■【運動資料】

「領土問題」の悪循環を止めよう!――日本の市民のアピール――

  2012年9月28日
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1、「尖閣」「竹島」をめぐって、一連の問題が起き、日本周辺で緊張が高まっ
ている。2009年に東アジア重視と対等な日米関係を打ち出した民主 党政権
の誕生、また2011年3月11日の東日本大震災の後、日本に同情と共感を寄
せ、被災地に温家宝、李明博両首脳が入り、被災者を励ましたことなどを 思い
起こせば、現在の状況はまことに残念であり、悲しむべき事態であるといわざる
を得ない。韓国、中国ともに日本にとって重要な友邦であり、ともに地域で 平
和と繁栄を築いていくパートナーである。経済的にも切っても切れない関係が築
かれており、将来その関係の重要性は増していくことはあれ、減じることはあ
りえない。私たち日本の市民は、現状を深く憂慮し、以下のように声明する。

2、現在の問題は「領土」をめぐる葛藤といわれるが、双方とも「歴史」(近代
における日本のアジア侵略の歴史)問題を背景にしていることを忘れるわけには
いかない。李大統領の竹島(独島)訪問は、その背景に「従軍慰安婦」問題があ
る。昨年夏に韓国の憲法裁判所で出された判決に基づいて、昨年末、京都での首
脳会談で李大統領が「従軍慰安婦」問題についての協議をもちかけたにもかか
わらず、野田首相が正面から応えようとしなかったことが要因といわれる。李大
統 領は竹島(独島)訪問後の8月15日の光復節演説でも、日本に対し「従軍
慰安婦」問題の「責任ある措置」を求めている。

 日本の竹島(独島)領有は日露戦争中の1905年2月、韓国(当時大韓帝国)
の植民地化を進め、すでに外交権も奪いつつあった中でのものであった。韓国民
にとっては、単なる「島」ではなく、侵略と植民地支配の起点であり、その象
徴である。そのことを日本人は理解しなければならない。

 また尖閣諸島(「釣魚島」=中国名・「釣魚台」=台湾名)も日清戦争の帰趨
が見えた1895年1月に日本領土に組み入れられ、その3カ月後の下関条約で
台 湾、澎湖島が日本の植民地となった。いずれも、韓国、中国(当時清)が、
もっとも弱く、外交的主張が不可能であった中での領有であった。

3、日中関係でいえば、今年は国交正常化40年であり、多くの友好行事が計画・
準備されていた。友好を紛争に転じた原因は、石原都知事の尖閣購入宣言とそれ
を契機とした日本政府の国有化方針にある。これは、中国にとってみると、国交
正常化以来の、領土問題を「棚上げする」という暗黙の「合意」に違反した、
いわば「挑発」と映っても不思議ではない。この都知事の行動への日本国内の批
判は弱かったといわざるをえない。(なお、野田政権が国有化方針を発表したの
は7月7日であった。この日は、日本が中国侵略を本格化した盧溝橋事件(1
937年)の日であり、中国では「7.7事変」と呼び、人々が決して忘れるこ
と のできない日付であることを想起すべきである)

4、領土問題はどの国のナショナリズムをも揺り動かす。国内の矛盾のはけ口と
して、権力者によって利用されるのはそのためである。一方の行動が、他方の行
動を誘発し、それが次々にエスカレートして、やがて武力衝突などコントロー
ル不能な事態に発展する危険性も否定できない。私たちはいかなる暴力の行使に
も 反対し、平和的な対話による問題の解決を主張する。それぞれの国の政治と
メディアは、自国のナショナリズムを抑制し、冷静に対処する責任がある。悪循
環に 陥りつつあるときこそ、それを止め、歴史を振り返り、冷静さを呼びかけ
るメディアの役割は、いよいよ重要になる。

5、「領土」に関しては、「協議」「対話」を行なう以外にない。そのために、
日本は「(尖閣諸島に)領土問題は存在しない」といった虚構の認識を改めるべ
きである。誰の目にも、「領土問題」「領土紛争」は存在している。この存在
を認めなければ協議、交渉に入ることもできない。また「固有の領土」という概
念 も、いずれの側にとっても、本来ありえない概念といわなければならない。

6、少なくとも協議、交渉の間は、現状は維持されるべきであり、互いに挑発的
な行動を抑制することが必要である。この問題にかかわる基本的なルール、行動
規範を作るべきである。台湾の馬英九総統は、8月5日、「東シナ海平和イニ
シアティブ」を発表した。自らを抑制して対立をエスカレートしない、争いを棚
上 げして、対話のチャンネルを放棄しない、コンセンサスを求め、東シナ海に
おける行動基準を定める――など、きわめて冷静で合理的な提案である。こうし
た声 をもっと広げ、強めるべきである。

7、尖閣諸島とその周辺海域は、古来、台湾と沖縄など周辺漁民たちが漁をし、
交流してきた生活の場であり、生産の海である。台湾と沖縄の漁民たちは、尖閣
諸島が国家間の争いの焦点になることを望んでいない。私たちは、これら生活者
の声を尊重すべきである。

8、日本は、自らの歴史問題(近代における近隣諸国への侵略)について認識し、
反省し、それを誠実に表明することが何より重要である。これまで近隣諸国と
の間で結ばれた「日中共同声明」(1972)「日中平和友好条約」(1978)
、あるいは「日韓パートナーシップ宣言」(1998)、「日朝平壌宣言」
(2002)などを尊重し、また歴史認識をめぐって自ら発した「河野官房長官
談話」(1993)「村山首相談話」(1995)「菅首相談話」(2010)
などを再確認し、近隣との和解、友好、協力に向けた方向をより深めていく姿
勢を示すべきである。また日韓、日中の政府間、あるいは民間で行われた歴史共
同 研究の成果や、日韓関係については、1910年の「韓国併合条約」の無効
を訴えた「日韓知識人共同声明」(2010)も、改めて確認される必要がある。

9、こうした争いのある「領土」周辺の資源については、共同開発、共同利用以
外にはありえない。主権は分割出来ないが、漁業を含む資源については共同で開
発し管理し分配することが出来る。主権をめぐって衝突するのではなく、資源
を分かち合い、利益を共有するための対話、協議をすべきである。私たちは、領
土 ナショナリズムを引き起こす紛争の種を、地域協力の核に転じなければなら
ない。

10、こうした近隣諸国との葛藤を口実にした日米安保の強化、新垂直離着陸輸
送機オスプレイ配備など、沖縄へのさらなる負担の増加をすべきでない。

11、最後に、私たちは「領土」をめぐり、政府間だけでなく、日・中・韓・沖・
台の民間レベルで、互いに誠意と信義を重んじる未来志向の対話の仕組みを作る
ことを提案する。                        (了)

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