安保体制の現在と今なすべきこと

■ 安保体制の現在と今なすべきこと   孫崎  亨(まごさき うける)

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■【本稿は元外務省外交官として国際情報局長・イラン大使などを歴任したあと
防衛大学校教授を2009年まで勤められた孫崎亨氏が2010年6月5日:東京・自治労
会館で「伊達判決を生かす会」が主催した会で行った講演の記録を同会のご好意
と孫崎氏の了解を得てオルタに転載させて頂いたものです】
(注)記録、編集:藤岡(伊達判決を生かす会)
*講演内容は編集者の聞き取りで編集し、中見出し、(  )内の説明は編集者側
で付けました。

■【司会】
  先日発表された沖縄、普天間問題の日米共同声明は、残念というか認めがたい
結果となっていますが、孫崎先生はこの間「国外、最低でも県外」と言っていた
鳩山さんのアドバイザーとして、あるいはメディアを通じて国外あるいは県外と
いう論を展開され、私たちには大変心強い後ろ盾です。

 ところで鳩山さんは、開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったという
批判がありますが、私は、これはむしろ(結果として)評価されるべきもので、開
けられた箱をあわてて閉めてしまうというようなことではなく、これから私たち
がすべき事は箱の中身をよく吟味して、今後の議論、今後の運動につなげてい
く、ということではないかと思うのです。
  そうした意味で、私たちが孫崎先生を迎えて講演会を持つということは時宜を
得たものと思っています。

●【孫崎】
  孫崎でございます。私は、防衛大学の教壇で立って話しておりましたので、今
日も立ったままお話をさせていただきます。(拍手)
  伊達判決が出た頃、私は高校時代だったように思いますが、内容もよくわから
ずに、しかし新聞を見て素晴らしい判決が出たらしいと感じた記憶があります。
本日はその伊達判決を活かす会ということでお呼びいただき感謝しております。


◆最近の外務省


  私は外務省で仕事をしておりましたが、最近「外務省の中の流れも変わった
な」と感じております。NHKのテレビに出た際に、私は普天間飛行場移設問題
について最低でも県外ということを主張してきましたが、その際、アメリカの抑
止力ということが大きな議論になった訳です。

そこで私は、「よくよく考えてみると、抑止力というものは実はそんなにないん
だ」というようなことを言いましたら、桜井よし子さんから「あなたは外務省や
防衛省にいてそんなことを言うのですか」と言われました。これは今の外務省を
みれば、多分桜井よし子さんは正しいかもしれません。つまり今の外務省は米国
との戦略の一体化を推進している訳ですから(米軍の抑止力に依拠していること
は)間違いありません。

 しかし、少し昔に戻りますと、必ずしも外務省がすべてそういう具合に動いて
いた訳ではありません。昭和44年9月25日、外務省の次官、外務審議官が中心と
なり、局長級も含めて「我が国の外交政策の大綱」という内部文書を作りまし
た。(資料参照)

 これは長い間機密文書として外部には発表されませんでした。今回明らかにさ
れた訳ですがこの内容は、「我が国の国土の安全は核抑止力、および西太平洋の
大規模な機動的海空攻撃及び補給力のみを米国に依存し、他は原則としてわが自
衛力であたるを目途とする。在日米軍基地は逐次縮小し整理し、原則として自衛
隊がこれを引き継ぐ。軍縮においては、日本が米国の走狗であるとの印象を与え
ることが絶対なきよう配慮する」ということが当時(1969年9月)の外務省の中核
にいる人たちの基本的な考え方でした。  

 (現在の外務省の考え方と比較すると)驚くべき内容です。今の外務省は在日
米軍基地を縮小し整理するといった考え方とは全く逆の立場、つまり対米一辺倒
だとみられていますが、当時はそうではなかったのです。

 占領の延長ではない日米安保の米軍基地を追求
  これを歴史的にみると、占領下から今日まで外務省には大きく言って二つの流
れがありました。一つは、米軍の基地から独立するという考え方、それから他方
にはアメリカとの一体化を図るというような考え方が、たえずぶつかり合ってい
ました。

