『ライチと上火』

■【北から南から】

深センから 『ライチと上火』      佐藤 美和子

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  7月に入って早々、ライチ(れいし)の季節が終わってしまいました。
  4月下旬に値段のすごーく高い初物がスーパーに出回るようになってから、わ
ずか2ヶ月前後のみの季節限定フルーツです。南方出身のフルーツで、中国広東
省では深センのお隣、東莞市の大朗鎮産が有名です。いまでこそ世界の工場とし
て発展している東莞市ですが、ほんの3~40年前までは東莞市(当時は東莞鎮)
全体がほぼライチ山、東莞住民の大半はライチ農家だったのだそうです。

 そして私、中国に来る前から、あらゆる果物の中でライチが一番好き!ライチ
の産地でなければ、ここ広東省にこれほど長く居ついていたかどうか?というほ
どの好物なのです。

 リンゴやミカンなどの果物とは違って、ライチはビニールハウス栽培などがで
きないため、シーズンが限定されてしまいます。また、「一日目で変色、二日目
に香りが飛び、三日目には味が落ちて四日目には味も香りもすっかり駄目に」と
言われるほど、ひどく足が早い果物でもあります。中国四大美人の楊貴妃が大の
ライチ好きで、産地の四川省から長安(現在の西安市)まで早馬で送らせていた
という有名な逸話があります。しかし、いくら早馬を乗り継いだとしても、冷凍
技術もない時代にこんなに足が早い果物をどうやって?と疑問に思っていたとこ
ろ、なんと新鮮さを保つために、幹を切り倒したライチの木を丸ごと担いで運ば
せていたのですって。なるほど、その手があったか~。

 一口にライチといっても、たくさんの品種があるのは皆さんご存知でしょうか?
  一番早くに出回るのは『三月紅』。透明感のある果実の『桂味』。実が白濁し
ていて、ちょっぴり味がぼけた感じの『白?』。酸味が少なく、淡白な味わいの
『黒葉』。(あまりの美味しさに)楊貴妃ニッコリ♪なんて楽しいネーミングが
付けられている、グリーンがかった果皮の『妃子笑』。毎年6月頃に一瞬だけ出
回る『枝王』は、その名の如く、小ぶりなミカンほどもある大きくてごつい品
種です。味はやはりというか大味で、さほど美味しいわけではないのですが、季
節物ということで毎年必ず一度は買ってしまいます。

 そして広東省でもっとも美味しいと人気のある品種は、『糯米●』です。甘み
と酸味のバランスがほどよく、味がハッキリしているところが好まれているのも
ありますが、皮が薄くて種も小さいので食べるところが多い!というのが人気の
理由なのも、なんとも広東人らしいのです(笑)。

 私はサッパリした味わいの『黒葉』と、濃厚でジューシーな味わいの『糯米
●』が気に入っているのですが、幸せなことに、毎年『糯米●』を知人からたくさ
ん頂いています。なんとその知人、ライチ山を所有しているのですよ!会社経営
者である彼は普段とても忙しく、ライチ山の面倒を見る暇はありません。そこで
ライチに詳しい農家出身の老人に頼んで山の世話をしてもらい、その代わり毎
年できたライチは山分け、という契約を結んでいるのだそうです。おお、ナイス
アイデア!

 彼の山のライチは自家用と贈答用にするだけで、販売目的ではないため、こだ
わりの完全無農薬です。そして一番美味しくなる日を見極め、毎年、早朝もぎた
てのをたっぷり二箱も頂くのですが、それはもうスーパーで買ってきたものとは
比べ物になりません。彼の山のライチを食べるまでは、広東省のスーパーで売っ
ているライチだって、日本で食べていたのに比べたらなんてジューシーなんだと
感動していたのですが、無農薬・当日朝採れライチはやはり天と地の差でした。

 ライチはとても繊細なので、収穫時期の見極めも重要なのだそうです。一番美
味しくなるのは、前二日間が晴天であった三日目の早朝です。雨降りの後ではラ
イチが水をたくさん吸うので味が薄ぼけてしまい、また反対に晴天が3日以上続
いたら、水分が減りすぎてジューシーさにかけてしまいます。恐らくスーパーに
出回っているものは、順次供給するためにそこまでこだわって収穫日を厳選して
いないから、当たりハズレがあるのでしょう。

 また、台風が多くて雨量の多い年、もしくは空梅雨の年も、たちどころにライ
チの出来に影響が出てしまいます。しかし例えライチ向けな天候が続いたとして
も、二年連続では当たり年にならないんだそうです。当たり年は平均してせいぜ
い3年に一度だとか。ここしばらく、3年連続でイマイチの年が続いて毎年ガッ
カリだったのですが、今年2010年は久々の当たり年!大粒でとても甘かったです。

 そして私、こんな好物を毎年たった2ヶ月間では満足できません。そこで、頂
いたライチの半分以上を当日のうちに余計な枝葉を取り去り、皮つきのまま新聞
紙にくるんで冷凍保存してしまいます。新鮮なうちに冷凍しておくと、充分1年
間は美味しく食べられるのですよ。食べるときに冷凍庫から出して水洗いし、す
こし融けかけたときに皮を剥いて食べると瑞々しいシャーベット状で、生ライチ
に、負けないほど美味しいのです。いま我が家の冷凍庫は、半分近くがライチで
埋まっています。

 今年はライチの出来がよくて美味しいし、冷凍庫に確保もバッチリだし、幸せ
だ~!なんて思っていたら、一つだけ落とし穴がありました……。ふと気付くと、
体が妙にだるい上に、顔に小さなぶつぶつのできものが一杯!もう半月以上も
治らない~

 これ、実はライチのしわざなのです。中国漢方の考え方では、食品は陰と陽の
属性に分けられます。陽のものを摂取しすぎると、『上火(シャンフオ)』とい
う体内に熱が篭ってのぼせた状態になり、体調を崩してしまうのです。症状とし
ては、顔に赤い発疹ができる、口角のできものや口内炎、体のだるさ、のどの腫
れ、なんとなくイライラが収まらない、などなど。ライチを含む熱帯地方のフル
ーツは、『上火』しやすい食品の代表格なんですよね……。

 これまで数え切れないほどの中国人に、私がライチに目がないことを知られる
たびに「でも、食べ過ぎたら駄目だよ」と、ウンザリするほど忠告を受けてきま
した。しかしこれまでは、外国人の私には医食同源の中国漢方の考え方を理解す
るのはなかなか難しく、果物をちょこっと食べたくらいで体調崩すなんて、大げ
さな。そんなの中国人だけだよ~なんて思っていたのです。

 今年はあまりに美味しくて連日のように食べていたのと、最近パイナップルや
ドリアンなどの、やはり『上火』しやすい南方系フルーツを頻繁に食べていたた
め、とうとうみんなに忠告を受けていた通りになってしまったらしいです……。

 なってしまったものは仕方ありません。『上火』したら、『清熱敗火』つまり
解毒して、体内の陰陽バランスを整えてやればいいのです。この『上火』の様々
な中国民間療法や対策については、次回に続きを書きたいと思います。

                (筆者は中国深セン在住・日本語講師)

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