2012年米国大統領予備選挙(3)

■ 【特別レポート】

2012年米国大統領予備選挙(3)             武田 尚子

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  ロムニーとサントーラム 2012年2月28日
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 オルタ98号でお伝えした予備選挙の思いがけない成り行きで、あれ以来のメ
ディアの選挙情報は、サントーラム一辺倒になった感がある。無理もない、アイ
オワコー
カスでの1位をのぞくと、4人の候補者のなかではたいてい3-4位あたりにと
どまっていたサントーラムが、ミネソタ、コロラド、ミズーリの3州で、ロムニ
ーを落としてトップを独占したのだから。

 いったいサントーラムとは何者だ、社会的保守主義にたって、我こそは正真正
銘の保守主義者だと叫んでいるが、彼の政治的な立場とは具体的にはどんなもの
だろう。本当にオバマを倒す力があるのか、と夢中になった投票者に応えて、実
に様々な情報が日ごとに提供され続けている。人間としてのサントーラムの誠実
さをまず信じた筆者も、はじめて知る彼の極端な政見に実は驚かされている。

 ミシガンとアリゾナでのプライマリーが今日行われる。そして1週間後の3月
6日には、全米の北から南から、10州が一斉にプライマリーを行うスーパーチ
ューズデイがやってくる。このチューズデイは全米にひろがる多数州の動向を知
らせるので、今年は共和党だけのものとはいえ、共和党支持者の大統領候補と総
選挙へ志向がかなり探れるものとされている。

 今日ロムニーが、アリゾナの討論会とミシガンのプライマリーで勝利を得、さ
らにスーパーチューズデイで予期しない番狂わせがなければ、ロムニーとサント
ーラムが、8月の全国コンベンションで共和党の指名を争うことになりそうだ。

もっとも、候補者4人のなかで1番プロの政治家、ギングリッチが、このところ
スーパーチューズデイを狙ってミシガンにもアリゾナにも現れないが、3月6日
には、またもや逆転カムバックがありえないことではない。しかし今日のこの稿
ではロムニーとサントーラムに焦点をあてたいと思う。

 ロムニーにとって、ミシガンは文字通りの生まれ故郷であり、彼はそれをこと
あるごとに強調する。アメリカン・モーターズの社長であった彼の父親は、ミシ
ガン州の知事も務めたから、ロムニーにはゆかりの深いこの土地は、これまで彼
にきわめて友好的だった。

 だからロムニーは、ミシガンのプライマリーの投票結果をのんびりと待ってい
れば良いところだ。しかし実は今日の彼はそれどころではない。彼にはいま、ミ
シガンには負い目があるのだ。GMとクライスラーが、自動車産業の不振で破産
の危機に直面した2008年12月、この両社は既に日々の操業をクレジットに
頼ることさえできなくなっていた。両社の重役は議会に登場して営業を続けられ
るよう政府の援助を要請したが、上院を通してじゅうぶんな議会の支持を得るこ
とができない。民間の投資家によって何10億ドルもの金を調達できなければ、
破産のほかない。

 このときロムニーの態度はどうだったか。2011年11月9日の彼の発言は
次のとおりである。『私はこの州(ミシガン)にも、自動車産業にも、この壇上
の誰よりも深い関心をいだいている』しかしロムニーは、140万のアメリカの
労働者の仕事が危険にさらされたこのとき、彼等のために何らの助け舟もださな
かった。

 ロムニーはオバマ大統領の、両社へのローンの提供に反対し『デトロイトは破
産させろ』と、ニューヨークタイムズの寄稿論説に書いた。そして今年のはじめ
には、『若者を製造関係の仕事に向かわせようと奨励する大統領は“アウトオブ
タッチ(現実を知らない)”だ』と述べてもいる。

 彼は、クライスラーとGMのベイルアウトは既にブッシュが手を付けはしたが、
未了のままオバマ政権に引き渡したこと、さらにそれには膨大な資金が必要であ
り、クレジットの期限切れまでに莫大な金を出せる私企業はなかった事実にはふ
れもしない。

 ベイルアウトに頼らず、統制された破産をさせていれば、自動車会社は自ずか
ら回復したはずだ。オバマのローン提供は市民の税金を浪費する大統領の無策無
能を示すものだと、ロムニーはたびたび大統領を非難した。