 1951年講和条約を結び、最初に安保条約をつくる時、いったん米国の占領を終
えてしばらく時間をおいてから日米安保条約をつくろうと、できれば国連の委託
を受けて米軍基地があるという関係、つまり占領後直接米軍基地があるというこ
とではなく、国連の委託を受けて米軍基地が存続するという関係にしようと当時
の外務省首脳部は考えました。

 こうすることによって、日米安保による米軍基地を、占領軍の体制ではないこ
とにしようとした訳です。当時の米国側の交渉責任者はダレスが中心でした。ダ
レスは、安保条約の交渉で「我々が望む時に、望む規模で、望む場所に米軍基地
が置けるようにすることが(安保条約の)米側の目的である」としました。これに
対して、外務省は国連をワンクッション置くことを考えた訳ですが、大変な圧力
があり結果的にはそうならず、当時の安保条約は吉田総理一人が署名するという
ことになりました。

 しかしこの流れ(結果)を変えようとする動きもあり、その中心は重光葵さんで
した。重光さんは、まず7年間で米陸軍が撤退する、その後海軍、空軍が撤退す
るという考え方を、訪米前にアメリカ大使館に伝えています。これについてアメ
リカも協議しますが重光案は敗北します。多分、一番本格的に米軍基地を縮小、
撤去しようと動いたのは重光さんが最後だと思います。しかしこうした流れの中
で、1969年(昭和44年)に外務省が米軍基地を逐次縮小し自衛隊が引き継ぐとい
う考え方があるのは決して不思議ではありません。


◆対米一辺倒からの脱却について


  この時代をもう少し調べてみますと、1969年、70年の時代には「自立派」とい
う日本の学者や政治家がいました。当時の中曽根さん(防衛庁長官)も、70年はじ
めに5年先ぐらいに安保条約を破棄して新しい日米関係をつくりたいと考えたよ
うです。
  日本の中で、いろいろな人たちが対米一辺倒ではない政策を考えていた時期が
あった訳ですが、その後こうした考え方は消えてしまいました。

 しかし鳩山政権となり、こうした考え方(対米一辺倒ではない考え方)が復活し
そうになった訳です。実は今年1月5日、私は鳩山総理のところに行きました。そ
の際「在日米軍基地は、米軍にとってものすごく大きな価値があり、普天間の閉
鎖、返還ごとき問題で日米関係がおかしくなるようなことは絶対にない。だか
ら、むしろ(県外、国外と言う)交渉は日本側が有利だという気持ちで進めてもら
いたい。折れる必要はない。それから最後の局面では、沖縄の過重負担を止める
ために、長崎の大村、或いは相之浦など県外案も考えてみるべき」ということを
申し上げました。

 そこで数字的に見てみます。全世界の米軍基地を財産価値で測りますと、ドイ
ツが30%、日本もおおむね30%、しかしドイツの場合は小さな基地が多く、とこ
ろが日本の場合は三沢、横須賀、横田、そして沖縄と言う大きな基地がたくさん
あります。したがってアメリカ側からみるとドイツより日本の重要性がはるかに
大きい訳です。
 
その中で普天間はアメリカ側から見ると、価値としては1/20にも達していない。
1/30~1/40程度の財産価値しかありません。ですから「この問題で日米関係が
おかしくなることはない」と言えます。


◆思いやり予算が米軍基地を固定化


  それから、日本には米軍に対する思いやり予算があります。世界各国でアメリ
カに対して思いやり予算、つまり米軍基地の維持に協力する財政負担の国際的比
較をした場合、どの程度の水準なら許されると思いますか?…皆さんに一度考え
てもらいたいと思いまして質問させていただきますが、多分ドイツ並み、あるい
はヨーロッパすなわち全NATOの60%ぐらいかなといった感じなら許されると感じ
られるのではないのでしょうか。

