「祖国よ、安心と幸せの国となれ」リヒテルズ直子著

■ 【書評】

「祖国よ、安心と幸せの国となれ」 リヒテルズ直子・著  林田 亜希子

    ほんの木社刊  定価1400円(税別)
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  昨年11月、出版社ほんの木の柴田敬三さんから紹介があり、参加型システム研
究所では著者リヒテルズ直子さんの講演会を横浜で開催した。その経過もあり今
回私が著書を紹介することになった。

 オランダは、人口1,600万人、面積は九州より少し大きい。この小国オラ
ンダがどのようにして世界一幸せな国を実現したのか。本書はこのオランダの事
例を、3.11震災・原発事故後、あるいはそれ以前の失われた20年からの日
本復興のヒントに、というメッセージが込められている。オランダの成熟した市
民社会をひとつのモデルに、これから私たちは何ができるのかが問われている。

 私たちは生活クラブの協同組合運動から始め、市民(資本)セクターを広げる
社会、政治運動に取り組んできて40年になるが、ここ数年は運動基盤であった
ゆとりある中間的市民層が薄くなり、運動展開は思うように進まない。こうした
問題意識も含めて本書を紹介する。

 著者リヒテルズ直子さんは、日本人でオランダ人と結婚、仕事の関係でアジア、
アフリカ、ラテンアメリカで15年間暮らし、1996年からオランダに住む。
オランダ社会と教育に関する研究者である。学者というよりレポーター、社会運
動家としての見識が高く、私もそこに魅かれる。

 オランダは1970年代、長引く不況にオランダ病といわれたが、政労使が同
じ土俵で話し合い、パートタイムの正規雇用化、同一労働、同一待遇に合意する
ことで、ワークシェアリングをすすめて失業を克服し、不況を脱した。政労使の
合意システム「ボルダー(オランダ)モデル」で有名だ。またOECDの中で世
界一子どもの幸せ感が高いことでも知られる。

ほかにも社会保障の充実や、貧困が子どもの成育に不公平をうまない仕組み、
子どものシーズ(種)を育む自由で多様な教育、また脱原発の国でもある。この
「自由」と「多様性」、ひとり一人の人間を大切にする社会を実現してきたのは
市民社会の力であるという。その背景には、オランダが移民の国であり、民族の
多様性を保障することが国の安定を維持するためには必要不可欠であり、市民社
会と政府が信頼と対話をもって向き合ってきた結果である。

 そのひとつの例は、労働組合は日本のような「企業内組合」ではなくヨーロッ
パでは一般的な企業を超えた業種別労働組合であり、内向きな組織ではない。さ
らに会社には「企業経営参加評議会」の設置が義務付けられ、労働者の発言権を
広く認めている。政労使は定期的に集まり雇用問題や経済政策について意見交換
し、国会や政府に対して共同で提案する。

この話し合いの場でほとんどの問題は自分たちで解決可能だという。自律性を
もった市民社会は良識ある、ノブリス・オブリージュ(高貴なるものの義務)と
ソリダリティ(連帯)の意識によって支えられ、累進課税や企業負担の多い勤労
者保障、また企業内給与格差を5倍以上にするな、というヤン・ティエンベルヘ
ンの提言も実践されている。

市民との関係でもオランダの福祉施策には、自治体がNPO団体の職員に賃金を
支払い、そのNPO団体の組織力、運営力を通じてボランティア活動を活性化さ
せる、という形があり、NPOの従事者は全労働者の12%を、ボランティアは
6%を占めているそうだ。

 本書の内容は盛りだくさんで紹介しきれないが、こうした公共システムを本来
の意味どおり上手く働かせるには、支えるための生きた人たちが必要であり、公
僕精神と良識あるエリート教育、子ども時代からの市民性の教育に力が注がれて
いる。

 昨年はブータン国王の訪日もあり、豊かさをはかる指標は、経済のGDP比で
はなく幸せ度が重要であるという認識が広がってきた。本著のオランダモデルを
知ることで、日本の閉塞状況のなぜが見えてくる。それは必ずしも経済悪化を原
因とするものではなく、政治、市民社会の力不足によるところが大きい。

官僚の手の内に回帰した政治はさらに失望の材料だ。そうはいっても生きている
この国で、私たち市民社会もネットワークを強め、新しい社会問題に取り組む活
動を広げて、安心と幸せ社会の実現に少しでも貢献したいと思う。ぜひお読みく
ださい。

(評者は参加型システム研究所員)

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