―宮古市・重茂(おもえ)漁協の実践に学ぶ―

■協同の力で漁業と地域を復興させる  丸山 茂樹

―宮古市・重茂(おもえ)漁協の実践に学ぶ―

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1.<村井宮城県知事路線>VS.<達増岩手県知事路線>
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 この短い報告で私は<復旧・復興路線>をめぐる2つの路線の分岐について述
べる。その1つは村井嘉浩宮城県知事の<選択と集中>の美名のもとに漁民から
漁業権を奪い、日本経団連・野村證券・シンクタンクなど財界や金融業界の後押
しを受けた、<大企業を誘致し“雇用の機会”をつくる路線>である。もう1つ
は達増拓也岩手県知事の農林水産業の現場と基礎自治体(市町村や漁協・農協な
ど)の主体性を重視して第1次産業を災害前以上に発展させる<生産・加工・流
通の自主管理><自治と共生の路線>である。 

 この2つの路線の鬩ぎ合いの渦中にあって、政治・政党のヘゲモニーは混迷し
ている。
 そこで最初に、今、優先すべき実践課題・選択すべき路線は何か? を論じた
上で、達増拓也岩手県知事の<自治と共生>路線を、知事が提唱する以前からい
ち早く実践している岩手県・宮古市の重茂(おもえ)地区の重茂漁協の実例を紹
介することにしたい。

 なお達増拓也知事は8月16日の読売新聞の『論点』欄に寄稿し被災地の再生
が遅々として進まない現実について述べ、「…被災地が国に求めているのは対症
療法的な個別の措置ではない。もっと自由に使える交付金制度であり、行政手続
きを抜本的に簡素化し復興に要する時間を大幅に短縮する大震災復興特例ともい
える『改革』だ…」とのべている。

 また、重茂漁協の伊藤隆一組合長は筆者のインタビューに応えて「復興が進ま
ない1つの理由は、皆のやる気は盛んだが宮古市の近辺には生コン工場は2つし
かなく、港湾施設などインフラの建設が進まないことだ。臨機応変の機敏な行動
が必要だ」と述べている。どこに課題があるのか?次第に明確になりつつあるよ
うだ。

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2.論議し意思決定すべき問題
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 日本の今後を左右する①原発の再稼動をめぐる攻防―ずるずると再稼動への道
を許すのか? それとも脱原発の政策を明確にして、化石燃料や再生可能エネル
ギーへの転換を通じて原発依存体制から脱却するのか?

 ②電力の独占体制をこのまま維持するのか? それとも発電と送電と配電を分
割し、発電への多様な主体(個人、企業、協同組合、自治体など)が参加できる
ようにして送電網は公的に管理し、これを通じて分権化と参加型の電力の生産・
供給体制への改革を進めるのか? 

 ③東電の事故責任・賠償責任を明確にした上で、不足する資金への公的資金の
投入には東電株式や東電施設や財産を吐き出させて公的に管理する、という当然
の処置を行うのか? このままずるずると国民の税金を数兆円・数10兆円にわ
たって東電の救済と被害者への補償金に当てるのか?(今、政府が行っている公
的資金の投入は既に1兆円を超えるが、政府も裁判所も東電を罰することも担保
を取ることも、財産を吐き出させることもなく、ただ国民の血の出るようなお金・
財産を東電救済と補償金に注ぎ込んでいるだけだ。ありえないことではないか!)

 ④漁業を初めとする農林水産業、すなわち日本の第1次産業を本気で復興・再
生・発展させる政策をとるのか? それとも復旧・復興の遅れの中で農漁民が廃
業せざるを得なくなった後に企業と現地民をタイアップさせ、外資を含む資本参
入によって‘産業化’して復興するのか? TPPを視野に入れた産業化は漁業・
水産加工業・輸送業などの産業地帯をつくることになるから雇用の機会が増える、
と説明する。

 利益が上がれば更に投資するから更に雇用の機会は増えるというのだが、しか
し欠損が生じて見込みがないと見れば地域経済や自然環境などとは無関係にサッ
と撤退する―これは経験の示すところであり、また資本の論理というものである。
地域と自然に根ざした産業ではないのだ。

 ところが政府・与野党・マスコミはこのような基本的な国民の選択すべき課題
を明示せず、国民的な討論も行わず、あたかも“瓦礫処理”と“除染”が当面の
最大課題であるかのような言説を賑わせている。テレビや新聞は毎日々々このこ
とに地方自治体を巻き込んで多くの時間・スペースを割いて報道している。また
除染(放射能を含む土や水の移動?)自体は必要であり人々の切実な願いである
が、加害者責任が不明確なまま、費用も土地も東電に負担させないままの除染論
議に明け暮れている。果たしてこれで良いのか!

