ニッポン農業常識クイズ 

■ ニッポン農業常識クイズ           濱田 幸生

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 TPPがほんとうに上陸するようです。菅首相はこの6月までに結論を出すと
年頭所感で述べました。来るものが来たという感じですが、TPP議論で必ず
引き合いに出されるわが日本農業は、もうほとんど聞くに堪えないような空理空
論ばかりで塗り固められています。
 
「TPPに参加しないと世界の孤児になる」とか、「日本の工業製品の輸出は
増えて景気が回復する」だとか、脅しにちかい言い方を財界や民主党内推進派は
しますが、具体的な根拠は怪しいものです。その上で、前原誠司外相のように「
GDP構成比1.5%の農業を守るために、残り98.5%を犠牲にするのか」
という無知蒙昧な発言まで飛び出しました。日本農業はトカゲのシッポなので、
さっさと切り落として、財界に農業再編をしてもらおうということのようです。
 
  一方、農水省や農水族議員を中心とする「日本農業保護派」も、「農業生産が
4.1兆円激減し、食料自給率が14%になる」と脅しています。私の目からみ
れば、いずれも論拠が危うい印象操作に基づいた農業論議です。農業が日本経済
の一部である以上、客観的なデーターを見ない農業議論は意味がありません。
  ということで今回は、やや趣向を変えてニッポン農業の一般常識クイズをやっ
てみることにしました。切り捨てるにしても、「保護」するにしても、まずは常
識を押えておこうね、というわけです。  では参りますぞ。

●【ニッポン農業一般常識クイズ その1】 [#v9d8534d]
  日本の農業は食料自給率が4割だから、6割は外国から輸入しているような食
料輸入大国である。イエスかノーか?

●【ニッポン農業一般常識クイズ その2】 [#wf07cc41]
  では、一人あたりの農産物物輸入額を比べて世界の主要国である英、米、独、
仏、伊、カナダ、オージー、韓国の中でうちの国どの辺?国の順位が多少間違っ
ていてもかまいません。

●【ニッポン農業一般常識クイズ その3】 [#hff58219]
  国内GDPに占める食料輸入比率を先進5カ国の英、米、独、仏、日の中で並
べて下さい。これも多少順位が違ってもオーケーです。

●【ニッポン農業一般常識クイズ その4】 [#z97df880]
  さて、次は難問ですぞ。日本農業の総生産高を主要国で並べて下さい。

●【ニッポン農業一般常識クイズ その5】 [#ob999721]
  国内GDPに占める日本の農業の割合は1.5%ですが、これは他の主要国で
ダントツに低い、イエスかノーか?
  さて、皆さんいかがでしょうか?なかなかわからなくてもとうぜんです。この
問題にあと5問加えてある国立大学農学部で出題したところ、ほとんどダメ。私
が入試問題つくったら誰も受からないかもしれませんね。

 では答え合わせ行きます!

■【第1問の答え】
  答えはノー。ちょっと驚きましたか?
  農産物輸入額は先進5カ国で順に大きいほうから並べてみましょう。根拠はF
AO2007です。まず、輝ける農産物輸入額トップは、ジャ~ン、なんと74
7億ドルで米国!米国は世界の穀倉というイメージが強烈なので、おどろかされ
る順位です。
  第2位は、なんと703億ドルのドイツ!ドイツ農業大好きの篠原孝副大臣に
お聞かせしたい順位です。ドイツもイメージとしては拡がる田園、広大な牧草
地、おお麗しのドイツの黒土、というイメージがあるのでびっくりします。
 
  ついで、英国が535億ドルで第3位に入ります。よく中学校あたりの社会科
の先生から習いませんでしたか、「英国は自給率を回復したが、日本は大きく落
ちた。英国エライ、日本ダメ」と、わが国となにかと比較される英国です。しか
も、英国の人口は日本の半分以下の6千万人強ていどしかいないのですよ。それ
でいて食料輸入額はわが国より多い。そして惜しいことに(?)銅メダルを逃し
て、わが国が460億ドルで第4位に滑り込みます。
 
  第5位には445億ドルのフランスが入ります。あのヨーロッパ最大の農業大
国と自他ともに認めるフランスの食料輸入額とどっこいわが国は変わらないこと
になります。その差、わずかに14億ドル!  なにかと言えば、経済評論家や
政治家たちが言っていませんか。

「日本の食料は自給率4割だから6割を外国に依存している」だの、「世界一
の食料輸入国」だの、果ては「世界の食料と水をあさり尽くしている貪欲国家日
本」などという自虐的アジテーションまがいのことを言う人すらいます。
  あの人たちはちゃんとデーターを調べてモノを言っているのかしら。日本は先
進各国の中で、しごく常識的水準に位置していることが分かります。ではもう少
し別のデーターを見てみましょう。