 しかし、実際は日本の財政負担は全世界の米軍基地負担の半分以上でありドイ
ツの3倍、全NATO諸国の1.6倍です。驚くべき数字です。なぜこういうことになっ
ているのかと言うと、ドイツは米軍経費の30%、日本は実に75%を負担している
ことでこうした結果となります。この問題で、なぜアメリカが普天間など日本に
基地を置きたいのか、つまり米海兵隊が日本の安全を守るために本当に必要なの
か?或いは東アジアの安全にどうしても必要なのか、と考えていくと、実はそう
した意味はあまり関係有りません。

 なぜ米軍基地が沖縄や日本にあるのかと言うと、費用の75%を日本政府が出し
てくれるからなのです。アメリカは、国内に基地を置けば自分でその経費をもた
なければならない、外国に置けば基地の使用料を払わなければならない。しかし
日本にいたら75%は面倒見てくれる。これが米軍基地を日本におきたい、沖縄
におきたいという最大の理由であり、在日米軍基地のゆがみの原因だと思います。

 先日三沢基地に関してある記者から「最近三沢に基地は必要ではないという議
論があるが、でていく様子もないし、どう考えるべきでしょうか?」という質問
がありました。確かに、ソ連との関係で三沢基地も以前とは状況が変わりました
ね。だけど基地は今までと同じようにある。それは、日本が75%の基地負担を続
けているからなのです。


◆日米同盟と抑止力


 こうした日本の驚くべき基地負担と言う関係を見てみれば、アメリカは簡単に
日米関係を崩すようなことは絶対にできないということになります。だから、普
天間問題も頑張れるはずだと思う訳です。と言うことで鳩山さんに頑張ってほし
いといった訳ですが、その頃の日本のマスコミは「普天間の代替基地ができなか
ったら日米関係が明日にでも崩れる」といった論調でまくし立てていました。NH
Kの日曜討論だと思いますが、私と一緒に出演した岡本行雄さんは「自分は日米
関係に何十年もかかわってきたが、こんなにひどい日米関係になったのは初めて
だ」とおっしゃっていました。しかし私はそうではないと言いました。

 3月になると、なんとなく官邸が辺野古案になりそうだということで、グアム
移転を言い続けている民主党の川内議員と一緒に「少なくとも県外」と言うこと
で鳩山首相に1時間半ぐらいお話ししました。この時も鳩山首相は「県外」と言
うことで頑張っておられまして、その案を一生懸命考えてみようという雰囲気で
したが、急転直下、話がすごい勢いで辺野古に傾き、最初は杭打ちとかいう案も
出たようですが、(米側が)それはだめだと言ったらすぐに埋め立て方式とな
り、現状案に戻ってしまいました。こうなってしまうと、私などはもう官邸に呼
ばれることもないのでしょう。(笑)

 と言うことになってしまいましたが、この経過で「抑止力」と言うことが大き
な議論となりました。この抑止力と言う問題は、これからも続く課題であり、少
し考えてみたいと思います。抑止力の一番大きなものは核兵器と言うことです
が、冷戦下の時代ですが、ソ連と米国との関係で、ソ連はアメリカを攻撃しても
アメリカはソ連の攻撃を予測し、アメリカの都市が攻撃を受けても反撃できる体
制をつくってソ連を攻撃する。したがってソ連は先制攻撃をしない。こうした関
係を、相互確証破壊戦略と言います。

 さらに、ソ連が日本やEUを攻撃する、つまり脅しをかけたとします。そうする
と、日本やEUは米国に助けを求めることになります。米国はソ連に対して、日本
やEUを攻撃するならソ連を攻撃するということになり、これを核の傘と言う訳で
す。しかし、ソ連とアメリカは先ほど述べた相互確証破壊戦略と言うことで互い
に攻撃しあうことはない関係にあり、脅しや助けと言う関係そのものが成り立た
ないことになります。 そこでキッシンジャーは代表作である「核兵器と外交政
策」という著書の中で、核の傘はないということを書きました。