 私が何回か通った岩手県の宮古市、宮城県の東松島市、石巻市、福島県のいわ
き市など各地域では瓦礫は確かに問題の1つには違いないが、人々の日々の暮ら
しを再建すること、日々の仕事の再開にはさして障害ではないように見えた。人
々は先ず、家庭や学校で日々を安全に暮らすこと、毎日仕事が出来て多少とも収
入があり、将来に希望を持てるようになることを望んでいる。一連の瓦礫論争と
除染論議、そこに関心を集中させる報道は、最も大切な緊急な選択肢から目を逸
らせる巧妙なトリックではないかと、疑いたくなる。

 また事故を起こした原発近くの地域への帰還促進は、数十年間危険と隣り合わ
せだ!これを奨励して役場や学校を“除染”しても山や林から放射能は流れ集ま
る。人々の不安は拭えないし、後の世に癌などの発生の可能性は否定できない。
危険な地域への帰還はやめよ。安全な地域への移住が可能なようにするのが加害
者の責任である。繰り返す。東電の責任を明確にし、全財産と経営権を取り上げ、
公的に管理し、人々には安全な生活と仕事の場を補償すべきだ。

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3.重茂漁協の<漁協所有・共同利用>
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 では人々の切なる希望に応えて生活と仕事を復活させている実例はあるのか?
 岩手県・宮古市・重茂(おもえ)地区の重茂漁協の実践と精神が正にそれであ
る。ここに報告する重茂(おもえ)漁協について、私は既に農協中央会のシンク
タンクである日本協同組合総合研究所(略称<JC総研>)の機関誌『にじ』
(2011年冬号)[1600円、電話:03-6280-7254]に研究報告『岩手県宮古市・
重茂(おもえ)漁協の復興への取組みと特徴点―協同精神で漁船の共同利用制に
よる復興と六次産業化の実践』を詳しく書いている。  

 また村井宮城県知事の路線と達増岩手県知事の復興計画の相違について、ピー
プルズ・プラン研究所の『季刊ピープルズ・プラン』(2011年12月、通巻56号)
[電話:03-6424-5748]に「復興をめぐる攻防―協同・共生の道か、“悪魔の
石臼”か」というレポートを書き、宮城方式を批判している。従って出来るだけ
重複を避けて、ここでは次の3点に絞ってその特徴を述べ、上からの援助、行政
の施策待ちではなく自主的に消費者とも連帯して復興をなし遂げつつあることを
簡潔に述べることにしたい。
                        
①主たる生産手段の漁協による所有とその利用は地域ごとのグループによる共同
 利用に託するという独特の所有・生産方式を編み出したこと。

②魚、ワカメ、昆布、アワビ、ウニなどの生産のみならず加工・製品化・パッケ
 ージ・貯蔵・産直を含む流通販売を協同組合を通じて行う、いわゆる<漁業の
 6次産業化>を実行していること。

③その結果、殆どの住民・組合員が離散することなくむしろコミュニティの力が
 強まり、他に例を見ないほどスピーディーな復興を遂げつつあること。

<協同組合所有>と<グループ共同利用>

 宮古市の南部の太平洋に突き出た重茂半島には10箇所の漁港がある。人々は
その周辺の集落に住む。宮古市の中心からバスで1時間以上かかる僻地で、住民
は約1600人、漁協の組合員は574人。三陸沿岸の他の漁村と同様に地震と
津波で壊滅的な打撃を受けた。死者50名、家屋の全壊101世帯、港湾も生産
施設、貯蔵施設、作業施設、生産・半生産品もほぼ全滅。人々にとって手足にも
等しい漁船は814隻のうち16隻を残して破壊流出した。
 