 国民一人当たりの食料輸入額です。これを見ると、食料輸入の実体がより鮮明
になります。これは人口で輸入額を割った数字です。二通りに数字が示されてい
ます。 輸入額は単純に人口で割ったもので、ひとり当たり食料輸入額がどのて
いどになるのかが分かります。輸入総額が多くても、人口が多ければ必然的に一
人当たりの輸入額は減少していきます(あたりまえだ)。
 
  ちなみに、人口は米国が3億1千万人、ドイツが8千200万人、フランスが
6千500万人、英国は6千万人、日本は1億3千万人です。少子化といわれて
も、世界の人口大国トップ10位入りしている一億人クラブのメンバーです。ち
なみに先進国で1億人クラブのメンバーは、米国と日本しかありません。
 
  食料輸入額を調べれば、食料の依存度がよく分かります。では第1位をご紹介
しましょう。880ドルの英国です。あれ?食料自給率が長年の国内農業の育成
でV字回復したんじゃなかったっけ。続いて第2位は、851ドルでドイツ!評
論家でなにかとドイツに学べという人は実に多いですなぁ。エコ大国ドイツ、黒
きメイサではない森に覆われた田園国家・・・にしては食糧輸入が多いですなぁ。

 そして第3位は722ドルであの欧州に冠たる農業大国のはずのフランスが続
きます。国土面積は64万キロ平方メートルで、わが国の3千7百キロ平方メー
トルのざっと17倍(広いなぁ!)にもかかわらず、人口は半分しかないフラン
スです。 わが日本は、第4位の360ドル。第3位フランスのわずか半分にす
ぎません。

 きわめて常識的水準と言えるでしょう。国土と人口からみれば、諸外国に農産
品をもっと買えと言われるのも分かるような気もします。先進国のドンケツは2
44ドルの米国です。国土面積は、937万キロ平方メートルでわが国の248
倍とバカ広くて勝負にすらならない米国との差は116ドルにすぎません。
 
  このようにデーターを読むと、必ず返ってくる反論が、「「日本が関税を高く
しているので、輸入食料が入りにくい。安い飼料用穀物ばかりなので、金額が落
ちて表示されるのだ」というものです。日本の食料関税は先進国で高くありませ
ん。むしろ最低に近い平均11.7%ていどです。野菜、果樹などは3%ないしは無
関税です。コメがあまりにバカな高関税なので、イメージが引きずられてしまっ
ています。関税問題はまた別の機会に詳述します。
 
  金額ベースがイヤならひとり当たり輸入量(㎏)で見ればどうでしょうか。
  ひとり当たり輸入量の第1位は、660㎏でエコ大国ドイツの頭上に輝きまし
た。 続いて第2位は555㎏で「自給率先進国」の英国です。残念なことに食
料輸入額では首位だったのに順位を落としましたね。第3位は、農業大国のフラ
ンスの548㎏です。プライドが高いフランス人は地団駄踏んでくやしがるで
しょう。そして惜しいことに入賞を逃してまたもや第4位が427㎏の「食料輸
入依存世界一」のはずの日本です。最下位はやはり米国でした。177㎏です。
 
  もう一丁いきますか。輸入食料の対GDP比率をみます。ここまでデーターを
見ると、おのずと答えが出てくるでしょうが、第1位はドイツの2.6%、第2
位が英国の2.4%、そして第3位はフランスの2.2%となります。で、わが
国はというとここでも第4位の座を守っています。どの程度の数字か当ててみて
ください。2.0%?、1.5%?いいえ、1%を切る0.9%です!ドイツの
3分の1ていどの対GDP比率です。
 
  ここまで読まれて、いまだ日本が「輸入食料依存だ」と思われた人はそうとう
にひねくれています。私が繰り返して食料自給率40%という数字がいかに現実
とかけ離れた数字で、故意に日本農業を弱く見せるトリック数字だと主張してい
る理由があるていどお分かりいただけたと思います。むしろ先進国中において水
準以上の農業国、それが日本です。

■【第2問の答え】
  一人あたりの農産物輸入額の人口一人あたりにすると、英、独、仏、カナダ、
伊、日、豪、韓の順となります。第6位で、むしろ下位グループに属します。
  よく評論家やキャスターがしたり顔して、なにかと「日本は世界でも指折りの
食料輸入国ですからねぇ」などと言うのは、いついかなるデーターを根拠に語っ
ているのでしょうか。

■【第3問の答え】
  国内GDPに占める食料輸入比率は、さきほど述べたように英、独、仏、日、
米です。ここでも食料輸入下位グループです。1位の英国が1.9%なのに対し
て、日本はその半分以下の0.9%にすぎません。GDPの1%にも満たない輸
入比率をして、どうして輸入大国だなんて言えるのでしょうか。
 
