同時進行する南北逆転・東西逆転への胎動

<日中・日韓連帯拡大のために>

同時進行する南北逆転・東西逆転への胎動

—加速する世界の地殻変動—

久保 孝雄


 一昨年(13年)の秋から冬への数ヶ月は、アメリカの覇権衰退が加速していることを明らかにした(注1)が、昨年(14年)の夏から秋への数ヶ月は、世界経済における南北(先進国対新興国)逆転と、世界政治における東西(アジア対欧米)逆転への動きが複合しつつ進展していることを明らかにした。

 (注1)本誌「オルタ」13年1月号「加速する米国覇権の衰退、時代逆行する日本政治」参照

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中国が米国を、新興G7が先進G7を抜いた
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 IMF(国際通貨基金)は昨年(2014年)10月7日に発表した報告書『世界経済の見通し』のなかで、購買力平価ベースでみた中国のGDP(国内総生産)は14年中に17兆6000億ドルに達し、アメリカの17兆4000億ドルを上回り、世界一の経済大国になると予測した(注2)。同じく購買力平価ベースでみると、14年中に新興経済国のG7(ブラジル、ロシア、インド、中国、インドネシア、メキシコ、トルコ)のGDP(37兆8000億ドル)が、先進7か国(米英仏独伊日加)のGDP(34兆5000億ドル)を上回るとの見通しを明らかにした。

 先進国G7と新興国G7のGDP逆転は、世界経済における南北逆転への大きな一歩を印すもので、従来の南北問題の様相が大きく変貌しつつあることを示している。

 中国は2010年に日本のGDP(為替レート)を上回り、世界第2の経済大国になったが、その差は4500億ドル程度だった。しかし、4年後の昨年(14年)のGDPを見ると約10兆ドルで、日本のほぼ2倍の規模に達している。購買力平価でみると、5年後の中国のGDPは日本の5倍になる(表1)。為替ベースで見ても中国のGDPがアメリカを上回るのはそう遠くはなく、IMFは2020年頃とみている。
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(表1)日米中のGDP比較
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             2013   2014   2015   2016   2017   2018   2019
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中国(為替レート換算)  9.469  10.356  11.285  12.235  13.263  14.353  15.519
中国(購買力平価換算) 16.149  17.632  19.230  20.933  22.781  24.756  26.866
米国(為替レート)   16.766  17.416  18.287  19.197  20.169  21.158  22.148
日本(為替レート)    4.899   4.771   4.882   5.001   5.155   5.295   5.433
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  (出所)IMF. Economic Outlook Database October 2014(単位 10億ドル)

 また、世界経済に対する貢献度を見ても、アメリカの15%に対し中国は28%を占め(14年)、文字通り世界経済の原動力であり、安定装置にもなっている。これを見ても世界経済における南北逆転の動きをリードし、牽引しているのが中国であることは一目瞭然である。ノーベル経済学賞受賞者スティグリッツも次のように述べている。「2014年は米国が世界最大の経済国である最後の年となろう。2015年には中国が最大となり、長期にその座を占める」(VANITY FAIR、1月号、孫崎享チャンネル、14.12.21)。

 アメリカの未来学者ジョン・ネイスビッツも「中国は、世界経済の局面を根本的に変えるパワーとなっている。世界経済の重心は北から南へ移りつつあり、150の新興エコノミーを主体とする南方経済圏ベルトが世界経済の局面を再構成しつつある。大変革は今後相当の長期にわたり国際経済面における『新常態』(ニューノーマル)になる」(人民網、15.1.14)と述べている。

 (注2)アジア開発銀行(ADB)も2011年の報告書『Asia 2050』で「2050年にはアジアのGDPが148兆ドルに達し、世界のGDPの過半(51%)を占めることになる」、このとき「中国の割合が20%、インドは16%に達し、米国の12%を上回る」と予測している(田村幸太郎『アジア・シフトのすすめ』PHPビジネス新書)。

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中国—新外交戦略の展開
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 では、世界政治における東西逆転への動きに対する中国の役割はどうか。習近平国家主席就任いらい顕著になってきた世界政治における中国の存在感の高まりは、世界経済における南北逆転の原動力となった経済力の飛躍的拡大を背景にしていることは言うまでもない。

