―負けるもんか!肺癌との闘いを綴る―(その4)

■【闘病記】ガンと向き合って7年            貴志 八郎

―負けるもんか! 肺癌との闘いを綴る―(その4)

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  • 「タルセバ150mg服用15日で」 副作用の下痢でダウン

 1ヶ月目の健診で、「万歳!」と喜んだが、またしても癌疾はそれほど甘くな
いことを思い知らされた。
 抗癌剤の増量によって副作用は可成り厳しくなった。上半身のみならず下半身
にも発疹がひどくなり、その上、時々猛烈な痒さに見舞われる。頂いた塗り薬で
何とかしのいできたものの、睡眠不足と慢性的な倦怠感や、視野の狭窄などのほ
か、両手親指の爪の生え際に異常が認められ、これが痛い。

 こうした副作用にも何とか耐えてはきたが、抗癌剤増量15日目の未明、ふと目
を覚まして「こりゃヤバイ」と直感した私は、トイレに走り込んだ。
 すると、これはまた、かつて経験したことのない水の様な下痢。 尾籠な話で
恐縮だが、水道栓を一気に開けた様にドバーと、しかも不意に・・。
前日迄、便秘気味をかこっていたのに、固形物の予告もなしにである。その上、
臭気たるや我が物とは思えぬ強力なパンチだ。

 3回程でこの症状は治まったものの、恥ずかしいことに下着も汚してしまっ
た。幼少の頃、失敗したことを思い出して情けなく、落ち込みそうになり、自分
を立て直すために時間がかかった程だ。
 その上、下痢のあとの倦怠感・疲労感は、私の気分だけではどうにもならない
ように思え、医大呼吸器外科に電話をして、措置の判断を相談した。

 そこで、抗癌剤服用を一時中断、そして半月後、4月6日の検診で、再び「癌マ
ーカーの上昇」というショッキングな結果を知らされたのである。
                           (2012.4.17記)

  • 「中断の抗癌剤服用」 副作用は次第に軽く

 4月6日、約2週間のタルセバ服用中止をした状態で、和医大呼吸器外科吉増先
生に診断を仰ぐ。

 服用を中断しているのに上半身中心に、両太腿の発疹やかゆみは依然として続
いている。私の素人考えでは、「副作用が続いている限り、タルセバの影響・効
果が続いている」と心中ひそかに期待したものだが、結果は、甘くなかった。
 先に述べたように、癌マーカーは、服用始めの1ヶ月目には確かに下降に転じ
ていたのに、この日の検査結果は、明らかに上昇しているのだ。

 「あーあ」と思わず溜息を漏らすが、致し方ない。
 吉増先生は、タルセバの服用量を150mgの半分、即ち25mg×3(3錠)ずつ飲む
ように指示して下さった。 早速、翌日の4月7日より、毎朝6時半に妻が寝床ま
で運んでくれた水で「うがい」をした後、タルセバ25mgを3錠、飲み干す毎日と
なる。

 あれから2週間が過ぎた。日常の生活に大した変化はない。ただ、夜の外出を
含め、遠出は億劫になるので、昼間の麻雀も、夕方6時には終了して、夜は専ら
テレビのお守りという生活である。

 そんな時、全中連(全国中小企業連合会)の監査の仕事が入ってきた。
 3箇目の肺癌発症以来、初めての遠出である。 言う迄もなく、私はII型糖尿
病で、朝・夕・晩とインスリン注射は、30年続けている。癌と糖尿のダブルパン
チを受けながらの出張である。

 途中に、突発的に下痢症状が出ないことを心に念じながら、脚や腰に障害を持
つようになった妻に付き添われ、どちらが病人か判らない、半端同士の膝栗毛の
始まりである。 そうだ、用件を済ましたあと、熱海かその辺で久し振りに1泊
も良かろう。 有難いことに、ここ1週間、発疹は大分治まり、倦怠感も和ら
ぎ、下痢もなく、一応快調な毎日になったことが、遠出の決断となったわけである。
                           (2012.4.19記)

  • 「東京へ出張」 帰りは伊東温泉で一泊

 この旅行で私の外出への自信ができた。

 4月22日、「全中連」の会計監査を終えた私は、所沢に住む娘の家に泊めて貰
っていた妻に、麹町のホテル・ルポールで午後1時に会う予定を告げていたので
娘夫婦と一緒に車でやってきた妻と合流した。

 娘の夫は、英語の同時通訳者で、その日の午後、成田発の韓国便へ乗る予定だ
ったので、共に昼食をとり、久し振りに会話も弾んだ。
 八重洲口迄送って貰った私達は、新幹線「こだま」で熱海、更に伊東線で伊東
に到着。

 昨日の出発からこの日も雨続きという体たらくだったが、病中を押して久し振
りの行楽気分は、ウットーしい天気などは物の数ではなかった。 予約していた
伊東ホテル聚楽は、規模も立地も一流だが、いわゆる大衆ホテルの値段で、食事
は朝・夕共にバイキングである。

 その日は月曜日というのに団体客で満員で、夕食の時刻指定は向こう側の都合
で午後7時半ということになる。 困ったのは、糖尿病で朝・夕・晩いずれも食
事前にインスリン注射をするが、日常の夕飯時間帯の午後6時を越えると低血糖
症状を起こすことがしばしばあることである。

 この日も、時間稼ぎにゆっくり温泉に入って、按摩機に坐ったりして時間を使
ってみたが、それでもやっと6時半。そろそろ目の方がヒラヒラと揺れ、冷や汗
が吹き出す。これはヤバい!低血糖の前触れだ。 早速、妻に缶ジュースを買い
に行って貰い、ようやく人心地となった次第。

 ご存知の方も多かろうが、糖尿病の敵は、高血糖である。そして後門の狼は低
血糖で、死に至る場合もある。 インスリンを注射している限り、高血糖は防げ
るが、低血糖の原因を作っていることにもなる。薬というのは、両刃の刃とはよ
く言ったものだ。 旅館側の都合だけで夕食時刻を指定することによって、こん
な不都合も生じることを知っておいて貰いたいものである。

 しかし、私はそのことをホテル側に直接告げはしなかった。物言えば腹が立つ
し、必ず私が言い勝つことになる。「そんなことで荒立てることによるストレス
は、糖尿病にも悪いし、癌に対する免疫力にも影響するじゃないか」そう思った
私は、ホテルのアンケート用紙に思いを綴るだけにしておいた。
 「腹を立てないようにする」私の健康療法のイロハのイであるからだ。そして
やっぱりそれで良かった。

 夕食時に誕生日祝いということで、ホテル側より私の冷酒と、妻のビールがプ
レゼントされた。余り口汚く文句を言っておれば、照れ臭い思いをした筈であ
る。 かくて、冷酒1本を空けて上機嫌な私は、伊東温泉で夢を結んだ。翌日は
どこへも寄らず、一路、和歌山の我が家に帰る。 かくて2泊3日の小旅行は、大
きな問題もなく成功したとになる。

 唯一つ、一寸した出来事があった。 東京駅より新幹線で熱海へ着いたとき、
ホームを歩いている際、右足首から麻痺を感じ、まるで右足は雲の中をさまよう
ように力が入らず、妻の持つ杖を借りてようやく倒れずに済んだ有様だった。
4ヶ月前のお正月に近くに散歩した時も同じ様な経験がある。その原因は、脳か
らくるものか、脚の血流の関係か、神経性のものなのか、近く検査を受けること
にしようと思っている。
                           (2012.4.25記)
        (筆者は和歌山県在住・元衆議院議員)