地球環境問題へのアプローチ(3)

■ 地球環境問題解決へのアプローチ(3回目)

                          阿野 貴司
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◆【様々な関係性:宇宙140億年の歴史】


  ご先祖様の数から人類としての関係性、進化系統樹を考えた場合の生物として
の関係性をご理解頂いた段階で、今度は、物質レベルでの関係性について考えて
みたいと思います。宇宙は誕生から137億年とも言われており、130億年以上が経
過したと考えられています。一番最初は、超高温・高密度のエネルギーの塊がビ
ッグバンという大爆発を起こし、膨張しながら冷却する過程で現在の宇宙が形成
されたと考えられています。エネルギーの塊ですから我々を作っている原子とか
分子というような粒子すら存在しなかったわけです。

 つまり粒子を作るエネルギーしかなかったわけです。それがパッと広がって、
10のマイナス44秒後には、10の32乗Kという1兆度の1兆倍のさらに何億倍とい
うとてつもなく高温であったものが、段々と冷えてきたと考えられています。そ
の過程で、素粒子が安定して存在することができる温度になり、やがて原子や分
子が安定して存在できるレベルになり、我々の知る物質のもとが形成されたわけ
です。

 中性子とか陽子が原子核を構成し、その周りを電子がまわって、原子が形成さ
れているというモデルを聞かれたことがあるかと思いますが、温度が下がる過程
で、宇宙に原子が「形」を持つ粒子として存在できるようになったわけです。そ
れらが、星の誕生進化を遂げて新たな原子、分子を生み、現在に至っています。

 この宇宙空間全体は、元々は一つのビッグバンを生み出すエネルギーの塊であ
ったと考えられているわけです。あるいは、現在の我々が知る宇宙空間に存在す
る物質を構成する原子は、すべて原子核と電子からできています。そして、原子
核は、陽子と中性子で形成されています。あとは電子です。だからマイナスの電
子とプラスの陽子と中性の中性子、これら三つしかないのです。

 もちろん陽子と中性子を作るアップクォークとかダウンクォークとかいうレベ
ルに入ればもっと複雑な素粒子がありますが、結局何で出来ていますかっていう
と、岩も水も空気も我々もすべて陽子と中性子と電子しかないということになり
ます。ですからそのレベルまで科学的に理解でき、その考え方が我々の意識にま
で浸透して行き届けば、目の前のコップや机のようなこれら物質と我々との差は
なにもなくなってくるわけです。そういうことが科学的に、今分かっている時代
にありながら、何故こんなにも似てるものに対して、そんなにも違うっていう細
分化の方向にエネルギーを使うのですかっていうことになります。
 
  別に違うということを分かる、認識するということが悪いとかいうことではあ
りません。認識は、認識で止めるべきであって、もっと大事なことは、こういう
科学的理論に基づけば、要はすべて中性子と陽子とから出来ているに過ぎない、
すべての生物、地球という太陽系第三惑星に存在しているすべての生物はDNA型
生物にすぎない。そして我々はホモ族サピエンス種、ホモ・サピエンスという一
つの種にすぎないという科学的事実に基づいた認識も同様に持ちましょうという
ことです。

 つまり、中性子、陽子、電子といった物質レベルでは100%同じ、生物として
の人間もDNAレベルでは、99%は同じであるという大前提の認識があった上での
差異の認識という順序やバランスが大切なのではないかということです。そして
3000万種といわれる全生物は、膨大な生態系というネットワークを形成してお
り、我々は全生物種3000万、その中の1種、3000万分の1という割合で、生態系
の中に組み込まれている、あるいは入れて頂いているという全体像を持ち、き
ちっと科学的にバイアスをかけないで、その似ている割合に応じて我々の認識に
意識というエネルギーを配分するとどのようになるでしょうかということです。

 宇宙空間の全存在物が、元々は、ほんの小さな点から始まったわけです。とが
った鉛筆の芯の先よりも、ずっとずっと小さい10のマイナス34乗センチメートル
という点が、インフレーションを起こし、ビッグバンから現在の宇宙につながっ
たというイメージを持つと環境破壊や自分の欲望というようなものはどのように
映るのでしょうか。

 繰り返しになりますが、物質はすべて中性子と陽子と電子からできている。中
性子と陽子が原子核を作ってそのまわりを電子が回っている。種類の違う原子が
集まり、物質や生物を形成している、ただそれだけなのです。原子の組み合わせ
で、生物になったり、空気になったり、水になったりしているだけです。これも
科学的事実です。どこにでも通用します。地球の裏側に行こうが、北極でも南極
でも、別の星に行ったって通用する科学です。ですから、物質レベルで見た我々
は、まったく同じ材料でできているというものすごい関係性を持っています。