 今日のプライマリーの2週間前、よみがえったGMが記録的な営業成績を上げ
たことを発表する2日前、ロムニーはミシガンのデトロイトニュース紙につぎの
ように書いている。

 『3年前の経済危機のさなかに、新任のバラク・オバマ大統領は自動車産業に
ベイルアウトをもって介入した、、、、クライスラーとGMが未だに営業をして
いるのは、たしかによいニュースではある。しかし文句を付けずにいられない悪
いニュースがある。アメリカ経済に対するオバマのマネージメントの失敗は、彼
のベイルアウトにそのまま現れていることだ』と。

 ロムニーのビジネスの核心は破産した会社、あるいは営業不振の会社を統制破
産させて買い取り、リストラによって利潤を生む会社に作り替えて巨富を得るこ
とだった。『GMとクライスラーの両社がそうした破産の形をとることを認めら
れるいとまもなく、アメリカ政府が85億ドルのベイルアウト金を、救援金と称
して介入してしまった。アメリカ市民の何10億という税金は労働組合や組合の
ボスのふところを肥やし、バラク・オバマの選挙資金となるのだ』とロムニーは
主張した。

 ロムニーのこの説明に対して、フィアットークライスラー社の社長はこう皮肉
をいった。『連邦政府の援助なしに、アメリカの自動車産業が救われたはずなど
というロムニーは、非合法な薬か何かを吸っていたのじゃないか』
 
フィアットークライスラー社の重役セルジオ・マーキオーネは、いった。『ま
るで最後に登場して(大団円に導く)俳優さながら、最後の頼みの綱である政府
が踏み込んでくれたのだ。でなければその破壊的な影響はとてつもなく大きなこ
とになって扱いきれなかっただろう。』

 アメリカ最大の自動車会社GMは2009年の8月以来17万6千の仕事を増
やした。オートモーチブ・リサーチの昨年の発表では、フォードを加えてデトロ
イトのビッグ3とよばれる3大自動車会社は、2015年末までに3社で20万
人分に近い仕事を増加させるだろう。アメリカの製造産業はパートタイムと月給
制の労働者を30万人、さらに供給関係で15万人を増やすだろうと述べている。
また自動車産業への救援がなければ、供給チェインは滝の流れのように次々に破
壊され、GMは破産していただろうという。

 エコノミスト誌は、2月16日に社説でこう述べた。『ロムニーの前述のエッ
セーはその歪曲のひどさにおいて CRIQUE DU SOLEIL に匹敵する。彼はベイルア
ウトの成功にむかついているらしく、自動車産業の良いニュースとは、「クライ
スラーとGMが未だに営業を続けていることだ」としかいわない。彼は2011
年がアメリカの3大自動車会社おのおのが手堅い利益を生んだ、財政危機以来最
良の年だったことなどは決して口にしない。』
 
『我々エコノミスト社は自由市場主義者であるから、ロムニーの言い分に当初同
意した。しかしその後、我々の立場の誤りを認めて謝罪したのである。破産を免
れたフォード社でさえ、GMとクライスラーが破産したなら、彼等も同様になる
だろうと憂慮した。クレジットマーケットは凍結していたからロムニーのいうよ
うな統制破産はできなかったろう。ロムニーはこの点の歴史を都合よく無視し自
分はいつも正しかったと主張しているのだが』(要約)
  ロムニーはオバマのベイルアウトを、彼の再選をめざしての「クロニー・キャ
ピタリズム」だと、ことあるごとに攻撃する。「身内びいきのキャピタリズム」
とでも訳したらよいだろうか。『オバマは自動車会社を自分の利益のために労働
組合に売った。これはスイートハート取引だ、身内(労働組合)びいきだ』とロ
ムニーはキャンペーンで言いまくる。

 ロムニーがいうように、オバマがGMとクライスラーを労働組合に売ったかど
うかについては、もう少しはっきりさせておこう。

 ベイルアウトのプロセスにおいて、実は、政府と労組の両方が妥協したのであ
る。自動車労組UAWは社員と退職者を代表して、会社が出血をとめられるよう
協力した。結論としていえば、組合は賃金、時間超過手当、仕事の保証、さらに
重要なことだが、医療関係の恩恵(以下、医療保険とよぶ)への要求をゆるめた
のである。