  これらの輸入食料の額と量を調べてみれば、いかに「国内食料自給率40%」
という農水省の数字が、現実とかけ離れているかおわかりいただけると思いま
す。自給率40%という数字で、私たち国民は自動的に6割を輸入しているとい
う誤った結論を想像してしまうのです。まさに印象操作の典型的手法と言えま
しょう。
 
  私は前回、「日本農業滅亡論」も、その反対の「日本経済、農業によって滅亡
論」もメダルの表裏だと書きました。なぜなら、この一見正反対のこの議論は、
同じ根から生えた夫婦樹のようなものだからです。 同じ根とは、いうまでもな
く農水省卸もとの「食料自給率40%」という国民的常識です。この食料自給率
とはカロリー自給率であり、複雑怪奇な計算式を使います。これについては、そ
のうち腰を落ち着けて分析してみたいと思っています。

 計算式は複雑怪奇ですが、訴えるイメージは強烈です。なにせ、自給率4割と
は日本人は6割を外国農産物に頼っているってことですから。日本農業は自分の
同胞の食さえ満足に供給していないんだ、と誰しも思うわけです。 ほとんどの
論者が、TPP絡みで日本農業を語る時、「食料輸入大国」とか、「輸入食料依
存大国」だのとお決まり文句を枕詞に使います。では、その「輸入食料依存大
国」だと年中書き散らしている評論家にある人が、日本農業の生産額の国際的順
位を聞いたそうです。
 
  その人いわく、「そうね50位?まぁ最下位から数えたほうが早いよな」、だ
そうです。ちなみに、「TPPのために開かれた日本農業をこの6月までに合意
する」と年頭所感で述べた菅総理大臣のお答えはといえば、「80位くらい」だ
そうです。

■【これは私が出した「ニッポン農業一般常識クイズ」の第4問になります。さ
っさと答えを言ってしまいましょう】
  日本は農業生産額世界第5位の農業国です。これは先進主要5カ国という枠組
みをはずして、全世界の国々の中での農業生産額の順位です。順位は、第1位が
中国、第2位が米国、第3位がインド、第4位がブラジル、そしてわが日本は第
5位、第6位はフランスです。
  これはFAO2005が根拠ですが、さらに日本は先進主要5カ国国でいえ
ば、実に世界第2位となります。
 
  では、先進主要国の農業生産額の順位をみてみましょう。第1位が米国182
6億ドル、第2位日本826億ドル、第3位フランス549億ドル、第4位ドイ
ツ379億ドル、第5位英国184億ドルとなります。第5位の英国の実に2倍
超です。ついで世界の農業大国といわれるロシアは世界順位第7位269億ド
ル、オーストラリアは17位259億ドルとなります。わが国はこの両国の3倍
以上になるわけです。
 
  このどこが衰亡でしょうか!?なにが50位だ!何が80位だ。80位といえ
ば破綻国家のアフガニスタンやウガンダ並の最貧国じゃないか。こんな程度の農
業知識しかない男が、「開国元年」などとえらそうに言っているのですから、イ
ヤになります。FAO統計くらい調べてから、日本農業の政策を語ってほしいも
のです。
 
  とまぁ、このように私のような農業者が啖呵を切ると、かならず返ってくる反
論があります。そう、例の「日本は農産物が高いから、そのような生産額になる
のだ」というものです。日本農産物が、高関税で輸入をブロックしているから、
日本の消費者は世界で最も高い農産物を買わされている、という言いぐさは、も
う耳にタコが出来るほど聞かされてきました。
 
  では、食肉を例に取ります。広大な面積と少ない人口密度をもつ米国の優位は
揺らぎません。しかし、同じような広大な面積の国土を持ち、農民収入は月1万
円に届くかどうかという中国とはどうでしょうか。 中国と日本は、豚と鶏肉価
格においてはほとんど同じ水準の価格です。所得水準から言えば、驚異的なこと
です。牛は飼育面積が大きいためにどうしても米国が有利となります。しかし、
その分、わが日本の牛生産は世界で比肩するものがない超高品質を持っていま
す。農産物が高いかどうなのかは、家計内の食料支出をみれば見当がつきます。
その数字も出ています。
 
  2003年に総務省統計局が出した「世界の統計2003年版」に家計消費支出の食料
支出の占める割合が日本は25%弱です。この数字はカナダ、ドイツ、イタリア、
イギリスとまったく一緒の水準です。日本の消費者が不利益をしているというの
はまったくのデマです。先進国としてはいたって平均的水準です。むしろ、現在
はこの統計をとった2003年時より円高とデフレが進んでいますから、今採れ
ばもっと下落した数字が出るはずです。
 