 そして人間のレベルで見たって、我々がたった三十世代、九百年戻ったって十
億人のご先祖様を必要としますから、あなたとわたしが他人だって言い切るため
には九百年前に二十億人の全く別のご先祖様が存在しないと他人にはなれないわ
けですから、本当の意味で他人であるということはあり得ないことです。
 
  ということは我々はお互いに関係しているということです。身体を作る細胞の
中には、DNAが含まれていますから、その配列を調べると99%が一致するという
科学的事実から、我々人類は皆似ているということに対して、DNAは動かぬ証拠
です。DNAを持っていませんというような方は、ここにはおられないと思いま
す。みなさん必ず細胞の中にDNAをお持ちです。そしてその配列は必ずホモ・サ
ピエンスの配列を限りなく忠実にお持ちだと思います。

 宇宙全体との関係性を理解するのは、単なるエネルギー変化ですね。超高温・
高圧という強力なエネルギーが、相転移を起こして、温度を下げて、今の物質を
作っている中性子と陽子と電子になっているだけという事実です。このような、
宇宙全体の物質レベル、地球の全生物レベル、ヒトという人類全体のレベルに存
在する関係性という事実を、本当に科学的にきちっと見ると、我々って物質レベ
ルでまったく同じ素粒子という材料でできていて、全生物がどんなに似ていて
DNAレベルで関係しているのか、人はみんなどれぐらい親戚なのか、どれだけ同
じご先祖様をもつのかということが、次第にはっきりと認識できるようになると
思います。

 私達が犬や猫や植物を大事にするのと同じように、物に対しても同じ中性子と
陽子と電子で出来ている仲間なのですから、当然大事にしてしまうという意識が
芽生えてくるのが自然なのです。ましてや人と人との間柄ですから99パーセント
以上、DNAが一緒なのですということを前提におけるかどうかです。ということ
で本当はもっと我々は自然科学に基づいた自然と調和した意識に変換出来るのか、
どうしてそんな0.何パーセント以下のほんの少ないところに関して、違う、違
う、違うっていうことに集中してここまで歪んだ意識を持たなきゃならないのか
っていうことに素直に気付けば、色々なことがスムーズに変わり始めるように思
われます。

 どこを見ても中性子と陽子と電子しかないのが事実です。どの生物をみてもDN
Aしかありません。たまにインフルエンザウィルスのようにRNAを持つものもあり
ますけれどもそれにしたって核酸型生物と言ってしまえば一緒なのです。


◆【残された時間】


  地球環境問題の原因は、我々が幸せになりたいという気持ちを持ち、その達成
手段として物質の大量生産という方法をとり、気が付いたら幸せになるための手
段としての物質生産が、目的そのものに変化してしまい、規模が拡大して本来の
目的を見失っていることにある、ということがご理解頂けたことと思います。

 そして、豊かな幸せは、物質の保有量そのものでなくて、物や人や自然との心
の交流、つまり関係性の豊かさにある。しかし、物質に意識が向かい過ぎると関
係性が失われ満たされない思いが広がり、求めていた幸せが見えにくくなってい
るということになります。

 環境問題の原因は、こんなに簡単なことなのに、どうして分かりにくいのかと
いうことについて、ちょっと考えたいと思います。我々は「加速度」ということを
あまり普段考えていません。それから時間、空間ということに対しての意識の広
がり、これが非常に今、狭まる方向に向かい、視野が狭くなっていると言われて
います。

 地球全体について考える場合、非常に長い時間、少なくとも何千万年、何億年
という時間と地球全体という広がりを考えないといけないのですが、私達は今日
のこと、明日のこと、周りのことしか考えられないという狭い意識に自分自身を
閉じ込めがちです。そして、私達は関係ないという言葉、何々は関係ないという
言葉が口癖のように頻繁に出てきます。
  物質の誕生から考えると、全宇宙が関係しているというのが科学的事実です。
しかし、全地球が関係している、全生物がDNA型生物として進化的に関係してい
るという事実があっても、様々なものと関係しているという意識は非常に希薄で
す。そしてそのことによって豊かさ感を無くしており、寂しさの原因がそこにあ
ったということを結局イメージできないという状態になっています。想像力が弱
まっているのかも知れないのです。

