公的年金の財政方式は賦課方式を再確認せよ

■ 公的年金の財政方式は賦課方式を再認識せよ       力石 定一

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  民主党は年金改革を焦点に据えたいようであるが、厚生年金と国民年金の統合
のプロセスをもっと具体的に分りやすく述べる必要がある。
  日本の公的年金の財政方式は「積立て方式」をとってきた。現役世代から保険
料をとっておいて積み立て運用利益を加え、老後に年金として支給するのを基本
とし、一部を後代世代の保険料に期待する、その分「修正積立方式」だというわ
けである。
 
  欧米の公的年金は「賦課方式」である。現役世代の年金をそのまま老年世代の
年金支給に当て現役世代の老後は次の世代の保険料で老齢年金を支給するという
順送りの財政方式である。日本は「積立方式」をとってきたので、06年の積立金
残高は厚生年金が138兆円、国民年金は10兆円の計148兆円(GDP536兆円の27%
)という膨大な額に達して株式市場の投機に失敗して大損したり、財政資金に貸
してコゲついたりしている。前述したように積立残高は厚生年金の場合138兆円
で年間支給額34兆円に対して約4倍である。
 
  欧米の場合は賦課方式が原則なので、積立金は基本的に存在しない。積立方式
は民間の信託銀行に預託しているようなものであってインフレで目減りしたり、
デフレで欠損したりで個人の年金権を侵害するものである。公的年金は市場リス
クを伴わない財政方式として賦課方式が望ましい。欧米も最初は「積立方式」を
とっていたが経験を積むにつれて間違いだと分って「賦課方式」に転換したので
ある。 アメリカは1935年のニューデールでルーズベルトは「積立方式」をとる
が積立金が年金として支払われないで不況期なのに消費購買力を減少させると反
省し、1939年に「賦課方式」に転換し今日に至っている。保守派のブッシュ大統
領は、ニューデール以来の「賦課方式」の公的年金を、日本の方式に学んで「積
立方式」に転換しようと策して、国民の反対を受けた。

 西欧では1941年にフランスがスエーデン、イギリスは1948年、西ドイツは1957
年にインフレによる積立金の目減りが反省されて「積立方式」から「賦課方式」
に転換している。私たちが「積立方式」から「賦課方式」への転換を決定すれば
148兆円の積立金の取り崩しを大幅に行っていくことになる。まず、基礎年金
と国民年金の支給額は06年にともに66万円。生活保護費は月10、8万円X12=
年129万円であるから国民年金はこれをはるかに下回る。少なくとも上回るには
66万円の2倍の132万円であるべきであろう。
厚生年金の基礎年金部分は国民年金と揃えているので、これも66万円から132万
円に引き上げられ、厚生年金はこの上に所得比例分が乗ることになる。
 
  このために要する積立金の取り崩しは国民年金に66万円X3201万人=21兆1200
億円、厚生年金に66万円X1922万人=12兆6852億円で計33兆8052億円である。積
立残高の約22,8%の取り崩しである。
  06年、20歳の人の場合、国民年金の掛金は月1万3860円、
  年16万6320円x45年=748万4400円。

これに対し国民年金支給額は65歳以後85歳まで生きたとして45年後に66万円X20
年=1332万円で掛金総額の1,8倍である。
支給額を2倍に引き上げると132万円x20年=2640万円で掛金総額の約3,5倍とな
る。
これなら国民年金に加入を拒否している40%の市民が加入意欲を示すことにより
保険料収入の増加がおこるだろう。

 国民年金と厚生年金との統合に向かう展望を基礎年金の橋渡しを(積立金の取
り崩しによる)通じて完成するようにもって行くことが当面の課題だと思う。
国民年金の受給世代の子や孫でサラリーマンになっているものは多い。国民年金
の現役世代とは世代間の連携関係にあるわけで、「賦課方式」は世代間の所得再
配分であることを皆が知ることが大事である。
  基礎年金の統合のための積立金の取り崩しは約4年行いうるから、この間に次
の年金財政をめぐる条件を見通しておく必要がある。

 第一に前述したように国民年金の未加入者のなかで心境が変化して、新加入し
て、国民年金の保険料収入の増加がどの程度おこるか確かめておく必要がある。
  第二に国民年金と基礎年金が倍増することによって、消費活動が活発化するこ
とが景気を刺激し税の自然増収おこるにちがいないが、これがどれくらいの量に
なるか。

