正念場・WTOの行方

◇ 正念場・WTOの行方        富田 昌宏

────────────────────────────────────
輸出国・途上国主導で劣勢
 
小泉改造内閣で農相に就任した中川昭一氏は、緊迫する世界貿易機関(WTO)農業交渉の対応方針として、日本の主張反映に向け積極的な交渉参加で、米国など食料輸出国と対立する交渉の打開に全力をあげる姿勢を示した。中川農相は交渉が輸出国主導になっていることに懸念を示し「日本はトップレベルの経済大国で、世界一の食料輸入国でもあり、交渉で重要な地位を占めなければならない。」と交渉への積極参加を強調した。わが国の発言力を高めるため、米国、欧州連合(EU)、ブラジル、インド、オーストラリアによる主要少数国会議への日本参加の実現に強い意欲を見せた。
交渉姿勢では、日本農業を守る立場で「譲るべきものは譲り、守るべきものは守る」と強調し、『12月の香港閣僚会議を失敗させてはいけない、合意はぎりぎりの状況に来ている』と米などの重要品目を守る考えを示した。

 スイス・ジュネーブでは10月中旬まで、WTO農業交渉の閣僚級会合が断続的
に繰り返された。米国などの輸出国グループ主導で進められており、日本など輸
入国側の声はなかなか届いていないのが実情である。急速に力をつけているイン
ドやブラジルなどの途上国グループが米国へ歩み寄りを見せていることもあり、
日本は過去最大の踏ん張りどころを迎えている。米国や途上国グループからは到
底受け入れられない要求を突きつけられ、連携を確認したはずのEUも自らを守
るのに手いっぱいの中、日本などの輸入国グループ(G10)はつらい立場に置か
れている。
 今のG10の状態は、ダイナミックに動く主戦場を外から眺め、その後に戦況報
告を受けながら、援軍のいない中で、自らの立場を繰り返すとでも表せるだろう
か。
 交渉での日本の踏ん張りどころは2点ある。一つは一般品目とは別扱いの「重
要品目にどれだけ数を指定できるか。もう一つは上限関税の阻止を含め、重要品
目における削減幅をどこまで押さえられるかである。

 上限関税通れば稲作崩壊で米国案75%なら国内生産3分の1に、
価格は60K5000円に!

 WTO農業交渉で、米国と有力途上国グループ(G20)が主張する重要品目を含
めた上限関税の全面導入案は、日本農業の中心の稲作までも崩壊させる重大な脅威になることが分かった。九州大学大学院の鈴木宣弘教授を中心とした研究グループは10月24日、最も厳しい米国主導の上限関税75%が万一設定された場合
の日本の米への打撃を分析。それによると、関税込みでも60キロ5000円程
度の安い外国産米が日本になだれ込み、生産者は現在の3分の1に激減する。
中国産米で試算した輸入米の価格(船賃込み)は60キロ2983円、これに課
せる関税75%は2203円で現在の2万4000円の1割にもならず関税込みでも
60キロ5100円程度の安い米が日本に流入し、国産米も現在の60キロ1万6000
円から同水準に暴落。
 米の国内需要量910万トンに対して輸入米が621万トン入り、国産米の生産量は289万トンに激減、米の自給率は32%足らずになる。
 この稲作の壊滅を防ぐため、政府が仮に国産米の補填基準価格を60キロ1万
2000円として農家に補填した場合、米の需給率は86%とある程度維持され
る。だが91000億円の財政負担が必要となる。
 稲作が壊滅すれば環境にも悪影響がでる。食料関連の窒素(家畜の糞尿や人のし尿)を吸収する水田が減ることで、農地全体での窒素過剰率は現在の87%か
ら120%に上昇。

 鈴木教授は「関税大幅削減は、生産者だけでなく、消費者にも大きなマイナス
を招く。米国提案は非現実的で、バランスのとれた適切な貿易ルールを確立する
必要がある」と強調している。

上限関税は断固反対――JAグループ全国集会で決議――>>
 JA全中と全国農政協は10月25日、全国代表者集会を東京の虎ノ門パストラ
ルで開いた。
 ヤマ場を控えたWTO交渉では、上限関税を導入する動きに猛反発し、断固阻
止と重要品目数の十分な確保などに向け、政府に「一歩も引かない強い姿勢」を
求める決議をした。
 集会後、宮田勇全中会長らは岩永峰一農相に緊急要請した。岩永農相はWTO
交渉への対応について「上限関税は何としても阻止するとの強い意識で、確りし
た行動をとっていく。変な妥協はしない」と述べた。
 岩永前農相は滋賀県青年団長、滋賀県青年会館理事長などを勤め、私の30年
来の友人であるが、就任早々での改造で引退を余儀なくされた。個人的には続投
を期待していたが、日本農業の現状を考えれば、止むを得ないかも知れない。
 農政に定評のある中川農相の踏ん張りに祈るような気持ちで期待している。
                   (筆者は栃木県大平農協理事)

                                               目次へ