■ 米国はTPPで、日本の沃土を狙ってくる!        濱田 幸生

   ~TPPとそれを呼び込む新自由主義国内改革路線を許すな!~
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■鏡の国TPP。ここは海外投資家の楽園。自国民を守るという常識が通用しない


「壊国」が始まった!
  野田首相は2011年11月13日、ついにルビコン川を渡ってしまいまし
た。日本の主権に関わることが、なにひとつ国民に情報提供されることなく、ま
して国民的議論のひとつもなく、ただひとりの男の判断で決せられたのです。

 国会議員の過半数が反対を唱え、自民から共産に至る野党が反対し、地方議会
の9割にも及ぶ反対決議を押しつぶしての暴挙でした。このような政治決定にい
かなる正当性もありません。ただちに総選挙をするべきです。
 
  さて、TPP推進の核心とでもいうべきISD条項に対して奇妙な楽観論がは
びこっています。ISD条項(*ISD 国際投資紛争仲介センター)とは、た
とえば、TPP発効以降、海外投資家が投資している現地法人が国内法によって
不利益をこうむった場合、国際仲介機関に提訴できるというものです。
 
  このISD条項を使えば、この海外投資家が「期待した利益がえられない。国
内法の障壁のせいだ」と思ったら、米国政府が代わりに提訴できるという危険き
わまりない条項です。その場合日本政府自身がいかなる条約違反もしていなくと
も、提訴可能となります。そしていったんその提訴がSDIで認められれば、国
内法を変えるか、超越することができます。
 
  わかりますか、この意味のスゴサを。私たちは、自国民の健康、安全、環境を
自分の意思ではなく、外国に委ねてしまうということですよ!
 
  たとえば、米国の自動車の安全基準はわが国より低い水準にあります。農薬の
制限もゆるく、その中には既にわが国で禁止された農薬も多数あります。遺伝子
組み換え(GMO)は無規制です。というより、今や9割の米国穀物がGMOで
す。 米国のBSE検査体制のルーズさは有名で、いまだに割った脊椎が入って
くる始末です。全頭検査も日本にいわれてイヤイヤやっているのです。
 
  このように、米国の安全基準はわが国よりはるかに低いレベルにあります。米
国は輸出に際して、余計な検査を強いる国内法が関税外障壁になっていると
1990年代から一貫して主張してきました。農薬規制、GMO、BSEなどは
真っ先に米国の提訴の餌食となるでしょう。

 TPP以前ならば、これらは国内法という主権でガードされていましたが、
TPP以降はまったく違ってきます。ISD条項は国内法を超越する「スーパー
法」だからです。 米韓FTAでは、韓国政府が「規制の必要性を自ら証明でき
なければ、市場開放の追加措置を取る必要がある」という条項を押しつけられま
した。よくこんな不平等条項を韓国は呑んだものです。
 
  TPPにおいても同様の条項が盛られるでしょう。たとえばその場合、日本は
わが国で禁止している農薬に対しての膨大な規制の正当性をひとつひとつ挙証証
明せねばならなくなります。もちろん英語でです。 馬鹿な話です。こんなこと
をなんで外国人に説明せにゃならんのですか。農薬の健康上の害を受けるのはわ
が国の人間で、ここはわが国の主権内なのに、なぜ外国人に英語で膨大な説明を
しなければならないのでしょうか。
 
  そしてTPP以降できる国内法は、TPPでクレームをつけられるかどうかを
自主規制して考えねばならなくなります。単に経済協定なのにかかわらず、わが
国はまるで憲法のようにTPPを仰ぎ見ることになるのです。 鏡の国TPP。
ここは海外投資家の楽園。自国民を守るという常識は通用しないのです。まさに
「壊国」です。そして、この「壊国」は黒船に乗ってやって来るたけで
はなく、国内にそれを呼び込む人たちがいました。


■民主党政権は新自由主義TPP改革をめざしていた


  ここに2つの「新成長戦略」があります。  ひとつは、菅内閣が2010年
6月に作った「新成長戦略」です。 二番目は、経団連の2010年4月に出し
た「経団連成長戦略2010」です。 では、これら2つを対照しながら見てい
きましょう。6つ分野があります。