 環境問題で良く使われる例で加速度についてのイメージを見てみましょう。池
があり、水草の葉一枚が翌日には二枚に増え、その翌日には二枚が四枚になり、
今二十九日かかって、池の半分が覆われているとします。池の表面全部が覆われ
たら、酸素が供給できなくなり池の生態系が崩壊するとします。そのときに二十
九日かかってここまできたのだから、あと半分が覆われるのにも二十九日かかる
ので、まだ大丈夫というふうに考えがちです。

 ここで加速度ということがわかると、残された時間というものイメージが変わ
ってきます。みなさんもよくご存知のように、次の日には、今度はこの二十九日
かかって成長した葉っぱ全体が、大きな葉っぱのように倍になりますから、結局
次の日には池全体が葉っぱで覆われることとなり、ここまで二十九日あるいは二
十九年かかっていても残りはあと一日とかあと一年ということになります。つま
り30倍程度の速さで同じことが進むということです。このような加速度という考
え方が普段はなくて、私達はついつい、一足す一は二だから、次々と増えても、
まだ残り二十九日かかるので、ゆっくりとしていても大丈夫というふうに考えが
ちです。


◆【人間の視野】


  次に人間の視野というものについて考えたいと思います。人間の視野を時間と
空間という2つの軸で考えると、時間的には、今日のこと、明日のこと、来週の
こと、というような長さのところで、空間的には、自分のこと、家族のこと、職
場のことっていうような範囲で、だいたいこのあたりで我々は生きています。

 ところが地球環境について考える場合には、時間軸は、自分、自分の子供、お
孫さんの代までの100年程度の長さで、そして空間的には、職場、国を超えて世
界全体、地球全体というような広がりで考慮しているという状態が、いつも保た
れている必要があります。すなわち地球環境問題というのは、子供や孫の将来の
地球全体ということを考えているということが大前提なのです。

 我々は、今日のこと、明日のこと、来週のこと、自分のこと、家族のことだけ
で一生懸命生きていますから、全体のことを考えるような意識になかなか成長し
てこれないのです。我々は一生懸命に生きているということ自体は、もちろん悪
いことではありません。しかし、孫のことや地球全体という意識を持って一生懸
命生きる、ということを始めますとベクトルが100年後の美しい地球という大目
標に向かい始めますから、現実としては、目の前のことを一生懸命やるのですが、
それが次第に全体で蓄積されてくると、長い時間をかけて結果として、美しい
地球へと移行できるのです。

 100年後の美しい地球という遠い目標を持った上での目の前の現実という状態
がないと折角の努力が、環状線とか山の手線のように同じところをグルグルと回
り続けるだけで結局、環境改善にはつながらないのです。もう少し視野が空間的
に時間的に広がる必要があるのです。100年後や地球全体のことを考えて、自分
や家族のことを考える必要がない、という意味では決してありません。自分のこ
と、家族のこと、目の前のことを考えて当然で、その延長として地球全体や未来
のことも考えるというところまで、我々の意識が成長する必要があるのです。そ
れにはどうすればいいのかということですが、全体像を掴むには実は十分に目標
から離れた視点が必要なのです。

 細かいことよりも、曖昧でもいいから全体像が大事なのです。地球環境問題と
いう全体像が分かるには、視野の広がりとしても、やはり自分の意識・関心の広
がりがそのレベルにまで広がる必要があるのです。しかし、これは無理をして意
識を広げるということではありません。自然な気付きを繰り返して、徐々に広が
っていくというのが大切なステップです。

 例えば、自分のことも愛せない、あるいは家族や友達ことも大事に出来ないと
いう状態で、いきなり地球や生態系全体を大切に!というのは無理です。つまり、
1グラムのものを持ち上げることができない人が、1キログラムのものを持ち
上げることはありえないわけですし、1キログラムを持ち上げることのできない
人が、100キログラムを持ち上げることが出来ないのが当然であることと同じな
のです。

 要するに、小さいところから大きいところへ順々に成長していくしかありませ
ん。ただその成長が大事だという認識が大切なのです。そして人としての成長が
出来るのかどうかということを、幼稚園の子が砂場で遊んでいる例で考えると、
その子にとって、その遊んでいる砂場がすべてで、全世界ですね。ですから、周
りのこと、校舎のこと、他の園児のこと、先生のこと、親のこと、なんにも頭に
入らないのです。砂山を作ってそこにトンネルを開通するということがもうすべ
てです。
       <以下次号に続く>(筆者は近畿大学教授)

※ この原稿は2010年7月24日・東京明治大学で行われた社会環境学会セミナーの
講演をオルタ編集部が整理し著者の校閲を受けたものですが文責は編集部にあり
ます。

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