 ソ連を中国に当てはめても同じ理屈です。中国がアメリカの都市を攻撃できる
力をつけた段階で、相互確証破壊戦略と言う関係になりますから中国がどこかの
島を侵略しても核の傘にはなりません。


◆海兵隊の抑止力


  さて島の問題を考えてみましょう。まず北方領土の問題で日米安保条約は適用
されるのでしょうか?
  竹島で日本と韓国が戦闘となった場合、アメリカは日本を応援するのでしょう
か?
  尖閣列島に中国が攻めてきた場合、アメリカは軍隊を出してくれるでしょうか?
  日米安保条約は日本の管轄地について攻撃された場合、アメリカは自国への脅
威として日本を守るということになっています。アメリカは北方領土を日本の管
轄地と認識していません。竹島は1998年ブッシュ大統領が韓国に行ったとき、ア
メリカの地理委員会は韓国領としました。尖閣列島は中立と言う認識、米国は介
入しないとしました。

 多くの日本人は、アメリカは当然日本を守ると思っているがそうではありませ
ん。海兵隊が日本の領土を守っているというようなことを、あの岡本さんも言い
ましたが、日米安保の観点から私が指摘をすると、「尖閣列島でアメリカは出て
こないだろうな」と言いました。

 しかし今は、海兵隊が東アジア全体の安全保障にとって必要、とまで言い始め
ました。それでは東アジア全体ということで、たとえば台湾問題ですが、ここで
戦争になりうる一番のシナリオは「台湾が独立する。これを許さないと言って中
国がミサイルで威嚇する」…と言うことです。しかし、中国経済の高揚のもとで
中国との緊張関係を避けるため台湾は独立方針を止め、馬総統は「米軍は関与し
てくれるな」と言い始めました。従って台湾問題で海兵隊が出動することは考え
られません。

 次に北朝鮮ですが、これも在韓米軍がいる訳で余程の事態にならない限り日本
の海兵隊が出動することにはなりません。 どうしても海兵隊が必要と考える人
たちは、次に邦人救出と言い出しますが、軍事危機になった時、戦闘部隊の軍隊
がでていくことはあまりありません。相手国からすれば救出なのか攻撃なのか判
別できません。むしろ攻撃と看做されます。
 
  1980年にイラン革命が起き、日本人が危なくなった時助けたのはトルコ航空で
した。日航は拒否しました。トルコに頼んだらトルコは昔日本に助けられたとい
う認識があり、助けてくれたということのようです。(笑)
  というようなことで、海兵隊が抑止力という言葉で説明されますが、実はそう
いうことではありません。


◆日米安保を超える日米「共通の戦略」


  ところで鳩山さんが、辞任前の最後の話で、アッと思ったのは「自分の国は自
分で守らなければならない」と言ったことです。普天間問題で何故そういったの
か、新聞はこのことを取り上げていませんが、77年に出た最初の防衛大綱ではあ
る日突然敵国が日本の領土に旗を立てるようなことを抑止すると記されています。

その他はアメリカに頼る。我が国は独自に敵に対応するよりも、周辺地域の不
安定を防ぐ…となっています。すべて米国任せとなっているためおかしくなって
きたということだろうと思います。私は「日米同盟の正体」(講談社現代新書)
という本で書きましたが、例えば日米同盟の深化と言った場合、何かいいことの
ように語られますが、実は大変な問題があります。

 2005年10月「日米同盟 未来のための変革と再編」が発表されました。本日ご
出席の皆様は安保条約反対の立場を取られていると思いますが、この文書と比較
すれば安保条約の方がはるかに素晴らしいものです。安保条約は極東の安全と言
うことを考えた訳ですが、未来のための再編は世界の安全となっています。2+2
で世界の安全に取り組むと書いてあるのです。さらにもっと重要な問題は「共通
の戦略」と書いてあることです。
 