1)グリーン・イノベーション、環境・エネルギー大国戦略(民主党)
  ・環境・エネルギー大国戦略(経団連)
  2)ライフ・イノベーションによる健康大国(民主党)・健康大国戦略(経  
団連)
3)アジア経済戦略(民主党) ・アジア経済戦略(経団連)
4)観光立国・地域活性化戦略(民主党)・観光立国・地域活性化戦略(経団連)
5)科学・技術・通信立国戦略(民主党))・科学・技術立国戦略(経団連)雇
用・人材戦略(民主党) ・雇用・人材戦略(経団連)
6)・金融戦略(民主党)・成長を阻害する規制の改革(経団連)
 
6番目を除いてまったく丸写しです。参考にしたという生易しいものではなく、
経団連戦略に沿って忠実に作ったのが、民主党「新成長戦略」です。  なお、
経団連が6番目に上げた規制緩和は、民主党政権発足と同時に行政刷新会議
による事業仕分けで既に実現しています。  国民はあれを「税金の無駄使いを
なくす」と好意的に受け取りましたが、実態は財界による「成長を阻害する規制
の改革」でした。 つまり、民主党の「成長戦略」と称するものはすべて財界の
言うがままに作ったものだったわけです。
 
  さて、この3)の「アジア経済戦略」の中に、「アジア・太平洋自由貿易圏」
(FTAAP)としてTPPが出てきます。  おそらく小泉改革に次ぐ戦後最
大の「改革」となることでしょう。その力量が民主党にあるかははなはだ疑わし
いですが。民主党には突破口さえ作ればいい、それから先はまた自民にやらせる
さ、というのが財界の本音でしょう。
 
  国民は小泉改革で受けたダメージを癒すために「生活第一」を高らかに謳った
民主党に過剰な票を与えてしまいましたが、現実の民主党はリベラルの仮面を
被った小泉改革の継承者だったのですから、救いようがありません。
 
  それはさておき、平成22年11月9日、菅内閣は閣議決定として「包括的経
済連携に関する基本方針」を決めました。 これはTPPに参加することを決め
たいわば歴史的文書と後世言われるしろものですが、この中にTPPを参加する
「前提条件」としてまっさきに農業がでてきます。

 閣議決定の3、「経済連携交渉と国内対策の一体化」の(1)項農業の中には
こうあります。--「競争力向上や海外における需要拡大等わが国農業の潜在力を
引き出す大胆な政策対応」。

 この受け皿としてできたのが、「食と農林漁業の再生実現会議」です。
  「農林漁再生実現会議」とは、今まであった各種の農業振興対策一般ではな
く、TPP締結をにらんでの地ならしのための会議だったわけです。

「再生会議」が狙っているポイントのみ記します。別稿で詳述します。
・09年の「農地法」改正による企業の農業参入を、現在の食品関連企業から一
般企業レベルまで拡げる。

・農業法人に対する出資比率を原稿の50%未満から、無制限にする。
・農地監視機関としての農業委員会の弱体化と解体
・生産規模と農地の集約化・大規模化

 このようにTPP締結を待たずして、先行して「競争力強化」の名に隠れて
21分野すべての「改革」が実行されると考えたほうがいいでしょう。わが農業
は、その最大のTPP地ならしのための戦場となります。
 
  民主党政府は、財界型農業改革を強制してくるでしょう。農業団体を黙らせ、
農業を「改革」しなければぶち上げた「国際公約」としてのTPPは実現しない
からです。この数年が日本農業にとってほんとうの切所となるでしょう。米国と
財界の言うがままに農業を解体されるのか、それとも真に強い農業を作るのかの
生き残りをかけた闘いが始まります。


■TPPには黒船と、それを導き入れる勢力があった


  TPPは、日米関係の悪化に怯えた菅前首相の思いつきのように出てきまし
た。しかし果たして、TPPとは単に米国への外交的配慮からだけのものなので
しょうか?  そうではありません。わが国内部には外の黒船に呼応する考え方
がしっかりと存在しています。それが先に述べた「新成長戦略」という政界-財
界共通の新自由主義路線です。
 
