■【運動資料】社会動資料蒐集と大阪社会運動協会

                               荒木 傳
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先だってのオルタ90号で羽原清雅さんが社会運動資料センター設立を企画され
ていることを知った私が、何らかの参考になるのではないかと思い、オルタ編集
者宛に「大阪産業労働資料館」(略称エル・ライブラリー)の案内書をお送りし
ました。エル・ライブラリーは『大阪社会労働運動史』(全九巻)編纂、執筆で
集められた資料・蔵書類が6万冊、整備保管されています。

早速オルタ編集者から私宛に、そのエル・ライブラリーなるものを運営管理し
ている大阪社会運動協会(財団法人)の事業内容を紹介するようにとの要請を受
けました。

大阪社会運動協会(略称社運協)が設立されたのは1978年(昭和53年)です。
そのきっかけになったのは、労働団体間で持ち上がった『大阪社会労働運動史』
をつくろうという話です。当時は「連合」結成以前で、必ずしも仲の良くない総
評・同盟・中立労組が珍しくこのことに関しては呼吸があったのです。

やるからには、ちゃちな運動史ではなく産業経済史、政治動向、市民運動までも
包含した立派な後世に残るものをつくろうという壮大な計画に発展したのです。
この計画に労働福祉団体も協力するようになりましたし、学者、研究者、弁護士
も大勢参加してきました。

明治・大正・昭和・平成にわたる『大阪社会労働運動史』(全九巻)がこうし
て出来上がったのです。私自身もほぼ毎巻、執筆にかかわっておりますが、全巻
通じて全巻通じて執筆して頂いた学者・研究者・運動家の数は数百人にものぼり
ます。

さて、この『大阪社会労働運動史』をか監修・編纂・執筆するための資料集め
が、また大変でした。運動史に関連する既刊著書、政府関係、自治体資料などは
丹念に収集しました。戦前の『社会運動通信』『労働週報』など、必要な資料も
時をかけてコピーをとりました。一番苦労したのは、戦前の『朝日新聞』『毎
日新聞』の社会運動関連記事のコピーをとる作業でした。これには大学院生たち
の協力が不可欠でしたし、また整備に際しては費用もかかっております。エル・
ライブラリーにはこれら資料がすべて収蔵されていて、今では貴重な財産となっ
ています。

いったん作業に取り掛かりますと、だんだん欲が出てくるものです。
『大阪社会労働運動史』(戦前編)の監修者の一人であった故渡辺徹(京大名誉
教授)さんも私に対しては「ここまで資料集めに苦労してきたのだから、東の大
原社研に対するに西の大阪社運協と評されるまで行きましょうや」と、なかなか
鼻息も荒かったのを記憶しております。

大阪社運協がまず手がけた事業の第一は、この『大阪社会労働運動史』の刊行
でした。これには相当長い年月を要しております。そして現在は9巻まで出来上
がりました。なお、今後資金計画がたてば10巻にとりかかる意志を秘めておりま
す。

大阪社運協の第二の事業は、この社会運動史編集、執筆過程で集められた膨大
かつ貴重な資料、蔵書類をどうするかでした。 社会運動、労働運動に関する専
門料としては公共図書館、大学図書館に優るとも劣らないだけの資料を整えて
おります。そればかりでなく研究者から現在も書籍寄贈、資料提供が相次いでい
ます。私自身も『レーニン全集』『マルクス・エンゲルス選集』『グラムシ選
集』『トロッキー選集』『特高月報』『昭和特高弾圧史』その他多くの蔵書を社
運協に寄贈しております。

現在、西日本各地からひっきりなしに大学生、研究者が資料閲覧に訪れていま
す。そこで、みんなの意見が一致したのは、この蔵書、資料類を広く一般に公開
することでした。そして、その名称を「大阪産業労働資料館」と命名することに
しました。エル・ライブラリーを利用するのは運動史研究者ばかりではありません。

大企業の労務担当者も資料検索に訪れてくれております。最新の賃金データや労
務管理の実務書、労働法関係書なども整っており、結構役に立っている模様です。

収蔵しているのは書籍や資料類だけではありません。運動史にかかわるビデオ、
録テープ類も700本位収録しています。また、戦前存在した総同盟、全国労
働、全協、全評などを象徴する記章、組合旗、鉢巻、花瓶、帽子、看板類なども
保管しております。

大阪社運協がかかわっている第三の事業は社会運動物故者を顕彰し、追悼する
大坂社会運動顕彰塔の管理、運営です。この顕彰塔の企画立案は、大阪社運協設
立前から戦前の運動指導者、先輩たちの手によって1960年代から進められていま
した。その思いは、名もなく歴史から消えて行った数多くの社会運動家、労働運
動家を記憶にとどめ、芳名板を塔内に刻み、永久に追悼、顕彰していこうという
試みです。

現在、大阪城公園の一角に。この立派な顕彰塔は建立されております。
私の好きな言葉に「地上にもともと道はない。人が歩くから道になるのだ」とい
った魯迅の言説があります。私が運動史を究める過程でつくづく感慨を催したの
はこの言葉です。まこと、戦前の運動指導者、先輩たちは幾多の弾圧にもめげず、
道なき道を切り開き、斃れていったのです。この顕彰塔には、先輩たちのそんな
哀悼の思いがこもっております。

党派を超えて、この塔の中には1600名近い運動物故者が祀られており、毎年10
月15日には現役運動家を含め、数百人が参列して盛大な合祀祭が開催されており
ます。こんな立派な社会運動顕彰塔ができているのは大阪だけではないかと、い
ささか自負しております。

これら先人たちの苦労に学んで、社会運動、労働運動の第一線、現役をしりぞ
いたOBたち、勿論、私もその一人ですが、数年前から「大阪の社会運動を伝承す
る同志会」(略称同志会)を結成しました。 運動史の伝承だけでなく、多分に
親睦的要素もかねております。毎年「大阪のメーデーを語る会」には全員が勢ぞ
ろいします。現在、会員は300名を超えています。

問題は大阪社運協の今後の運営です。現在大きな壁にぶち当たっております。
それというのも、これまで大阪社運協の公共的意義を認めて大阪府(年間800万
円大阪市(年間400万円)から公的助成金が出ておりましたが、これが昨年度
から打ち切られることになりました。 これでは大阪社運協の事業推進は不可能
になります。いま、財源確保をどうしていくかを真剣に議論しているところです。

やむを得ず、大阪社協を支え、エル・ライブラリーの維持、存続を可能にす
るための手段として「サポート会員」制度を採用することにしました。年会費は
学生3000円、一般会員5000円、維持会員20000円、特別維持会員100000円です。
社会的に意義のある事業として、これまで数多くの業績を挙げてきたのに、こ
こで頓挫してしまうのは残念でなりません。

        (筆者は大阪社運協評議員・PLP会館々長)

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