 2007年に労組は医療保険の金を保険トラストのマネージにゆだねることに
同意していた。会社は保険金をトラストに入れ、それは医療費の上昇と、投資金
の変動の不安定にさらされることになった。ところが2009年、会社は破産寸
前となり、トラストに入れる現金はなくなった。その代替えに何があるだろう。
会社の株である。

労組のための、医療保険トラストが、GM とクライスラーの株を持つように
なったいきさつは大体以上のとおりである。2012年2月現在、医療保トラス
トはクライスラーの41.5%のステイク(*)をもち、GMのトラストはゼネ
ラルモーターズの10.3%のステイクを持っている。ロムニーがクロニー・キ
ャピタリズムというのはこれをさしているのである。(*ステイク:利益を期待
しての投資金)

 オバマは盟友である労組をよほどひいきした同意を取り付けたものだと、かな
り批判された。しかし彼がベイルアウトを通してしたことは「医療保険トラスト」
が、クライスラーとGMの株を持つようにしたことである。一方で労組も、賃金、
休暇、職の保証などの点で大きな譲歩をしている。それを見れば、これはバラン
スのとれた取引であり、ただの贈与ではないとオバマの側は主張している。また
これだけの労組の譲歩が得られたのは、オバマの会社再建の努力を労組がよく理
解したからだという。

 そして重要なことだが、医療保険トラストは、自動車会社からも労組からも分
離独立しているのである。

 サントーラムも、ベイルアウトには絶対反対である。しかしその理由はロムニ
ーとは違う。彼は政府がいったん介入すると悪い先例を作ることになるから、一
切干渉しないことだと反対した。しかしロムニーと違って、彼は労働者に対する
純粋な同情心をはっきりと示していた。また彼は寄稿論説欄に、ロムニーのよう
に、次のようなことを書いたりはしなかった。

 『もしもゼネラルモーターズと、フォードとクライスラーが、彼等の重役が昨
日政府に懇請したようなベイルアウトを得ていたとしたら、アメリカの自動車産
業にはグッドバイのキスだ。それが一夜にして起るとはいわない。しかし自動車
産業の終末であることは保証する』

 なぜ、巨額のベイルアウトが必要になったかを、簡単に述べておこう。
  2008年12月、デトロイトの自動車の販売は1年前から30%、40万台
の減少を記録していた。これは2つの自動車工場の年間生産高に匹敵する。

 しかし議会は自動車産業が、なすべきエネルギー低消費の車を作らず、SBの
販売で利益を上げ、組合員は平均時給70ドル(新入りの労働者は26ドル)を
得ていたこと、GMは多すぎる車種とデイーラーシップをかかえ、要するにこの
何年も、競争に耐えない操業をしていると指摘してローンを拒否した。

 30%の売り上げの低下はそのまま生産高の1%の減少を意味する。自動車産
業にはまた、85万人の自動車生産関係の労働者、さらに180万人が働くデイ
ーラーシップがあった。だから、売り上げの減少は直接自動車産業の損失だけで
なく、関連する大多数の人達の失業をも意味していた。アメリカの自動車産業が、
グローバルに競合できるようみずからを立て直すために、ベイルアウトが必要だ
ったのである。

 ベイルアウトの条件として、ビッグ3(GM、クライスラー、フォードの3社)
は、エネルギー効率の高い車を至急作り出すこと、操業を整理統合すること、G
Mとフォードは多数の車種を減らして身軽にすることを約束した。さらに労働組
合UAW は退職者のための医療トラスト資金への寄付払いをおくらせ、失職者
への支払いを減らせることに同意した。ビッグ3の社長たちはまた、皆年間1ド
ルで働き、会社のジェット機も飛行機の格納庫もレンタルを返却することに同意
したのである(フォードは破産を避けられたので、ベイルアウトを拒否した)。

 オートモーチブ・リサーチ・センターはいった。GMとクライスラーのために
何ら手を打たなかったとしたら、実際にかかった救援費用の倍は必要になったろ
う。政府のベイルアウトは、2009年には114万の職を救い、2010年に
は31万440の職を救った。また同センターはこうもいった。世界中の連邦や
地方政府の、GMやクライスラーの工場を持つ国ぐにが、ローンやその他の方法
で、ミシガンの自動車産業を立ち直らせようと協力したのである。

 CNNはいう。GMやクライスラーの救出は280億ドルの税収の減少と失業
対策費の増大という巨額の支出から國を救っている。税金を支払うアメリカ人は
ベイルアウトのために大損をしたというのは間違った展望であろう。なぜなら金
をまったく出さなければ、アメリカ人にベイルアウトどころでない損失を与えた
だろうから。

