日中不動産事情の相違から考えたこと

中国単信(14)

日中不動産事情の相違から考えたこと

趙 慶春


 最近、中国人の間で日本の不動産購入がちょっとしたブームになっている。
 ただ国外の外国人による不動産購入といえば、日本人の方が先輩になるだろう。かつて日本のバブル時代、日本の企業は無論のこと、掃いて捨てるほどの金に埋もれていた一部の日本人個人が「アメリカ買い」や「世界買い」に狂奔していたからである。

 また1980年代の改革開放が始まった頃の中国では、日本人による中国各地の不動産購入が盛んだった。日本人滞在者が多い大連などでは、不動産を取得しようとする日本人もそれだけに多く、日本人タウンが生まれたほどだった。ただし、こうした不動産購入はほとんどが「投資」目的で、自分は住まずに家賃収入を得ながら、不動産価値の値上がりを待って売却するのがほとんどだった。

 一方最近、日本の不動産を購入する中国人は「投資」目的より、自分が保持している資産の目減りや不良化を避ける「価値保全」目的が多いと言っていいだろう。両国人の購入目的の違いは、両国の不動産政策の相違にあることがわかる。

 中国では住居用不動産が配給制から売買制に移行したのは、たかだか二十年ほど前からである。そのため制度的には、まだまだ不備な点や曖昧な部分がそれなりに残されている。たとえば、中国の土地は現在も基本的にはすべて国有である。そのため「家を買った」と言っても、買ったのは土地の70年使用権と上物にしか過ぎない。しかし、70年後について明確な答えを持っている者は誰もいない。たとえベテラン弁護士であろうと、政府の役人であろうともである。

 一方、日本での不動産購入は土地をも含めて完全に個人が所有権を持つことになる(一部の例外はあるが)。たとえ国有地でも個人に売却されれば個人の所有となるし、その土地は代々継承できる。もっとも莫大な不動産を所有していると、遺産相続の際、驚くほどの相続税がかかる。かくしてほぼ三代後には、純粋に個人所有での巨額な遺産を引き継いだままでいられる者は日本ではいなくなる仕掛けになっているのだが。

 世界各国の土地に関する制度はさまざまで、たとえばシンガポールは土地所有権を99年と999年に分けて管理、売買され、永久所有権に近い999年の方は土地価格は当然高くなる。また欧州では土地の私的所有権は保有権に近く、最終処分権(底地権)は政府が持っている。さらにアジア諸国では外国人や外国法人の土地所有について、地域を限定したり、事前許可制とするなど制限をつけている国が多い。
 これでわかるように日本は極めて強い土地私有権を認め、不動産の完全自由売買が可能な国は世界でも珍しいということになる。つまり日本の不動産は「短期的な投資」より「長期的保有」に向いていると言える。

 一方、中国では不動産政策の不統一性は日常茶飯事である。たとえば、地方政府が地元経済活性化を目的として、農地にマンションを建設したところ、国家国土監査局から農地に戻すようにとの行政命令が出され、結局大損するのはマンションを購入した一般庶民となる。

 また中国での悪名高い「手抜き工事」は、不動産の品質問題であり、相当深刻である。新築した翌年には階段が崩落したり、築二、三年で早くも設備の一部交換などは当たり前のようになっている。こうした責任は今まではもっぱら建築業者に押しつけてきた観があるが、実は政府こそが責任を負うべきだろう。なぜなら、建築物の最終検査は政府が担っているからである。また品質問題のほか、防火基準不適合や建蔽率、容積率の基準オーバー等の問題も珍しくなく、管理監督、検査が徹底していない。それどころか最近の低所得者向け「低品質・不適合住宅」に「人気あり」などと聞くと、こうした住宅を取締るはずの担当機関が何らかの理由で見逃しているのは明らかである。

 このような中国の不動産事情を見れば、かなり厳しい各種の統一された法令と法令順守の徹底、そして何よりも不動産取得者の権利保全に目が向けられている日本から、中国は大いに学ぶべき点がありそうである。しかし、日本にも問題がないわけではない。強い個人の土地私有権は、地権者の反対で時には公共事業がストップさせられることにもなりかねない。フランスでは1950年代以降、政府・自治体の先買権の強化など、私的土地所有に介入する公的規制を強めているほどである。

 また大都市への人口集中、農村部の過疎化・無人化はかなり以前から問題になっているが、高度成長期に都市近郊に建設された大規模団地が「老人村」となってきている。これは単なる不動産問題というより社会問題でもあるが、今後は「ゴーストタウン化」を阻止する土地の再開発施策が必要になるのは目に見えている。

 「ゴーストタウン化」は日本の別荘地でも起きている。たとえば伊豆半島の宇佐美・伊東・川奈・八幡野あたりでは、別荘がどんどん売りに出され、2千件以上の物件が余っているという。この地域の定住者は2割未満と言われるだけに、今や人影はまばら。廃屋だけが目につく状況のゴーストタウン化は、この地域の景観・環境を脅かす恐れさえ出てきている。

 土地を含めた不動産の開発は人びとの流入、定着を起こし、街の形成と活性化をもたらす可能性があるだけに、計画的、且つ着実に施策を打ち出す必要がある。中国では不動産市場の動きと政策・政令の整備とが一致しておらず、市場の展開速度に追いつけない状況が続いている。日本は政策・政令面では中国よりずっと整備されているが、経済面での活性化を促す起爆剤がなかなか見つからない状況にある。

 それでも農村部や都市郊外への大企業の誘致や、アウトレット建設などでの地域活性化への努力はなされているが、住居用の不動産にはまだ及んでいない。中国では不動産バブルの崩壊がこの数年間、囁かれ続けてきている。私はバブルが崩壊して、中国人が心理的に冷静さを取り戻し、より人間生活に適した落ち着いた、豊潤な街文化建設の大切さに気がついてくれればよいと思っている。

 その上での話だが、日本は今後、都内や都市郊外の空き団地を投資用に、別荘地などは「投資」目的ではなく、自分が保持している資産の目減りや不良化を避ける「価値保全」のために、そして人間らしい落ち着いた生活空間を得るために、中国人の資金を規制するのではなく、より積極的に取り込んでみたらどうだろうか。少なくとも山林ばかりが国外資金で買われるより、ずっと日本の経済活性化に寄与するのではないだろうか。

 (筆者は女子大学教員)


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