参議院選挙について考える

■参議院選挙について考える         力石 定一

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(一) 米英と比較して見た日本の二院制
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 参議院の半数改選の選挙が来年行われる予定なので政界では準備に追われて
いる。その場合「日本の参議院は衆議院と殆ど同じようなもので二院制の意義は
どこにあるのか分からない。」という民衆の疑念に答えるという大前提をどの政
派も素通りして動き回っている。国民の政治不信を減じるにはこんな点を透明に
することが必要である。
 
 アメリカの二院制が、安定し、上院議員の発言が、影響力を持つ理由はどこに
あるのだろうか。上院議員は各州議会が選出する議員(各州2名)で構成される
ので、州代表として連邦議会や連邦政府に対して独自の発言力をもつ、という本
来の性格に加えて州議会からの選出というフイルターをかけられるため、直接選
挙で選ばれる議員の泥臭さがある程度洗いおとされるというシステムをとって
いることが主因といえよう。
 
 イギリスの場合、上院議員は女王の指名による貴族院の伝統を受け継ぎ、政治
権力を持たぬ一種の名誉職であるが、この中に学識経験の故に貴族に列せられ議
員の指名をうけるものも多いため(ケインズ卿、ハロッド卿など)政治権力を持
った下院の決定の生臭さに対して知的批判の権威の影響力によってチエック機
能を果たすという点で、存在意義を認められ、二院制が安定している。
 註 女王の指名による貴族院議員は千名を超えるが、議会に出席するのはせい
ぜい200人程度ということである。
 
 日本は、第二次大戦後、参議院についてイギリスの上院の機能を踏襲しようと
考えた。この影響で出発当初は学士院推薦の議員がいたり、また政党に所属しな
い無党派の議員の集合である緑風会が、かなりの比重を占め、衆議院の決定に対
して理論的にチエックする機能を果たした。しかし、象徴天皇制の日本はイギリ
スのようにはいかない。参議院からも大臣が出るなどチエック機能に徹すること
が難しい制度上の問題などから参議院の政党化が進み、選挙区が、衆議院より大
きいというだけで、泥臭さを洗い落とすことができず、全国区はミーハー好みの
テレビタレントに汚染されていった。
 日本の参議院は結局、英米の上院がもつ社会的威信と信望をもつことができな
いでいる。 このために、二院制無用論が、まかり通り、各政党は、この根源的
な問いに何ら解答をしないまま、漫然と参議院選挙に走り回り、政治家不信と政
治家嫌いを自ら花粉症のようにまき散らしている。

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(二)のぞましい上院のかたち
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 このような現状分析の上で、なげやりな無用論を否定し、機能としては当初の
イギリス型の上院の機能を果たすものに帰すこと、そして、日本型崩壊に再び落
ち込まないような、新しい参議院議員制度の改革を行うことが必要であると考え
る。
 そのための第一歩として、明年の参議院選挙に対して、東京の都市問題、吉野
川や川辺川などの環境問題、京都議定書◎◎や、自動車文明、原子力文明からの
離脱関連、地球的な戦国時代終焉の外交政策など有力な市民運動にかかわって、
ブレイン活動をしている健康な大学名誉教授を市民運動が勝手連をつくり、同時
に強力なシンクタンクをつくり、参議院地方区・全国区の無所属議員候補として
当選させることである。その候補者の選挙スタイルは泥臭いスローガンよばわり
をとらず高邁な政策をじょうずに分かりやすく説いて、選挙民のうち第一のシエ
アを占める政治的関心が高く投票にはいかない無党派層の票を集約して当選する
ことである。
 
 参議院のチエック機能を理論的な切れ味の鋭さで、先ず回復させてゆき、次第
に参議院制度の改革に向かってゆく。
 また、政策的チエック機能をもちいた批判は、いずれも烏合の衆に過ぎない、
民主党、自民党の再編成に際して理論的筋金を入れる役割を果たすであろう。今、
自民党は世襲議員で占められているために、保守志向の若い政治家志望者が民主
党に席を求めている。その若い党員の間に松下政経塾で「永田町政治学」を福岡
政行らに学んだ人々が増えている。この政治学は自民党の泥臭さを消す必要に着
付き、化粧直しのテクニックを教えているが、泥を落とすだけで、臭さは抜けな
い。日本と世界の発展の法則とビジョンに関しては無理論だからである。

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(三)管制高地をおさえよう。
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 上院の機能の日本型崩壊を避けるために必要な参議院議員の基本原則は、次の
ようである。
  
(イ)全員党籍を離脱し、 (ロ)行政府に入ることを禁止する。 
(ハ)ドイツ連邦共和国基本法は第38条第一項に、「議員は全国民の代表者で
あって、委託および指示に拘束されることはなく、自己の良心にのみ従う」と唱
っているが、新しい参議院議員も、この基本原則に従うべきである。1950年
頃の強力な学生運動は、先進国でも、稀な解放区を大学セクターにつくり、活動
家たちは教員としてそこに安住して政治セクターに有力な人材を送り出さなかっ
たことをいま反省している。解放区で育った次の世代は、現在の市民運動の主た
る担い手なのだが、残念ながら、彼らの中では「異議申し立て」にのみ意義を認
め、これをもって足れりとする風潮・傾向が強く、対案を提示して戦うという考
えに弱く(中には対案の提示を積極的に拒否する人たちもいる)従って対案構築
能力にも乏しい。企業や言論セクターでは、右翼に転向する傾向すらみられる。
 
 一方、政策立案や構想力に富む世代は、いまや名誉教授になり、老化している
ので、残念がっているばかりである。それぞれ、理論と政策を説いて言論界に一
定の影響力をもっているが、政治セクターに管制高地をもたないため、射程は限
定されている。だがもし、この二つの力を結合することができるようなら政治セ
クターで管制高地を占拠することも夢ではない。
 地方自治体の首長のような行政権をもつ仕事は、老齢化した者には耐えられな
い。ただ一つ老人力を行使しうる政治セクターとして、新しい型の参議院がある。
この管制高地から発信する、意表を衝くような政策提示の射程ははるかに広範囲
である。これによって、私たちは最後の政治責任を果たすことになると思いませ
んか。
                     (筆者は法政大学名誉教授)

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