一方、安保条約では国連憲章に違反するようなことはしないと書いてあります。
国連憲章とは何かと言いますと、基本は主権の尊重と軍事行動を慎むということ
です。「共通の戦略」で言ってることは、国際安全保障環境の改善とあり、これ
もちょっと聞くとそれほど違和感はないかもしれませんが、実は大変な問題があ
ります。


◆国連憲章にも矛盾する米国との一体化


  1640年頃、ヨーロッパで30年戦争という宗教戦争が勃発しました。この戦争
は、互いに相手が間違っているということで相手を倒すまで戦乱が続きました。
これでドイツ人が1/3亡くなりドイツの男性は半分になったと言われています。
このようにあまりにも戦争の被害が大きかったため、互いに相手が間違っている
ということを言うよりも戦争を止めることの方が重要だとし、何が正しいかとい
ことで争いを起こすのではなく、それぞれの国が何を言っても戦争はしない、つ
まり主権を認めるという考え方でウエストファリア条約というものを結びます。

 この考え方すなわちウエストファリア体制は、相手国が間違っているとして軍
事介入はしない、つまり戦争を防ぐために主権の尊重と言った訳ですが、これが
国連憲章に生きています。そして戦争をしないために主権を尊重するとした国連
憲章が安保条約の理念になりました。

 安保条約では、日米は共通の行動をするけれども国連憲章に違反するようなこ
とはしませんと言った訳で、他国の主権を脅かすようなことはしないことになり
ます。

 ところが2+2の「共通の戦略」では、国際的な安全保障環境の改善を図ると
し、北朝鮮の金正日体制がよくないとすればそれを倒せばいい、サダム・フセイ
ンがおかしいとなればそれをやめさせる、イランの宗教体制がおかしいとなれば
その宗教体制を壊せばいい、サウジの王政がおかしいとなれば王政をやめさせれ
ばいい、ということで中東の民主化というようなことも言われました。共通の戦
略と言うことは実は大変な意味合いを持っており、ここに日本が日米同盟、未来
のための再編としてまとめた訳ですが、このことは大変なことなのに問題には
なっていません。報道もされていません。

 どうしてこういう事態になったのでしょうか。一つはある時期からこうした問
題をしっかり分析しないようになった(勉強しなくなった)、もう一つは意図的
に伏せていく、密約だとかの問題、つまり隠すというような事の延長にこの問題
がある訳です。私たちは、一番重要なことを共有して自分たちの未来を考えなけ
ればならない訳ですが、そうしたことがされていないことになります。私は「日
米同盟の正体」で、こうした問題を主張しました。

 私は防衛大学で危機管理を教えていましたが、日本の危機管理を勉強するため
にはまずアメリカを学ぶことだと言ってきました。そのアメリカを教えてきてい
る中で、「共通の戦略」を見ると、(米国は)自衛隊を積極的に使っていこう、
自衛隊の海外派遣や憲法の見直しを進めようとしています。これはどう考えても
「自衛」ではありません。説明ができません。将来起こるかもしれない脅威の為
に今から外科手術(憲法改正)をしましょうという話です。


◆集団的自衛権は守りではなく攻撃


  集団的自衛権という言葉があります。例えば日本とアメリカの船が同じように
いて、アメリカの船が攻撃されれば日本は黙ってみていることにはならないと言
って集団的自衛権が正当化されます。そのためには憲法も変えなければならな
い、と言うと皆さんはたいがい賛成します。問題は集団的自衛権が有るか無いか
ということではありません。(日米安保条約には)日本の領土内でアメリカが攻撃
されれば、それは自分に対する攻撃だと受け止める。…と書いてある。だから集
団的自衛権の考え方が無い訳ではない。

 どこが違うかと言うと、それは適用する場合と地域が違うのです。要するに安
保条約は日本の領域の中だけが適用範囲なんです。しかし今度は(「共通の戦
略」では)中東に一緒に行って攻撃されたら一緒にやりましょう。と言うことな
んです。それだけではなく、北朝鮮のテポドンがアメリカを攻撃しようとしてい
る。そのテポドンが日本の上空を飛んでいく。その時黙って見過ごていいのか。
その時は許す訳にはいかないから集団的自衛権と言うことがでてくる。