  この「TPPの思想」とでも言うべき流れは今までも日本国内にあり、外国勢
力と結びつくことで外圧利用で国内の「改革」を遂げたいと思っています。 民
主党が目玉政策としている「行政刷新会議」というものがあります。なんのため
に作られたのでしょうか。結果的にバラ撒きの財源が出ればよし、しかし目的は
別にあったはずです。
 
  ひとことでいえば、「規制緩和と制度改革」です。  2010年3月、行政
刷新会議のなかに、「規制・制度改革についての分科会」が設けられました。こ
の内容は、驚くほどTPPで想定されている{黒船」の内容と酷似しています。
  たとえば、医療介護分野の「ライフ・イノベーション」と称される中には、今
TPPで問題となっている公的医療制度の解体と、民間医療保険による混合診療
制度への解禁が堂々とうたわれています。

 この行政刷新会議の医療改革が実現すれば、いかなる僻地でも、老人でも等し
く安い価格で受けられた医療・薬価制度が崩壊してしまうことになります。
これはTPPで米国の要求してくることが確実な公的医療保険の解体と、米国な
どの民間医療保険会社の参入と見事に照応しています。
 
  TPPにおいては、外国人医師、看護士や介護士の大量移民も要求に登ること
でしょう。行政刷新会議とTPPが違うことは、ただ「外国」を表に出すか出さ
ないかだけの話です。

 また、農業分野でも、「農林・地域活性化」として、「新規農協設立の強化」
や「農業生産法人の規制のさらなる緩和」といった項目が登場します。 これは
現在、農地が農地法3条により農家以外に解禁されていないことを緩和し、全
面的に他業種の企業にも開放して参入を促すことが目的です。(*農地法3条自
体は改正されていますが、執行されていません。)
 
  これもまた、TPPで米国が要求してくるであろう、「農地の取得要件の緩
和」という名の外国人資本による農地買収と、農業参入と見事に対をなしていま
す。 この目指すところは、まっすぐにJAの胸元に突きつけられています。
 
「改革」を唱える新自由主義経済的流れにとって、JAは最大の障壁だからで
す。かつての新自由主義の先駆であった小泉改革の郵政改革が、郵便局を「敵」
にみたてたとすれば、今回のTPPの標的はJAと医師会です。
 
  おそらくTPPによって、JAは共済制度をもぎとられて経営基盤が揺らいだ
ところに、コメや酪農の無関税化による離農で組合員数を大きく減らし、更にと
どめのように新規外国資本参入を食らって壊滅的な状態になるでしょう。さて、
民主党中枢は、2011年10月1日に横浜APECで菅直人氏がTPP参加
を言い出すまで、その内容を知らなかったはずがありません。知らなかったのは
私たち国民だけです。

 山田正彦前農水大臣は、このTPPという文字を「2010年夏に閣僚懇談会
で見た」と証言しています。(インターネット誌「ザ・ジャール」による)とな
ると、もう既に去年の夏の時点で、民主党内部ではTPPが何者か、なにを目指
しているのかについて情報があったことになります。時計を遡ると2009年
11月14日に、訪日したオバマ大統領は、「米国はTPPに参加する」と演説
しました。
 
  そしてまさにその同日、USTR(米国通商代表部)のロナルド・カーン代表
は、「米国はTPPをAPECなみの広域自由貿易協定にするつもりで、これは
FTAではできなかった諸懸案を解決することだ」と述べています。そして翌
月、カーク代表は、「TPPは工業、農業のみならず、金融サービスまで含む」
と書簡の中で述べています。
 
  またオリジナル・メンバーによるTPPは、2004年に締結し、2006年
に発効していますが、その中にもしっかりと「農業、工業、金融、医療、政府調
達、法務サービスの自由化」が書き込まれています。では、時系列に沿って整理
しましょう。

・2004年。締結のTPP原型締結時の内容が「工業、農業、金融、法務、政
府調達」に及ぶ大きな範囲を覆っていること。
・2009年11月。オバマ大統領訪日演説で、「米国はTPPに参加する」と
の発言。
・同日,及び翌月のUSTRカーク代表の「TPPは工業、農業、金融にまたが
る広域自由易圏である」という発言。
・2010年3月。行政刷新会議の「ライフ・イノベーショ」(混合医療制度)
と、「農業の規制緩和」。
・20010年夏。山田前大臣証言。「TPPは閣僚講で資料が配られていた」。
・2010年10月。菅直人首相のAPEC席上のTPP参加発言。
 