 UAWの組合長ボブ・キングは、ロムニーの言い分をまったく問題にしない。
  『ミット・ロムニーはアメリカの自動車産業の復興を云々する資格のない人だ』
と彼はガーデアン紙に告げた。『彼は好きなだけ歴史を書き換えるがよろしい。
しかし我々が最悪の闇のなかにいたとき、ロムニーは、アメリカが依存している
ミシガンおよびそのほかの土地で、自動車産業とその労働者にも、ミシガンの人
々にも背を向けたのだ』『ロムニーはとかく自分はミシガン人だと口にする、し
かし、デトロイトの破産を擁護するミシガン人、自動車労働者を蔑視し、その経
済の回復を彼等のキャンペーンにとって有害だとみなすような人間はミシガン人
ではない』。

 UAWは、2月26日に行われるアメリカで人気最大の自動車レースの1つデ
イトン500に、 ミット・ロムニーへの破壊的なメッセージを吹き流しにつけ
た飛行機を午前10:30-11:30まで飛ばせることにした。それには『デ
トロイトは破産させろ!ミット・ロムニー』と書かれている。それは2月24日
のロムニーの失敗したスピーチ会場の外側に持ち込まれたものと同じ吹き流し状
の旗印である。

 『もしもロムニーの忠告に従っていたら、ナスカーはどうなっていただろう?
アメリカのレースがヨーロッパのポルシェや、BMWやアウデイなどに支配され
るのだろうか。ナスカーは、野球や自動車産業そのものと同じく、アメリカのア
イコンであり、スピリットではないか(UAW)』
  さらにプライマリーの直前になって、ロムニーの妻が2台のキャデラックを所
有していること、聴衆に『ナスカーに興味があるか』と聞かれて、『ああ、俺の
友達はナスカーの所有者だよ』と答えたことなどが、メディアでさんざん問題に
された。ロムニーはよくいわれるように、庶民の生活感覚からはかなり遠い人で
はある。こんなわけでロムニーが、故郷ミシガンとの親和力を反復して唱えなが
らも、ミシガンのプライマリーにおおいに不安を抱いていたのはむりもない。

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  サントーラム
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 さて、彼の新しいライバル、サントーラムはどうしているだろう。なにより彼
は、アイオワ、ミネソタ、コロラド、ミズーリのトップとして得たスター人気に、
ロムニーに対抗して応える力があるのだろうか。

 サントーラムが、イタリアから移民として来米し、生涯を坑夫として過ごした
祖父の孫であることは前号でご紹介した。彼自身は退役兵士の病院で働く両親の
もとにあって、ペンシルバニア州立大学政治科学でBAを、次いで1981年に
はピッツバーグ大学でMBAを取得した。その後ペンシルバニアの法曹界に入会
を認められる。父親は或る時期、臨床心理学医の免許を得ている。

 1990年に彼は32歳で下院の代議士に選ばれ、1994年から2006年
まで上院議員を務め、上院時代は第3ランクを通した。総計16年を議員として
過ごしたが、2006年の選挙に敗れて議席を失う。

 議員時代に彼は熱烈なカソリックの信仰を持つ社会的保守主義者としての見解
を披瀝しておおいに活躍した。進化論に反対するインテリジェント・デザイン
(特殊創造説)を、ブッシュ大統領の『1人の子供も落後させるな』((NO
CHILD LEFT BEHIND )法案に修正条項として付加しようとしたのはその一例であ
る。彼の意図は『進化論を勉強する学生たちはそれと競合するインテリジェント・
デザインのような科学的根拠のある理論も知らなくては片手落ちだ』というので
ある。

 その修正案はデイスカバリー誌の補助で書かれ、「サントーラム修正条項」と
よばれるようになリ、上院は認可して、反進化論者を大喜びさせた。しかし科学
陣からは批判され、最終的な法律には組み入れられなかった。サントーラムはア
メリカ内で論争の続いた進化論説について『インテリジェント・デザインは科学
授業で教えられるべき正当な科学理論である。』とワシントンタイムズに書いて
いる(科学者はほとんどみな進化論を肯定するが、未だに論争はなくなったわけ
ではない。地球温暖化論争のように-筆者)。