 しかし、中国が世界政治における東西逆転への胎動をリードし、牽引しつつあるのは、巨大な経済力を背景にしているからだけではない。この1〜2年、中国がようやく21世紀の世界と国際関係に対する自らの構想とビジョンを構築し、こうした新戦略に基づく積極的な対外活動を始めたことが大きな要因になっている。中国は「改革・開放」いらい35年を経て、小平が敷いた対外路線「韜光養晦」(出しゃばらず、時が来るまで力を蓄える)を乗り越え、積極的な対外戦略に転換したとみられる。

 中国の動きをウオッチしているアメリカのカート・キャンベル(元アジア・太平洋担当国務次官補)は最近の中国について次のように書いている。「今や中国は(世界の動きに)単純に反応するだけではなく、自らのプランに基づき積極的に行動している…習近平主席の就任後、状況は変わった…世界が新たな段階に入ったことを示しているかのようだ」と述べ、さらに「中国と定期的な外交を維持することは非常に重要だ。世界には、これより重要なことはなくなったのかもしれない」とまで書いている(「中国の対外戦略、今は積極的に」フィナンシャル・タイムズ、チャイナネット、14.8.11)

 また、アメリカ各紙は昨年11月に北京で開かれたAPEC首脳会議を前に次のように書いていた。「(中国が初めてAPEC主催国になったのは2001年だが)中国はその後、10数年の高度成長を迎え、今や世界2位の経済体になった。中国は今年のAPEC首脳会議により、経済の巨人・・・のイメージを示そうとしている」(NYT電子版、チャイナネット、14.11.3)。「(今回のAPECへの期待は)世界経済の中心的な力が大西洋から離れつつあり、世界の指導力に関する期待がアジア・太平洋に寄せられていることを示している」(WSJ、同上)。

 確かにこの間、中国は一連の世界首脳会議—アジア信頼醸成措置会議(CICA、93年カザフスタンの提唱で発足、内陸アジア中心に26か国参加、上海、5月)、BRICS(ブラジル・フォルタレザ、7月)、上海協力機構(タジキスタン、9月)、APEC(中国が議長国、北京、11月)、東アジアサミット(ミャンマー・ネピドー、11月)、G20(ブリスベーン、11月)、中東欧諸国首脳会議(ベオグラード、12月)などを通じて「シルクロード経済ベルト」「海上のシルクロード」「中国から欧州までの高速鉄道・道路網」の構想や、BRICS開発銀行、BRICS外貨準備基金、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)の設立などを提唱し、さらにCICAでは「アジアの安全保障はアジア人の手で」とするアジア新安全保障観、APECでは「アジア・太平洋自由貿易圏(FTAAP)」構想を打ち出し、大方の合意を取り付けるなど、これらの首脳会議を積極的にリードする役割を果たしてきたが、これらはすべて新たな外交戦略に基づく活動であることは明らかである。

 とくにBRICS開発銀行(500億ドル、16年発足)、BRICS外貨準備基金(1000億ドル、15年発足)、アジア・インフラ投資銀行(500億ドル、26か国参加、6月発足)などの構想は、アメリカ主導のIMF、世界銀行のドル体制を脅かすもので、アメリカ側には強い警戒心があるが、米国議会が新興国・途上国側の要求するIMFなどの出資比率の変更を認めないのが一因になっていることもあり、黙認せざるを得なくなっている。中国は4兆ドルの巨額な外貨準備を、これら新設の金融機関への出資に回すようだが、ここにもアメリカ財政のサポートより途上国のインフラ整備支援を優先する中国の新たな戦略を見ることができる。

 さらにこの間、中国は豪州、韓国とFTAを締結したほか、南アジア地域協力会議(オブザーバー参加)、ASEAN、オセアニア、南太平洋島嶼諸国、中南米・カリブ諸国、EU主要国などを習主席、李首相らが手分けして訪問し、「中国・中南米・カリブ諸国共同体」の創設や「中国・中東欧諸国協力ベオグラード綱要」の合意はじめ、多くの国や地域国家連合とパートナーシップ協定を推進するなど、経済協力、友好関係強化に大きな成果をあげている。まさに中国外交「全面展開の年」だったといえるだろう。