  このような流れで見れば、TPPが突然現れたものではないことがわかるはず
です。そして、前原前外務大臣が言うような「農業の対GDP比率は1.5%。
98.5%は農業の犠牲になるのか」という発言が、いかに虚偽に満ちたものか
お分かりになるでしょう。

 前原氏はTPPをがいかなるものかのすべての情報を持ちながら(でなければ
外相などやめてしまえ)、あえて農業のみを叩いたのです。
 
  それは農業が分かりやすい「悪役」だったからです。農業ほど反論せずに耐え
忍んでしまう部門が他にありますか。だから、彼は農業を標的にしたのです。あ
たかも98.5%の国民が農業によって迷惑しているような比喩を用いて。
民主党政権は、TPPが農業のみならず、医療、金融、法務、政府調達まで含む
ことをそうとう前から知りながら、農業を生贄とするTPPによる黒船型日本改
造をもくろんでいます。
 
  そのためにTPPの全容から国民の目からそらし、単なる農業問題に過ぎない
という矮小化された情報を国民に印象操作したいのでしょう。
TPPを止める闘いは、「規制緩和、制度改革」を錦の御旗にした新自由主義的
日本改造が底流にあり、それを米国流の黒船でなし遂げようとする勢力との「国
の形」をめぐるものになります。
 
  それがわかっているからこそ推進派はわずか1か月で、なにもかも国民に秘匿
したまま突き進もうとしたのです。


■米国はTPPで、日本の沃土を狙ってくる。関税以外のもうひとつの農業侵略


  さて、TPP問題をややこしくしているのは、農業関係の反対論が、「自給率
が13%になる」とか、「米価崩壊で経営崩壊」というトーンなことです。 私
は同じ農業者ですが、そうならないと思っています。確かに農業が危機的状況に
なることは確かですが、無関税化⇒米価暴落ではない道筋で襲来すると思いま
す。 というのは、TPPの前身であるNAFTA(北米自由貿易協定)での、
カナダと米国の穀物紛争をみればわかります。

 米国はカナダを、カナダ政府小麦局やカナダ農協によって独占支配されている
とWTOに提訴しています。  確かにカナダ農協は、各地域の協同組合組織を
統合して株式会社化していますが、それはなぜだったでしょうか。
 
  NAFTAによってカナダの穀物生産は短期間で危機的状況を迎えます。小
麦、大麦、油糧穀物(キャノーラ)、食用牛の加工までもが、7割から9割米国
系アグリビジネスに独占されるという事態が生じたのです。  それに対抗して
カナダは、自国の穀物生産を統合し、強化する必要に迫られました。これと似た
対抗措置は、米韓FTAにおいても韓国が牛肉などの流通統合や合理化でしてい
ます。  

 もしこのカナダの統合政策がなければ、間違いなくカナダ農業は短期間でほぼ
完全に米国支配に置かれてしまったであろうことが想像できます。 現時点にお
いても、カーギル一社だけでカナダ・サスカチュワン州のキャノーラ製造の
45%を支配していますが、協定締結時のシェアが11.9%だったことを考え
ると、未だカナダ農業の大きな部分を米国アグリビジネスが握ったままななのが
分かるでしょう。
 
  ではここで、米国の日本農業市場のTPPによる「侵略」はどのようになされ
るのかを考えてみます。  私はジャポニカ米のモノとしての流入は限られるの
ではないか、と考えています。米国産のジャポニカ米は市場でわずか4%でしか
ありません。しかも、それが生産できる地域は限定されています。  できるの
はカリフォルニアと南部諸州ですが、カリフォルニアは水に制限があり、南部諸
州の気候では、日本人の口に合う高品質な米を生産することは難しいと思われ
ます。
 