 サントーラムは社会的保守主義者として、宗教問題でも極端に保守的である。
最近のキャンペーンでは、『ケネデイ大統領の宗教と政治の分離説には胸がむか
むかする。アメリカは宗教が政治に絶対に関与できない国などではない』と言い
切っている。学校での祈祷を歓迎するし、信教の自由も認める。

 宗教と政治についてのアメリカの基本姿勢は憲法修正第1条にこう示されてい
る(筆者引用)。
  『連邦議会は、国教を樹立し、あるいは信教上の自由な行為を禁止する法律、
または言論あるいは出版の自由を制限し、または人民が平穏に集会し、また苦痛
の救済をもとめるため政府に請願する権利を侵す法律を制定してはならない』
(アメリカ合衆国憲法、緒方貞子訳)

 2006年の議員選挙では、サントーラムは急進的なイスラムとイスラムのテ
ロリズムがアメリカに存在することを問題にした。彼によるとツインタワーの攻
撃された『9月11日』はヨーロッパにおけるモズレムの包囲のあった1683
年「9月11日」(と根は同じであり)、イスラムが300年も前からシーア派
の僧侶の権力を復興させようとしかけている聖戦の証拠なのである。彼は70万
票以上の差で破れ、上院の議席を失った。

 2006年の落選までは、サントーラムを2008年の選挙で大統領候補にと
の声があったが、結局それは立ち消えになった。2012年の選挙に出馬を決め
たとき、彼は書いた。『私は大統領になりたいという燃えるような望みを持って
はいない、しかし、いまの大統領とは違った種類のアメリカの大統領になりたい
という燃える望みは抱いている』

 実は彼は今回の選挙戦はじめてのアイオワ党員集会(コーカス)で、2位では
なく、34票の差でロムニーを抜いてトップになっていたことが数日後に判明し、
訂正の報道があった。これはおそらく自他ともに予期しなかった結果であり、こ
の日からサントーラムは真剣に大統領候補の指名を現実の可能性とみなしはじめ
たかにみえる。

 さらに、ミネソタ、コロラド、ミズーリの3州がロムニーでなく、サントーラ
ムにトップをあたえたことは、共和党の中枢にも再考を強いる出来事だった。い
まはオバマと対決できる男としてロムニーをいやいやながら受け入れながらも、
共和党の中枢が心配する、ロムニーが捉えかねている共和党のベースを、サント
ーラムは3州でつかみ取ってみせたのである。

 こうして、メディアの関心が集中するようになると、サントーラムも勇躍して
喋りまくる。その一語一語に、ライバルやメディア、一般投票者からの仔細な点
検が加えられ始める。決して人に迎合して発言するような性格ではなく、むしろ
人気のあがらないことを平然と人前でいってのけるという評判の候補者にふさわ
しく、問題もいろいろと出てくる。

 2005年にカソリック教会の神父たちの幼児のレイプ問題がボストンで明る
みにでたとき、同年5月、彼はカソリック関係の出版物に「アメリカ社会、とり
わけカソリックセミナーにおけるリベラリズムと道徳的相対論」を寄稿した。彼
はいう。『ボストンという、アメリカにおける学術と政治と文化上のリベラリズ
ムの玉座である町が、このセックス・スキャンダルの嵐の中心であることはおど
ろくにあたらない。』

 そのコメントは同年6月に、フィラデルフィア・デイリー・ニュースのコラム
ニスト、ジョン・ベアによって広く公開された。ベアは読者に告げた。
  『このコメントは最近、議案の引き延ばし(フィルバスター)に抵抗する民主
党をナチだと呼んだ、あの上院のリーダーによって書かれたものであることを想
起していただきたい。』

 サントーラムの、ボストンのリベラリズムを中傷する言葉は、マサチューセッ
ツで悪評さくさくだった。ボストングローブ紙はサントーラムに彼のコメントの
意味を説明してくれと迫った。グローブ紙によると彼のスポークスマンがこう答
えたという。『ボストンがハーヴァードやMITのように左がかったアカデミズ
ムの偏見を持つことは公然の秘密です。サントーラム上院議員のいわんとされる
のはそのことだと思います』

 当時マサチューセッツの知事だったミット・ロムニーは、サントーラムを譴責
した。『僧侶たちの性的な乱れのためにボストンの人達が非難されねばならない
のですか。それは無責任で、無神経で、許すことのできない言い分です』サント
ラームは今日に至るまで謝罪をしない。彼は文化-それもリベラルな文化が人々
の行動を規定するという。