 しかしミサイルは秒速2キロから3キロで飛んでいるので撃ち落とすのは不可能
となる。攻撃されるアメリカ本土に日本がいくという話もないとすると、発射基
地を事前に攻撃するということになります。そのための集団的自衛権と言うこと
ですから、これは守りでなく積極的な攻撃と言える。さらに北朝鮮には300発の
ノドンがあり日本を狙っている。…と言うことで、議論が日本の国益を超えて進
められている。安保条約に反対とか賛成といった話ではなくそれをはるかに越え
る大変な動きがあり、いろいろな方々(安保賛成派も含めて)と共に、これを止め
ることが一番重要だと思います。

 MITの政治学部長を務めていたにサミュエルズという教授がおりまして、去年
「日本防衛の大戦略」という本を出版しました。日本の安全保障をどうすべき
か、ということについて、日本のどなたよりもしっかり書かれております。そこ
には、「在日米軍基地と日米同盟を世界的な安全保障戦略の道具として利用する
のは米国の明確な意志である」と書いてあります。こうした流れはこれまではあ
りませんでした。

 日米安保は極東の安全と言っていた訳ですが、安保反対の闘争をしたころから
比べると、もっと大変な事態になっていると言えます。あの時は極東の安全と言
うことで日本の安全とおおむねリンクしていましたが、今やイラクやアフガニス
タンに行くことが日米関係(同盟)の中で進められているということが問題なので
す。


◆第二の真珠湾攻撃


  第二次世界大戦のヨーロッパでナチスの攻撃で苦しんでいる時、イギリスのチ
ャーチルはアメリカの参戦とヨーロッパへの進軍を期待していた訳ですが、アメ
リカが参戦するためにはアメリカ議会が賛成しなければならない。議会が賛成す
るためには賛成の大義が必要である。そうした中で日本を敵対する関係の方に向
けていく中で、日本の真珠湾攻撃を知り、これでアメリカが本格的に参戦し戦争
は勝てると、ヨーロッパは救われるとチャーチルは喜んだ訳です。

 これは回想録に記されていますが、ブッシュは9.11同時多発テロを「第二の真
珠湾攻撃」と言いました。意味は二つある訳ですが、一つは不意打ちという意味
であり、もう一つはアメリカが戦争に突き進む「大義」を得たという意味です。
これを裏付ける意味で、プロジェクトニューアメリカンセンチュリーというグル
ープが21世紀を前に立ち上がりました。ここに誰がいたかと言うと、副大統領に
なったチェイニーとか国防長官となったラムズフェルドといったブッシュ政権の
国務省、国防相の中枢グループがいました。

 ここで2000年の8月に「アメリカの国防再建」という文書がでてくる訳です
が、何が書いてあるかと言うと「我々は世界最強の軍隊になった。しかしこれを
維持する予算について議会承認を得ることは容易ではない。もしも第二の真珠湾
攻撃が無ければ…」つまり、第二の真珠湾攻撃があれば予算も議会承認が得られ
世界最大の軍隊を維持できるという訳です。第二の真珠湾攻撃があったほうがい
いという考え方をもった人がブッシュ政権にいたという恐ろしい話になります。

 もう一つ、9・11から繋がっているアルカイダとの戦い、テロとの戦いの中心
人物はウサマ・ビンラディンとなっていますが、今の世界の情勢は9・11から始
まっている訳で日本の国際安全保障を考えた時もここから始まっています。そう
考えた時、それでは何故ビンラディンはアメリカを攻撃したのでしょうか?