 王毅外相も昨年末の会議で、次のように述べて1年の外交の成果を強調していた。「2014年は中国の外交が全面的な進展を遂げた実り豊かな1年であり、67の国や5つの地域機関とともに、72の異なるパートナーシップを築きあげ、同盟を結ばないパートナーシップの構築という全く新しい手法で中国の特色ある大国の外交理念を説明している」(新華ネット、14.12.13)。

 『人民日報』によれば、中国の外交モデルは「中国モデルの外交分野における体現である」として、理念、哲学、戦略などを説明しているが、「理念」では<先進国>に対しては利益共同体の構築、<途上国>に対しては運命共同体の構築、<周辺国>に対しては「親、誠、恵、容」を以て良好な関係を構築、<米国>に対しては非衝突、非対立、相互尊重、協力・ウインウインの新型大国関係を目指すとして、対象国ごとにスタンスを変えているのが特徴だ(人民日報、14.9.22)。

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米中の新型大国関係と中露の「天の同盟」
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 中国が重視する米国との「新型大国関係」は、中国外交が目指す「新型国際関係」=新しい世界秩序の一環であるが、これについては(異例の長時間会談であらゆる懸案が話し合われたと思われる)一昨年6月の8時間に及ぶ米中首脳会談(米加州・サニーランズ)、昨年11月、APEC終了後の10時間にわたる首脳会談(北京・中南海)を経てほぼ合意に達したとみていいのではないか。ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は一昨年の米中首脳会談の後「(米政府は)新たな大国関係を機能させようとしている。これは米中の競争は避けられないものの、利害が一致する問題では協力関係を深めようとしていることだ」と述べていた(日経新聞、13.11.21)し、ケリー国務長官も北京での首脳会談を前に「米中関係は世界で最も重要であり、21世紀の世界情勢を決めるものだ」と発言していた(環球時報、14.11.6)。

 米中関係に次いで重要なのが、近年アジア志向を一段と強めているロシアとの関係であるが、ここでも極めて重要な変化が進行している。長年の国境問題を解決した上で中露主導で結成(01年)された「上海協力機構(SCO)」は、その後インド、パキスタン、アフガニスタン、イランなどをオブザーバーに加え(インドは近く正式加盟の見込み)、ユーラシア規模で「非米色」の強い勢力圏を広げつつあるが、中軸を占める中露はウクライナ問題を機に米欧が発動した対露制裁に反発し、連携を強めつつある。

 ロシアはウクライナ危機を、親露政権を打倒し、親米欧の極右政権を樹立したクーデターと見ており、その背後にはロシアの台頭を抑え、欧州の覇権を防衛するため、ウクライナをEUとNATOの勢力圏に編入しようとするアメリカの意図が働いているとみている。ロシアがクリミア統合、東部ロシア人居住地域(これらは元来ロシア領だった)へのサポートなど、頑強に対抗しているのはこのためである。

 アメリカはEUを指揮して対露経済制裁を強化している(EU内の足並みは揃っていない)が、ロシアは中国やインドなど新興国との経済関係を強めて対抗している。とくに中国とは天然ガスの30年間、4000億ドル(47兆円)の長期契約をはじめ、貿易額を5年後に年間2000億ドルに拡大するなど、38の経済協力協定に調印し、戦略的パートナーシップ協定に基づく関係強化を図っている。ロシアの豊富な天然資源と中国の広大な市場の結びつきを、ロシアの専門家は「天の同盟」と呼んでいる(ロシアの声、14.10.19)。

 昨年末、対露制裁に同調しないインドを訪問したプーチン大統領は、モディ首相と会談、貿易額を10年で3倍に増やす(100〜300億ドル)、ロシア製原発12基、軍用ヘリコプター工場建設など、多岐にわたる協力強化で合意、「(インドの武器輸入の75%がロシア製であり)ロシアは我が国の強さを支える柱であり、最も重要な防衛パートナーだ」(モディ首相)、「今こそ、戦略的パートナーシップをより強化する時だ」(プーチン大統領)とエールを交換している。