  自給率は、広大な国土を持ち、人口密度が低く、所得水準が低い国がどうして
も高く出る傾向があります。広大な土地と低い人口密度の米国やオーストラリ
ア、ブラジルなどがそうであり、貧困国はそもそも外貨で輸入食料が買えないた
めに自給率はイヤでも高くなります。また、輸出が輸入より多い国も、自給率は
高く出ます。フランスやドイツがそうです。
 
  わが国は農産物輸出はほとんどなく、国土も狭く、人口密度は世界有数です。
このようなハンディを持ちながらも、世界主要5カ国で農業生産額第2位、世界
順位第5位のステータスにいることに、わが日本農民は誇りを持つべきです。農
水省はカロリー食料自給率40%という、世界のどこの国も採用していない恣意
的な数字を弄ぶことで、日本農業を不当に卑しめ、農業者の誇りそのものを奪っ
てしまいました。

■【第5問の答え】
  TPP議論の時に妙に説得力をもってしまう数字があります。そう例のあの数
字、あの数字です。前原外相がこう言います。「GDP構成比1.5%の農業を
守るために、残り98.5%を犠牲にするのか」

 いや~説得力あるなぁ。なんか郵政民営化選挙の時の小泉(チチ)の「郵政職
員ウン万人のために郵政改革をできないのかぁぁぁ!」みたいな迫力ですな。で
は農業大国と自他ともに許すフランスの農業のGDP構成比を調べて見ましょう
か。農水省のサイトを「○○国の農林水産業概況」で検索するとしっかりと示さ
れています。
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_gaikyo/fra.html

■主要5カ国を並べてみれば、第1位のフランスの農業生産額対GDP構成比は
1.8%、次いで第2位が日本の1.5%、第3位米国1.1%です。第4位ド
イツは0.9%、第5位英国は0.8%となります。これがニッポン農業一般常
識クイズの第5問目の答えです。答え、第2位です。
 
  いやもう、爆笑ものです。日本は先進国中第2位の農業GDP構成比を誇るの
ですよ。これをよくも「わずか1.5%」などといいますよ、前原さん。
  いやもちろん発展途上国で、国土が広大な面積をもち、かつ人口が多い国はお
しなべてこの対GDP比は高くなります。農業生産額第1位の中国は
11.3%、第3位のインドは17.7%、第4位のブラジルは5.7%です。
先進国は、農業人口が他の産業の工業や、サービス産業にシフトします。ですか
ら、農業の人口比率が対GDP比で相対的に少なくなっていきます。これはわが
国だけの話ではなく、世界一般の状況です。

■農業の人口比率をみると、日本が2.4%なのに対して、たとえばインドは4
9%とほぼ国民の半分が農民なわけです。中国に至っては62%と過半数が農民
です。いやこれも逆にすごいと言えばすごい。 これが先進国となると、先進5
カ国中農民の人口構成比率が高い国は、第1位が日本2.4%、第2位フランス
2.2%、第3位米国1.8%、第4位ドイツ1.7%、第5位英国が1.5%
となります。なんとわが国は先進国中トップの農民数がいるのです。さすがこれ
は私も驚きました。
 
  絶対数では第1位が米国548万人、第2位日本303万人、第3位ドイツ1
42万人、第4位フランス139万人、第5位の英国などは100万割れの94
万人しかいません。まぁ日本は兼業農家が200万人ていどいますから、専業農
家だけを数えればヨーロッパ諸国と同程度の数になると思われます。
 
  最後に日本農業のステータスをまとめてみましょう。
  日本農業は先進5カ国中で第2位の農業生産額を持ち、農業生産額の対GDP
比でも第2位と上位グループであり、逆に食料輸入額では第4位、ひとりあたり
の食料輸入額でも第4位、食料輸入額の対GDP比でも第4位と下位に属し、一
方農民数では第1位、総人口比で第2位となります。
 
  素直にお聞きしたい。このどこが日本農業が壊滅状態なのでしょうか?どこが
弱小農業なのですか。前原大臣は、他の先進諸国のデーターを見てから、ものを
言ったのでしょうか。私には民主党政権がきちんとしたデーターをもとにしてT
P推進議論をしているとはとうてい思えません。
 
  わが国の農業は、他の先進諸国と同じように、過去に工業へのシフトが起き、
農民数が減った代わりに生産効率を上げて高い農業生産を上げているのです。お
そらく耕地面積などを勘案すれば、日本農業は世界で屈指の生産効率を叩き出し
ているはずです。私は日本農業を不当な印象操作まがいの手法で卑しめた推進派
も、保護派にも与しません。日本農業はしっかりと自らの足で大地を踏みしめて
立っており、トカゲのシッポ切りも許さないし、猫なで声の保護も必要ないので
す。

            (茨城県・行方市在住・農業者)

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