半世紀前の「看護師出産制限」とマタハラ訴訟

風と土のカルテ(11)

半世紀前の「看護師出産制限」とマタハラ訴訟

              色平 哲郎(いろひらてつろう)


 「女性が輝く社会」を提唱する安倍内閣が、2人の女性閣僚の「政治とカネ」「公職選挙法」に絡んだ辞任で揺れている。残念なことだ。

 女性に活躍してもらうには、母性の尊重は欠かせない。現在は、男女雇用機会均等法で、妊娠や出産を理由に女性へ不利益を強いるような行為(マタニティーハラスメント)は禁じられている。ところが、このマタハラはなかなかなくならない。

 時代を遡ってみると、半世紀前には、新潟県高田市の国立病院で女性看護師に「出産制限」をしていたケースが報道されている。1956年から59年にかけて、この病院で行われた「出産制限」について、当時の新聞は次のように報じた。

 「この出産制限は完全看護など患者へのサービスの必要から、(1)出産者1人の産休期間は90日とし、年間4人とする、(2)出産者と出産者の時間的な開きを90日間おくこと、(3)この問題について看護婦相互で話し合い産児制限によって病院に迷惑をかけないこと、などを骨子としている。当時、既婚看護婦は12人だったので、この方法をとると3年に一度だけ子供を産める計算になっていたが、現在は、既婚看護婦は23人に増えたため、6年にほぼ一度しか出産できない状態になっている。また出産時期は既婚看護婦で作っている互助会の話し合いで決めており、自分の割当期間内に妊娠しない場合は、現在では約6年間も子供を産むことができない……」(1959年8月27日、朝日新聞朝刊)

 しかし、1人の看護師が割当外の妊娠をし、「ぜひ、産みたい」と主張したところ、互助会での投票で反対多数となり中絶を迫られた。この看護師の悩みに同情した別の看護師が労働組合に投書をして、問題が表面化。病院長は、「産児制限などという厳しいことを言った覚えはない」とコメントしている。

 まさか、このような「理不尽」なことは現代にはないだろう、と思われるかもしれないが、実は21世紀のこんにちでも、病院職員へのマタハラを巡るトラブルが表面化している。

 妊娠を理由に勤務先で降格されたのは男女雇用機会均等法に違反するとして、広島市の病院に勤めていた理学療法士の女性が病院の運営者に賠償を求めた訴訟の上告審で、今年9月、当事者の意見を聞く弁論が最高裁第一小法廷で開かれた。判決は10月23日に出された。
 
 妊娠を理由にマタハラをする男性上司は、「時間を制限されるヤツは使えない」などと言う。しかし、少子高齢化が進むこんにち、親の介護や子育てには男性も時間を割かざるを得ない状況が到来しつつある。いつ自分が「時間を制限されるヤツ」に変わるかもしれない。子どもを授かって「おめでとう」と自然に祝福される社会をつくるには、女性の働き方だけを議論していても始まらない。男性の働き方も変える必要があろう。
 
 人事考課でも、単純なノルマ主義ではなく、時間当たりの成果が公正に評価されるようなしくみが必要なのかもしれない。総合的な取り組みが待たれる。
(筆者は長野県・佐久総合病院・医師)
※この原稿は判決の前日に日経メデイカル 10月22日号から転載し著者が加筆したものです)


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