 なお、米欧の反対を押し切って、住民投票によりロシアに統合されたクリミア共和国のアクショーノフ首相が同道し、「インド・クリミア・パートナーシップ」に関する覚書が調印されたことに、アメリカが激しく反発している(日経新聞、14.12.14、ロシアの声、14.12.12)が、この露印接近には、対米けん制と同時に「超大国」化する隣国中国への外交スタンスでの協調という思惑があることは言うまでもない。

 欧米から金融制裁を受けているロシアは、中国との間で取引通貨に最大限ルーブルと人民元を使用することで合意し、天然ガス取引で、国際エネルギー市場初の「ドル無し元建て」での支払いが行われることになった。中露の取引は大規模のものだけに、ドル依存からの脱却を目指す新興国の動きを加速するとともに、国際通貨としての人民元のプレゼンスを高めることになる(ロシアの声、14.11.6)。

 「リーマン・ショック以降、中国政府はドル依存からの脱却をめざし、中国およびオフショア人民元市場における規制緩和、アジアから欧州に広がるスワップ協定の締結と人民元決済銀行の設置—などの人民元の国際化戦略を積極展開し、人民元の決済通貨としての位置づけを過去5年間で急速に引き上げてきた」(「経済レビュー」14.814.29、三菱東京UFJ銀行)。

 国際決済はいぜん7割がドル建てで行われており、人民元は第7位の通貨に過ぎないが、すでにBRICS開発銀行では各国通貨によるドル無し決済を行うことにしている一方、パリ、ロンドン、フランクフルト、ルクセンブルグ、ソウルなどに人民元決済銀行の設置が進められており、ドル体制を揺さぶる動きが広がりつつある(人民元は日本円、ユーロ、豪ドル、NZドル、英ポンドとの直接取引も始めている)。

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東西関係の転機となったウクライナ危機
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 以上の経緯を見てくると、米欧の対露制裁の強化を機に強まった中露の「天の同盟」や露印の連携強化、BRICSや上海協力機構などの結束強化は、経済連携のレベルを超えてアメリカのドル支配や世界覇権を脅かす強力なパワーに転化しつつあることがわかる。

 プーチン大統領は昨年10月ソチで開かれたロシア専門家の国際会議(Valdai クラブ)で演説し、「アメリカは冷戦終結後形成された世界秩序を台無しにした」と非難し、新たなグローバル管理システムを創りだす努力をしなければ、世界は無政府状態とカオスに陥る危険があると警告した。さらに、西側の対露制裁によって米露の関係は悪くなるだろうが「制裁は国際貿易のルールを破壊(するもので)、ロシアはそうした措置に耐えうる強国であり、制裁解除を『懇願する』ようなことはない」と述べた(ロシアの声、14.10.25)。

 いまロシア経済は原油価格の下落、対露制裁によってルーブルが大幅に下落するなど深刻な苦境に陥っているが、こうしたなか3時間に及ぶ内外記者団との会見に応じたプーチンは「今回の危機は外的要因によるもので、回復には最低2年はかかる。制裁による影響は4分の1程度だ。我々は西側を攻撃していないのに、西側は我々を攻撃している。NATOはロシアに対し『ベルリンの壁』を作っているが、我々は西側と正常な関係を望んでいる」(要点のみ、14.12.18、各紙参照)と述べ、経済危機の克服に自信を見せた。

 アメリカの通貨専門家の一人は「ルーブルの急落はロシア経済を不安定化させようと西側が画策を行った結果であり・・・国際社会は、ロシアに政権交代を起こすことを目的とした正真正銘の通貨戦争が行われていることを、理解し始めている」と述べていた(プリンストン・セキュリティーズ、ベネディクト・ウイリス、ロシアの声、14.12.19)。

 また、11月の露中国防相会談の際、ショイグ国防相は(ウクライナ、香港などを念頭に)アメリカなど西側が仕掛ける「カラー革命」に対し「露中は共同してこの新たな国家安全保障上の脅威に立ち向かうべきだ」と述べ、常万全中国国防相に対し米欧による「民主化」を口実とする内政介入への共闘を呼び掛けている(同、14.11.19)。