 ビンラディンは1996年にアメリカへの戦争宣言をしております。場合によって
はアメリカ本土も攻撃するとしています。ビンラディンがアメリカを攻撃すると
いった理由は、実はサウジアラビアの米軍駐留でした。しかし、米軍のサウジ駐
留問題が9・11の原因だったということになればアメリカの政策が問題だった(9
・11は不意打ちではなく根拠がある)ことになる訳で、そのようにアメリカは絶
対にしなかった。

 実はアメリカは2003年のイラク攻撃の前にサウジの米軍を撤退させました。サ
ウジから米軍が撤退するとビンラディンとアルカイダはアメリカと戦争する必要
が無くなってしまします。ということでCIAは2005年アレックスセクションと言
うビンラディンを追いかけるセクションをやめました。

 アメリカ軍の中にあるデルタフォースという部隊も2005年にアフガニスタンの
戦いをやめてイラクに行きました。こうした米軍の動きが何なのか、ということ
を考えて(対米一辺倒の日米安保や抑止力ということではなく)いくことが大切
です。


◆終わりに


  本日ご出席の皆様は、1960年の日米安保の方向が正しい方向を向いていない
と、疑念をもたれ、これまで闘ってこられた皆さんだと思いますが、現在の方が
深刻さは深いと思います。だから、現在の深刻な問題について、そしてこの深刻
な方向に日本がむしろ積極的に動いていることについて、どう対処すべきか(ど
う止めるか)ということにエネルギーを費やしていただきたいということを申し
上げて私の講演を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございまし
た。(拍手)


●質疑応答(順不同)


○Q:沖縄の米軍基地は極東だけの米軍戦略ではなく、日本の安全のための抑止
力だけでもない。一方、米国が沖縄に固執するのは思いやり予算があるというこ
とですが、沖縄の米軍基地が極東を超えた米軍戦略に使えるのでしょうか?
◆孫崎:サミュエルズの論文を引用してそのことを説明しましたが、海兵隊はイ
ラクやアフガニスタンで活動し沖縄をローテンション基地に利用しています。海
兵隊は米国本土にも基地がありますが、沖縄は前線基地ということになるでしょ
う。これは必ずしも日本の抑止力のためだけにあるということではありません。

○Q:鳩山さんがアメリカから恫喝されたということはあるのでしょうか?
◆孫崎:日米関係が悪くなるという意味の恫喝はあったでしょうね。キャンベル
が3月時点で「日米関係に影響が出る」というようなことを言ってますから。

○Q:未来のための再編が日米同盟を変質させているということがよく分かりま
した。そのもとは日米安保条約にあると思いますが、その関係を変えていくため
にはどういうことが考えられるのでしょうか?
◆孫崎:日米安保があることで今日の繁栄を実現しえたと考えている人々が日本
の中にかなりいると思いますが、日米安保でイラクやアフガニスタンに行くとい
うことまで賛成している人は少ないのではないか。私は、イラクやアフガニスタ
ンに行くことは避けるべきだと思いますが、そのためには安保条約賛成派も含め
て「未来のための再編」に書かれているような、米国と一緒になって海外に行く
ようなことは避けるべきだという国民世論が必要ではないかと考えております。

○Q:「日米同盟の正体」を読んで、日米安保の変質を理解しましたが、本質的
には米軍基地を憲法違反とした伊達判決が活かされて根本的な解決と言えるので
はないか?
◆孫崎:ご指摘の意味は理解しているつもりですが、現実的に考えて、あるいは
今進行している深刻な状況をみれば、本質的な問題を理解したうえで幅広く日米
同盟の本当の正体を国民全体が理解し判断することが大切だと思います。たとえ
ば、今やらなければならないことは、いろいろな人たちを集めてアフガンに行か
せないということが喫緊の大切な課題であり、そうした世論が多数派を占めたう
えでそもそも論の議論が意味を持つのではないかと思います。

○Q:日米地位協定の改定について、米側に日本側から働きかけたことはあるの
でしょうか?また思いやり予算の法的な位置づけは?日本側から一方的に廃止は
できないのか?
◆孫崎:日米地位協定について日本側から改定を求めたことはないと思います。
しかし、ドイツを見れば改定を主張する根拠は十分あったと思います。また改定
を求めるチャンスは、実は今回の鳩山内閣だったと思います。普天間問題をもう
少し継続して取り組んでいれば地位協定に手をつけたと思います。マニュフェス
トにも書いてある訳ですから。
 