  東南アジアという声もありますが、現在日本商社が現地邦人向けとして少量を
生産している段階です。今後TPPをにらんでベトナム、マレーシアでの日本向
け生産も始まるでしょうが、脅威となるにはまだ相当な時間がかかります。 そ
のていどにはわが国のコメの生産と育種技術は、外国の安易な追随を許さないレ
ベルに達しています。  

 したがって短期的にはコメの暴落はないと私は思っています。しかし、中長期
的になると様相は違います。それはTPPが関税問題だけではないからです。
TPPは煎じ詰めると、「モノ、カネ、ヒト」の三つの自由化のことです。 モ
ノで入ってくるのは、関税問題です。カネで入ってくるのは、資本投資や保険、
金融サービスなどです。ヒトで入って来るのは、看護士や介護士、医師、そして
単純労働者などです。

 米国は農業部門においておそらく資本投資の道を選ぶでしょう。モノである穀
物や油糧穀物はすでに日本市場に行き渡っており、牛肉、豚肉、小麦、酪農製品
の輸出の無関税化は当然のこととしてまっさきに要求するでしょう。 TPP問
題はモノにとどまりません。2009年の農地法改訂で、農地に企業参入の道が
開かれました。TPP発効となれば、米国アグリビジネスの参入は可能となります。
 
  米国が日本という世界でもっとも生産性の高い沃土を狙っているとすれば、
TPPというビッグチャンスを逃すはずがありません。 コメの生産は経団連や
同友会の計算どおり農地の統合、整理による大規模化が実現すれば、理論的には
今の3分の2ていどのコストでの生産が可能です。 ただし現実には、地権や点
在する農地の問題が出てくるでしょうが、国が資本と組んで農業団体の反対を押
し切ればまったく不可能なわけではありません。
 
  居抜きで使える改良区などは真っ先に標的になり、外国アグリビジネスが札束
で頬を叩きに来ます。その時には、外国アグリビジネスは、国内農業法人格を取
得して外国資本日本農業法人として農地を借りたり、買ったりできるようになっ
ています。
 
  そこに、TPPで大量に流入してくる安価な東南アジア農業労働者を使って大
型化すれば、国際競争力のあるコメ商品の一丁上がりです。 それを売りさばく
のは同系列のアグリビジネス商社であり、、GM種とGM対応農薬とのワンセッ
ト販売もアグリビジネスを更に潤おわせることでしょう。 このようにして、コ
メのGM品種-GM対応農薬-大規模農地-大量生産-大量流通-大量輸出とい
うコメ・インテグレーションのラインが完成します。
 
  現状ではOECD留保扱いになっているようですが、そのようなものはTPP
の前に一瞬で消滅します。 同じようなことは野菜や果樹でも進行するでしょ
う。それは外国アグリビジネスの日本農業支配です。TPPによって、米国は日
本農産物という世界有数のアグリ商品を手にすることができるのです。
 
  このようなことになった場合、日本農業は死活をかけて闘うことになります
が、その予防線も既にTPP条項に仕込んであります。 それがISD条項で
す。ISD条項は、「海外投資家が不利益を被ったと自分で判断すれば、協定違
反であろうとなかろうと相手国を提訴できる」というすさまじいまでに海外投資
家を優遇した条項です。 このような米国アグリビジネスの日本農業支配をぜっ
たいに許してはなりません。


■11月APECで参加表明しても、米議会承認まで半年待たされて、TPP交
渉ルール作りには参加できないことがわかった


 
  このTPP交渉参加で国民皆が思うのは、「なんでこんなに急ぐんだろう」と
いう推進派の焦り方です。わずか正味1か月で決めようというんですから、なん
ともすさまじい限りです。  常識的に言っても、これだけの大問題を、ろくな
国会審議もせずに、国民に内実を知らせずに踏み切るということ自体、なんだか
な~と思う国民は賛成反対を問わず圧倒的に多いようです。
 
  その理由のひとつを、当時国家戦略局のおそらくは玄葉光一郎氏(現外相・松
下政経塾第8期))が書いた内部文書は、こう説明しています。(末尾資料参照) 
http://mainichi.jp/select/biz/news/20111028ddm005020026000c.html
 
