反貧困声明

■ 【運動資料】 

反貧困声明            湯浅 誠

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【声 明】

  歴史的選挙と言われた衆議院議員選挙の大勢が決した。
  私たちはまず、政権交代を歓迎する。この間、日本社会の中には貧困が拡大し
たが、与党・政府には貧困問題と向き合う十分な意思が欠如していたからである。
労働者派遣法に象徴される数々の規制緩和や、社会保障費2200億円抑制などの
「構造改革」が断行され、人々の暮らしは圧迫され続けたが、その実態は「経済
成長さえ果たせば解決する問題」と放置され、さらには「自助努力が足りないだ
け」と自己責任論で抑圧された。少なからぬ人々にとって、この間の状態は端的
に「踏んだり蹴ったり」であり、痛みだけを一方的に押し付けられた。11年連続
3万人超の自殺者、1000万人を越える年収200万円未満のワーキング・プア、派遣
切り被害者、ネットカフェ難民、ホームレス、餓死者等々は、この間の政治が、
人間らしい暮らしを保障するという最も基本的な任務を果たしてこれなかったこ
とを告発している。その意味で、今回の選挙結果は、抑圧され続けた人々からの
与党・政府に対する「しっぺ返し」だった。

 当然ながら、次期与党・政府には、こうした生活破壊の流れを転換し、人々の
生活を再建し、守る役割が期待される。またそうでなければ、政権交代の内実は
なかったことになり、肩透かしを食らった有権者は次なる審判を下すことになる
だろう。
  しかし、その舵取りは容易ではない。失業率は戦後最悪の5.7%、有効求人倍
率0.42倍(正社員0.24倍)という厳しい状況下で、生活の建て直しをいかに目に
見える形で行うか、新政権は早々にその力量を試される。
  与党・政府に最も必要なことは、人々の暮らしの実情から目を離さないことで
ある。民主党は、2007年参議院選挙で「国民生活第一」を掲げて大勝した。
今回の総選挙では、あらゆる党が生活再建を競い合った。民主党はその中で、
人々から生活を預けられたのだ。責任は重い。
  鳩山由紀夫・民主党代表は、今年6月の党首討論で、自殺や生活保護母子加算
の問題を取り上げて、「一人一人が居場所を見つけられる国にしよう」と呼びか
けた。一人一人が居場所を見つけられる国とは、この上なく大切なことであり、
そして困難なことである。私たちは、その提言がいかに現実化していくのかを注
視している。

 「郵政選挙」と言われた前回総選挙の際、大勝した自民党は「官から民へ」を
掲げていた。今回、民主党も「官から民へ」を掲げて政権交代を果たした。両者
が異なるのは、前者の「民」が製造業大企業等だったのに対して、後者の「民」
が、2007年以降、明確に国民生活を指し示していた点である。
  「経済成長さえすれば、人々の暮らしは楽になる」――この約束は、90年代か
らの「雇用なき景気回復」、低下し続ける労働分配率、高騰し続ける社会保険料
等々によって、事実として果たされなかった。もはや、経済成長率と暮らしの安
心度数は独立した変数である。もう誰も、経済成長が十分条件であるかのような
幻想には騙されない。
  では、民主党の約束(マニフェスト)はどうか。ただでさえ厳しい世界経済状
況の中、いかにして暮らしの建て直しを果たすのか。私たちは、それをもっとも
目に見える形で示せるのが貧困問題への取組だと考えている。

 OECDは、日本の貧困率を14.9%と発表している。実に7人に1人以上が貧困
状態にある。多くの人々にそこまでの実感がないのは、日本で「貧困」といえば
、依然としてアフリカ難民キャンプのような飢餓状態が想像されているからだ。
そして、それと背中合わせの関係に立っていたのが「一億総中流」幻想だった。
貧困ラインが飢餓状態に固着していたため、そこまでではない自分は「中流」だ
と、少なからぬ人々が自らを慰めた。この背景には、敗戦後の焼け野原から復興
し、高度経済成長を遂げた「上昇気流」がある。「いずれよくなる」。現時点で
は厳しくても、多くの人たちがそう思えた。
 
しかし、時代は変わり、欧米に対して「追いつけ追い越せ」だった日本は、今
や新興国に追われる立場にあり、少子高齢化の中、人口減少社会に入った。
かつてのような高度経済成長が再び訪れることはないし、「一億総中流」幻想
はすでに過去のものだ。年収300万円未満世帯は、この10年で370万世帯増加して
いる。低成長時代にも人々の暮らしを確保する、智恵のある政治が求められてい
る。中間層だけを想定した政策は、もはや機能しない。

 OECDの貧困率は相対的貧困率であり、それは一言でいえば、生活に追いま
くられて余裕のない状態、社会生活で引け目を感じる状態である(平成20年国民
生活基礎調査結果に当てはめると、平均世帯人数2.7人で年収224万円以下)。日
々の食事はなんとかなっていても、修学旅行に行けない、必要な教材をそろえら
れない子どもたち、また、職場で仲間として受け入れられず、病気をしても生活
のために仕事を休めない労働者たち、地域で不幸があっても香典を包めない、子
や孫にお年玉をあげられない高齢者たち、気兼ねなく外を出歩けない障害者たち
など、この社会の中に安心できる「居場所」を見出せない人たちである。
 
この人たちが生活に追いまくれられる状況から脱し、「一息つけて未来を描け
る」生活状態を確保すること、学校・職場・社会からの孤立状態を解消すること
、賃金や所得保障によって所得を増やすとともに、再分配や支え合いによって支
出を減らすこと、それが鳩山代表の言う「友愛」社会の実現ということだろう。
OECD貧困率の政府としての公認、最低生活基準(憲法25条)による貧困率の
測定、それに基づく貧困率削減目標の定立と、教育・住宅・労働・医療・年金・
介護等々にまたがる総合的な対策。それが、厳しい経済情勢の中でも人々の暮ら
しを支えようとする政府のあるべき姿勢を示し、自分たちも「すべり台」社会を
転落してしまうのではないかという人々の将来不安を取り除く。「国民生活第一
」を掲げて政権交代を果たした与党の拠って立つ基盤は、ここにこそある。貧困
問題は、来たる政権の存立根拠と基盤を補強する課題に他ならない。

 私たちは、次期政権の動向を注視している。私たちが次期政権の応援団となれ
るような、批判勢力とならずにすむような、ビジョンの提出と諸政策の実施を期
待する。                     
                      以上

                           2009年8月30日

                        反貧困ネットワーク
                    代表 宇都宮健児、事務局長 湯浅誠

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