 他方、EU側にも微妙な変化が生まれている。「国際政治の舞台裏では、中露との敵対が米欧にとって得策でないと警戒する見方が強い…(米欧の有力者が非公式に集まる最近の<ビルダーバーグ会議>で)、欧州勢が『米国がウクライナ危機でロシアを敵視、制裁したのでロシアが中国と結束し、中露が米欧に敵対するようになってしまった』と米側を批判したといわれる」(田中宇の国際ニュース解説「米国覇権の衰退を早める中露敵視」14.6.9)。ドイツのメルケル首相は新年向けメッセージのなかで「(クリミアのロシア統合には反対だが)EUはロシアとともに欧州の安全保障達成を目指すべきだ」と述べている(ロシアの声、14.12.31)。

 エネルギーの3割をロシアに頼っているEUは、長期的にはロシアとの安定した関係を望んでおり、対露制裁にはアメリカとの温度差が目立つ。これに不満のバイデン副大統領が「EUは対露制裁を望んでいなかったが、米国が強要したのだ」(ロシアの声、14.10.7)とEUを属国扱いする発言をして物議をかもしたが、フランスのメディア(AgoraVox)は「(対露制裁を受け入れたことは)欧州が(米国から)独立していなかったことを明らかにした」と書いていた(リア・ノーボスチ、15.1.6)。米・EU関係に意外に深い溝があることが明らかになった。

 この間、米欧はオバマ大統領を先頭に、あらゆるメディアを使ってロシアとプーチンを悪者にする情報戦を展開したが、思惑通りには成功していない。プーチン人気は国内では圧倒的だが、国際的にもウクライナ問題で見せた冷静かつ強かな対応への評価が高く、人気は底堅いものがある。最近の米国経済誌『フォーブス』によれば、世界のリーダーの影響力ランキングでプーチンが2年連続でトップを占めている。因みに、2位オバマ、3位習近平、4位ローマ法王、5位メルケル、6位イエレンなどが続いている(安倍首相については後述)。

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「米国はもはや覇権国ではない」(ブレジンスキー)
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 以上でみたように、ウクライナ危機はアメリカの世界覇権を最終局面に追い込むほど、世界情勢に重大な転機をもたらしつつある。アメリカの著名な戦略家ブレジンスキー(カーター大統領の特別補佐官)は、すでに7年前の著書で「(イラク戦争の結果)アメリカのグローバル・リーダーシップは信用を失った。もうアメリカの大義では世界の力を結集できなくなり、アメリカの軍事力では決定的な勝利を収められなくなった。アメリカの行動は同盟を分裂させ、対立相手を結束させ、敵と悪党に塩を送った…アメリカの政治手腕に対する敬意は先細りとなり、アメリカの指導力は低下の一途をたどっていった」(ブレジンスキー『ブッシュが壊したアメリカ』徳間書店、07年)と書いていた。

 さらに、ブレジンスキーは最近のインタビューで「アメリカはもはや覇権国ではない」との認識を示し、次のように語っている。「米中は政治、経済的に世界での2大強国であり、このことを我々が認識し、中国も認識し、協力できなければ双方が苦しむということだ。協力が実現できなければ危険であり、したがって戦略的パートナーシップとして協力を求める理由がある」「我々はもはや世界の覇権国ではない。この認識が重要だ。逆に中国の役割が増大する。残念ながら中東などで米国の世界的支配は後退する」(POLITICO、孫崎享チャンネル、14.11.8)。

 確かにアメリカは南米、アフリカ、アジア、中東などで覇権を失うか、大きく後退させているが、欧州覇権防衛のため介入したウクライナでもプーチンの頑強な抵抗にあい、中露を米欧への対抗勢力として結束させてしまうなど、アメリカにとって致命的な失策になり始めている。アメリカは自らの世界覇権の終わりを自ら招き寄せているかに見える。

