ビルマ/ミャンマー通信(9)

ミャンマー通信(9)

中嶋 滋

 今、ミャンマーは雨期の末期を迎えつつあり、この時期特有の激しい雨が時折ヤンゴンを襲います。しかし、ほんの短い間ですが陽の目を見ることが出来る日が増えてきているようで、季節の移ろいを感じさせます。個人的には、少しでも油断をすると鞄や靴、衣類から枕やベッドシーツに至るまで、ありとあらゆる物がカビで覆われるという忌まわしい季節の一日でも早い終焉を願っているのですが、これも小忠実に手入れをしながら乾期への移行を待つ以外の手は無いようです。
 
「結社法案」の行方は?
 まず、前号で報告しました「結社法案」に関する動向のその後について述べます。前号の報告の最後で「13日に開かれたヤンゴン、マンダレーでの会議を集約し、今日(15日)、主都ネピドーで市民社会団体代表とPAMC(Public Affair Management Committee)との会合がもたれています。注意深く動向を見つめていきたいと思っています」と、述べました。
 
そこで、8月15日に開催された会合について、会議後に市民社会団体側から発表された「声明」をもとに報告します。ヤンゴンとマンダレーで開催された8月13日の会議には、全国から281団体の代表が参加したとされています。ミャンマーは7つの管区(Region、ビルマ族が多く住む)と7つ州(State、少数民族が住む)からなる連邦共和国ですが、全ての管区とラカインを除く6州からの代表者が参加したわけですから、全国的な意見集約がなされたと評価が出来ます。
市民社会団体側は全国的意見集約をもって15日の会議に臨んだということになります。15日の会議には市民社会団体側から60人の代表、国会両院の委員会から80人のメンバー、政府・内務省から担当官が、それぞれ参加し、結社法案について率直な意見交換がなされたと「声明」は伝えています。
 その会議で、市民社会団体側は、次の3つの論点からの主張を展開したということです。
 
① 結社の自由の権利は憲法上の国民の権利であって、それから分離して結
  社法を制定する必要はない。
 ② 結社に関する法案を起草することを国会が決定する場合は、この法案の
  起草は幅広い市民社会団体の参加と協議によってなされねばならないし、
  この法はただ任意の登録のみのためであるべきだ。
 ③ 国会が現在の法案を採択することを決定する場合は、法案は市民社会団
  体からの修正提案に従って修正されるべきである。
 
これらをベースにして具体的には、次の点を主張したことが明らかにされています。
 ① 2008年憲法と国際法および国際条約に適合するよう自由に団体を結成す
  ることを認めること。
 ② 登録を望み決める団体が任意に登録事務所に登録するためにのみ「団体
  登録法」と呼ばれるべき法律として採択されるべきである。
 ③ 登録法は罰則に関する一切の条項を設けるべきではない。
 ④ 現法案の協議プロセスの間は6/88団体法を停止すること。
 
これらの主張に対し国会側、内務省側は、真摯に受け止め検討すると対応したということです。「声明」は、国会が要求に従った国民の権利を守るため積極的な結論を出すであろうと楽観的とも思える期待を表明しています。しかし、281もの市民社会団体が反対の意思を表明し、共同して国会と政府に対し抜本的な修正を求めて協議の場を持ったことは、画期的なことですし民主化が進展していなければ不可能なことであったことは事実です。

また協議の場に80人の国会議員が参加したことも意味のあることです。NLD所属議員は両院併せて41名ですから、多くの与党側議員が参加したことは間違いありません。「声明」が「市民社会と国会議員との相互信頼と協力を通じて国民の権利を守るための積極的結論」を国会が出すことを期待することはそうした根拠に基づいたものであるといえます。

国際的な反応
 結社法案は、ミャンマー国内で活動する国際NGOをも対象にしています。88年結社法の下(事実上停止状態)で、現在、国際NGOは登録対象として実際上は扱われていませんが、MOU (Memory of Understanding) の締結がなければ、活動するうえで様々な制約が生じます。銀行口座の開設、自動車などの保有、駐在員のビザ取得などです。ミャンマー国内でのステイタスが極めて不安定で、何時退去命令が出されるかの不安がつきまとう中で活動をせざるを得ないわけです。
人道支援や技術支援と呼ばれる分野で活動している国際NGOなどがMOUを結んで活動している実態がある一方、社会性が強いと言うか政治との関わりの可能性が少しでも考えられる分野ではありません。ITUCの場合もMOU締結を申し入れてから1年近く経過しているにもかかわらず、未だに出来ていません。

FES(ドイツのフリードリッヒ・エーベルト財団)の場合も同じような状況に置かれているそうです。要するに、特に問題がなければ活動を黙認しておくが問題があれば(政府がそう思えば)何時でも出て行ってもらうということなのだろうと思います。こうした状況下での活動には、様々な支障が生じます。その解消に費やす時間と労力は少なからぬものがあります。
 
今回の結社法案は、登録制度を通してMOU締結よりも強固な統制の下に国際NGOを置こうとするものですから、関係者からは当然厳しい批判と撤回・抜本的な修正を求める声が上がっています。しかし、その声を公然化し行動に移すことはできません。ミャンマー国内に存在することを危うくする可能性が高いからです。
 そうした中で、最近、地元紙がヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)などの法案批判声明を大きく取り上げ、結社法案への国際社会の批判の声を伝え始めています。地元紙の1つは、「結社法案に対して多くの更なる警告」との大見出しを使い、サブで「国際人権宣言や諸条約に反して国会が起草した結社法案に国際グループが警告」と扱っています。
 
エッセンスしか報道されませんでしたが、HRW声明は、「ビルマの結社法案は国際人権基準を満たしておらず、大幅な修正を行うか、廃案にすべきである」、「原案通り可決された場合、同法は政府に対し、民間団体の活動を過度に監視する権限を与え、ビルマの改革と発展を名目に、言論・結社の自由を制約する」と、基本的立場を明らかにした上で、いくつかの重要な指摘をしています。
 その中の「中央委員会」に関する指摘は注目しておく必要があると思いますので、すべき点がありますので、ここで紹介しておきます。
 
「第3章により設置される『中央委員会』には、NGOの登録を不許可とし、既存の団体を解散させる、自由な権限が付与される模様だ。委員会について、独立や権限を保障する条項はない。委員長は内務大臣が務める。内相は、ビルマの2008年憲法では、現役国軍幹部が指名されることとなっている。

ビルマ国軍は、内外の団体と長年敵対しており、NGO登録に関する同委員会の中立性には深刻な懸念が生じている」、「法案によると、中央委員会の決定は最終的なもので、上訴の機会がない。さらに、登録が保留や取り消しとなった場合に、異議を申し出る条項がない。委員会には、『結成時または登録時と異なる方法、または異なる目的のために活動することが発覚した』団体について、登録取り消しを行う広範な権限がある」。
 
この指摘でも明らかなように、結社法案は、軍政時代のものと基本構造は全く同様であり、民主化のためには抜本修正する以外に途はあり得ないと思うのです。ちなみに旧法(88年団体法)は、事実上停止状態にあるといわれていますが、軍政時代から引き継がれ今も生きている数少ない法律の1つです。
 
ミャンマーの民主化の動向を左右し、私たちの活動のあり方に直結する問題でもありますから、注視し続けていきます。
        (筆者はヤンゴン駐在・ILO代表)


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