「再び日本人が武装して国外に出てはならない」

■「再び日本人が武装して国外に出てはならない」─全国青年大会での三笠宮殿下のお言葉から─  富田昌宏─────────────────────────────

 自衛隊が発足以来半世紀にわたって守り通してきた海外派兵の禁が破られた。賛否 両論が渦巻くなかで小泉内閣はイラクへの派遣を強行したのである。私の脳裏には五 十年前の昭和二十七年、講和条約発効を記念して発足した全国青年大会の開会式での 三笠宮殿下のお言葉が蘇ってきた。殿下は次のように述べておられる。

 「──再び日本人が武装して国外に出ないということを皆さんにははっきり持って いただきたい──」  以下少し長くなるが冒頭このことを書いてみたい。  講和条約発効を記念して全国青年大会が開かれたのは、昭和二十七年十一月四日~ 七日までの四日間であった。主催は文部省、東京都、東京都教育委員会。主管は日本 青年団協議会。財団法人日本青年館、日本体育協会、日本レクリエーション協会が協 賛に回った。  会場は明治神宮外苑競技場や日本青年館を中心におこなわれた。体育の部では陸上 競技、バレーボール、卓球、柔道。芸能文化の部は、演劇会、音楽会、美術展覧会。 さらに青年会議の部が設けられ、朝日式討論やシンポジュウムなどが予定された。

 この大会には、全国四十六都道府県の勤労青年代表三千余名が参加し、とくに、沖縄が戦後はじめて本土の大会に参加するという感激の一コマもあった。大会はその趣 旨を次のように詠い上げていた。 <現下の情勢にかんがみ、真に民主主義に徹し、健康で文化生活を樹立し、生産には げみ、自立日本を建設することは、全国青年の強い要望であると共に、再建日本の急 務である。この厳粛な自覚にもとづいて、全国二千万青年の生活文化の向上をはか り、その代表が相寄って共励せっさ、相互の意志の疎通をはかるため、全国の青年の 体育、芸能文化、研究協議の総合大会を実施して、健全な郷土社会の発展に寄与する ものとするものである>

 大会は、十一月四日午後五時三十分から日本青年館大講堂において開会式(前夜 祭)の幕が切られたが、この開会式の来賓としてご出席なされた三笠宮殿下は、その ご挨拶の中で、 「皆さんがこの青年大会において自ら苦しみ、自ら悩み、自ら体験し、新しいものを 生み出し、よきものを伸ばし、悪しきものは捨てていく 。こういうことを体得する ことが今度の青年大会の真の姿であると思う。そのために幾分なりとも基礎的な資料 になれば幸いと考えて申し述べてみたい」と前置きされ、戦争と平和の問題にふれ、 「日本人がもしもかって大陸に武力で進出したような甘い夢がまださめやらずして、 もしも再び武装して国外に出ることがあれば、これはとりもなおさず第三次世界大戦 の誘因になることを痛切に感ずる。なんといっても再び日本人が武装して国外に出な いということを、皆さんにはっきり持っていただきたい」と述べられて参加者に非常 な感銘を与えた。

 なお、日本青年館は当時まだ米軍に接収中であったが、とくにこの青年大会のため に講堂だけが解放されて、この開会式と演劇に使用されたので、全国の青年たちはこ のとき戦後はじめて日本青年館のなかに足を印したのであった。

 青年大会は成功裡に終った。以後今日まで連続して大会がもたれ、参加者も一万人 を超す盛況を続けてきたが、開会式では大会会長である日本青年団協議会会長が、そ の挨拶の中で三笠宮殿下のお言葉を引用し、青年が銃を持って海外に派兵されること のないことを強調し続けてきたのである。  ブッシュ米大統領はその一般教書で、イラクに軍隊を派遣している国として英国、 オーストラリアに次いで日本を三番目に挙げた。自衛隊のイラク派遣によって日本は 新たな一歩を踏み出すことになった。果たしてこの一歩が日本にとってどんな意味を もってくるのであろうか。

 或る人はアメリカへの追随として反対、或る人は「戦争目的ではない」として賛成 しており 、又、「憲法の重みを考えよ」と反対の立場を とる者もあれば、「日本の 自衛隊頑張れ」と声をかける者もいる。  しかし、軍隊の本義は自国の国民の生活と平和を守ることにある。それを踏み越え た軍隊は誤っているといえる。国際貢献も復興支援も軍隊としてはイレギュラーな活 動である。

 古今東西、出兵にあたって国民から気の毒がられて出て行った兵隊はない。惨めな 話である 。「自衛隊というのは国家の鬼っ子。揚句の果ては他国の要請によって駆 り出され、気の毒が られる。そういう状 況をつくったのは国家です」と説くのは浅田次郎さん。浅田さんは「大量破壊兵器は なかったかもしれない」という発言が米国の高官の口から発せられたことに触れ、 「その時点で派遣を中止するのが常識。大量破壊兵器がなかったとすれば米国の侵略 戦争であるといわれても仕方がない」と言う。

 またイラクで子どもたちの写真を撮り続けているフォトジャーナリストの森住卓さ んは、「今度の戦争で米軍は劣化ウラン弾を五万トン以上ところかまわず使ったとさ れている。この戦争で米国は取り返しのつかないことをしてしまった。イラクの地は 汚染され、人々は何世代にもわたって影響を受けざるを得ない。米軍は地球環境と人 類に対する罪を犯した」と説く。  あれを思い、これを考えながら私は暗澹たる気分でいる。三笠宮殿下のお言葉が小 泉総理の頭の片隅にでもあったならという思いでいっぱいである。

 『文藝春秋』が今年の三月号で著名人三十七人に対し行ったアンケート「自衛隊派 遣 私はこう考える 日本が踏み出した一歩ははたして是か非か」で、哲学者の梅原 猛先生は反対として次のように答えている。  「理由はたくさんありますが、限られた字数で要約するのは困難でありますので、 明治以後のもっともすぐれた仏教者である鈴木大拙師が終戦の翌年、大谷大学で行っ た講演の一節を引用して理由の説明に代えさせていただきたいと思います」  「戦争は元来狂人の仕業であるから、尋常一様の道徳観では批判せられぬと云ふか も知れぬが、善良な人民を駆って、このやうなことをやらせる指導者達は大責任があ る。絞殺の刑を言ひ渡されるのも当然と思はれるのです」  三笠宮殿下のお言葉と鈴木大拙師の講演を重ね合わせてみると、自衛隊のイラク派 兵に対し、”NO”という我々の立場がはっきりと見えてくる。