 サントーラムは7人の子を持ち、カレン夫人が家庭で初等教育を与えた。彼女
自身11人兄妹の1人である。何人かの大統領を始め多数のアメリカ人がホーム
スクール教育をした、産業時代以前の19世紀に戻ることをサントーラムは夢見る。

 オバマが年頭演説で、もはや高校卒では扱えないくらいの、技術的に高度の訓
練がないと、アメリカの必要とする職に就きにくい時代になった。できるだけ多
くの人が、これまでより1年余分に上の学校、できれば大学まで行くことをすす
めたいと話した。

 これをとらえて、サントーラムは、大統領は学歴好みのスノブだと、キャンペ
ーンで演説した。彼は共和党のベースといわれる人達を相手に、誰も彼もが大学
へ行きたいわけではない、その人の好みや能力に見合ったスキルで幸福に暮らす
アメリカ人はいくらもいると話しかけて、オバマを非難したのである。彼自身も
彼の子供たちももちろん大学に進学している。

 彼の標榜する社会的保守主義には、茶会党の支持があり、エヴァンジェリスト
や労働階級の信条とほぼ一致する。大学教育をだれもが受けなくてはならないな
どとオバマは一言もいわなかったが、高等教育をスノブだというサントーラムの
説は、吟味してみる必要がある。

 いうまでもなくサントーラムは、彼を支持する労働者やエバンジェリストに、
彼等の耳に快いキャンペーントークをしていたのだが、高等教育はこの選挙で、
ロムニーの自動車ベイルアウトに劣らぬ重要問題のひとつであろう。アメリカの
未来は多分に教育にかかっているのだから。

 まるで霊感のように1-2日後、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン
の『無知の強み』副題に『共和党 対 高等教育』という論説が目に入った(ニ
ューヨークタイムズ、3月9日)。要約すると以下のようになる。

 『アメリカがこれまで例外的な国であったひとつの理由は、総国民の小学校教
育、ついで高等学校運動によって、米国が第2次段階までの教育をごく広く普及
させたことだった。第2次大戦後はGIビルや国民の支持によってきわめて多数
の公立大学が増え、アメリカの大学進学者を増やした。

 しかしいま労働階級も進学可能な高等教育に対して、共和党は大きく右寄りに
なった。そして高等教育に対する敵意は、共和党の社会的保守主義と、財政的保
守主義を代表するサントーラムとロムニーにそれぞれ体現されている。

 サントーラムによると、大学は宗教心を破壊する教化工場である。その目的で
オバマは大学入学者を増やしたがっていると信じるサントーラムは、高等教育に
反感を抱く。しかしロムニーの、大学へ行きたいが、そのコストに悩んでいると
相談してきた高校生へのアドバイスは、ある意味でもっと重大であろう。彼の言
葉はアメリカの将来の方向を示唆しているからだ。ロムニーは青年に答えた。

「最も費用の高い大学へは行かないことだ。もっと安くて、望むらくはよい教育
をしてくれる大学を見つけることだね、それに政府が君の払えない学資の肩代わ
りをしてくれるなど期待してはだめだよ」

 なんという冷たさ!伝統伝統とおっしゃるが、アメリカの学生援助の伝統もこ
れまでだ。過去2世代、私立大学よりも費用の安い大学を選ぶとなると、公立大
学へ行くことになったものだが、公立大へいくことも今ではままならなくなった。
教育費はこれまで以上にカットされ、学生数はふえる一方だからだ。カリフォル
ニアでは、援助は20%減る一方、過去10年間に公立大学の授業料は70%あ
がった。

 また大学は金のかかる研究を整理しているが、それこそいま、アメリカの経済
が必要とする分野なのだ。例えばフロリダとテキサスではエンジニアリングとコ
ンピューターサイエンス学部をそっくり廃止した。こうした変化がこの国の経済
的展望にも、おとろえつつある「機会の平等」というアメリカンドリームにもど
んな損傷を与えているかは、明らかである。では共和党はなぜこうも熱心に高等
教育を否定しようとしているのだろう?