思いやり予算は義務ではない訳ですが、日本側の考え方次第で止めることは可
能だし、ドイツ並み程度にはできるのではないかと思います。日本側の決断次第
です。 しかし、普天間問題も沖縄県民が県内移設にあれだけ反対しているので
すから、県外に持っていくための米側との交渉の根拠は十分あると思いますが、
民主党の中にもそういう政治家は今いないようです。

○Q:普天間移設問題でグアム、サイパンの移設は検討されたのでしょうか?
◆孫崎:検討されなかったというか、外務省、防衛省は案として出しませんでし
た。川内議員や近藤議員が努力されましたが、結局取り上げられなかったという
ことだと思います。

○Q:鳩山首相は本気で県外、国外移設を考えたのでしょうか?
◆孫崎:持っていたと思います。防衛省、外務省が県内と言っているのにあれだ
け延びたのは鳩山首相にそういう考え方があったからだと思います。結局、外務
省や防衛省から県内ということで言われ続け、孤立したのだと思います。
  しかし、辺野古の新基地建設は強行すれば大変なことになるし、できないと思
います。その意味で、これまで政府が決めれば一応通ってきた問題もそうならな
い可能性が強い。その意味で、こんどの辺野古問題は日本の政治を変えるかもし
れません。

○Q:砂川闘争の再現のようになるかもしれませんね。
◆孫崎:私もそのように思います。しかし時代背景が違いますから、結局辺野古
に新基地はできないということになるように思いますね。

○Q:普天間、辺野古問題では、政府の対応について大きな不満を持っています
が、一方では日米安保や在日米軍基地と抑止力の問題など、国民的な議論の俎上
になってきたという意味では、それほど悲観していません。また沖縄をはじめと
して民意は政府方針と違う訳ですから、8月以降秋に向けた院内、院外の取り組
みが重要だと思います。
 
  その上で質問ですが、今年は韓国併合100年という節目にあたりますが、北朝
鮮との友好、国交回復、新政権の対応など大きな課題がありますが、日本の民族
排外主義的な国民感情もあり、「北の脅威」ということで安全保障面からも利用
されているように思います。北朝鮮との友好、経済交流、そして国交回復といっ
た動きに対して米国を中心にどのような外交、安全保障上の認識があるのでしょ
うか?

◆孫崎:沖縄問題の認識は全く同じです。安全保障や抑止力の問題をNHKをは
じめとするマスコミが取り上げてきていますのでこれは非常にいい動きだと思い
ます。
  また抑止力の問題を議論するとき必ず出てくるのが、中国の軍事大国化、脅威
と北朝鮮の動きです。中国の場合、米国防総省が「中国の軍事力」という本を書
いていますが、そこには「中国の戦略は第一義的には中国の共産党政権の維持に
ある」としてあります。そしてどうやって維持するかと言うと、イデオロギー(
たとえば毛思想など)では難しい、

 そこで反日運動などもやったがナショナリズムをあおるとその矛先がいつ共産
党政権に向けられるか分からない、そこで経済力を上げることで支持を得ようと
いうことになっています。ということは経済関係の結びつきが、中国の体制維持
と安全保障につながる訳で、基本的にはこれが正しいと思います。しかし北朝鮮
にはそれがない訳で、日本に敵対的な行動をとることが北朝鮮にとってマイナス
であるという関係をどうやって作るのかが課題です。

 そう考えると、私は全力を挙げて北朝鮮との国交を回復するということが必要
だと思います。また経済的な関係を作る中で当然賠償問題もでてきます。その際
には政治的に不透明な動きも出ます。むしろ貿易関係を確立することを主眼とし、
これに政府が貿易保険などで関与し、安心して経済関係を結べるようにするこ
とが安全保障にプラスとなるはずです。  (終わり)

    (元外務省国際情報局長・元駐イラン大使・元防衛大学校教授)

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