■NPO法人の社会的責任          奥津 茂樹

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 昨年2011年は、寄付元年として記憶される年になるだろう。3月に東日本
大震災が発生し、被災者・被災地の生活と復興を支援するため、数多くの市民が
寄付をした。その数は1億人超、日本人の8割強にのぼったという。奇しくもこ
の年、NPO法人に対する寄付の優遇税制が拡充された。最近、神奈川県が作成
したポスターにあるように、「指定・認定NPO法人に寄付をすると、税金(所
得税・住民税)から、寄付金額の最大約50%がかえる」仕組みが始まった。

 一方で、寄付疲れと呼ばれる現象もみられる。ごく一部にみられる寄付の使途
の不透明性が、こうした現象に拍車をかけている。逆に、具体的なプロジェクト
を提案しつつ寄付を求める場合には、寄付の目的や意義を実感・共感できる。こ
のような寄付集めは、それほど大きな減少がないときく。寄付という社会参加に
対する市民の関心と意欲が高まった結果、自分が提供した資源の行方に厳しい眼
差しをもつ市民が増えたと思われる。

 寄付優遇税制は、NPO法人に対する寄付のインセンティブになる。寄付の約
50%が還付されるということは、これまで10,000円寄付していた人は、倍
の20,000円の寄付をすることが期待できる。単純化していうと、税金は1/
2にNPO法人への寄付額は2倍になる。ただ、現実は、そんな甘くはなく、指
定・認定法人化しても寄付が倍増する保証はない。また、法人の数が少ないこと
もあって(神奈川県で約30団体)、まだ、社会に寄付がひろがった実感はない。

 しかし、税金は1/2に、寄付は2倍にという構図がもつ意味は大きい。それ
は、こうした転換を、市民一人ひとりの意思によって成し遂げることができるか
らだ。これまでのように一方的に税金をとられ、ムダ使いに不平不満を言うだけ
の時代は終わった。たとえ、税金の一部であっても、自分が共感するNPO法人
に寄付をすることは、市民が税金の使い道を選ぶことでもある。また、NPO法
人に対する寄付は、税金のムダ使いに対する異議申立てともいえる。

消費増税法案が可決・成立した今、市民は納税者として寄付という選択肢を世
直しのカードとして、もっと強く意識しても良いはずだ。どれだけ税金をとられ
るかが、市民の重大な関心事であることは否定しない。しかし、どのように税金
を使うかにも、それ以上の関心をもちたい。

 以上のように、寄付を税金と同じようにとらえたとき、NPO法人の側は寄付
が増えるかと喜んでばかりはいられない。行政機関と同様に、高い公正性と透明
性が求められるからだ。仮に寄付を有効に使わず、意味や価値のない事業に費や
すようなことがあれば、市民の信用を失い、組織の存立すら危うくする。このよ
うな強い危機感と公共性を強く意識し、正しく行動していくことがNPO法人の
社会的責任になるはずだ。

 ところが、こうした責任感のないNPO法人が意外と多いことを最近思い知ら
された。私が理事をつとめる一般社団法人ソーシャルコーディネートかながわ
(略称:ソコカナ)は、FMヨコハマと連携し、神奈川県内のNPOを紹介する
番組「もっとつながろう!NPO」の制作補助を行った。私の仕事は番組で紹介
するNPO法人等の選考を行うことだった。この中で、いくつかのNPO法人の
社会的責任の低さを実感した。

 あるNPO法人はさまざまなメディアにも登場し、社会的評価の高い活動を展
開している。ところが、事業報告書の収支を確認したところ、まったくの「どん
ぶり勘定」だった。収支の総額しか記載されていない報告書をながめて、これで
は社会に寄付を求める資格はないと嘆息した。また、事業報告書そのものを何年
も提出していないNPO法人もあった。

 コンプライアンス(法令順守)は企業や行政だけではなく、NPO法人にも求
められるはずだ。こうした緊張感を欠く実態は、事業報告書が作成・提出・公開
されても、誰もチェックしていない現状も背景にある。

 寄付というのは資金だけではなく、人材、モノ、場所などを提供していくこと
だ。たとえ、お金ではなくても、貴重な社会的資源である限り、その提供を受け、
活用していくNPO法人は、社会に対して重い説明責任を負う。社会の中に寄付
をひろげていくためには、対象となるNPO法人が社会的責任を果たすべく、厳
しく自律していかなければならない。この意味で寄付がひろがることは、新しい
公共の担い手であるNPO法人を鍛えていく。         ― 了 ―

 (筆者は参加型システム研究所主任研究員)

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