 行政の援助は口先だけで遅々として進まない。そこで重茂漁協では役員会、地
域毎の組合員会議、地区代表者会議、組合員全員協議会を繰り返し、地域ぐるみ
で復興する方式―当面、先ず中古を含めて船や定置網など生産手段の確保に全力
を挙げ、それらを漁協で所有する。これを地域グループごとに共同利用すること
によって生産を再開し、天然ワカメ漁の開始、定置網漁の開始、2012年春の
養殖ワカメの種糸の仕込み作業などへと復興への筋道をつけることを決めた。
 
 1年を経て生産量は災害以前の半分にも満たないが、地域全体が協同して復旧・
復興する方向が定まり、産直の生協からの支援もあり、注文にも応え始めている。
漁師の仕事は各人、各家族経営が基本であるから、戸惑いや割り切れない気持ち
がない訳ではない。<グループ共同利用>は全組合員に1隻づつ船が行きわたり
養殖施設が整った時点(約2年先)には解消。再建されたら、被災前以上の強い
生産・加工・販売体制を創りだす計画だ。

<6次産業化>と<消費者組織との連帯>

 第1次産業は、高齢化が著しく特に漁業は衰退気味であると『水産白書』は指
摘している。しかし、これは政策の無策と誤りを無視した論議である。製造業な
ど輸出産業には手厚い施策があり関連技術開発には莫大な予算が計上されている
のに、農林水産業には全く不充分であった。治山治水など自然保護、天然資源の
保全、国民の健康と保養など多面的機能に対する評価がきわめて薄く、若者達が
誇りを持って郷里で働き続ける条件を整えてこなかった。それ故に若い世代が已
むを得ず都会へ去り、高齢化が進み、限界集落が続出することになってきたのだ。
決して農民や漁民や基礎自治体のせいではない。

 重茂漁協では定置網を漁協で経営管理することによって共有財産をもち、収益
を奨学資金や通学バス、学生寮など教育費として寄付したり、養殖ワカメ・コン
ブ、サケ・アワビの稚魚放流など資源の保全に努め、生産品を加工・パッケージ・
保存・販売をも協同組合で行ってきた。品質管理は万全で『重茂の肉厚ワカメ』
はブランドとして高い評価を得ている。

 また、市場に買い叩かれないように消費者組織(生協など)との産直など多様
な販売網をつくり、漁協としては画期的なトレサビリティ・システムも確立して
いる。近年、水産庁は<水産業の6次産業化=1次(生産)×2次(加工)×3
次(販売)=6次>を唱えているが、重茂漁協では既に20年以上前からこれを
既に実践してきたのである。

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4.社会運動としての協同組合活動
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 重茂漁協では災害の前の年2010年5月に全国の環境保護運動家や合成洗剤
追放、せっけん運動の活動家数百人を集めて「シャボン玉フォーラム in 重茂」
を開催している。また永年、六ヵ所村の核燃料再処理工場の反対運動を地域あげ
て展開してきた。なぜなら一旦環境を破壊したら母なる海は回復不能な打撃を受
けると考えてきたからだ。
 
 ワカメ・コンブの養殖をしている多くの組合員は1000万~1500万円の
年収があり、若い漁師も育っている。「天恵戒驕」これが重茂漁協のスローガン
だ。総会議案書の冒頭にこう書いてある。「天の恵みに感謝し驕ることを戒め不
慮に備えよ。重茂は天然資源からの恵みが豊富であり、今は何ら不自由はないが
天然資源は有限であり、無計画に採取していると近い未来枯渇することは間違い
ない。

 天然資源の採取は控えめに、不足するところは自らの研鑽により新たな資源を
生み補う。これが自然との共存共栄を可能にする最良の手段である」。経済活動
は自然を害することなく、環境保護活動は社会運動として展開しているのである。
しかも、流通資本やメーカーに支配されることなく、各家庭も漁業協同組合も健
全経営を貫いている。多くの漁協や被災地の人々は学ぶところ大であると思う。

※【お断り】本稿はミニコミ誌『葦牙journal』2012年4月15日発行no99号に掲載
したものを加筆訂正したものです。
 (筆者は参加型システム研究所、JC総研・客員研究員)

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