「米国がAPECで政権浮揚につながる大きな成果を表明するのは難しい。日本
が参加表明できれば、米国が最も評価するタイミング。これを逃すと米国が歓迎
するタイミングがなくなる。」  再選をめざすオバマ大統領は、11月の
APECでの成果を上げたいと思っているから、日本がTPPで手柄をたてさせ
てやることで、米国が評価してくれるだろう、という願望めいたものだったこと
が分かりました。
 
  そしてもうひとつの理由が、「交渉参加時期を延ばせば、日本は原加盟国にな
れず、ルールづくりに参加できない。出来上がった協定に参加すると、原加盟国
から徹底的な市場開放を要求される」、というものです。  前者は政府の思惑
ですからともかくとして、後者は政府筋と推進派からひんぱんに流されたアナウ
ンスでしたからご記憶に新しいと思います。  このTPP推進派の理由づけ
も、どうも怪しくなりました。

 外務省と思われる以下の内部文書は次のように政府に状況を説明していまし
た。 「米通商代表部(USTR)の高官が、日本の参加を認めるには米政府・
議会の非公式な事前協議が必要で、参加決定に時間がかかるため「受け入れが困
難になりつつある」との認識を示していた。」  この政府内部文書によれば、
米国議会の参加審議には半年かかるために、いくら11月のAPECで米国にゴ
マをすっても、米国としては、「歓迎しますが、議会にかけてみますので半年
待って下さい」、と答える公算が高いということになります。

 そして米議会筋はこう言います。 「日本を受け入れるため、現在、米国やチ
リ、豪州など九カ国で進行中のTPP交渉を遅らせることは望ましくなく、既に
参加期限は過ぎた、と明確に述べている」。  つまり11月に参加表明をしよ
うとしまいと、参加ルール作りには日本は加わる余地はないのだ、という先行国
の意思です。
 
  実は既に、米国はNZとのTPP交渉においてこんなことを言っていました。
(日本農業新聞5月19日参照) 「初のTPP交渉8カ国でゴールド・スタン
ダード(絶対標準)に合意できれば、日本、韓国その他の国を押しつぶすことが
できる。それが長期的な目標だ」と語った。(米国大使館公電から)」

 この在NZ米国大使館の公電は、ウイキリークスの
"Viewing cable 10WELLINGTON65, DAS Reed Engages on TPP, U.N. form,   
    Environmental"(2010年2月19日)が原文です。      
http://wikileaks.org/cable/2010/02/10WELLINGTON65.html
  これによれば、米国は去年10年2月段階で既に、日本と韓国を標的とした
「ゴールド・スタンダード」を考えていたことになります。
  「ゴールド・スタンダード」という言葉は元々は、「金本位制」のことです
が、転じて絶対基準という意味で使われています。
 
  米国はNZとの交渉の席上で、このようなもくろみを語っています。
「農地への投資制度や食品の安全性などの規制や基準を統一した「絶対標準」を
定め、受け入れ国を広げることで経済自由化を進めようとしている」。
  もう既にレールは敷かれているのです。そしてルール作りには日本は参加させ
ない、これが先行諸国の意思であり、なによりも米国の意思です。
 
  そして、極めてわが国に不利な「ゴールド・スタンダード」が、なんのルール
づくりにも参加できないわが国を待ち受けているというわけです。
 
  常識に立ち返る必要があります。このような拙速の極みでTPP参加に突っ
走ってもなにひとつ良いことはない、これが時間が立つに連れて明瞭になってき
ました。政府は、まず既に締結されているTPP協定の和訳と各関係省庁の
TPP関連内部文書を開示するべきです。

 話をいったんそこまで戻してから、進めても遅くはありません。なにせ、どう
急いでも米議会で半年間ペンディングされて、ルール作りにも、交渉内容にも触
れられないまま二者択一で既決した「ゴールド・スタンダード」を飲まされるこ
とになるのですから。(了)


