日米民主党の対外政策をめぐる懸念と不安

■ 海外論潮短評【番外編】

日米民主党の対外政策をめぐる懸念と不安        初岡 昌一郎

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 アメリカの代表的週刊誌『ニューズウィーク』の編集者ファリード・ザッカリ
アが昨夏書いた『ポスト・アメリカン・ワールド』という本が、国際的に話題と
なっている。それは、ブッシュ以後の世界におけるアメリカの国際的な位置と採
るべき外交路線を歴史的なパースペクティブから簡明かつ要領よく論じているの
で、オバマ政権の今後の外交政策を理解するのに役立つ。

 この本の要旨は、ポスト・アメリカ単独主導の時代がブッシュの無残な失敗で
終わりを告げたが、その後に来るのは、アメリカの没落ではなく、これまでより
も力をつけた多くのアクター(行動主体)の登場による国際協調の時代だと見る
。従来ある主要国中の多極化論とはかなり違う。行動主体のなかには、国家だけ
ではなく、国際機関や、地域機構、さらには非領域的非政府的なNGO, 企業など
も含まれる。

 依然としてアメリカは最大のプレイヤーではあるが、これまでのように自分の
決定を他に押し付けるのではなく、新しい国際協調のために対話型調整型外交政
策をとるべきだと指摘している。そして彼は、軍事力中心でない国際秩序を重視
している。対テロ戦争が呼号され、イラク戦争とアフガン戦争が継続されている
ので、ポスト冷戦時代が依然として軍事衝突が衰えない時代として見られがちだ
が、歴史的によくみると今ほど軍事紛争が少なくなっている時代はないという。
2つの戦争が終結すれば、かつてない平和的な時代が到来する期待が持てる。


◇ここから以下は、評者の私見である。


 こういう期待の中で、オバマ政権が発足したのだが、オバマが指名した主要な
人事の顔ぶれを見るとまだ安心はできない。軍事面では、国防長官はブッシュ政
権からの横滑りだし、国務長官として外交を担うのはハト派とは見られていない
クリントン女史だ。オバマの新政権チームは手堅いとか、スムースな政策転換に
つながるという好意的評価が多いが、油断できない。理想主義的なアピールを支
持されて登場したが、就任後は現実主義に足をすくわれた指導者は少なくない。
勢いのある最初の3ヶ月を逃すと、大きな改革は困難になるとみる人が多いので
、政権の出足に注目したい。

 オバマは、国際協調路線を採ることを繰り返し明言してきた。なかでも、イラ
ク戦争の早期終結は公約の柱である。だが他方、アフガン戦争にはこれまでより
も力を注ぐといっている。この点が気になる。

 アフガニスタンでは、イラクにおけるよりもアメリカの旗色がはるかに悪い。
先ず、カルザイ大統領のアフガン政府は完全にアメリカに依存しており、軍事的
財政的に自立できる可能性は皆無だ。人心を掌握できない政府はますます傀儡化
し、勢力を盛り返したタリバンと麻薬の栽培と密輸を資金源とする軍閥に挟み撃
ちになっている。泥沼化していたベトナムから軍事撤退することで、アメリカ自
信も政治経済的に立ち直り、ベトナムも発展することになった歴史の経験を振り
返ってほしいものだ。

 だが、国際的にも人気の高いオバマ新政権がアフガン戦争にこれまで以上の力
を注いでくる場合には、日本にたいするインパクトは非常に懸念される。オバマ
政権が、明示的に軍事協力を正面から求めるほど乱暴だとは思えないが、仮に日
本にたいしこれまで以上の協力が求められた場合、これを自衛隊の海外派兵へと
繋げる我田引水の解釈をしたがる傾向と勢力が、自衛隊内と政界には潜在的だけ
ではなく、顕在的に存在している。アメリカの要請という名目の下で自分たちの
政治目的を達成する手法は、日本の保守政治でこれまでもよく用いられてきた。

 この手法を自民党幹事長時代に多用したのが小沢一郎民主党首だった。オバマ
政権が国際協調的な道筋を重んじ、その一環としてアフガン戦争への日本の協力
強化を要請してきた時に、民主党政権が誕生していたとしても、ましてや大連立
ができていればなおさら、これが海外派兵の口実に用いられる危険は大きい。不
人気なブッシュ政権下であれば、このような要請に応じるのに躊躇する政治家は
少なくないだろうが、日米共において現在圧倒的な人気を持つオバマ政権の要請
として提起されれば、これに応ずる危険はいや増す。民主党が積極的に海外派兵
に呼応しかねない危惧を私はかねてからもっている。政治的に未熟で、社会的な
認識が弱く、ナショナリズムかぶれの軍事力重視型政治家が、特に民主党若手に
も多いようにみえる。

 去る1月13日、森田実出版記念講演会に参加した。そこで頂戴した彼の近著
3冊の中に、1月8日に発行されたばかりの『政治大恐慌―悪夢の政権交代』が
あった。この中で、彼が前述のような懸念を鋭く指摘している。2年ばかり前に
、森田さんは小沢一郎を高く評価し、民主党に期待を寄せる立場をはっきり表明
していたので、新著での厳しい民主党批判はやや意外ではあった。

 昔からの彼を知っているものの一人として近著を通読し、彼はもはや職業的評
論家を超えて、野戦的な政治理論家として本心をさらけ出す最後の時期に入った
ように見える。高揚期の学生運動において最も傑出したリーダーであった時期の
森田実さんと知りあった1950年代後半以来約半世紀、近からず、遠からずの
ところから彼を常に注視してきた。年齢と政治的立場は同じではなかったが、彼
の持つ天才的なひらめき、大胆な割り切り方、説得力、世の中を見る視点、そし
て義理堅さなどの人間力に敬意を払ってきたが、ここにいたって、往年の颯爽た
る姿を髣髴させる彼を見ることになった。

 森田さんの新著の中で、私が共感した民主党批判は、3点に要約できる。
(1) 民主党は安全保障政策で理屈さえ合えば、海外派兵を容認する危険が大
きい。戦争を知らない世代の戦争を恐れない政治家が多い。
(2) 新自由主義を信奉する政治家が多く、今日の危機的な状況でも、依然と
して"小さな政府"というその呪縛から抜け出そうとしていない。格差や失業など
の社会的不公正が、排外的好戦的な状況を生む危険に真剣に向きあっていない。
(3) 民主主義の徹底を主張している政党が、党内民主主義を体現せず、党首
の独裁的な党運営を唯々諾々として容認している。これは政権の体質に反映する

 このような民主党による政権交代の自己目的化、あるいは権力獲得を目指す権
謀術数の結果としての大連立による政権交代が"悪夢"を招来しかねないと、森田
さんは警鐘を乱打している。民主党自体にとってはもとより、民主党による政権
交代を待望しているものにとっても、政権獲得の夢に浮かれるよりも脚下照顧の
ときを持つべきなのか。
                 (評者はソーシアル・アジア研究会代表)

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