 サントーラムが大学へ行くと宗教心を失うと主張するのは誤りではあるが、わ
からぬではない。なぜなら高等教育システムが、今日の保守主義のイデオロギー
の友好的な基盤でないことは事実だからだ。リベラルアートの教授たちだけでな
く、科学者、民主党支持者と共和党支持者の比率は9:1なのだから。サント
ラームはこういった状況をリベラルの陰謀だと考えるのだろう。
 
  しかし、ロムニーのような人たちはどうしたのだろう? 彼等は高等教育への
十字軍攻撃のおかげで、危険にさらされているアメリカ経済の成り行きを心配し
ないのだろうか、、、、。いや、おそらくたいした心配はしまい。

 過去30年間にわたって、トップ層の巨大な収入増と、普通の労働階級の生活
苦の間には驚くべき断絶があったが、アメリカのエリートの自己利益にとっては、
この断絶が続くことが最もよく役に立つのである。ということは高収入者の税金
を今のように低くしておくことが彼等には最善なのだ。
 
アメリカの貧弱なインフラや、訓練の足りない労働者など気にしない。そして
より貧しい子供たちの上昇の機会が減ることについては?と問われるなら、“い
ったい貴方は平等な機会を作るなど、本気で信じていたのですか?”(とクルー
グマンは鋭く反問するのである。そして続ける。)“だから、共和党が伝統的な
価値を守る党であるというのを聞いたら、彼等が、アメリカの教育を尊重する伝
統を事実上断絶させたことを心していただきたい。

そして貴方がたが知らないでいること、知識をもたないことは彼等を傷つけは
しないと信じているからこそ、彼等はこの伝統との断絶を果たしたのだというこ
とを”ポール・クルーグマン』

 いつもながら、クルーグマンの明快な状況の読み解きである。読後の満足感に、
やりきれなさが混じるのも、いつものことである。

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  ミシガン・プライマリーの結果
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 さて、ロムニーとサントーラムのミシガンのプライマリー結果をお知らせもし
ないうちに、はやスーパーチューズデイが目前に迫った。ロムニーは自動車産業
労働者の否定的な反応で、ミシガンでは相当の苦戦を強いられたが、僅差でサン
トーラムに勝った。大統領候補としてはもちろん、彼と父親、いわば家門の名誉
さえかけての戦いでもあったから、ロムニーの喜びは想像できる。

 得票は非常な接戦で、ロムニーは409,899票、サントーラムは3%の遅
れで、サンプリング上の誤差を計算に入れて同点扱いになり、ここで得られる代
議員30人は、ロムニーとサントーラムに15人ずつ等分に与えられた。(後日
これは16票と14票に訂正された。サントーラム・キャンプは、決められた法
に違反していると抵抗している。)
  ちなみにロムニーはここで年間収入が10万ドル以上の高収入層から最大の票
を得たが、ブルーカラーワーカーやエヴァンジェリストからの支持は少なかった。
そしてこのパターンは米国南部ではことにロムニーの支持者に共通しているよう
だ。反対にサントーラムにはエヴァンジェリストやブルーカラー層からの票が圧
倒的だった。この稿では扱わないが、ポールが3位、ギングリッチが4位で、2
人の後を追った。

 ロムニーはミシガンで総額427万ドルの選挙金を使ったので(うち255万
はスーパーパック)1人の投票者につきほぼ10ドル40セントをかけた。サン
トーラムは総額227万ドル(うち127万ドルはスーパーパック)を費消して、
1人の投票者にほぼ6ドル、ロムニーのおよそ半額をかけたことになる。

 この異常に高額の選挙資金は、関係地域のテレビ広告にほとんど使われる。し
かもその大半が、ライバルへの否定的な攻撃だという。スーパーパックを含むア
メリカの選挙資金については、近々、オルタでご報告するつもりである。

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  スーパーチューズデイ
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 3月6日、スーパーチューズデイは、共和党の大統領選指名候補選びに、全米
のうち10州が一斉にプライマリーを行う火曜日である。その10州とは、ヴァ
ージニア、マサチューセッツ、アイダホ、ヴァーモント、ジョージア、オクラホ
マ、オハイオ、テネシー、アラスカ、ノースダコタ、である。或る程度、11月
の総選挙の予想になりうるので、非常に重要視されている。ごく簡単にその結果
をおしらせしよう。