 第三に厚生年金の所得比例分の支給裁定額「賦課方式」のドイツの場合には退
職前数年間の手取り給料の平均額をもとにしているが、日本の場合には現役世代
の平均手取り給与の50~60%をめどにするという考え方が一般的であるのは、「
積立方式」の枠組みとの関係を示すものである。「賦課方式」の場合なら当然退
職前数年間の平均手取り給与を基礎に考えるという「選択肢」があることをひろ
める必要がある。その場合、年金給与総額は高くなるが、その土台の基礎年金が
高くなったことを含んでいるという常識を忘れてはいけないだろう。
 
  第四、 基礎年金、国民年金に対して税金を投入するという議論が日本では
一般的であるが、小論は、膨大な積立金の取り崩しを伴う「積立方式」から
「賦課方式」への転換という財政方式をとることで税の投入自体が不必要にな
ると思う。
たとえば国民年金の保険料不払いが多いから、消費税率を引き上げて国民年金を
形成しようと考えたり、基礎年金に三分の一の税金負担を二分の一に上げるのに
、消費税率の引き上げが必要だと主張する論者は、短絡的思考であって、人々の
経済的感触に注意を払った政策選択とは言いがたい。

 以上述べたような私の公的年金の賦課方式論は、日本以外の世界の先進国に共
通した政策モデルであり、日本も1970年代までは、社会保障学者の多数が賛成し
ていた。
ところが、1980年代ころから、少子高齢化社会論が強調されるようになって以
来、日本の社会保障学者の間で人口構成上「賦課方式」は現役世代の負担過重の
ために「積立方式」に転換せざるを得なくなったとの主張が多数を占めるように
なった。世界の先進国はいずこも人口構成の少子高齢化傾向を示しているにもか
かわらず「賦課方式」を堅持している。日本のみがそうなったのは何故か。

 第一に福祉国家諸国では、老齢化の実態を考察し従来65歳以上を老齢世代と見
てきたが、65~70歳世代は個人的な健康条件や経済セクターの活動条件から見
て現役世代とみなしうる人口が増加しているのを確認し、定年次の柔軟化を行
なってきている。
日本の実態も同様であって、60歳から65歳に定年延長したときと同じような状
況が65歳から70歳にかけて再びあらわれており、選択制をとることによって現役
世代の人口比率を引き上げることが課題となってきている。

 第二に婦人の高学歴化に伴い、職業に就く率が高くなるが、福祉国家では、子
育てを可能にする社会的育児施設の整備が進む。住宅条件も複数の子育てが可能
なゆとりあるものにする都市の計画化が進展している。また先行きの教育投資負
担も大学はすべて国公立大学では授業料は無料、十分な奨学金が支給され、教育
負担から子供を生むのをやめておこうかどうかという心配は要しない。こうして
晩婚化がそのまま少子化に帰着するということにならない。さらにフランスなど
では独身女性でも人口の再生産、二人以上の子供をつくるのはノーマルだという
傾向が生じている。

 第三に現役人口比率を少子化によって縮小されないようにと、西欧諸国では発
展途上国からの移民の入国を促進している。しかし都市の内外にスラムをつくっ
て、人種差別と言う社会的緊張に悩まされている。公民権運動が定着するまでに
は長い時間を要するようである。
  これについてどう考えるか。日本はかって発展途上国であったために、ブラジ
ルその他ラテンアメリカ、ハワイなどに大量の移民を送り出している。それらの
日系の移民は、少子化に悩む日本に帰国することを望んでいるようである。これ
に対して入国監理令の制限措置を極力低くするような政策をとり、帰国援助政策
を整備するべきである。

 (注)小論では問題を簡単にするために、国民年金と厚生年金の統合のプロセ
スに限って述べた。このほかに国家公務員Aと地方公務員Bの共済組合などといっ
た年金保険部門がある。主要な指標だけをかかげて補足しておくことにする。

06年の積立金はAが8,8兆円Bが39,7兆円、計48,5兆円である。A,Bとも基礎年金部
分は06年に66万円であるから積立金の取り崩しで基礎年金、国民年金の統一的引
き上げに協力参加しA,B自体の基礎年金自体も66万円加えて132万円に引き上げる
。さらに家族に国民年金受給者があればこれも同様に66万円を加えて132万円に
引き上げる。
  さらに所得比例の年金支給額も積立方式から賦課方式に転換することによって
裁定額は、退職前数年間の手取り給付の平均額ということになるから、かなり上
昇する。ただし、基礎年金は総額に内包されるのであって、総額に加算されるわ
けではない。
                  (筆者は法政大学名誉教授)

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