうち3人が被害にあった計算になり、「史上最悪の個人情報流出」と韓国では報じられていました。
私が日頃、危惧していたことが現実に「クーパン」で起きていました。この問題は今回のテーマとも関連していますが、いずれの機会に譲ることにします。
大妻女子大学教授
(2026.9.20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ/掲載号トップ/直前のページへ戻る/ページのトップ/バックナンバー/ 執筆者一覧