ヴァージニア:
  ロムニーとロン・ポールしか参加しなかった。ロムニーがポールの60%増し
で勝利し、43人の代議員は皆ロムニーのものとなった。
マサチューセッツ:
  4人の候補が出そろう。ここで知事を務めたロムニーが72%の票を集めて1
位。サントーラム12%で2位、ロン。ポール10%で3位、ギングリッチは5
%で4位。勝利者ロムニーがこの州の代議員41名を全て獲得。
アイダホ:
  62%をロムニーが得る。サントーラム2位、ポール3位、ギングリッチ4位
はマサチューセッツに同じ。アイダホの代議員32名は全てロムニーのものとな
る。
ヴァーモント:
  ほぼ40%の得票でロムニーの1位。14人の代議員を得た。ロンポールは2
5%で2位、サントーラムは23%で3位ギングリッチは8%で4位。ヴァーモ
ントは17人の代議員を持つが、20%もしくはそれ以上の得票者には自動的に、
14の代議員を票数に応じて与える。残りの3%の配分は、州のリーダーによっ
て決められる。
オクラホマ
  サントーラムが善戦して1位。ロムニーとギングリッチはほぼ同点。43名の
代議員は、サントーラムに14名、ロムニーとギングリッチにはそれぞれ13名
が与えられた。
オハイオ
  手に汗握るサントーラムとの接戦でロムニーの勝利、サントーラム2位、ポー
ル3位、4位がギングリッチ。
  ただ、ここは民主党にも投票が開かれているので、ここでの正式の候補者では
ないオバマが、民主党の参加者のおかげで、ロムニーの456,205票に対し
て、547,588票を獲得した。オハイオの勝利はオバマだといわれるゆえん
である。いうまでもなく正式の計算にははいらない。
ジョージア:
  予想通り、ギングリッチは地元ジョージアでは好調で47%、ロムニーの26
%がこれにつづく。次いで20%のサントーラム。ポールは遅れを取り7%のみ。
ジョージアの代議員は得票数に応じて与えられる。ギングリッチは37名の代議
員を得、ロムニーが8名、サントーラムが1名の代議員を得た。
テネシー:
  堅古な保守主義のこの土地で、サントーラムは善戦。37%の得票で2位のロ
ムニーを抜き、3位のギングリッチは24%、ポールは7%。34名の代議員は
票数に応じてサントーラムが21名、ロムニーが8名、ギングリッチが5名を得た。
アラスカ:
  この最後のフロンティアで、ロムニーはサントーラムをじりじりと退けて32.
6%で勝利を得た。サントーラムはほんのわずか遅れて29%。ポールは改善し
て24%、ギングリッチは14.2%の結果を得た。
ノースダコタ:
  サントーラムはここを狙っていたポールを退けて39.7%、ポールは28.
1%。ロムニーは23.7%を得たが、ギングリッチは8.5%しか得られなか
った。
  これまでに候補者の獲得した代議員数は以下の通り。大統領候補として指名を
受けるためには、1144名を獲得しなくてはならない。11月の総選挙まで、
まだまだ道は遠いが、少なくとも共和党の候補者票はロムニーにほぼ集中すると
いうのが、現在の、大筋の見方である。
獲得した代議員数
   ロムニー    415    サントーラム  176
   ギングリッチ  105    ポール      47

 スーパーチューズデイが無事に終ったが、共和党の4人の候補者は未だに誰1
人前線を退きたいと望まない。8月の全米の共和党コンベンションまで、まだま
だ党集会もプライマリーもある。候補者にとってもかなりのスタミナを要する道
のりではある。

 誰が指名を受けようと、候補者は皆オバマ追い打ちが最後の狙いである。この
ところオバマの人気は、景気回復の兆しとともに上昇しつつあった。オハイオの
スーパーチューズデイで記したように、「オハイオの勝利者はオバマ」といわれ
るほど、支持者の熱も高かった。

 しかしガソリン代が高騰し始めたこと、核兵器製造をめざすイランを今すぐ撃
てと日々に高まる共和党の声、アメリカ兵のアフガニスタン家族殺しに発するア
フガニスタン情勢の逆転などで、突然オバマの受け入れ率が落ちてきた。11月
まで、選挙民も単なる支持者も、一喜一憂しながら、情勢を見守ることになるだ
ろう。
  またもや時間切れで、十分なドキュメントに仕上げることはできなかった。読
者のご寛容をねがい、事実に間違いがあれば、ご指摘をいただきたい。

     (筆者は米国・ニュージャーシー州在住・翻訳家)

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