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戦後70年と時代を「逆行」する安倍政治
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 本誌昨年1月号の小論で、「時代錯誤で危険な思想(を持つ政治家)」(NYT、13.12.16)と見られている安倍首相の「時代逆行の政治」(注3)を一日も早く終わらせることが、国際社会に対する日本国民の責務だと書いたが、昨年末の総選挙で日本国民は全く逆の判断を下した。この結果、国内では格差拡大と貧困化が進み、対米関係では米国の覇権防衛のため政治、経済、外交、軍事などあらゆる面で一層の犠牲と従属を強いられることになる。

 マスコミではアベノミクスを称え、安倍外交を日本の存在感を高めるものと評価する論調が多いようだが、安倍首相を見る国際社会の目は極めて厳しいものがある。先に挙げた『フォーブス』誌のランキングを見ると、世界3位の経済大国日本の安倍首相への評価は何と44位の金正恩、46位の朴大統領にも及ばず、63位という驚くべき低ランクである。地球儀俯瞰外交と称して50か国を歴訪し、50数兆円もの経済援助を「ばら撒き」、中国包囲を説きまわって日本の「平和国家」イメージまで壊してしまった安倍外交は、完全に空転している。

 しかし、権力に迎合し、ジャーナリズムとしての矜持と品位を失ってしまった日本のマスコミや出版ジャーナリズムは、このことをほとんど報じていない。それどころか、最近の書店では『反中、嫌韓』本に加えて日本を「世界最強の国」「世界の楽園」と称える日本礼讃本が目立ち始めた。『軍国主義が日本を救う』(徳間書店)などという本まで並んでいる。「日本を世界の中心に」(安倍総理の年頭所感)と呼号する安倍政治のもとで、驚くべき時代錯誤の風潮が闊歩し始めている。

 今年は戦後70年に当たる。国際社会は第2次世界大戦を「反ファシズム、反軍国主義」の戦争と位置付けて勝利を記念しようとしている。とくに中国、ロシアは対日戦勝利、対独戦勝利70周年をともに盛大に記念することで合意している。

 この時、安倍首相は来る8月15日、「村山談話」「河野談話」にかわる「安倍談話」を発表しようとしているが、過去の負の歴史を直視しようとしない歴史修正主義を信念とする安倍首相は、アジアに向け、世界に向けていかなるメッセージを発しようとするのか。信念通りの内容であれば日本の国際的孤立は決定的となり、安倍内閣は日本国民の審判を待たずに、国際世論の厳しい圧力で瓦解させられるかもしれない。

 早くもアメリカは国務省報道官を通じ「戦後50年に植民地支配と侵略を謝罪した村山談話や、いわゆる従軍慰安婦に関する<河野談話>の継承が重要との認識を示し」、さらに「(日本に対し)近隣諸国との対話を通じた友好的な方法で、歴史に関する懸念を解決することを促している」ことも明らかにした(読売新聞、15.1.6)。中国、韓国の外務省もそれぞれ「安倍談話」の内容を強い関心を以て注視していることを明言している(各紙、15.1.7)。

 こうした状況下では、安倍首相としても(忍び難きを忍んで)二つの談話を継承せざるを得ないだろうが、そうなると今度は安倍首相の強力な支持基盤である右派勢力の離反を招きかねない。いずれにしても戦後70年の「安倍談話」は、安倍内閣の命運どころか、国際社会における日本の位置をも揺るがす重みをもち始めている。

 (注3)私は本誌昨年1月号で、安倍政治を「時代逆行する政治」と書いたが、ロバート・ライシュ(元クリントン政権の労働長官、現カリフォルニア大学教授)によれば、アメリカ共和党保守派も同じような特徴を持っているようだ。彼らの目標は「今私たちが保持しているよきものを温存していくことではなく、そういうものを持てるようになるずっと前の時代に引き戻すことなのだ・・・彼らのやろうとすることは、保守的というよりも逆進的なのである・・彼らの多くは目的のためには手段を選ばない・・・彼らの戦略は、労働者たちを分断し、公衆道徳よりも個人の道徳を語り、いくつかの大きな嘘を真実として人々に信じ込ませることなのである」(『格差と民主主義』雨宮寛・今井章子訳、東洋経済新報社)

(1月14日了)

 (筆者は元神奈川県副知事・アジア・サイエンスパーク協会名誉会長)


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