■資料 政府 国家戦略局内部文書



TPP:政府、文書に本音 11月表明「米が最も評価  
  <毎日新聞 10月28日(金)2時31分配信>


  環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加問題で、交渉に参加し
た場合のメリットなどを分析した内部文書を政府が作成していたことが、27日
分かった。文書は参加表明の時期について、11月のアジア太平洋経済協力会議
(APEC)が「米国が最も評価するタイミング」と指摘。「TPPに参加表明
するからこそ(現在進めている)EU(欧州連合)や中韓との交渉が動く」とし
て、参加表明が他の2国間のEPA(経済連携協定)交渉にも好影響を与えると
の考えを示した。

 野田佳彦首相はAPEC前の交渉参加表明を目指しているが、与野党には慎重
論もある。交渉参加のメリットと参加しなかった場合のデメリットを分析し、参
加の必要性を説明するための資料となるとみられる。
 
  文書は「APECで交渉参加を表明すべき理由」として、12年の米大統領選
を挙げた。「米国はAPECで相当の成果を演出したいと考えている」と指摘。
日本が交渉参加を表明すれば「米国は『日本の参加でTPPが本格的な
FTA(自由貿易協定)となる』と表明可能」になり、大統領の成果になると分
析した。
  参加表明を決断できない場合、他のEPAやFTA交渉への悪影響に言及。交
渉が始まっているEUについて「足元を見られて注文ばかりつけられる」と予
想。中韓とのFTAも「中国に高いレベルの自由化を要求できなくなり、交渉入
りできなくなる可能性が強い。中韓FTAだけ前に進み日本が取り残される」と
している。
 
  選挙への影響を懸念する党内意見については、衆院解散がなければ13年夏ま
で国政選挙がないことに触れ「交渉に参加しても劇的な影響は発生しない」とし
た。 文書は慎重派との「落としどころ」にも言及。実際の交渉参加は最短で
12年3月以降と見込み「3月までにしっかり議論し『参加すべきでない』との
結論に至れば参加を取り消せばよい」と指摘。取り消す場合は「党側が提言し、
政府は『重く受け止める』とすべきだ」と提案した。「日本が直面しているの
は、参加を途中で取り消す『自らの判断』が批判を受けることではなく、方針を
示せないという『自ら判断を下さないこと』に対する批判だ」と指摘した。


◆政府のTPPに関する内部文書(要旨)


▼11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で交渉参加表明すべき理由
・米国がAPECで政権浮揚につながる大きな成果を表明するのは難しい。日本
が参加表明できれば、米国が最も評価するタイミング。これを逃すと米国が歓迎
するタイミングがなくなる。
・交渉参加時期を延ばせば、日本は原加盟国になれず、ルールづくりに参加でき
ない。出来上がった協定に参加すると、原加盟国から徹底的な市場開放を要求される
・11月までに交渉参加を表明できなければ、交渉参加に関心なしとみなされ、
重要情報の入手が困難になる
・韓国が近々TPP交渉に参加する可能性。先に交渉メンバーとなった韓国は日
本の参加を認めない可能性すらある

▼11月に交渉参加を決断できない場合
・マスメディア、経済界はTPP交渉参加を提案。実現できなければ新聞の見出
しは「新政権、やはり何も決断できず」という言葉が躍る可能性が極めて大き
い。経済界の政権への失望感が高くなる
・政府の「食と農林漁業の再生実現会議」は事実上、TPP交渉参加を前提とし
ている。見送れば外務、経済産業両省は農業再生に非協力になる
・EU(欧州連合)から足元を見られ、注文ばかり付けられる。中国にも高いレ
ベルの自由化を要求できず、中韓FTA(自由貿易協定)だけ進む可能性もある

▼選挙との関係
・衆院解散がなければ13年夏まで国政選挙はない。大きな選挙がないタイミン
グで参加を表明できれば、交渉に参加しても劇的な影響は発生しない。交渉参加
を延期すればするほど選挙が近づき、決断は下しにくくなる▽落としどころ
・実際の交渉参加は12年3月以降。「交渉参加すべきでない」との結論に至れ
ば参加を取り消せば良い。(取り消しは民主)党が提言し、政府は「重く受け止
める」とすべきだ
・参加表明の際には「TPP交渉の最大の受益者は農業」としっかり言うべき
だ。交渉参加は農業強化策に政府が明確にコミットすることの表明。予算も付け
ていくことになる。

             (筆者は茨城県行方市在住・農業者)

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