今年の9月、結婚式場は閑古鳥 

【槿と桜】

今年の9月、結婚式場は閑古鳥    

                                  延恩株?


  今年の9月、韓国の多くの結婚式場で閑古鳥が鳴くのではないでしょうか。その理由は?
 クイズでのヒントではありませんが、
   ①旧暦に関わります。
   ②月の満ち欠けを周期とした太陰暦による季節のずれに関わります。
   ③ずれを修正するためです。
 でもこのヒントでは「閑古鳥」にまではたどりつけません。しかし、このことがわからないと「閑古鳥」が理解できないと思います。そこでヒントの答えを言いますと、「閏月」(うるう月、じゅんげつ)となります。
 
でも現在、すっかり太陽暦の生活に馴染んでしまっている日本では、「閏月」そのものが何か、まだよく理解できないのではないでしょうか。おそらく4年に1度だけ2月が28日ではなく29日まである「閏年」は理解できてもです。
 そこで、まず「閏月」とは何かから始めましょう。  
 通常、旧暦と呼ぶのは「太陰太陽暦」を指していて、これは太陰暦と太陽暦の要素を組み合わせたものです。
 
太陰暦は月の満ち欠けの周期から成り立っていますから、1周期で1カ月となり、およそ29,53日です。つまり1年は354,36日となります。私たちの現在の常識では1年は365日ですが、これは太陽暦で春夏秋冬もそれに基づいています。もうおわかりのように太陰暦では毎年およそ11日づつ季節との対応がずれてきてしまいます。
 
ずっと太陰暦に合わせていくと、計算上17年でおよそ185日も季節とずれて、春夏秋冬がまったくひっくり返ってしまうことになります。韓国には昔から「女が恨を抱くと五六月に霜が降る」という俗説がありますが、この季節のずれを無視すると、どんでもないことになるという比喩です。そこで調整が必要になるというわけです。こうしておよそ3年に1回(19年に7回)、暦の日付と季節のずれを調整するために「閏月」が出現することになります。
 
日本ではもはや旧暦は特別の人でない限り、生活に取り入れることはありません。でも韓国では現在でも旧暦が生活に根付いています。お正月も日本のように太陽暦を基準にしていませんから1月1日も日本とは違ってほぼ普通の日と変わりません。盛大に正月として祝うのは旧暦のお正月です。私も日本に来た頃は、太陽暦のお正月に馴染めなかったものです。今でも韓国にいる両親や兄弟などには旧暦のお正月に新年の挨拶をしています。
 
また出生届を役所に届けるとき、今でも旧暦で届け出る人がそれなりにいますし、60代以上の人は多くの人が旧暦で届け出ていると思います。

さて「閏月」に戻しますと、およそ3年に1度起こる「閏月」が2014年にはあるのです。それがいつかというと、今年の場合は9月と10月の間にもう1回9月が置かれることになります。それが「閏9月」です。実は「閏9月」は182年ぶりのことなのだそうです。
 
そして太陽暦の「10月24日」が「閏9月1日」です。つまり韓国では今年は12カ月ではなく、13カ月あるのです。そして今現在は11月ではなく「閏9月」なのです。
 ただ「閏月」はいつも9月とは限りません。ちなみに前回の2012年では「閏3月」でした。このように閏月が挿入されるのは月の周期で決まりますから、一定していないことになります。 さてこれでおわかりのように、表題の「今年9月」とは、「閏9月」を指しているというわけです。
 
それではもう一つ意味不明だと思われる、なぜ「結婚式場は閑古鳥」なのでしょうか。 韓国では閏月は「空月(コンダル)」とも呼ばれます。「空」つまり「〝からっぽ〟の月」というわけで、「神(鬼神)の知らない、余分の月」であり、悪の神も善の神もいない月のため、忌み嫌われる出来事にも厄がつきにくいと考えられています。
 
そのため韓国ではこの「閏月」には、死者の霊が動き回らないとして墓の手入れや改葬する人が増えます。また家の修理や引っ越しなども妨害する霊がないとされて積極的に行われます。その一方で、善の神もいないため「要注意の月」というふうにも受け止められています。「結婚式場は閑古鳥」とは、この「閏月」には結婚式をなるべく避けようとするために起きる現象なのです。結婚式だけではなく出産も控えようとします。
 
迷信や俗説に引きずられるのはくだらないと考える若者が韓国にも増えてきました。むしろ結婚式場がこの「閏月」には値下げをするので、ちゃっかりこの機会を利用して結婚費用を安くあげようとする若いカップルもいます。 ただ長い間、培われてきた伝統やしきたり、風習というものにはそれなりに人びとを納得させる何かがあるからこそ続いてきているのだろうと思います。
 
たとえば「閏9月」は182年ぶりのことだと書きましたが、「閏月」での出産を避けようとするのは、誕生日が毎年はないなどと考えると、親としてはちょっと考えてしまうかもしれません。

私の兄は閏月ではありませんが、旧暦の3月30日に生まれました。旧暦では30日が必ずあるとは限りませんので、誕生日がない年が出てきます。2000年代に入ってから今年の2014までに、兄が誕生日を迎えたのは8回に過ぎなく、これから東京オリンピックが開かれる2020年までだと、4回しかありません。

また結婚式も「善の神様がいない月」だと考えると、何か災厄が及んでは困るから、できるなら「閏月」での結婚式は避けようなどと親はついつい思ってしまうのではないでしょうか。
 
「閏月」に関わる韓国人の対処の仕方は、ほとんど根拠のない俗説だと私も思います。
 でも親の世代が子どもたちの幸せを願うとき、たとえ俗説だとしても幸いに結びつかないと考えられてきたことはなるべく避けようとするのは、親心として私にも理解できます。
 
結婚式場に閑古鳥が鳴くようになってしまうのも、完全に若い当人同士の意志だけで「閏月」を避けるのは少数派だと思います。おそらく親世代以上の子や孫を思う気持ちを汲んだ若いカップルが親孝行のつもりで従っている結果だと私は見ています。
 
こう考えると親の気持ちを汲もうとする韓国の若者がまだそれなりに多くいるようで、結婚式場には申し訳ないのですが、なんとなく嬉しくなってしまいます。
 ちなみにこの次の閏月は、2017年5月です。
            (筆者は大妻女子大学助教授)


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