ミャンマー通信(34)

【北から南から】ミャンマー通信(34)

平和的で着実な政権委譲で民主的政権樹立を

中嶋 滋


◆ <大統領・国軍最高司令官そして旧軍政No.1との会談>

 12月初旬、アウンサンスーチーNLD(国民民主連盟)党首は、スムーズで着実な政権移行の実現に向けて、テインセイン大統領、国軍最高司令官のミンアウンライン上級将軍そして旧軍政時のNo.1タンシュエ上級将軍と相次いで会談しました。大統領と国軍最高司令官との会談は、総選挙結果が判明した段階で行なうことが明らかにされていましたから、12月2日実施は遅れて「疑念」が生じましたが想定されていたものでした。「疑念」は、1990年選挙後の国軍による「選挙結果無視、居座り、軍事独裁の強化」という経緯に基づくものでしたが、それは解消されたわけです。しかし、会談内容は「いい会談だった。協力することで合意した」(国軍最高司令官)と伝えられただけで、具体的な内容は明らかにされていません。

 「サプライズ」は、12月4日に行なわれた旧軍政トップのタンシュエ元上級将軍と会談でした。報道によれば、タンシュエ氏の自宅で4時間を超える対談が行なわれ両氏の歴史的な和解がなされたということです。タンシュエ氏は「選挙で勝利したスーチー氏がこの国の今後の指導者だ」、「彼女がこの国の発展のために真摯な努力をする限り、私は支援を惜しまない」と約束し、アウンサンスーチー党首は、タンシュエ氏に対し「この国に不利になるような報復はしない。恨みも抱かない」と確約し、国軍を含め全ての関係機関とともにミャンマーの発展に尽くすと表明したと伝えられています。

 この報道によってアウンサンスーチー大統領実現の話がにわかに浮上してきました。地元紙は「実現の可能性がある」との政治評論家のコメントを紹介しています。タンシュエ氏の国軍への影響力は今もなお大きく、会談内容の公表(孫のフェイスブックへの投稿)を認めたことは国軍に「OKサイン」を公開で伝えたことを意味するので、1/4を占める国会内軍人議席がアウンサンスーチー氏の大統領就任を阻んでいる憲法の条項の改正に賛成する可能性が高いというのです。国軍にとっては、その優位性を確保する他の条項(国と州・管区議会での1/4議席確保、緊急事態時の最高司令官による全権掌握、主要大臣の任命など)を維持すれば大統領就任条件を緩和しても構わないという判断があるのではないかという解説も出ています。2日の会談で国軍最高司令官は「ともに仕事ができる」と表明しているのですから、「OKサイン」を受け止め実施に動くはずだともいわれています。多くの人々は、アウンサンスーチー大統領誕生を当然のことのように考えているようです。ミャンマーの友人たちは、水面下で大統領就任資格条項の改正にとどまらずどこまで改正を拡大するかをめぐって激しい駆け引きが行なわれているはずだ、と言っています。ギリギリの妥協点が見いだせるか否か、その行方を探っている状況にあるというのです。

◆ <全ては彼女の頭の中>

 アウンサンスーチーNLD党首は、圧勝の選挙結果を受けて、大統領就任資格に関する憲法条項の改正の展望が見えない中で、自らを「大統領を超える」存在であるといい、「すべてを私が決める」とも言い切っていました。記者の質問「首脳会議には出席するのか」に対して「私が出席する」と答え、「その場合大統領は?」との追加質問に「私の隣に座る」と言い放っていました。これらの一連の発言をめぐって様々な議論が巻き起りました。その余波は今もあります。政権移行に関する一連の会談の具体的な内容は一切明らかにされていません。全てはアウンサンスーチー氏の頭の中にあるといわれています。NLD支持者は、この不透明さを独裁的であるとか非民主的であるとかの一般論で批判すべきではないといいます。ミャンマーの現状と歴史を反映した考え抜かれた対応だというのです。

 アウンサンスーチー党首は選挙後に全国会議員を集め厳しい戒めを含んだ訓示を行ないました。その場にいた人の話によると、さながら先生が「出来の悪い」生徒に言い聞かせるようであったとのことです。「研鑽を積んで国民のために働く能力を高めよ」、「専門性をもて」、「グローバル化された国際社会の中でミャンマーの国会議員として恥ずかしくないよう英語でキチンと議論できる能力を身につけろ」、「私利に走るな。そうした場合は党を除名し国会議員を辞めさせる」、「お願いして議員になっていただいた人は5人もいない。皆NLDだから議員になれたということを忘れるな」、「NLDに結束してミャンマーを民主的に発展させるために全力を尽くせ」などと。こうしたことも、戦略的対応を進めるために必要な体制づくりの一環なのでしょう。

◆ <たとえスーチー大統領が誕生しても>

 ミャンマーにおける国軍の存在と支配力は圧倒的です。政治、行政、司法のみならず経済を含めありとあらゆる分野に、その力は浸透し絶大な影響を発揮しています。「一将軍一ホテル」という言葉があるくらい、「クローニー」と呼ばれる将軍らの親族・縁者による「利権集団」が銀行、航空会社、建設会社、ホテル、ショッピングモールなどをチェーンで繋ぎ「財閥化」して、経済界を牛耳っていることは良く知られています。また、50年以上続いた軍政は、有能な人材を吸収する機能をも備えました。富と地位とを求める者にとっては、国軍に加わることが野望達成の実際上の早道だったのです。各省の局長以上ポストのほとんどは、国軍出身者によって占められているのが実態です。

 民主化の推進は、あらゆる分野に浸透している国軍支配を排除し正して行く作業ということをも意味します。50年以上にわたって張り巡らされ社会の隅々にまで行き渡り機能している国軍中心の支配の仕組みが、社会正義に反するものであり国民に不人気であるにしろ、それを作り替えていくことは容易なことではありません。国民の期待と要求を基礎に国軍との調整を図りながら作業を進展させるしたたかな戦略的な対応が必要とされています。アウンサンスーチー党首率いるNLDと民主化を求めるミャンマー国民は、その長く困難な道を歩み始めたばかりだといえます。

 かつて南アのマンデラ大統領とともに歩んだデクラーク副大統領のように、アウンサンスーチー氏とともに歩む人の存在は決定的に重要だと思われます。仮にアウンサンスーチー氏が大統領になったとしても、国軍との調整を図りうる人が必ず必要になるはずです。軍人議員推薦で副大統領になる人が政権運営の鍵を握ることも考えられます。「歴史的な和解」を基礎に民主国家建設をめざすために、国軍の意思によりますが、軍政時代の首相、民政移行期の大統領をつとめ「Mr. Clean」の異名を持つテインセイン氏は「その人」たりうる存在だと思われます。

 NLDが「政権移行委員会」を設置し、本格的な政権担当の準備を開始したと報じられています。その作業の進展に伴って「全ては彼女の頭の中」状況は克服されていくのでしょう。総選挙後も相変わらず賄賂が蔓延り不当解雇される労働者が続出しています。「スーチーさんが大統領になれば2年で変わる」と期待を露にする支持者もいます。その一方で、「最低20年はかかる。生きているうちに変るかな」と厳しい見方をする支持者もいます。民主化の中身が問われ始めています。次第に明らかになっていく民主的政権の姿が、最低限、国民の多くが期待する「誰でも教育と医療が受けられる」ことを確実なものにしていくよう切望しています。

 (筆者はヤンゴン駐在・ITUCミャンマー事務所長)


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